QT延長症候群(LQTS) – 循環器の疾患

QT延長症候群(Long QT syndrome:LQTS)とは、心電図上でQT間隔が延長する心臓病です。

心臓の電気的活動に異常をきたし、突然の失神や、最悪の場合は心臓突然死を引き起こす可能性があります。

心臓の拍動を制御するイオンチャネルの異常によって発症し、患者さんによって症状の程度は様々です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

QT延長症候群(LQTS)の種類(病型)

QT延長症候群(LQTS)には、先天性(遺伝性)と二次性(後天性)があります。

先天性(遺伝性)QT延長症候群

先天性QT延長症候群は、心臓のイオンチャネルに関連する遺伝子の変異によって引き起こされる病型です。

現在までに少なくとも17種類の遺伝子変異が確認されており、それぞれLQT1からLQT17まで分類されています。

主な遺伝子型と特徴

遺伝子型影響を受けるイオンチャネル全体に占める割合
LQT1IKs (緩徐活性化遅延整流K+電流)30-35%
LQT2IKr (急速活性化遅延整流K+電流)25-30%
LQT3INa (Na+電流)5-10%

遺伝子型によって症状の発現や重症度、治療への反応が異なるため、遺伝子検査による診断が正確な管理につながります。

二次性(後天性)QT延長症候群

二次性QT延長症候群は、外的要因によって引き起こされる病型です。

主な原因

  • 薬剤性(抗不整脈薬、抗精神病薬、抗生物質など)
  • 電解質異常(低カリウム血症、低マグネシウム血症、低カルシウム血症)
  • 心筋虚血や心不全
  • 代謝異常(甲状腺機能低下症など)
  • 中枢神経系疾患(くも膜下出血など)

二次性QT延長症候群の場合は原因となる要因を特定し、それを是正することで症状の改善が期待できる点が特徴です。

先天性と二次性の比較

特徴先天性(遺伝性)二次性(後天性)
発症時期若年期からどの年齢でも可能
持続性生涯持続可逆的な場合あり
遺伝性ありなし
治療方法遺伝子型に基づく原因除去が中心

QT延長症候群(LQTS)の主な症状

QT延長症候群(LQTS)の主な症状には、失神、けいれん、心停止などがあり、突然発生します。

症状の重症度は個人差が大きく、無症状の方から生命を脅かす不整脈を経験する方まで様々です。

QT延長症候群の主要症状

QT延長症候群(LQTS)の最も顕著な症状は、突然の失神です。

失神は通常の状況下でも起こる可能性がありますが、特に運動中や強い感情を感じている時、また驚いた時などに発生しやすい傾向があります。

失神の持続時間は短く、多くの場合数秒から数分程度で回復します。

心臓突然死のリスク

QT延長症候群(LQTS)は、心臓突然死のリスクを高める不整脈として知られています。

心室細動と呼ばれる致命的な不整脈が発生すると、心臓が正常に血液を送り出せなくなり、意識を失い呼吸が停止する場合があります。

このような状態が続くと数分以内に心臓突然死に至る危険性があるため、早期の診断と管理がリスクを大幅に低減させる鍵となります。

症状の多様性と個人差

QT延長症候群(LQTS)の症状は、個人によって大きく異なることが特徴的です。

症状の程度特徴
無症状診断時に症状がない場合もある
軽度めまいや動悸のみを経験
中等度失神を経験するが回復が早い
重度頻繁な失神や心停止を経験

生涯にわたって無症状のままである方もいる一方で、頻繁に症状を経験する方もいて、症状の現れ方や重症度に差があります。

QT延長症候群の症状と誤認されやすい状態

QT延長症候群(LQTS)の症状は、他の疾患や状態と混同されることがあります。

QT延長症候群の症状と似た症状を引き起こす可能性のある状態

  • てんかん発作
  • 単純失神(迷走神経性失神)
  • パニック発作
  • 低血糖

症状の発現時期と頻度

QT延長症候群(LQTS)の症状は生涯のどの時期にも現れる可能性がありますが、若年期に初めて症状が出現する場合が多いです。

年齢群症状発現の特徴
小児期運動中や強い感情時に失神しやすい
思春期ホルモンの変化により症状が顕在化
成人期ストレスや薬剤の影響で症状が出現
高齢期他の心疾患との併存に注意が必要

QT延長症候群(LQTS)の原因

QT延長症候群(LQTS)は、心臓の電気的活動に影響を与えるイオンチャネルの異常や、特定の薬剤、電解質異常などが主な原因となります。

原因の種類主な要因
遺伝的要因イオンチャネル遺伝子の変異
薬剤性QT延長作用のある薬剤
電解質異常低カリウム血症、低マグネシウム血症

遺伝的要因によるLQTS

現在までに、LQTSに関連する15以上の遺伝子が特定されており、その中でも特に重要なものが3つあります。

遺伝子影響を受けるイオンチャネル
KCNQ1カリウムチャネル
KCNH2カリウムチャネル
SCN5Aナトリウムチャネル

上記のような遺伝子変異は心臓の再分極過程を遅延させ、QT間隔の延長につながる可能性があります。

遺伝的LQTSは常染色体優性遺伝形式をとることが多く、家族性に発症する傾向がみられます。

後天的要因によるLQTS

LQTSの後天的な要因で代表的なものが、薬剤性LQTSと電解質異常です。

薬剤性LQTSは、特定の薬物がQT間隔を延長させることで発症します。原因薬剤には抗不整脈薬、抗菌薬、抗うつ薬などがあります。

電解質異常もLQTSの原因となり得るもので、特に血清カリウム濃度の低下(低カリウム血症)やマグネシウム濃度の低下(低マグネシウム血症)が問題となります。

診察(検査)と診断

QT延長症候群(LQTS)の診断では、問診、心電図検査、遺伝子検査などを行います。

問診・家族歴

  • 症状
  • 既往歴
  • 家族の突然死の有無

上記の確認のほか、特に失神やめまい、動悸などの症状の有無や、それらが運動中や精神的ストレス時に生じたかどうかを確認することが診断の手がかりとなります。

家族歴については、若年での突然死や不整脈の既往があるかどうかを確認します。

心電図検査

心電図検査では、標準12誘導心電図を用いてQT間隔の測定を行います。

QT間隔は心拍数によって変動するため、補正QT間隔(QTc)を算出しての評価が一般的です。

その値によって正常、境界域、QT延長の可能性ありと判断されます。

QTc値評価
450ms未満正常
450-470ms境界域
470ms以上QT延長の可能性あり

ただし、QTc値だけでなく、T波の形態異常や、U波の存在なども診断の参考にします。

また、24時間ホルター心電図検査は日内変動や不整脈の有無を確認できるメリットがあります。

運動負荷心電図検査

運動負荷心電図検査は、運動中や運動直後のQT間隔の変化を観察し、潜在的なQT延長を検出できる方法です。

特に運動後回復期にQT間隔が適切に短縮しない場合、QT延長症候群を疑う根拠となります。

遺伝子検査

QT延長症候群は基本的に遺伝性疾患であるため、遺伝子検査が確定診断に有用です。

現在15種類以上の原因遺伝子が同定されているため、主要な遺伝子の変異を調べることで診断の確実性が高まることが分かっています。

遺伝子検査が考慮されるケース

  • 臨床症状や心電図所見からQT延長症候群が強く疑われる場合
  • 家族歴が濃厚な場合
  • 若年者の原因不明の失神や心停止の場合

QT延長症候群(LQTS)の治療法と処方薬、治療期間

QT延長症候群(LQTS)の治療は、生活習慣の改善、薬物療法、そして場合によっては外科的処置を組み合わせて行われます。

治療の目的は、不整脈の発生を防ぎ、突然死のリスク軽減です。

薬物療法

薬物療法で主に使用される薬剤はβ遮断薬です。β遮断薬は心臓の興奮を抑え、不整脈の発生を防ぐ効果があります。

多くのケース症状の改善が見られ、突然死のリスクも低下させることができます。

QT延長症候群の治療に用いられる主なβ遮断薬と特徴

薬剤名主な特徴
プロプラノロール非選択性β遮断薬、脂溶性が高い
アテノロール心臓選択性β遮断薬、水溶性
ナドロール非選択性β遮断薬、長時間作用型

β遮断薬の服用は、長期間の継続が必要です。突然の服薬中止は危険なので、必ず医師の指示のもとで行う必要があります。

外科的治療

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、心停止の既往がある高リスクの患者さんには、外科的治療が選択される場合があります。

主な外科的治療には、植込み型除細動器(ICD)の使用と左心臓交感神経除神経術があります。

ICDは、危険な不整脈を検知すると電気ショックを与えて正常な心拍を回復させる装置です。

外科的治療の種類と特徴

治療法特徴
植込み型除細動器(ICD)危険な不整脈を検知し電気ショックを与える
左心臓交感神経除神経術心臓への交感神経刺激を減少させる

外科的治療を受けた後も、薬物療法や生活習慣の改善は継続して行う必要があります。

治療期間

QT延長症候群は遺伝性疾患であるため、完治することはなく、治療は生涯にわたって継続されます。

定期的な医療機関への通院と処方された薬剤の服用継続が必要で、症状や生活環境の変化に応じて、治療内容を適宜調整します。

予後と再発可能性および予防

QT延長症候群(LQTS)は管理により良好な予後が期待できますが、日常生活での予防策が重要です。

LQTSの予後

LQTSの予後は早期診断と治療介入により大きく改善し、多くの患者さんが通常の生活を送ることができるようになりました。

ただし、個々の症例により予後が異なるため、定期的な心電図検査や遺伝子検査によるリスク評価が推奨されます。

リスク因子影響度
遺伝子変異
QT間隔
失神の既往
年齢

このような因子を考慮し、個別化されたリスク管理を行っていきます。

特に心臓突然死のリスクが高い患者さんには、より慎重な経過観察が必要です。

日常生活での予防策

  • QT間隔を延長させる薬物の回避
  • 適度な運動と十分な休息
  • ストレス管理
  • 電解質バランスの維持
  • 定期的な医療機関の受診

QT延長症候群(LQTS)の治療における副作用やリスク

QT延長症候群(LQTS)の治療ではβ遮断薬や植込み型除細動器などの介入が行われますが、めまい、疲労感、血圧低下、不整脈の悪化、デバイス感染などの副作用やリスクが生じる可能性があります。

薬物療法の副作用

QT延長症候群の治療で主に用いられるβ遮断薬には、様々な副作用が報告されています。

一般的な副作用として、疲労感や息切れ、めまいなどが挙げられ、特に高齢者や他の基礎疾患を持つ方では注意が必要です。

副作用発現頻度
疲労感高い
息切れ中程度
めまい低い

稀ではありますが、重篤な副作用として低血糖や気管支痙攣が起こることもあります。

植込み型除細動器(ICD)のリスク

重症のQT延長症候群患者さんに対しては、植込み型除細動器(ICD)の使用が検討されます。

ICDは致死的な不整脈を検知し、電気ショックを与えて正常な心拍リズムに戻す装置ですが、その植込みには手術に伴うリスクがあります。

  • 感染
  • 出血
  • pneumothorax(気胸)などの合併症

また、ICDが誤作動を起こし、不必要な電気ショックを与えてしまうことがあります。

ICDのバッテリー交換や機器の不具合に対応するため、定期的な手術が必要となる点も留意すべきです。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

QT延長症候群(LQTS)の治療費は、薬物療法、植込み型除細動器の手術、定期的な検査などがかかります。

具体的な金額は、個々の症状や治療法によって大きく異なります。

薬物療法にかかる費用

薬物療法ではβ遮断薬が主に使用され、月額5,000円から15,000円程度の費用が目安です。

重症度によっては他の薬剤との併用が必要となり、月額の薬剤費が20,000円を超える場合もあります。

また、長期的な服薬が必要となるため、継続的な費用が必要です。

植込み型除細動器(ICD)の費用

重症例や薬物療法で十分な効果が得られない患者さんで検討されるICDの費用は、薬物療法と比較すると高額です。

項目費用
ICD本体200万円~300万円
手術費50万円~100万円
入院費(約1週間)10万円~20万円

ICDの電池寿命は通常5年から7年程度であり、電池交換の際には再度手術が必要です。

電池交換手術の費用は、通常50万円から100万円程度が目安となります。

定期的な検査費用

  • 心電図検査:3,000円~5,000円(1回あたり)
  • 血液検査:5,000円~10,000円(1回あたり)
  • 24時間ホルター心電図:15,000円~25,000円(必要に応じて)
  • 運動負荷心電図:10,000円~20,000円(年1回程度)
  • 専門医の診察料:5,000円~10,000円(1回あたり)

以上

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