3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症 – 婦人科

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症(3β-hydroxysteroid dehydrogenase deficiency)とは、ステロイドホルモンの生成に重要な酵素が不足している状態で、体内のホルモンバランスに影響を与える遺伝性の疾患です。

この酵素の欠損により、副腎や性腺でのホルモン産生に影響が出ます。

主に先天的に発症し、新生児期から症状が現れ、女性では男性化徴候や月経不順といった症状が見られます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の主な症状

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の主な症状は、性別や発症時期によって異なり、症状の程度も個人差が大きく、軽度から重度までさまざまです。

新生児期の症状

新生児期に見られる主な症状は、外性器の異常や電解質バランスの乱れです。

女児の場合外性器が曖昧になって性別の判断が難しくなり、男児では、外性器の形成不全や尿道下裂といった症状が現れることがあります。

また、電解質バランスの乱れにより、重度の場合は塩喪失クリーゼを引き起こします。

症状説明
外性器の異常女児の外性器曖昧化、男児の外性器形成不全
電解質バランスの乱れ塩喪失クリーゼのリスク増加

小児期の症状

小児期になると成長遅延や低身長といった症状が見られ、これは副腎皮質ホルモンの不足が原因です。

また、女児では早期の陰毛の発育や声の低音化といった男性化徴候が現れ、男児では、思春期の開始が遅れます。

性別小児期の主な症状
女児成長遅延、低身長、早期の男性化徴候
男児成長遅延、低身長、思春期開始の遅れ

思春期・成人期の症状

思春期以降は、性腺機能に関連する症状が顕著です。

女性では月経不順や無月経、不妊、また、多毛症や男性型脱毛症といった男性化徴候が進行することもあります。

男性の場合精巣の発育不全や精子形成の障害により、不妊の原因になります。

性別主な症状
女性月経不順、無月経、不妊、多毛症
男性精巣発育不全、精子形成障害、不妊

その他の症状

3β-HSD欠損症では、副腎皮質機能の低下に伴う症状が現れることがあります。

  • 易疲労感
  • 食欲不振
  • 体重減少
  • 低血圧
  • 皮膚の色素沈着

症状の個人差と経過

3β-HSD欠損症の症状は酵素活性の残存量や遺伝子変異の種類によって影響を受け、軽度から重度まで幅広い範囲で現れます。

症状の程度特徴
軽度成人期まで無症状の場合も
中等度思春期以降に症状が顕在化
重度新生児期から症状が出現

3β-HSD欠損症の症状は年齢とともに変化するため、定期的な医療機関の受診と、症状の変化に対する注意深い観察が大切です。

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の原因

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の主な原因は、ステロイド合成に関わる重要な酵素である3β-HSDの機能不全です。

遺伝子変異、酵素活性の低下、ステロイドホルモンの合成障害など、複数の要因が絡み合って発症します。

遺伝子変異と3β-HSD欠損症

HSD3B2遺伝子に変異が生じると正常な3β-HSD酵素が作られず、ステロイドホルモンの合成に支障をきたします。

遺伝形式は常染色体劣性遺伝であり、発症するのは両親から変異遺伝子を受け継いだ場合です。

遺伝子染色体位置機能
HSD3B21p123β-HSD酵素の産生
CYP21A26p21.321-水酸化酵素の産生

酵素活性の低下とその影響

3β-HSD酵素はステロイド合成経路において複数の段階で関与し、酵素活性が低下すると変換過程の障害により、下流のステロイドホルモン(コルチゾール、アルドステロン、性ステロイド)の産生が影響を受けます。

ステロイドホルモン合成の障害

3β-HSD欠損症ではステロイドホルモン合成の複数の段階で障害が生じ、コルチゾールの産生低下は、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の過剰分泌を引き起こし、副腎の過形成につながります。

アルドステロンの産生不全は塩喪失を引き起こし、電解質バランスの乱れを生じさせる原因です。

ステロイドホルモン合成障害の影響

  • コルチゾール産生低下
  • アルドステロン産生不全
  • 性ステロイド合成異常
  • DHEA等の前駆体の蓄積

診察(検査)と診断

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の診断は、臨床症状の観察、血液検査、画像診断、遺伝子検査などを組み合わせて行います。

臨床診断では主に症状と血液検査結果を評価し、確定診断には遺伝子検査が不可欠です。

臨床症状の観察

臨床診断の第一歩は、患者さんの症状を注意深く観察することです。

外性器の状態や二次性徴の発現状況など身体的特徴を確認し、成長曲線や骨年齢の評価も行い、発達の遅れがないかを調べます。

観察項目確認内容
外性器形態異常の有無
二次性徴発現状況と程度
成長曲線身長・体重の推移
骨年齢X線による評価

血液検査

3β-HSD欠損症の診断では血液検査が必要です。

測定される項目

  • ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)
  • コルチゾール
  • アルドステロン
  • テストステロン
  • 17-OHプロゲステロン
  • DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)

特に、DHEA/アンドロステンジオン比の上昇が診断の手がかりです。

検査項目3β-HSD欠損症での特徴
ACTH上昇
コルチゾール低下
アルドステロン低下
テストステロン低下または正常

負荷試験

診断の確実性を高めるためACTHを投与した後のホルモン反応を測定します。

3β-HSD欠損症では、ACTH刺激後のコルチゾールやアルドステロンの反応が乏しく、DHEAの過剰な上昇が見られます。

時間コルチゾールDHEA
基準値正常範囲内正常範囲内
ACTH投与後上昇乏しい過剰上昇

画像診断

超音波検査やMRIなどの画像診断も補助的に用いられ、副腎や性腺の形態を評価し、他の内分泌疾患との鑑別を行います。

検査方法評価対象
超音波検査副腎・性腺の大きさ、形態
MRI詳細な内部構造、周囲組織との関係

遺伝子検査

3β-HSD欠損症の確定診断には、遺伝子検査が不可欠です。

HSD3B2遺伝子の変異を直接確認することで診断の確実性が高まります。

検査方法特徴
PCR法特定の遺伝子変異を検出
シークエンス解析遺伝子全体の配列を確認

鑑別診断

3β-HSD欠損症の診断では、類似した症状を示す他の疾患との鑑別も重要になってきます。

主な鑑別疾患

  • 21-水酸化酵素欠損症
  • 11β-水酸化酵素欠損症
  • アンドロゲン不応症

確定診断には、それぞれの疾患に特異的な遺伝子検査が必要です。

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の治療法と処方薬、治療期間

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の治療は主にホルモン補充療法を中心に行われ、不足しているステロイドホルモンを補充し、過剰に産生される前駆体ステロイドを抑制することが治療の基本です。

ホルモン補充療法の基本

ホルモン補充療法は、欠乏しているステロイドホルモンを外部から補充することで、体内のホルモンバランスを正常に近づけることを目指します。

主に補充されるホルモンは、グルココルチコイド(副腎皮質ホルモン)とミネラルコルチコイドです。

ホルモン代表的な薬剤主な効果
グルココルチコイドヒドロコルチゾンストレス対応、代謝調節
ミネラルコルチコイドフルドロコルチゾン電解質バランス維持

グルココルチコイド補充療法

グルココルチコイド補充療法では通常、ヒドロコルチゾンが第一選択薬として用いられ、投与量は患者さんの年齢、体格、症状の重症度に応じて細かく調整されます。

年齢標準的な投与量投与回数
成人15-25mg/日2-3回
小児10-15mg/m²/日3回

ミネラルコルチコイド補充療法

塩喪失型の3β-HSD欠損症患者さんには、ミネラルコルチコイド補充が行われます。

使用されるのはフルドロコルチゾンで、通常0.05-0.2mgを1日1回経口投与し、電解質バランスの維持と血圧の安定化が目的です。

ミネラルコルチコイド補充の効果

  • 電解質バランスの正常化
  • 血圧の安定化
  • 体液量の維持
  • 腎臓でのナトリウム再吸収促進

治療のモニタリングと長期管理

3β-HSD欠損症の治療は生涯にわたって継続される必要があり、定期的な血液検査により、電解質バランス、副腎ホルモン濃度、ACTH濃度などをモニタリングし、薬剤の用量調整を行います。

検査項目頻度目的
電解質1-3ヶ月ごと塩分バランスの評価
ACTH3-6ヶ月ごと副腎機能の評価
17-OHプロゲステロン3-6ヶ月ごとホルモン合成の評価

ストレス時の対応

3β-HSD欠損症患者さんはストレス時に通常のホルモン補充量では不十分となる場合があり、感染症、外傷、手術などのストレス状況下では、グルココルチコイドの増量が必要です。

ストレスの程度に応じて2-3倍量のヒドロコルチゾンを投与します。

予後と再発可能性

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の予後は、早期診断と管理により大幅に改善し、再発の可能性は低いものの、ホルモン補充療法の継続が必要です。

予後の概要

3β-HSD欠損症は早期に診断され管理が行われた場合、多くの患者さんは良好な予後を期待できますが、診断が遅れたり管理が不十分だったりすると、合併症のリスクが高まります。

長期的な予後を左右する要因

  • 診断時の年齢
  • 症状の重症度
  • ホルモン補充療法の遵守
  • 定期的な経過観察の実施
  • 合併症の有無とその管理
予後要因影響
早期診断良好な予後
適切な管理合併症リスク低下
遅延診断合併症リスク増加

長期的な経過観察

3β-HSD欠損症の患者さんには生涯にわたる経過観察が欠かせず、定期的な診察や検査により、ホルモンバランスの維持や合併症の早期発見・対応が可能です。

経過観察の頻度

年齢推奨される受診頻度
乳幼児期1-3ヶ月ごと
小児期3-6ヶ月ごと
思春期3-4ヶ月ごと
成人期6-12ヶ月ごと

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の治療における副作用やリスク

3β-水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-HSD)欠損症の治療には長期的なホルモン補充療法が用いられ、さまざまな副作用やリスクが伴います。

主な副作用は、クッシング症候群様症状、骨粗鬆症、成長抑制、免疫抑制などです。

グルココルチコイド補充療法の副作用

グルココルチコイドの長期投与で特に問題となるのは、クッシング症候群様症状です。

体重増加、満月様顔貌、中心性肥満、皮膚線条、痤瘡、多毛などが含まれます。

副作用特徴
体重増加特に体幹部の脂肪蓄積
満月様顔貌顔の丸みが増す
皮膚線条皮膚に紫色の線が出現

また、骨粗鬆症のリスクも高まり、小児患者さんでは成長抑制が問題になるため、定期的な身長・体重測定と成長曲線の評価が大切です。

ミネラルコルチコイド補充療法のリスク

ミネラルコルチコイドの過剰投与は高血圧や浮腫を引き起こし、逆に不足すると低血圧や脱水を引き起こします。

リスク症状
高血圧頭痛、めまい
低血圧立ちくらみ、倦怠感

免疫機能への影響

ステロイドホルモンの長期投与は免疫機能に影響を与え、感染症のリスクが高まりす。

免疫抑制の影響

  • ウイルス感染の増加
  • 細菌感染の増加
  • 真菌感染の増加
  • ワクチン効果の減弱

急性副腎不全のリスク

3β-HSD欠損症患者さんは、ストレス時に急性副腎不全を起こすリスクがあります。

通常の補充量では不十分な状況下で発生し、生命を脅かす可能性のある重大な合併症です。

感染症、外傷、手術などのストレス状況下では、グルココルチコイドの増量が必要になります。

ストレス状況必要な対応
軽度の感染症通常量の2倍
手術通常量の3-10倍
重症感染症入院管理下での静脈内投与

長期的な代謝への影響

長期的なステロイドホルモン補充療法は代謝に影響を与え、インスリン抵抗性の増大や脂質代謝異常のリスクが高まり、糖尿病や心血管疾患のリスクを増加させます。

長期的リスクモニタリング項目
糖尿病空腹時血糖、HbA1c
心血管疾患血圧、脂質プロファイル
骨粗鬆症骨密度検査

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

診断時の検査費用

診断時には血液検査やホルモン検査などが必要で、検査費用はおおよそ15,000円から40,000円です。

遺伝子検査を行う場合は、さらに80,000円から150,000円程度かかります。

ホルモン補充療法の費用

ホルモン補充療法は主な治療法の一つで、月額8,000円から20,000円程度の費用がかかります。

薬剤名月額費用(概算)
ヒドロコルチゾン5,000円~12,000円
フルドロコルチゾン3,000円~8,000円

定期的な検査費用

症状の経過観察のため、定期的な検査が必要です。

3ヶ月に1回検査をすると、年間で60,000円から90,000円程度の費用がかかります。

検査項目費用(1回あたり)
ホルモン検査10,000円~20,000円
電解質検査3,000円~5,000円

以上

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