副腎皮質リポイド過形成症(Prader プラダー病)(congenital lipoid adrenal hyperplasia)とは、副腎と性腺のステロイドホルモン合成に重大な障害を引き起こす遺伝性疾患です。
この疾患は、コレステロールをステロイドホルモンに変換する過程で重要な役割を果たす酵素の欠損により発症します。
主な症状は、副腎不全、電解質異常、低血糖、外性器の形成異常などです。
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の主な症状
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)は、ステロイドホルモン合成障害を特徴とする遺伝性疾患であり、症状には副腎不全、電解質異常、低血糖、外性器の形成異常などがあります。
副腎不全による症状
副腎皮質リポイド過形成症では副腎皮質ホルモンの産生が著しく低下するため、副腎不全の症状が現れます。
主な症状は持続的な疲労感、筋力低下による脱力感、食欲不振、体重減少などです。
また、ストレス時に症状が悪化することがあり、重篤な場合には副腎クリーゼと呼ばれる危険な状態に陥る可能性があります。
副腎不全の主な症状 | 特徴 |
疲労感 | 持続的な倦怠感 |
脱力感 | 筋力低下を感じる |
食欲不振 | 食事への興味が減少 |
体重減少 | 徐々に体重が落ちる |
電解質異常と低血糖
副腎皮質ホルモンの一つであるアルドステロンの欠乏により、電解質のバランスが崩れることがあり、特にナトリウムとカリウムのバランスが乱れやすく、低ナトリウム血症や高カリウム血症を引き起こすこともあります。
電解質異常は、めまい、脱力感、不整脈などの症状を起こす可能性があり、また、コルチゾールの欠乏により低血糖が生じやすくなることがあります。
低血糖の症状は、冷や汗、動悸、手の震え、集中力低下で、重症の場合には意識障害が起こることもあり注意が必要です。
電解質異常の種類 | 関連する症状 |
低ナトリウム血症 | めまい、脱力感 |
高カリウム血症 | 不整脈 |
外性器の形成異常
副腎皮質リポイド過形成症では性ホルモンの産生も障害されるため、外性器の形成異常が見られる例があり、特に遺伝的に女性(46,XX)であっても外性器が男性化する場合があり、この状態を女性仮性半陰陽と呼びます。
一方、遺伝的に男性(46,XY)の場合は外性器の女性化や不完全な男性化が生じることがあり、これらの外性器の形成異常は出生時から気づかれることが多く、早期の診断と対応が必要です。
遺伝子型 | 外性器の特徴 |
46,XX | 女性仮性半陰陽の可能性 |
46,XY | 不完全な男性化や女性化 |
その他の症状
副腎皮質リポイド過形成症では主要な症状以外にも、さまざまな症状が現れる場合があります。
その他の症状
- 色素沈着(皮膚や粘膜が濃くなる)
- 成長障害
- 思春期の遅れ
- 不妊
これらの症状はホルモンバランスの乱れや長期的な副腎不全の影響によって起こります。
症状 | 関連するホルモン異常 |
色素沈着 | ACTH増加 |
成長障害 | コルチゾール欠乏 |
思春期の遅れ | 性ホルモン欠乏 |
不妊 | 性ホルモン欠乏 |
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の原因
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の主な原因は、コレステロール輸送に関わる遺伝子の変異です。
遺伝子変異と副腎皮質リポイド過形成症
StARタンパク質はコレステロールをミトコンドリア内膜に輸送する機能を持っており、この輸送過程はステロイドホルモン合成の律速段階となっている非常に大切な役割を担っています。
STAR遺伝子に変異が生じると、StARタンパク質の機能が低下または喪失し、コレステロールの輸送が正常に行われなくなることで、ステロイドホルモンの合成が阻害され、副腎皮質リポイド過形成症の症状が現れるのです。
遺伝子 | コードするタンパク質 | 機能 |
STAR | StARタンパク質 | コレステロール輸送 |
CYP11A1 | P450scc酵素 | コレステロール変換 |
P450scc酵素の役割と疾患との関連
一方、P450scc酵素はコレステロールをプレグネノロンに変換する反応を触媒し、この反応はすべてのステロイドホルモン合成の最初のステップとなる不可欠なプロセスです。
CYP11A1遺伝子に変異が生じると、P450scc酵素の機能が低下し、コレステロールからプレグネノロンへの変換が適切に行われなくなることで、ステロイドホルモンの合成が阻害され、副腎皮質リポイド過形成症の発症につながります。
遺伝形式と発症メカニズム
副腎皮質リポイド過形成症は常染色体劣性遺伝の形式をとり、両親から変異遺伝子を1つずつ受け継いだ場合に発症します。
変異遺伝子を1つだけ持つ保因者は通常症状を示しませんが、保因者同士が子どもをもうけた場合、その子どもが疾患を発症するリスクが高まります。
遺伝形式 | 特徴 |
常染色体劣性遺伝 | 両親から変異遺伝子を1つずつ受け継ぐ必要がある |
保因者 | 通常症状を示さないが、子どもに遺伝子を伝える可能性がある |
診察(検査)と診断
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の診断は、臨床症状の観察、血液検査、画像診断、遺伝子検査などを組み合わせて行われます。
臨床診断
臨床診断は患者さんの症状や身体所見を詳細に観察することから始まり、患者さんの成長発達の状況、外性器の形態、皮膚の色素沈着などを注意深く確認します。
また、家族歴の聴取も重要な情報源です。
臨床所見 | 確認ポイント |
成長発達 | 身長・体重の推移 |
外性器 | 形態異常の有無 |
皮膚 | 色素沈着の程度 |
血液検査
血液検査は、ホルモンレベルや電解質バランスを評価するために実施され、主な検査項目は、ACTH、コルチゾール、アルドステロン、レニン活性、電解質(ナトリウム、カリウム)などです。
検査結果は、副腎機能の状態を把握するうえで貴重な情報となります。
検査項目 | 評価内容 |
ACTH | 副腎皮質刺激ホルモンの分泌状態 |
コルチゾール | 副腎皮質ホルモンの産生量 |
電解質 | ナトリウム・カリウムバランス |
画像診断
画像診断は副腎の形態や大きさを評価するために用いられ、主に以下の検査が実施されます。
- 腹部超音波検査
- CT(コンピュータ断層撮影)
- MRI(磁気共鳴画像法)
遺伝子検査
遺伝子検査は副腎皮質リポイド過形成症の確定診断に不可欠で、主に、STAR遺伝子とCYP11A1遺伝子の変異を調べます。
遺伝子 | 関連する機能 |
STAR | コレステロールの細胞内輸送 |
CYP11A1 | コレステロールからプレグネノロンへの変換 |
負荷試験
診断をより確実にするため、必要に応じて副腎機能を評価する負荷試験が実施されることがあります。
代表的な負荷試験
- ACTH負荷試験(副腎皮質の反応性を評価)
- CRH負荷試験(視床下部-下垂体-副腎系の機能を評価)
負荷試験 | 評価内容 |
ACTH負荷試験 | 副腎皮質の反応性 |
CRH負荷試験 | 視床下部-下垂体-副腎系の機能 |
鑑別診断
副腎皮質リポイド過形成症の診断においては、類似した症状が現れる他の疾患との鑑別も重要です。
主な鑑別疾患
- 先天性副腎皮質過形成症(CAH)
- アジソン病
- 副腎低形成
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の治療法と処方薬、治療期間
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の治療は主にホルモン補充療法を中心に行われ、患者さんの不足しているホルモンを外部から補うことで、体内のホルモンバランスを整えることを目的としています。
ホルモン補充療法の基本
副腎皮質リポイド過形成症の患者さんでは、主にグルココルチコイドとミネラルコルチコイドが不足しています。
グルココルチコイドの補充には通常ヒドロコルチゾンが使用され、ミネラルコルチコイドの補充にはフルドロコルチゾンが用いられることが多いです。
ホルモン | 主な役割 | 代表的な医薬品 | 投与回数 |
グルココルチコイド | 糖質代謝調節 | ヒドロコルチゾン | 1日2〜3回 |
ミネラルコルチコイド | 電解質バランス調整 | フルドロコルチゾン | 1日1回 |
投薬スケジュールと用量調整
ホルモン補充療法では患者さんの年齢や体格、症状の重症度に応じて用量を決定します。
治療開始後は定期的に血液検査や尿検査を行い、ホルモンレベルや電解質バランスをモニタリングすることが大切です。
検査項目 | 目的 | 頻度 |
血液検査 | ホルモンレベル確認 | 定期的 |
尿検査 | 電解質バランス確認 | 定期的 |
身長・体重測定 | 成長の評価 | 定期的 |
骨密度検査 | 骨粗鬆症予防 | 年1回程度 |
性ホルモン補充療法
思春期以降の患者さんでは性腺機能不全に対する治療も重要です。
女性患者さんはエストロゲンとプロゲステロンの補充が、男性患者さんではテストステロンの補充が行われます。
性別 | 補充するホルモン | 主な目的 | 投与形態 |
女性 | エストロゲン、プロゲステロン | 二次性徴の発現、骨密度維持 | 経口薬、貼付剤 |
男性 | テストステロン | 二次性徴の発現、筋肉量維持 | 注射、ゲル剤 |
治療期間と長期的な管理
副腎皮質リポイド過形成症の治療は、基本的に生涯にわたって継続する必要があります。
ホルモン補充療法を中断すると重篤な症状が現れる可能性があるため、長期的な管理において患者さんの成長や生活環境の変化に応じて治療内容を調整していくことが不可欠です。
予後と再発可能性
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)は早期診断と管理により、患者さんの生活の質を向上できます。
予後の概要
副腎皮質リポイド過形成症は早期に診断され管理が行われた場合、多くの患者さんは良好な経過をたどります。
しかし、長期的な健康管理が必要で、定期的な医療機関の受診が重要です。
予後に影響する要因 | 内容 |
診断時期 | 早期診断が望ましい |
管理状況 | 継続的な医療ケアが必要 |
合併症と長期的な影響
副腎皮質リポイド過形成症では、さまざまな合併症が生じる可能性があります。
主な合併症
- 骨密度の低下
- 心血管系の問題
- 不妊
- 精神的ストレス
合併症は患者さんの生活の質に大きな影響を与えることがあるため、定期的な健康チェックが欠かせません。
主な合併症 | 影響 |
骨密度低下 | 骨折リスクの増加 |
心血管系問題 | 循環器疾患のリスク上昇 |
再発可能性について
副腎皮質リポイド過形成症は遺伝性疾患であるため、病気自体が「再発」するという概念はありませんが、症状の悪化や急性副腎不全(副腎クリーゼ)の発生には注意が必要です。
特にストレス時や感染症罹患時には、症状が悪化するリスクが高まります。
リスク因子 | 注意点 |
ストレス | 精神的・身体的ストレスへの対応 |
感染症 | 早期発見と適切な対応 |
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の治療における副作用やリスク
副腎皮質リポイド過形成症(Prader病)の治療ではホルモン補充療法が主に行われますが、長期的な使用に伴い副作用やリスクが生じる可能性があります。
グルココルチコイド関連の副作用
グルココルチコイドの長期使用に伴う主な副作用は、骨粗鬆症、体重増加、皮膚の菲薄化、高血圧などです。
特に骨粗鬆症は重要な問題で、また、成長期の子どもでは、過剰なグルココルチコイド投与が成長抑制を引き起こすことがあります。
副作用を最小限に抑えるために、投与量の細かな調整と定期的な骨密度検査が必要です。
副作用 | 症状 | 対策 |
骨粗鬆症 | 骨密度低下、骨折リスク上昇 | 定期的な骨密度検査、カルシウム・ビタミンD摂取 |
体重増加 | 肥満、代謝異常 | 食事療法、運動療法 |
皮膚の菲薄化 | 皮膚の脆弱化、傷つきやすさ | 皮膚保護、外傷予防 |
高血圧 | 血圧上昇 | 定期的な血圧測定、生活習慣改善 |
ミネラルコルチコイド関連の副作用
ミネラルコルチコイドの過剰投与は、高血圧や低カリウム血症を起こすことがあります。
低カリウム血症は筋力低下や不整脈などの症状を引き起こします。
一方、投与量が不足すると低血圧や高カリウム血症のリスクが生じるため、電解質バランスを慎重にモニタリングし、投与量を調整することが大切です。
電解質異常 | 原因 | リスク |
低カリウム血症 | ミネラルコルチコイド過剰 | 筋力低下、不整脈 |
高カリウム血症 | ミネラルコルチコイド不足 | 心臓伝導障害 |
性ホルモン補充療法のリスク
エストロゲン補充療法では血栓症のリスクが上昇する可能性がある一方、テストステロン補充療法では前立腺肥大や多血症などのリスクがあります。
リスクを最小限に抑えるため、定期的な健康診断と投与量の調整が必要です。
ホルモン | 主なリスク | モニタリング項目 |
エストロゲン | 血栓症 | 凝固系検査 |
テストステロン | 前立腺肥大、多血症 | 前立腺検査、血液検査 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
外来診療の費用
外来診療では定期的な検査や診察が行われます。
血液検査やホルモン検査の費用は、1回あたり8,000円から20,000円程度です。
画像検査(CT、MRIなど)が必要な場合は、1回あたり25,000円から60,000円程度の追加費用がかかることがあります。
検査項目 | 概算費用 |
血液検査 | 8,000円~20,000円 |
CT検査 | 25,000円~35,000円 |
MRI検査 | 40,000円~60,000円 |
薬剤費
副腎皮質リポイド過形成症の治療には、ホルモン補充療法が必要です。
主な薬剤と月額費用の目安
- コルチゾール製剤 4,000円~6,000円
- フルドロコルチゾン製剤 1,500円~2,500円
- 性ホルモン製剤(必要な場合) 3,000円~5,000円
入院治療の費用
急性副腎不全(副腎クリーゼ)などで入院が必要になった場合、入院費用が発生します。
入院費用の目安
入院期間 | 概算費用 |
3日間 | 150,000円~200,000円 |
1週間 | 300,000円~400,000円 |
以上
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