副腎皮質リポイド過形成症(Prader病) – 婦人科

副腎皮質リポイド過形成症(Prader プラダー病)(congenital lipoid adrenal hyperplasia)とは、副腎と性腺のステロイドホルモン合成に重大な障害を引き起こす遺伝性疾患です。

この疾患は、コレステロールをステロイドホルモンに変換する過程で重要な役割を果たす酵素の欠損により発症します。

主な症状は、副腎不全、電解質異常、低血糖、外性器の形成異常などです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の主な症状

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)は、ステロイドホルモン合成障害を特徴とする遺伝性疾患であり、症状には副腎不全、電解質異常、低血糖、外性器の形成異常などがあります。

副腎不全による症状

副腎皮質リポイド過形成症では副腎皮質ホルモンの産生が著しく低下するため、副腎不全の症状が現れます。

主な症状は持続的な疲労感、筋力低下による脱力感、食欲不振、体重減少などです。

また、ストレス時に症状が悪化することがあり、重篤な場合には副腎クリーゼと呼ばれる危険な状態に陥る可能性があります。

副腎不全の主な症状特徴
疲労感持続的な倦怠感
脱力感筋力低下を感じる
食欲不振食事への興味が減少
体重減少徐々に体重が落ちる

電解質異常と低血糖

副腎皮質ホルモンの一つであるアルドステロンの欠乏により、電解質のバランスが崩れることがあり、特にナトリウムとカリウムのバランスが乱れやすく、低ナトリウム血症や高カリウム血症を引き起こすこともあります。

電解質異常は、めまい、脱力感、不整脈などの症状を起こす可能性があり、また、コルチゾールの欠乏により低血糖が生じやすくなることがあります。

低血糖の症状は、冷や汗、動悸、手の震え、集中力低下で、重症の場合には意識障害が起こることもあり注意が必要です。

電解質異常の種類関連する症状
低ナトリウム血症めまい、脱力感
高カリウム血症不整脈

外性器の形成異常

副腎皮質リポイド過形成症では性ホルモンの産生も障害されるため、外性器の形成異常が見られる例があり、特に遺伝的に女性(46,XX)であっても外性器が男性化する場合があり、この状態を女性仮性半陰陽と呼びます。

一方、遺伝的に男性(46,XY)の場合は外性器の女性化や不完全な男性化が生じることがあり、これらの外性器の形成異常は出生時から気づかれることが多く、早期の診断と対応が必要です。

遺伝子型外性器の特徴
46,XX女性仮性半陰陽の可能性
46,XY不完全な男性化や女性化

その他の症状

副腎皮質リポイド過形成症では主要な症状以外にも、さまざまな症状が現れる場合があります。

その他の症状

  • 色素沈着(皮膚や粘膜が濃くなる)
  • 成長障害
  • 思春期の遅れ
  • 不妊

これらの症状はホルモンバランスの乱れや長期的な副腎不全の影響によって起こります。

症状関連するホルモン異常
色素沈着ACTH増加
成長障害コルチゾール欠乏
思春期の遅れ性ホルモン欠乏
不妊性ホルモン欠乏

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の原因

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の主な原因は、コレステロール輸送に関わる遺伝子の変異です。

遺伝子変異と副腎皮質リポイド過形成症

StARタンパク質はコレステロールをミトコンドリア内膜に輸送する機能を持っており、この輸送過程はステロイドホルモン合成の律速段階となっている非常に大切な役割を担っています。

STAR遺伝子に変異が生じると、StARタンパク質の機能が低下または喪失し、コレステロールの輸送が正常に行われなくなることで、ステロイドホルモンの合成が阻害され、副腎皮質リポイド過形成症の症状が現れるのです。

遺伝子コードするタンパク質機能
STARStARタンパク質コレステロール輸送
CYP11A1P450scc酵素コレステロール変換

P450scc酵素の役割と疾患との関連

一方、P450scc酵素はコレステロールをプレグネノロンに変換する反応を触媒し、この反応はすべてのステロイドホルモン合成の最初のステップとなる不可欠なプロセスです。

CYP11A1遺伝子に変異が生じると、P450scc酵素の機能が低下し、コレステロールからプレグネノロンへの変換が適切に行われなくなることで、ステロイドホルモンの合成が阻害され、副腎皮質リポイド過形成症の発症につながります。

遺伝形式と発症メカニズム

副腎皮質リポイド過形成症は常染色体劣性遺伝の形式をとり、両親から変異遺伝子を1つずつ受け継いだ場合に発症します。

変異遺伝子を1つだけ持つ保因者は通常症状を示しませんが、保因者同士が子どもをもうけた場合、その子どもが疾患を発症するリスクが高まります。

遺伝形式特徴
常染色体劣性遺伝両親から変異遺伝子を1つずつ受け継ぐ必要がある
保因者通常症状を示さないが、子どもに遺伝子を伝える可能性がある

診察(検査)と診断

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の診断は、臨床症状の観察、血液検査、画像診断、遺伝子検査などを組み合わせて行われます。

臨床診断

臨床診断は患者さんの症状や身体所見を詳細に観察することから始まり、患者さんの成長発達の状況、外性器の形態、皮膚の色素沈着などを注意深く確認します。

また、家族歴の聴取も重要な情報源です。

臨床所見確認ポイント
成長発達身長・体重の推移
外性器形態異常の有無
皮膚色素沈着の程度

血液検査

血液検査は、ホルモンレベルや電解質バランスを評価するために実施され、主な検査項目は、ACTH、コルチゾール、アルドステロン、レニン活性、電解質(ナトリウム、カリウム)などです。

検査結果は、副腎機能の状態を把握するうえで貴重な情報となります。

検査項目評価内容
ACTH副腎皮質刺激ホルモンの分泌状態
コルチゾール副腎皮質ホルモンの産生量
電解質ナトリウム・カリウムバランス

画像診断

画像診断は副腎の形態や大きさを評価するために用いられ、主に以下の検査が実施されます。

  • 腹部超音波検査
  • CT(コンピュータ断層撮影)
  • MRI(磁気共鳴画像法)

遺伝子検査

遺伝子検査は副腎皮質リポイド過形成症の確定診断に不可欠で、主に、STAR遺伝子とCYP11A1遺伝子の変異を調べます。

遺伝子関連する機能
STARコレステロールの細胞内輸送
CYP11A1コレステロールからプレグネノロンへの変換

負荷試験

診断をより確実にするため、必要に応じて副腎機能を評価する負荷試験が実施されることがあります。

代表的な負荷試験

  • ACTH負荷試験(副腎皮質の反応性を評価)
  • CRH負荷試験(視床下部-下垂体-副腎系の機能を評価)
負荷試験評価内容
ACTH負荷試験副腎皮質の反応性
CRH負荷試験視床下部-下垂体-副腎系の機能

鑑別診断

副腎皮質リポイド過形成症の診断においては、類似した症状が現れる他の疾患との鑑別も重要です。

主な鑑別疾患

  • 先天性副腎皮質過形成症(CAH)
  • アジソン病
  • 副腎低形成

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の治療法と処方薬、治療期間

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の治療は主にホルモン補充療法を中心に行われ、患者さんの不足しているホルモンを外部から補うことで、体内のホルモンバランスを整えることを目的としています。

ホルモン補充療法の基本

副腎皮質リポイド過形成症の患者さんでは、主にグルココルチコイドとミネラルコルチコイドが不足しています。

グルココルチコイドの補充には通常ヒドロコルチゾンが使用され、ミネラルコルチコイドの補充にはフルドロコルチゾンが用いられることが多いです。

ホルモン主な役割代表的な医薬品投与回数
グルココルチコイド糖質代謝調節ヒドロコルチゾン1日2〜3回
ミネラルコルチコイド電解質バランス調整フルドロコルチゾン1日1回

投薬スケジュールと用量調整

ホルモン補充療法では患者さんの年齢や体格、症状の重症度に応じて用量を決定します。

治療開始後は定期的に血液検査や尿検査を行い、ホルモンレベルや電解質バランスをモニタリングすることが大切です。

検査項目目的頻度
血液検査ホルモンレベル確認定期的
尿検査電解質バランス確認定期的
身長・体重測定成長の評価定期的
骨密度検査骨粗鬆症予防年1回程度

性ホルモン補充療法

思春期以降の患者さんでは性腺機能不全に対する治療も重要です。

女性患者さんはエストロゲンとプロゲステロンの補充が、男性患者さんではテストステロンの補充が行われます。

性別補充するホルモン主な目的投与形態
女性エストロゲン、プロゲステロン二次性徴の発現、骨密度維持経口薬、貼付剤
男性テストステロン二次性徴の発現、筋肉量維持注射、ゲル剤

治療期間と長期的な管理

副腎皮質リポイド過形成症の治療は、基本的に生涯にわたって継続する必要があります。

ホルモン補充療法を中断すると重篤な症状が現れる可能性があるため、長期的な管理において患者さんの成長や生活環境の変化に応じて治療内容を調整していくことが不可欠です。

予後と再発可能性

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)は早期診断と管理により、患者さんの生活の質を向上できます。

予後の概要

副腎皮質リポイド過形成症は早期に診断され管理が行われた場合、多くの患者さんは良好な経過をたどります。

しかし、長期的な健康管理が必要で、定期的な医療機関の受診が重要です。

予後に影響する要因内容
診断時期早期診断が望ましい
管理状況継続的な医療ケアが必要

合併症と長期的な影響

副腎皮質リポイド過形成症では、さまざまな合併症が生じる可能性があります。

主な合併症

  • 骨密度の低下
  • 心血管系の問題
  • 不妊
  • 精神的ストレス

合併症は患者さんの生活の質に大きな影響を与えることがあるため、定期的な健康チェックが欠かせません。

主な合併症影響
骨密度低下骨折リスクの増加
心血管系問題循環器疾患のリスク上昇

再発可能性について

副腎皮質リポイド過形成症は遺伝性疾患であるため、病気自体が「再発」するという概念はありませんが、症状の悪化や急性副腎不全(副腎クリーゼ)の発生には注意が必要です。

特にストレス時や感染症罹患時には、症状が悪化するリスクが高まります。

リスク因子注意点
ストレス精神的・身体的ストレスへの対応
感染症早期発見と適切な対応

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の治療における副作用やリスク

副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の治療ではホルモン補充療法が主に行われますが、長期的な使用に伴い副作用やリスクが生じる可能性があります。

グルココルチコイド関連の副作用

グルココルチコイドの長期使用に伴う主な副作用は、骨粗鬆症、体重増加、皮膚の菲薄化、高血圧などです。

特に骨粗鬆症は重要な問題で、また、成長期の子どもでは、過剰なグルココルチコイド投与が成長抑制を引き起こすことがあります。

副作用を最小限に抑えるために、投与量の細かな調整と定期的な骨密度検査が必要です。

副作用症状対策
骨粗鬆症骨密度低下、骨折リスク上昇定期的な骨密度検査、カルシウム・ビタミンD摂取
体重増加肥満、代謝異常食事療法、運動療法
皮膚の菲薄化皮膚の脆弱化、傷つきやすさ皮膚保護、外傷予防
高血圧血圧上昇定期的な血圧測定、生活習慣改善

ミネラルコルチコイド関連の副作用

ミネラルコルチコイドの過剰投与は、高血圧や低カリウム血症を起こすことがあります。

低カリウム血症は筋力低下や不整脈などの症状を引き起こします。

一方、投与量が不足すると低血圧や高カリウム血症のリスクが生じるため、電解質バランスを慎重にモニタリングし、投与量を調整することが大切です。

電解質異常原因リスク
低カリウム血症ミネラルコルチコイド過剰筋力低下、不整脈
高カリウム血症ミネラルコルチコイド不足心臓伝導障害

性ホルモン補充療法のリスク

エストロゲン補充療法では血栓症のリスクが上昇する可能性がある一方、テストステロン補充療法では前立腺肥大や多血症などのリスクがあります。

リスクを最小限に抑えるため、定期的な健康診断と投与量の調整が必要です。

ホルモン主なリスクモニタリング項目
エストロゲン血栓症凝固系検査
テストステロン前立腺肥大、多血症前立腺検査、血液検査

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来診療の費用

外来診療では定期的な検査や診察が行われます。

血液検査やホルモン検査の費用は、1回あたり8,000円から20,000円程度です。

画像検査(CT、MRIなど)が必要な場合は、1回あたり25,000円から60,000円程度の追加費用がかかることがあります。

検査項目概算費用
血液検査8,000円~20,000円
CT検査25,000円~35,000円
MRI検査40,000円~60,000円

薬剤費

副腎皮質リポイド過形成症の治療には、ホルモン補充療法が必要です。

主な薬剤と月額費用の目安

  • コルチゾール製剤 4,000円~6,000円
  • フルドロコルチゾン製剤 1,500円~2,500円
  • 性ホルモン製剤(必要な場合)  3,000円~5,000円

入院治療の費用

急性副腎不全(副腎クリーゼ)などで入院が必要になった場合、入院費用が発生します。

入院費用の目安

入院期間概算費用
3日間150,000円~200,000円
1週間300,000円~400,000円

以上

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