17,20-リアーゼ欠損症 – 婦人科

17,20-リアーゼ欠損症(17,20-lyase deficiency)とは、先天性の酵素欠損によって引き起こされるホルモン合成障害で、副腎や卵巣でのステロイドホルモンの生成過程に問題が生じます。

この疾患の原因は遺伝子の変異で、主に思春期以降に症状が現れます。

女性では月経不順や不妊、男性では男性化の遅れなどが見られ、両性において高血圧や電解質異常などの症状も現れます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

17,20-リアーゼ欠損症の主な症状

17,20-リアーゼ欠損症の主な症状は、性腺機能低下、二次性徴の遅れ、不妊、電解質異常などです。

性腺機能低下と二次性徴の遅れ

17,20-リアーゼ欠損症では性ホルモンの産生に障害が生じるため、性腺機能の低下が見られます。

女性では乳房の発達が不十分であったり、月経の開始が遅れたりします。

男性に現れる症状は、陰毛や体毛の発育不良、声変わりの遅れ、筋肉量の増加不足などです。

性別二次性徴の遅れの例
女性乳房発達不十分
月経開始の遅れ
男性陰毛・体毛の発育不良
声変わりの遅れ

不妊と生殖機能への影響

17,20-リアーゼ欠損症は生殖機能にも大きな影響を与え、女性では排卵障害や子宮内膜の発育不全が生じます。

男性の場合精子形成が正常に行われないため、不妊の原因となり、性欲の低下や性機能障害も報告されています。

電解質異常と副腎機能

17,20-リアーゼ欠損症では副腎皮質ホルモンの産生バランスが崩れることで電解質異常が起こり、低ナトリウム血症や高カリウム血症が見られることが多いです。

電解質異常は、倦怠感や筋力低下、不整脈などの症状を引き起こし、重度の場合、副腎不全のリスクも高まります。

電解質異常関連する症状
低ナトリウム血症倦怠感
筋力低下
高カリウム血症不整脈
筋力低下

その他の身体的特徴

17,20-リアーゼ欠損症では、いくつかの特徴的な身体的変化が現れます。

  • 高身長
  • 手足の長さの不均衡
  • 骨年齢の遅れ
  • 皮膚の色素沈着

これらの症状はホルモンバランスの乱れに起因し、個々の患者さんによって症状の現れ方や程度は異なります。

身体的特徴関連するホルモン
高身長性ホルモン
骨年齢の遅れ副腎皮質ホルモン
色素沈着ACTH

17,20-リアーゼ欠損症の原因

17,20-リアーゼ欠損症の主な原因は遺伝子の変異にあり、酵素活性の低下や欠損により、ステロイドホルモンの生合成に障害が生じます。

遺伝子変異と酵素機能の関係

17,20-リアーゼ欠損症の根本的な原因は、CYP17A1遺伝子の変異です。

CYP17A1遺伝子は、17α-ヒドロキシラーゼ/17,20-リアーゼ酵素の生成に重要な役割を果たしています。

遺伝子変異により酵素の構造や機能に異常が生じると、17,20-リアーゼ活性が著しく低下または完全に失われるのです。

ステロイドホルモン生合成への影響

17,20-リアーゼ酵素はアンドロゲンやエストロゲンの前駆体となる重要な中間代謝物の生成に関与しており、酵素活性の低下によりホルモンの産生が妨げられ、ホルモンバランスの乱れが生じます。

17,20-リアーゼ欠損症が影響を与えるステロイドホルモン

影響を受けるホルモン正常時の主な機能
テストステロン男性化作用
エストラジオール女性化作用
コルチゾールストレス応答
アルドステロン電解質バランス

遺伝形式と発症メカニズム

17,20-リアーゼ欠損症は常染色体劣性遺伝です。

両親が保因者である場合子どもが疾患を発症する確率は25%で、この遺伝形式により、疾患の発症パターンや家族内での遺伝的リスクが説明できます。

酵素活性の個人差

17,20-リアーゼ欠損症の臨床像は、残存する酵素活性の程度によって大きく異なります。

完全欠損の場合症状がより顕著に現れる傾向がありますが、部分的な欠損では症状が軽度から中程度です。

個人差は遺伝子変異の種類や位置、さらには他の遺伝子との相互作用によって生じます。

酵素活性の程度と臨床像の関連

酵素活性レベル臨床像の特徴
完全欠損重度の症状、早期発見の可能性大
部分欠損軽度から中等度の症状
軽度低下微細な症状、診断が困難な場合も

診察(検査)と診断

17,20-リアーゼ欠損症の診断は、臨床症状の観察、血液検査、画像診断、遺伝子検査など、複数の段階を経て行われます。

臨床症状の観察

17,20-リアーゼ欠損症の診断でまず行われるのは、問診と身体診察です。

患者さんの成長歴、二次性徴の発現状況、家族歴などを聴取し、身体診察では、身長、体重、性的発達の程度、皮膚の色素沈着などを注意深く観察します。

観察項目確認内容
成長歴身長の推移
体重の変化
二次性徴発現時期
進行状況

血液検査による内分泌機能評価

17,20-リアーゼ欠損症の診断では血液検査が必要で、主に性ホルモンと副腎皮質ホルモンの測定が行われます。

測定するのは、テストステロン、エストラジオール、コルチゾール、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)などです。

特に、17-ヒドロキシプロゲステロンとアンドロステンジオンの比率が診断の鍵となります。

画像診断

画像診断は、17,20-リアーゼ欠損症の診断を補完する重要な検査です。

超音波検査やMRI(磁気共鳴画像法)を用いて、性腺や副腎の形態を評価します。

  • 女性患者さん 卵巣の大きさや形状、卵胞の発育状況を確認。
  • 男性患者さん 精巣の大きさや構造を詳細に観察。

画像所見はホルモン検査の結果と合わせて総合的に判断されます。

画像検査観察対象
超音波卵巣・精巣
MRI副腎

遺伝子検査

17,20-リアーゼ欠損症の確定診断ではCYP17A1遺伝子の変異を特定することで、診断の確実性が高まります。

鑑別診断

17,20-リアーゼ欠損症の診断では、類似した症状を示す他の内分泌疾患との鑑別が重要です。

鑑別が必要な疾患

  • 先天性副腎皮質過形成症
  • アンドロゲン不応症
  • 5α-還元酵素欠損症
  • ターナー症候群

これらの疾患との鑑別には、詳細なホルモン検査と遺伝子解析が行われます。

鑑別疾患主な特徴
先天性副腎皮質過形成症コルチゾール低下
アンドロゲン不応症テストステロン高値

17,20-リアーゼ欠損症の治療法と処方薬、治療期間

17,20-リアーゼ欠損症の治療は、ホルモン補充療法を中心とした長期的な管理が必要です。

ホルモン補充療法の基本方針

17,20-リアーゼ欠損症の治療では、ホルモン補充療法が中心です。

欠乏しているステロイドホルモンを外部から補充することで、体内のホルモンバランスを正常に近づけることを目指します。

グルココルチコイドの補充

多くの17,20-リアーゼ欠損症患者さんで、コルチゾールの産生が不十分なため、グルココルチコイドの補充が必要です。

通常1日2〜3回に分けて経口投与され、投与量は患者さんの状態に応じて調整され、ストレス時には増量します。

グルココルチコイド補充の例

薬剤名一般的な投与量投与回数
ヒドロコルチゾン10-20 mg/日2-3回/日
プレドニゾロン3-5 mg/日1-2回/日

性ホルモンの補充と調整

思春期以降の患者さんでは性ホルモンの補充が重要です。

男性にはテストステロン、女性にはエストロゲンとプロゲステロンの補充が行われ、二次性徴の促進や骨密度の維持、心血管系の健康維持を目指します。。

ミネラルコルチコイドの補充

一部の患者さんではアルドステロンの産生不全により、ミネラルコルチコイドの補充が必要です。

フルドロコルチゾンを用いることで、電解質バランスを維持します。

治療期間と生涯管理

17,20-リアーゼ欠損症の治療は生涯にわたって継続されます。

ホルモン補充療法は体内のホルモンバランスを維持するために長期的に行われますが、治療内容は患者さんの年齢や生活状況の変化に応じて調整されることがあります。

ライフステージごとの治療の焦点

ライフステージ治療の焦点
小児期成長と発達の促進
思春期二次性徴の誘導
成人期全身的な健康維持
高齢期合併症予防と生活の質の維持

予後と再発可能性

17,20-リアーゼ欠損症は医療介入と継続的な管理により、多くの患者さんが良好な予後を得られる疾患です。

予後の一般的な見通し

17,20-リアーゼ欠損症の予後は早期診断と治療により比較的良好であり、多くの患者さんはホルモン補充療法を受けることで正常に近い生活を送れます。

予後に影響する要因影響の内容
診断時期早期診断ほど良好
遺伝子変異の種類変異の程度により異なる

再発と合併症のリスク

17,20-リアーゼ欠損症そのものの「再発」という概念はありませんが、症状の悪化や合併症に注意が必要です。

注意すべき合併症

  • 骨粗鬆症
  • 心血管系疾患
  • 不妊

合併症のリスクは定期的な健康チェックと管理により最小限に抑えられます。

合併症予防・管理方法
骨粗鬆症定期的な骨密度検査
心血管系疾患生活習慣の改善

17,20-リアーゼ欠損症の治療における副作用やリスク

17,20-リアーゼ欠損症の治療には長期的なホルモン補充療法が必要ですが、主な懸念事項として、ステロイドホルモンの過剰投与、骨密度低下、心血管系への影響、生殖機能への影響などがあります。

ステロイドホルモン過剰投与のリスク

ステロイドホルモンの補充療法のリスクは、過剰投与によるものです。

過剰なステロイドホルモンはクッシング症候群様の症状を引き起こし、体重増加、満月様顔貌、高血圧、皮膚の菲薄化などが含まれます。

ステロイド過剰投与の主な症状

症状説明
体重増加特に体幹部の脂肪蓄積
満月様顔貌顔の丸みが増す
高血圧血圧上昇
皮膚の菲薄化皮膚が薄くなり傷つきやすくなる

骨密度低下のリスク

長期的なステロイドホルモン補充療法では、ステロイドが骨形成を抑制し骨吸収を促進するため、骨密度低下のリスクを高めます。

骨密度低下は骨粗鬆症や骨折のリスクを増大させるため、定期的な骨密度測定と予防策が必要です。

骨密度低下のリスク要因と予防策

リスク要因予防策
長期ステロイド使用カルシウム・ビタミンD摂取
運動不足適度な重力負荷運動
喫煙禁煙指導
低体重適正体重の維持

心血管系への影響

17,20-リアーゼ欠損症の治療に伴う長期的なステロイド使用は高血圧や脂質代謝異常を引き起こし、心疾患や脳卒中のリスクを高めます。

心血管系リスクを最小限に抑えるための注意点

  • 定期的な血圧測定
  • 脂質プロファイルのモニタリング
  • 適度な運動の推奨
  • 健康的な食事の指導

生殖機能への影響

17,20-リアーゼ欠損症の治療は、生殖機能にも影響を与えることがあります。

ホルモンバランスの調整が難しく不妊や性機能障害のリスクがあり、特に、女性患者さんでは月経不順や排卵障害が生じるので注意が必要です。

生殖機能への影響と対策

影響対策
不妊生殖医療専門家との連携
月経不順ホルモン療法の調整
性機能障害心理的サポートの提供
排卵障害排卵誘発剤の検討

電解質バランスの乱れ

ミネラルコルチコイドの補充療法は電解質バランスの乱れを引き起こし、高カリウム血症や低ナトリウム血症のリスクに注意が必要です。

電解質異常は心臓のリズム異常や筋力低下などの症状を起こすため、定期的な電解質モニタリングが不可欠です。

副腎不全のリスク

ステロイドホルモン補充療法を受けている患者さんは副腎不全のリスクがあり、特に、ストレス時や急性疾患罹患時にステロイドの増量が必要です。

免疫機能への影響

長期的なステロイド使用は免疫機能に影響を与えることがあり、感染症のリスクが高まります。

通常は問題とならない日和見感染のリスクが増加する可能性があるため、感染予防策と早期発見・早期治療が大切です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ホルモン補充療法の費用

ホルモン補充療法は、17,20-リアーゼ欠損症の主要な治療法です。

テストステロン製剤の場合、月額8,000円から20,000円程度の費用がかかります。

エストロゲン製剤は、月額3,000円から10,000円程度です。

定期検査の費用

定期的な血液検査や画像診断が必要となります。

血液検査の費用は1回あたり5,000円から15,000円程度です。

MRI検査などの画像診断は、1回あたり30,000円から70,000円程度かかります。

検査項目費用範囲
血液検査5,000円 – 15,000円
MRI検査30,000円 – 70,000円

医療費助成制度

17,20-リアーゼ欠損症は指定難病に認定されているため、医療費助成制度を利用できます。

長期的な医療費の見通し

年間の医療費は個人差がありますが、長期的な治療が必要となるため、おおよそ50万円から150万円程度です。

治療期間概算医療費
1年間50万円 – 150万円
5年間250万円 – 750万円

以上

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