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嗅覚障害の症状と治療|耳鼻咽喉

目次

  • 嗅覚障害とは?においがわからなくなるということ
  • 鼻の中で何が起きているのか?においを感じる仕組み
  • 嗅覚障害の3つの分類を知っておこう
  • 嗅覚障害の原因として多いもの
  • コロナ後遺症としての嗅覚障害
  • 嗅覚障害が全身の健康に及ぼす影響
  • 診断はどのように進めるのか
  • 嗅覚トレーニングという治療法
  • 薬物療法と手術的治療
  • 日常生活で気をつけたいこと
  • 嗅覚障害に関するよくある質問
  • 参考文献
この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

嗅覚障害とは?においがわからなくなるということ

2025年に日本鼻科学会の嗅覚障害診療ガイドラインが改訂されて、改めてこの病態の奥深さを感じました[2]。みなさんは「におい」を当たり前のように毎日感じていると思います。朝のコーヒーの香り、夕飯の煮物の匂い、雨上がりの土のにおい。でもある日突然、それがまったく感じられなくなったらどうでしょうか。

嗅覚障害とは、においを正常に感じることができなくなる状態です。完全ににおいがわからなくなる「嗅覚脱失」と、においの感じ方が弱くなる「嗅覚減退」に大きく分けられます。一般人口のおよそ20%に何らかの嗅覚の異常があるとされており[1]、決して珍しい病態ではありません。ただ、視力や聴力の低下と比べると嗅覚の問題は軽く見られがちです。ここが僕としては非常にもったいないと感じるところなのです。

鼻の中で何が起きているのか?においを感じる仕組み

ではそもそも、人はどうやってにおいを感じているのか?ここを理解しておくと、嗅覚障害の原因や治療法がすっと頭に入ってきます。

鼻の奥の天井部分に「嗅上皮」と呼ばれる特殊な粘膜があります。広さはだいたい切手1枚分くらい、約5平方センチメートル程度の狭い領域です。ここに並んでいる嗅覚受容体の数は約400種類もあって、空気中に含まれるにおい分子がこの受容体にくっつくと電気信号に変換されます。その信号は嗅神経を通って脳の「嗅球」という部分に伝わり、そこから大脳の嗅覚野に届いて初めて「あ、カレーの匂いだ」とか「花の香りがする」と認識できるわけです。

つまり、①鼻からにおい分子が入ってくる経路、②嗅上皮でにおいをキャッチする部分、③嗅神経から脳へ信号を伝える経路。このどこかに問題が起きると嗅覚障害が発生します。これを知っておくと「自分の嗅覚障害はどのタイプなのか?」ということが想像しやすくなるのです。

嗅覚障害の3つの分類を知っておこう

嗅覚障害は原因の部位によって大きく3つに分類されます[1]。

1つ目は「気導性嗅覚障害」です。これはにおい分子が嗅上皮に到達できないことで起きるタイプで、鼻づまりやポリープ、アレルギー性鼻炎などが原因になります。鼻の通りが悪くなってにおいの分子が届かないという、わりとシンプルな話です。

2つ目は「嗅神経性嗅覚障害」です。嗅上皮にある嗅覚受容細胞そのものがダメージを受けるタイプで、風邪をひいた後に嗅覚が戻らないケースや、コロナ後遺症による嗅覚障害の多くがこれに当たります。ウイルスが嗅上皮の細胞を直接傷つけてしまうのです。

3つ目は「中枢性嗅覚障害」です。これは脳そのものに問題がある場合で、頭部外傷やパーキンソン病、アルツハイマー病といった神経変性疾患が関係します[5]。嗅球から大脳へ至る経路に障害が生じるため、鼻自体には異常がないのににおいがわからなくなります。

ではなぜこの分類が大事なのか?それは治療法がまったく違うからです。気導性なら鼻の通りを改善すればよいけれど、嗅神経性や中枢性はそう簡単にはいきません。だからこそ原因の見極めが治療の第一歩になるわけです。

嗅覚障害の原因として多いもの

嗅覚障害の原因として臨床で最も多く遭遇するのは、慢性副鼻腔炎、感冒後(風邪の後)、頭部外傷、加齢の4つです[1]。

慢性副鼻腔炎、いわゆる「ちくのう症」は嗅覚障害の原因として最も頻度が高く、特に好酸球性副鼻腔炎ではポリープが鼻腔を埋め尽くしてにおいが届かなくなります。庄内地方は冬が長いですから、寒暖差や乾燥で副鼻腔炎が悪化して「先生、においがしないんです」と来院される方が毎年冬場には増える印象です。

感冒後嗅覚障害は風邪をひいた後ににおいが戻らないパターンで、「風邪は治ったのに半年経ってもにおいがわからない」と困って受診される方がいます。40歳以上の女性に多いという報告もあります。

頭部外傷では、転倒や事故の衝撃で嗅神経が断裂してしまうことがあります。この場合の回復率は残念ながら低めで、約10〜30%程度と報告されています[1]。

そして加齢。53歳以上の成人では約24.5%に嗅覚の低下がみられ、80歳以上になると62.5%にまで上昇します[4]。年齢とともに嗅覚受容体の数が減少し、嗅上皮が薄くなっていくことが原因です。「年のせいだから仕方ない」と放置してしまう方が多いのですが、後で触れるように嗅覚低下は全身の健康と深く関わっているので、気づいたら一度検査を受けることをお勧めします。

コロナ後遺症としての嗅覚障害

2020年以降、嗅覚障害という言葉を一般の方にも広く知らしめたのが新型コロナウイルス感染症です。コロナに感染した方の約50〜80%が急性期に嗅覚障害を経験したとされ、そのうちの多くは数週間から数カ月で自然回復しました。しかし感染から1年以上経っても嗅覚が完全には戻らないという方が5〜10%程度いると報告されています[6]。

コロナウイルスが嗅覚を奪うメカニズムとして、当初はウイルスが嗅神経細胞を直接攻撃すると考えられていました。しかし研究が進むにつれ、嗅上皮の「支持細胞」がウイルスの標的であり、支持細胞がダメージを受けることで嗅覚受容細胞の機能が間接的に障害されるという説が有力になっています[7]。

コロナ後の嗅覚障害で厄介なのが「パロスミア(嗅覚錯誤)」と呼ばれる症状です。これはにおいが弱くなるのではなく、本来のにおいとはまったく違うにおいに感じてしまう状態です。「コーヒーが腐ったような臭いに感じる」「お肉を焼くとゴムの臭いがする」といった訴えが典型的で、食事がまともにできなくなる方もいます。以前、ある患者さんが「大好きだったラーメン屋さんに行けなくなった」と話していて、嗅覚の問題がどれだけ日常を変えてしまうかを考えさせられました。

嗅覚障害が全身の健康に及ぼす影響

「においがわからない」というのは不便ではあるけれど、命に関わるほどではない。そう思っている方が多いかもしれません。でもここに衝撃的なデータがあります。

2014年にPintoらが発表した研究では、57〜85歳の高齢者3,005人を5年間追跡したところ、嗅覚を完全に失った人の死亡リスクが正常な嗅覚を持つ人の約3.4倍だったのです[4]。これは糖尿病や心不全などの既知のリスク因子を調整した後の数字で、嗅覚障害が独立した死亡予測因子であることを示しています。

ではなぜ嗅覚の低下が死亡リスクと関係するのか?これにはいくつかの仮説があります。嗅覚障害があると食欲が落ちて栄養状態が悪化する、ガス漏れや火災の煙に気づけず事故のリスクが上がる、腐った食品を判別できず食中毒を起こしやすくなる、といった直接的な危険に加え、嗅覚の低下自体が脳の老化や全身の健康悪化を反映している可能性があるのです[5]。

だからこそ僕は「たかがにおい」と軽視してほしくない。嗅覚は全身の健康状態を映す鏡のような感覚器官なのです。

診断はどのように進めるのか

嗅覚障害の診断にはまず丁寧な問診が欠かせません。いつからにおいがわからなくなったか、きっかけはあったか(風邪の後なのか、外傷後なのか、特に思い当たることがないのか)、においが弱いのか全くないのか、変なにおいがするのか。これだけで原因のかなりの部分が絞り込めます[2]。

そのうえで行うのが嗅覚検査です。日本で最もよく使われているのが「T&Tオルファクトメトリー」で、5種類のにおい物質を薄い濃度から順に嗅いでいき、「検知閾値(においの存在に気づく濃度)」と「認知閾値(何のにおいか判別できる濃度)」を測定します。検査自体は10〜15分程度で痛みもありません。

「アリナミンテスト」も日本で広く行われている検査です。にんにく臭のする薬剤を静脈注射して、においを感じるかどうか確認します。これは嗅神経の機能が残っているかどうかをみる検査で、気導性なのか嗅神経性なのかの鑑別に役立ちます。

鼻の中の状態を確認するために内視鏡検査を行い、ポリープや腫瘍がないかを確認します。必要に応じてCTやMRIの画像検査も行います。MRIでは嗅球の体積を測定できるので、嗅球が萎縮していれば神経変性疾患の可能性を考えるきっかけにもなるわけです。

嗅覚トレーニングという治療法

嗅覚障害の治療として近年最も注目されているのが「嗅覚トレーニング」です。2009年にドイツのHummelらが報告した研究が出発点で、バラ、ユーカリ、レモン、クローブの4種類のにおいを1日2回、12週間以上嗅ぎ続けることで嗅覚機能が改善したという結果が出ました[3]。

「においを嗅ぐだけで治るの?」と思われるかもしれません。でもこれには科学的な根拠があります。嗅覚受容細胞は他の神経細胞と違って、成人になっても再生する能力を持っています。においの刺激を繰り返し与えることで、この再生が促進されるのではないかと考えられています。いわば「嗅覚のリハビリ」です。

2023年のシステマティックレビューでは、嗅覚トレーニングはコロナ後の嗅覚障害に対しても有効であり、3カ月以上の継続で効果が確認されたと報告されています[6]。ただし全員に効くわけではなく、改善には個人差があります。僕が酒田の外来で患者さんに嗅覚トレーニングを勧める際には、「最低3カ月、できれば半年は続けてみてください」とお伝えしています。アロマオイルのセットなど市販品も出ていますから、取り組みやすい環境は整ってきています。

薬物療法と手術的治療

嗅覚障害の薬物療法は原因によって大きく異なります。

慢性副鼻腔炎が原因の場合、ステロイドの点鼻薬や短期間の内服ステロイドが有効です[2]。好酸球性副鼻腔炎にはステロイドに加えて、最近は生物学的製剤(デュピルマブなど)が使えるようになり、治療の選択肢が広がりました。ポリープが大きい場合は内視鏡下副鼻腔手術で物理的に鼻の通りを改善する方法もあります。手術後の嗅覚改善率はおおよそ60〜80%と報告されており、気導性嗅覚障害であれば手術の効果は期待できます。

感冒後嗅覚障害に対しては、漢方薬の当帰芍薬散がある程度の効果を示すという報告があり、日本のガイドラインでも選択肢の一つとして記載されています[2]。ビタミンB12の内服や亜鉛の補充なども試みられていますが、エビデンスとしてはまだ十分とは言えない段階です。

コロナ後遺症の嗅覚障害に対しては、ステロイド点鼻の効果は限定的で、嗅覚トレーニングが第一選択とされています[6]。「薬を飲めばすぐ治る」という性質のものではないので、焦らず根気よく取り組むことが大切です。

日常生活で気をつけたいこと

嗅覚障害のある方が日常生活で注意すべきポイントがいくつかあります。

まず安全面です。ガス漏れや火災の煙に気づけないリスクがあるので、ガス報知器と火災報知器は必ず設置してください。都市ガスには「付臭」といってわざとにおいをつけていますが、嗅覚障害があるとこれに気づけません。一人暮らしの高齢者は特に注意が必要です。

食事面では、においがわからないと味覚も大きく影響を受けます。「味がしない」と訴える方が多いのですが、実際に味覚検査をしてみると味覚自体は正常で、嗅覚障害による「風味」の低下が原因であることが少なくありません。食事の楽しみが減ると栄養状態が悪化しやすいので、彩りや食感を工夫して食べる意欲を維持することが大切です。

衛生面もあります。自分の体臭や口臭に気づきにくくなるため、対人関係で悩む方もいます。定期的にシャワーを浴びる、歯磨きを丁寧にするといった基本的なことを習慣にしておくと安心です。家族や信頼できる友人に「気になったら教えてね」と伝えておくのも一つの方法です。

食品の消費期限の管理も大事です。においで「これは傷んでいるな」と判断できなくなるので、消費期限の表示を必ず確認する習慣をつけましょう。

嗅覚障害は目に見えにくい障害だからこそ、周囲に理解されにくく、一人で抱え込んでしまう方が少なくありません。でも治療法は確実に進歩しています。嗅覚トレーニングのように自分で取り組めるものもあります。もし「最近においがおかしいな」と感じている方がいたら、ぜひ一度耳鼻咽喉科で相談してみてください。僕たち医療者も一緒に考えていきますから、一人で悩まないでくださいね。

嗅覚障害に関するよくある質問

Q1. 嗅覚障害は自然に治りますか?

原因によります。風邪の後の嗅覚障害であれば、約60〜70%の方が1年以内に何らかの改善を示すと報告されています。ただし完全回復しないケースもあるので、気になる場合は早めに受診してください。コロナ後の嗅覚障害も多くは数カ月以内に改善しますが、1年以上持続する方が5〜10%程度いるとされています[6]。

Q2. 嗅覚トレーニングは自宅でもできますか?

できます。バラ、ユーカリ、レモン、クローブなどのアロマオイルを用意して、朝と晩の1日2回、それぞれ10〜20秒ずつ嗅ぐだけです[3]。大切なのは「このにおいはバラだ」と意識しながら嗅ぐことです。漫然と嗅ぐのではなく、脳にしっかりにおいの情報を届けるイメージで行ってください。

Q3. 嗅覚障害があると味もわからなくなりますか?

「味がしない」と感じる方は多いですが、正確には「風味がわからなくなる」という状態です。甘い、しょっぱい、苦い、酸っぱい、うまみという5つの基本味は舌の味蕾で感じるため、嗅覚障害だけで完全に味がなくなることはまれです。ただ食事の満足度は大きく下がるのが現実です。

Q4. 亜鉛のサプリメントは効果がありますか?

亜鉛欠乏が原因の味覚、嗅覚障害であれば亜鉛補充は有効です。ただし嗅覚障害の多くは亜鉛不足が直接の原因ではないため、「亜鉛を飲めば治る」というほど単純ではありません。血液検査で亜鉛値を確認し、低い場合に補充するのが適切な対応です。

Q5. 嗅覚障害で受診するのは何科ですか?

耳鼻咽喉科を受診してください。嗅覚検査の設備がある施設が望ましいです。T&Tオルファクトメトリーやアリナミンテストを実施できる耳鼻科であれば、原因の鑑別と治療方針の決定がスムーズに進みます。

Q6. 高齢者の嗅覚低下は病気ですか?

加齢による嗅覚の低下はある程度は自然な現象です。ただし急激な嗅覚低下はパーキンソン病やアルツハイマー病の初期症状である可能性があります[5]。「年のせい」と片づけずに、気になったら専門医に相談することをお勧めします。

Q7. コロナ後の嗅覚障害はどのくらい続きますか?

多くの方は感染後2〜4週間で改善しますが、約20〜30%の方が1カ月以上嗅覚障害が続くとされています。そのうち大半は6カ月以内に改善に向かいますが、1年以上持続する方も存在します[6]。長引く場合は嗅覚トレーニングの早期開始が推奨されています。

Q8. 嗅覚障害の予防法はありますか?

完全に予防することは難しいですが、リスクを下げる方法はあります。風邪やインフルエンザの感染予防を心がけること、鼻づまりや副鼻腔炎を放置せず適切に治療すること、頭部外傷を避けること(自転車のヘルメット着用など)が挙げられます。喫煙は嗅覚機能を低下させることがわかっているので、禁煙も大切です。

参考文献

[1] Damm M, et al. Olfactory Dysfunction: Etiology, Diagnosis, and Treatment. Dtsch Arztebl Int. 2023;120(9):146-154.

[2] 日本鼻科学会. 嗅覚障害診療ガイドライン. 日本鼻科学会会誌. 2025;64(1):1-85.

[3] Hummel T, Rissom K, Reden J, et al. Effects of olfactory training in patients with olfactory loss. Laryngoscope. 2009;119(3):496-499.

[4] Pinto JM, Wroblewski KE, Kern DW, et al. Olfactory dysfunction predicts 5-year mortality in older adults. PLoS One. 2014;9(10):e107541.

[5] Doty RL. Olfactory dysfunction in neurodegenerative diseases: is there a common pathological substrate? Lancet Neurol. 2017;16(6):478-488.

[6] Rashid RA, et al. Therapeutic options of post-COVID-19 related olfactory dysfunction: a systematic review and meta-analysis. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2023;280(3):1035-1049.

[7] Yan CH, Overdevest JB, Patel ZM. Qualitative Olfactory Dysfunction and COVID-19: An Evidence-Based Review with Recommendations for the Clinician. Int Forum Allergy Rhinol. 2022;12(12):1424-1432.

丸岡悠医師

監修医師

丸岡 悠

庄内プライベートクリニック 院長 / 医療法人丸岡医院 医師

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学にて医師免許を取得。沖縄県立北部病院、日本海総合病院を経て現職。庄内プライベートクリニック院長として美容医療を担当し、丸岡医院では一般診療・施設診療・訪問診療にも携わっています。