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骨粗鬆症の症状と治療|代謝・内分泌

みなさんこんにちは。医療法人丸岡医院の丸岡悠です。

以前、ある先輩医師から聞いた話が忘れられません。訪問診療先に、寝たきりになって3年が経つ80代の女性がいたそうです。「この方、大腿骨を折ったのは73歳のとき。でもそれまで一人で畑仕事をしていたんだよ」と。骨折する前の写真を見せてもらったら、本当に溌剌とした笑顔のおばあちゃんだったそうです。

「骨粗鬆症って、こんなに人生を変えてしまうのか」。この話を聞いたとき、僕はこの病気の本当の怖さを改めて感じました。

今日はそんな骨粗鬆症について、疫学から治療の最前線まで、僕が知っていることを全部お話しさせてください。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

骨粗鬆症って何だろう

骨粗鬆症とは、骨の密度が低下して骨がもろくなり、ちょっとした衝撃で骨折しやすくなってしまう病気です。漢字をそのまま読むと「骨が粗く、鬆(す)が入る」。大根やカブにスが入ると中がスカスカになりますよね。あのイメージです。

ではなぜこれが問題になるのか?それは、骨折が単なる「骨のケガ」で終わらないからです。特に高齢者の場合、一度骨折するとそこから急速に体力が落ちて寝たきりにつながるケースがとても多い。厚生労働省のデータによると、要介護状態になる原因の約12%が「骨折・転倒」です。これは認知症、脳卒中に次ぐ第3位に当たります。

僕が患者さんに伝えたいのは「骨粗鬆症は静かに進行する」ということです。自覚症状がほとんどないまま骨がどんどん弱くなっていき、ある日突然骨折する。骨折して初めて「骨粗鬆症だったのか」とわかるケースが少なくありません。だからこそ「症状がないうちに調べる」ことが大切なのです。

さらに言えば、骨粗鬆症は単独で存在する病気ではありません。糖尿病や慢性腎臓病、リウマチ性疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)などがある方は、骨粗鬆症のリスクが格段に上がります。つまり生活習慣病の延長線上にこの病気があるわけです。僕が骨粗鬆症を「もう一つの生活習慣病」と捉えているのはそういう理由からです。

どのくらいの人がなっているのか。数字で見る骨粗鬆症

日本における骨粗鬆症の患者数は推定で約1,280万人とされています[1]。1,280万人です。これは日本の人口のおよそ10人に1人にあたる計算になります。

ROADスタディと呼ばれる日本の大規模コホート研究のデータでは、腰椎での骨粗鬆症の有病率は全体で13.6%(男性3.4%、女性19.2%)、大腿骨頸部では全体で11.6%(男性12.4%、女性26.5%)と報告されています[1]。女性の4人に1人以上が大腿骨頸部で骨粗鬆症に該当するという数字は、正直僕も最初に見たときは驚きました。

ただ、この推計患者数の中で実際に医療機関にかかっている方はどのくらいかと言うと、わずか約200万人程度。つまり1,000万人以上の方が「自分が骨粗鬆症だと気づいていない」か「気づいているけど治療していない」かのどちらかなのです。この治療率の低さは正直かなり深刻な問題です。

性別で見ると、骨粗鬆症の約80%は女性です。50歳を過ぎた女性の3人に1人、70歳以上になると2人に1人が骨粗鬆症だと言われています。ではなぜ女性に多いのか?それは閉経後に「エストロゲン」という女性ホルモンが急激に減少するからです。エストロゲンは骨を壊す細胞の働きを抑える役割を持っているので、このホルモンが減ると骨の分解が一気に加速してしまうわけです。

でも男性も他人事ではありません。男性の骨粗鬆症は約300万人と推定されていて、70歳以降から増え始めます。男性の場合は女性ほど急激ではないものの、加齢とともにじわじわと骨密度が下がっていきます。そして男性の骨折は女性の骨折よりも予後が悪いというデータがあります。つまり「男性だから大丈夫」という考えは危険なのです。

骨が弱くなるメカニズム。骨は毎日「入れ替わっている」

みなさんは骨が「生きている組織」であることをご存知でしょうか。骨は一度作られたらずっとそのままだと思われがちですが、実は毎日少しずつ壊されて、新しく作り替えられています。このサイクルを「骨のリモデリング」と呼びます。

骨のリモデリングには2種類の細胞が関わっています。古い骨を壊す「破骨細胞」と、新しい骨を作る「骨芽細胞」です。健康な状態では、壊す量と作る量のバランスがとれています。ところが骨粗鬆症では、壊す量が作る量を上回ってしまう。つまり「壊しすぎ」か「作り足りない」か、あるいはその両方が起きているのです。

僕がよく患者さんに使うたとえ話があります。骨のリモデリングは「建物のリフォーム」に似ています。古くなった部分を取り壊して新しい材料で補修する。でも取り壊す職人さんが張り切りすぎて、補修する職人さんが追いつかなくなったら?建物はどんどんボロボロになっていきますよね。骨粗鬆症はまさにそういう状態です。

閉経後の女性でエストロゲンが低下すると、破骨細胞の活動を制御する「ブレーキ」が外れてしまいます。破骨細胞の表面にある「RANK」という受容体に「RANKL」というシグナルが届くと破骨細胞が活性化されるのですが、エストロゲンはこのRANKLの産生を抑える働きをしているのです。後述するデノスマブという薬は、このRANKLを直接ブロックすることで骨吸収を抑制する仕組みになっています[2]。骨の分子メカニズムの理解が、薬の開発に直結している好例だと思います。

ちなみに、骨全体が入れ替わるのには約3〜5年かかると言われています。今みなさんの体にある骨は、3〜5年前のものとはすっかり別物なのです。この「入れ替わり」がうまくいくかどうかが、骨の健康を左右しています。

骨粗鬆症になりやすい人の特徴

骨粗鬆症のリスク因子はかなり多岐にわたります。僕が外来で患者さんに確認するポイントは以下の通りです。

①閉経後の女性(特に50歳以上)、②家族に骨粗鬆症や大腿骨骨折の方がいる、③やせ型の体格(BMI 18.5未満)、④喫煙者、⑤過度の飲酒(日本酒換算で1日2合以上)、⑥ステロイド薬を長期間使用している、⑦運動不足(特にデスクワーク中心の方)、⑧カルシウムやビタミンDの摂取が少ない。この8つです。

この中で僕が特に注意してほしいのは「やせ型の体格」です。日本人女性は世界的に見てもBMIが低い傾向にあります。やせていることが健康的だと考える方が多いのですが、骨に関しては逆です。体重が軽いと骨にかかる負荷が小さくなり、骨が「刺激不足」で弱くなっていきます。

さらに言えば、ステロイド薬を使っている方は要注意です。喘息やリウマチ、膠原病などで長期間ステロイドを内服している場合、骨密度の低下が急速に進むことがあります。「ステロイド性骨粗鬆症」と呼ばれていて、ステロイドの量や期間に応じて骨粗鬆症の予防的な治療を始めるべきとされています。もし長期間ステロイドを飲んでいて骨密度の検査を受けたことがない方は、ぜひ主治医に相談してください。

もう一つ、「骨折の既往」があることが最大のリスク因子だということも強調しておきたいです。一度骨折した方は、また骨折するリスクが大幅に上がります。「前に手首を折ったけど、もう治ったから関係ない」ではないのです。骨折は骨の脆弱性を示すサインですから、折れたことがある方は必ず骨密度の評価を受けていただきたいと思います。

骨粗鬆症の症状。「痛くない」から怖い

骨粗鬆症の最大の特徴は「自覚症状がほとんどない」ことです。骨密度が下がっていても、痛みがあるわけではない。だるさがあるわけでもない。検査をしなければわからない。これが厄介なのです。

ではどうやって気づくのか?多くの場合、最初のサインは「身長が縮んだ」ことです。骨粗鬆症が進行すると背骨(椎体)が少しずつ潰れていきます。「いつのまにか骨折」と呼ばれるもので、本人は気づいていないのに実はすでに背骨が潰れている、というケースがよくあります。

僕の患者さんで70代の女性がいらっしゃいました。「最近背が低くなった気がする」と言って受診されたのですが、レントゲンを撮ったら背骨が4か所も潰れていました。4か所です。ご本人は痛みをほとんど感じていなかった。「腰が重いなとは思っていたけど、年だからだと思って」とおっしゃっていました。このエピソードを思い出すたびに、骨粗鬆症の怖さを再確認します。

身長が若い頃と比べて2cm以上縮んでいる方は、骨粗鬆症の可能性を考えたほうがいいとされています。3cm以上縮んでいる場合は、すでに椎体骨折が起きている可能性がかなり高い。もし「最近背が縮んだな」と感じている方がいたら、ぜひ一度検査を受けてみてください。

骨粗鬆症が引き起こす骨折。人生を変えてしまう

骨粗鬆症で特に問題になる骨折は4つあります。①椎体骨折(背骨の骨折)は最も多く「いつのまにか骨折」として知られています。②大腿骨近位部骨折(太ももの付け根の骨折)は最も深刻で寝たきりの原因になりやすい。③橈骨遠位端骨折(手首の骨折)は転んで手をついたときに起きやすく、④上腕骨近位部骨折(肩の近くの骨折)は転倒時に起きます。

この中で僕が最も怖いと感じているのは大腿骨近位部骨折です。日本では年間約20万件の大腿骨近位部骨折が発生しています。そしてこの骨折の1年後の生存率は約80〜85%。つまり15〜20%の方が骨折から1年以内に亡くなっているということです。この数字は衝撃的だと思います。

ではなぜ骨折で亡くなるのか?それは骨折そのものが致命的というより、骨折をきっかけに寝たきりになり、そこから肺炎や血栓症などの合併症を起こすからです。特に高齢者は一度寝たきりになると筋力の低下が急速に進みます。1週間のベッド上安静で筋力は約10〜15%低下すると言われています。

だからこそ「骨折させない」ことが何より大切なのです。そして「骨折したことがある方を放置しない」ことも同じくらい大切です。椎体骨折後1年以内に次の椎体骨折が起きるリスクは、骨折のない方に比べて約5倍に上ります。「骨折連鎖」と呼ばれるこの現象を断ち切るために、骨折したタイミングで骨粗鬆症の治療介入を積極的に行うことが今の医療界のトレンドになっています。

どうやって調べるのか。骨密度検査について

骨粗鬆症の診断には「骨密度検査」が使われます。骨密度とは、骨の中にどのくらいカルシウムなどのミネラルが詰まっているかを示す値です。

検査方法はいくつかありますが、最も正確で信頼性が高いとされているのが「DXA法(デキサ法)」です。2種類のX線を使って腰椎と大腿骨の骨密度を測定します。検査時間は10〜15分程度で、痛みは全くありません。放射線の被曝量も胸のレントゲン1枚の10分の1以下なので、安心して受けていただけます。

結果は「YAM値(若年成人平均値)」という基準で表示されます。これは20〜44歳の若い世代の骨密度を100%として、自分の骨密度が何%にあたるかを示したものです。YAM値が80%以上なら正常、70〜80%が骨量減少(骨粗鬆症の予備軍)、70%未満が骨粗鬆症と診断されます。

僕が外来で骨密度検査を勧める対象は、①65歳以上の女性全員、②50歳以上で骨折歴がある方、③ステロイドを長期使用している方、④閉経が早かった方(45歳未満)、⑤極端にやせている方。この5つに当てはまる方です。もちろん心配な方は年齢に関係なく検査を受けることができます。

ちなみに、自治体によっては骨密度検査を無料または低額で受けられる健診を実施しているところもあります。40歳以上の女性を対象にしていることが多いので、お住まいの自治体の情報をチェックしてみてください。

治療の選択肢。薬物療法が中心になる

骨粗鬆症と診断されたら、多くの場合は薬物療法を開始します。「骨がスカスカだからカルシウムを飲めばいい」という単純な話ではなく、骨のリモデリングに介入する専門的な薬が必要です。現在使われている薬のカテゴリーは大きく分けると3つです。

①骨が壊れるのを抑える薬(骨吸収抑制薬)の代表は「ビスホスホネート製剤」です。アレンドロネートやリセドロネートなどが代表的で、週に1回の内服薬や月1回、年1回の注射薬があります。1996年に発表されたFIT試験(Fracture Intervention Trial)では、アレンドロネートが既存の椎体骨折を持つ女性において椎体骨折を47%、大腿骨骨折を51%有意に減少させることが示されており[3]、骨粗鬆症治療の礎となっています。もう一つの骨吸収抑制薬「デノスマブ(プラリア)」は半年に1回の皮下注射です。RANKLを直接標的とする抗体薬で、7,868人を対象とした大規模な国際試験(FREEDOMスタディ)では椎体骨折を68%、大腿骨骨折を40%減少させることが示されました[2]。

②骨を作るのを促進する薬(骨形成促進薬)のカテゴリーはテリパラチドやロモソズマブ(イベニティ)です。特にロモソズマブは「スクレロスチン阻害薬」と呼ばれる新世代の薬で、月1回の皮下注射を12か月間使用します。4,093人を対象としたARCH試験では、ロモソズマブ→アレンドロネートの順番で治療した群はアレンドロネート単独の群と比べて椎体骨折を48%、大腿骨骨折を38%有意に減少させました[4]。骨密度を上げる力が非常に強い薬で、重症の骨粗鬆症や骨折後の方に特に有用だと思っています。

③その他には活性型ビタミンD製剤やSERM(ラロキシフェン、バゼドキシフェン)なども使われます。

どの薬を選ぶかは、骨密度の低下の程度、骨折リスクの高さ、年齢、他の持病などを総合的に判断して決めます。僕が日常診療でよく使うのはビスホスホネート製剤の週1回内服か、デノスマブの半年に1回注射。どちらも十分なエビデンスがあります。

ただ、薬の効果を実感しにくいのが骨粗鬆症の治療の難しさです。血圧の薬は飲めば血圧が下がるし、糖尿病の薬は血糖値が下がる。でも骨粗鬆症の薬は「骨折しなかった」ということが効果の証拠になるわけで、「何も起きなかったから効いている」という地味な成功なのです。だからどうしても途中でやめてしまう方が多い。骨粗鬆症の治療継続率は1年後で約50%というデータがあります。でもやめてしまうと骨密度はまた下がっていきます。だからこそ僕は「地味だけど続けることが大事です」と繰り返し伝えています。

カルシウムだけでは足りない。栄養と骨の関係

「骨にはカルシウム」。これは間違いではありません。でもカルシウムだけ摂っていれば骨が強くなるかと言うと、それは違います。骨を作るにはカルシウム以外にもいくつかの栄養素が欠かせません。

骨に必要な栄養素を重要度の高い順に整理すると、こうなります。①カルシウムは1日の推奨摂取量が700〜800mgです。牛乳コップ1杯(200ml)でカルシウム約220mg。日本人の平均摂取量は約500mg前後と言われていて、多くの方が不足しています。②ビタミンDはカルシウムの腸からの吸収を助けます。日光を浴びることで皮膚でも作られるので、1日15〜20分程度の日光浴が推奨されています。③ビタミンKは骨にカルシウムを定着させる役割を持ち、納豆や緑黄色野菜に多く含まれます。納豆1パックでビタミンKは約240μg摂れます。④タンパク質は骨の構造の約30%がコラーゲン(タンパク質)でできているので、タンパク質不足は骨密度の低下に直結します。

僕が患者さんによくお伝えするのは「牛乳を1日コップ1〜2杯、納豆を週に3回以上、そして毎日のお散歩で日光を浴びる」ということです。これだけでカルシウム、ビタミンD、ビタミンKの3つをかなりカバーできます。

ただし、注意点もあります。カルシウムのサプリメントを大量に飲めばいいというものではありません。1回に500mg以上のカルシウムを一気に摂ると吸収率が下がりますし、サプリメントからの過剰なカルシウム摂取は心血管リスクを高める可能性があるという研究もあります。やはり「食事からバランスよく」が基本です。

骨を強くする運動。骨に「衝撃」を与える

骨は「負荷がかかると強くなる」という性質を持っています。これを「ウォルフの法則」と言います。宇宙飛行士が無重力空間にいると急速に骨密度が低下するのは有名な話ですよね。逆に言えば、適度な負荷を骨にかけ続けることで骨密度の維持・改善が期待できるのです。

ではどんな運動がいいのか?ポイントは「骨に衝撃や荷重がかかる運動」です。骨粗鬆症の予防・改善に効果があるとされている運動は①ウォーキング(1日30分程度)、②ジョギング、③階段の上り下り、④スクワットや片足立ち、⑤ダンスといった「足で地面を踏む」タイプです。

逆に、水泳やサイクリングは全身運動としてはとても良いのですが、骨への衝撃が少ないため、骨密度の改善効果はそれほど期待できません。もちろん体力維持や心肺機能の改善には素晴らしいので、やめる必要はありません。骨のことを考えるなら「水泳+ウォーキング」のように組み合わせるのが理想的です。

僕が患者さんに推奨しているのは「片足立ち」です。壁やテーブルに手を添えて、片足で1分間立つ。これを左右交互に1日3回。たったこれだけですが、片足立ちは大腿骨頭に体重の約2.75倍の負荷がかかるとされていて、約53分間のウォーキングに相当する骨への刺激になるという研究データがあります。時間がない方でも自宅でできるので、非常に取り組みやすい運動です。

ちなみにROADスタディの追跡調査では、10年間で日本の骨粗鬆症有病率が大腿骨頸部で男女ともに上昇傾向にあることが示されており[5]、超高齢社会における骨粗鬆症対策の重要性はむしろ高まっています。運動習慣を含めた生活改善が社会全体の課題だと感じています。

転倒予防が骨折予防になる

骨粗鬆症の治療と同じくらい大切なのが「転ばないこと」です。いくら骨密度を上げる治療をしていても、転倒して強い力がかかれば骨折は起こり得ます。特に高齢者の転倒は深刻で、65歳以上の高齢者の約3人に1人が年に1回以上転倒するというデータがあります。

転倒のリスクを高める要因は多岐にわたりますが、僕が外来で確認するのは①筋力の低下(特に下肢)、②バランス能力の低下、③視力の低下、④睡眠薬や安定剤の使用、⑤自宅の環境(段差、暗い廊下、滑りやすい床)。この5つです。

特に薬の影響は見落とされがちです。睡眠薬を飲んでいる方が夜中にトイレに起きたときにふらついて転倒する、というパターンはとても多い。僕の外来でも「夜中にトイレに行こうとして転んだ」という方が何人もいらっしゃいます。そういう方には睡眠薬の種類を見直したり、夜間のトイレまでの動線に足元灯を設置することを提案しています。

自宅の環境整備も重要です。カーペットの端がめくれていないか、浴室に手すりはあるか、スリッパは滑りにくいものか。こういった「ちょっとしたこと」が転倒を防ぎます。地味な対策に見えるかもしれませんが、骨折を1件防ぐことの価値は計り知れません。訪問診療で患者さんのお宅にお邪魔したとき、僕が真っ先に見るのはトイレまでの動線と浴室の手すりの有無です。それくらい、環境整備は骨折予防に直結しているのです。

よくある質問

Q. 骨粗鬆症は若い人でもなりますか?

A. はい、なります。ただし頻度は高くありません。若い方の場合、極端なダイエットや摂食障害、過度な運動による無月経、ステロイド薬の長期使用などが原因になることがあります。特に10代〜20代の女性で極端な食事制限をしている方は、骨の「貯金」ができない状態になっています。骨密度のピークは20〜30代なので、この時期にしっかり骨を作っておくことが将来の骨粗鬆症予防に直結します。

Q. 骨密度検査はどのくらいの頻度で受けるべきですか?

A. 骨粗鬆症の治療中の方は6ヶ月〜1年に1回の骨密度検査が推奨されています。治療を受けていない方で骨量減少(YAM値70〜80%)と判定された場合は、1〜2年に1回のフォローが目安です。骨密度が正常範囲の方は、65歳以降に定期的にチェックすれば十分です。

Q. 骨粗鬆症の薬は一生飲み続けるのですか?

A. 薬の種類によります。ビスホスホネート製剤は骨に長期間蓄積する性質があるため、5年程度の使用を目安に一度「休薬」を検討することがあります。ただし休薬するかどうかは骨折リスクの高さによって判断します。デノスマブは中止すると急速に骨密度が低下するため、やめる場合は別の薬に切り替えが必要です。いずれにしても自己判断で中止せず、主治医と相談してください。

Q. 牛乳が苦手なのですが、カルシウムはどうやって摂ればいいですか?

A. 牛乳以外にもカルシウムを多く含む食品はたくさんあります。小魚(しらす、ししゃも)、豆腐、厚揚げ、小松菜、チーズ、ヨーグルトなどです。特に木綿豆腐は半丁で約180mgのカルシウムが摂れます。乳糖不耐症の方はヨーグルトやチーズなら消化しやすいことが多いです。

Q. コーヒーは骨粗鬆症に悪いのですか?

A. 大量に飲めば影響はあり得ます。カフェインにはカルシウムの尿中排泄を促す作用があるためです。ただし1日3〜4杯程度であれば、カルシウムの摂取が十分な方には大きな問題にはなりません。僕も毎朝コーヒーを飲んでいますが(笑)、量を守っていれば心配しすぎなくて大丈夫です。

Q. 男性も骨密度検査を受けたほうがいいですか?

A. 70歳以上の男性、ステロイドを長期使用している男性、大腿骨骨折の家族歴がある男性は検査を受けることをお勧めします。男性の骨粗鬆症は見逃されやすく、骨折時の予後も女性より悪い傾向があります。「男だから骨は丈夫」という思い込みは持たないでください。

Q. サプリメントだけで骨粗鬆症を予防できますか?

A. サプリメントはあくまで「補助」です。カルシウムやビタミンDのサプリメントは食事で不足している分を補う目的で使うのは合理的ですが、それだけで骨粗鬆症を予防できるわけではありません。運動、栄養バランス、定期的な検査、必要に応じた薬物療法。これらを組み合わせることが大切です。

Q. 骨粗鬆症があると歯の治療で問題になることがありますか?

A. はい、あります。特にビスホスホネート製剤やデノスマブを使用している方は、抜歯などの外科的な歯科処置を行う際に「顎骨壊死」というまれですが重篤な合併症のリスクがあります。頻度は0.01〜0.1%程度と低いですが、歯科を受診する際は必ず「骨粗鬆症の薬を飲んでいます」と歯科医に伝えてください。口腔内の衛生管理を日頃からしっかり行うことが予防として最も効果的です。

骨粗鬆症は「沈黙の病」とも呼ばれます。症状がないから大丈夫、と思っている間に骨はどんどん弱くなっていく。でも裏を返せば、早く見つけて早く対処すれば、骨折のリスクを大幅に下げることができる。検査も治療も、僕が研修医だった頃に比べて格段に進歩しています。

冒頭でお話しした研修医時代の患者さんのことを、今でも時々思い出します。あのとき、もし骨粗鬆症の診断と治療介入が10年早くできていたら。そう考えるたびに「予防できるものは全力で予防する」という気持ちが改めて強くなります。みなさんには「まだ大丈夫」ではなく「今のうちに調べておこう」という気持ちを持ってほしいのです。骨粗鬆症は予防と早期発見で十分に戦える病気です。みなさんの骨が健やかであり続けるように、僕も一緒に取り組んでいきたいと思っています。何か心配なことがあれば、いつでも相談してくださいね。

参考文献

[1] Yoshimura N, et al. Prevalence of knee osteoarthritis, lumbar spondylosis, and osteoporosis in Japanese men and women: the research on osteoarthritis/osteoporosis against disability study. J Bone Miner Metab. 2009;27(5):620-628. PMID: 19333749

[2] Cummings SR, et al. Denosumab for prevention of fractures in postmenopausal women with osteoporosis. N Engl J Med. 2009;361(8):756-765. PMID: 19671655

[3] Black DM, et al. Randomised trial of effect of alendronate on risk of fracture in women with existing vertebral fractures. Fracture Intervention Trial Research Group. Lancet. 1996;348(9041):1535-1541. PMID: 8950879

[4] Saag KG, et al. Romosozumab or alendronate for fracture prevention in women with osteoporosis. N Engl J Med. 2017;377(15):1417-1427. PMID: 28892457

[5] Yoshimura N, et al. Trends in osteoporosis prevalence over a 10-year period in Japan: the ROAD study 2005-2015. J Bone Miner Metab. 2022;40(5):829-838. PMID: 36038673

[6] 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(日本骨粗鬆症学会・日本骨代謝学会・骨粗鬆症財団). 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版. ライフサイエンス出版; 2015.

丸岡悠医師

監修医師

丸岡 悠

庄内プライベートクリニック 院長 / 医療法人丸岡医院 医師

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学にて医師免許を取得。沖縄県立北部病院、日本海総合病院を経て現職。庄内プライベートクリニック院長として美容医療を担当し、丸岡医院では一般診療・施設診療・訪問診療にも携わっています。