卵管炎 – 婦人科

卵管炎(salpingitis)とは、子宮と卵巣をつなぐ卵管に炎症が起こる婦人科の病気で、主に細菌感染が原因となり下腹部の痛みや発熱などの症状が現れます。

放置すると不妊の原因になることもあるため、早期発見・早期治療が重要です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

卵管炎の主な症状

卵管炎の主な症状には下腹部痛、発熱、異常出血などがあり、重症度によって症状の現れ方が異なります。

下腹部痛

卵管炎の最も一般的な症状は下腹部痛です。

痛みは片側または両側に現れ鈍い痛みから激しい痛みまでさまざまで、痛みの程度は個人差があります。

下腹部痛は生理痛と似ていることもありますが、生理と関係なく起こる点が特徴的です。

痛みの特徴説明
場所下腹部(片側または両側)
種類鈍痛から激痛まで
タイミング生理と無関係
持続時間数時間から数日

発熱

卵管炎では多くの場合発熱を伴い、悪寒や倦怠感などの症状も現れます。

異常出血

不規則な出血やおりものの変化も卵管炎の重要な症状です。

生理でない時期に出血が起こったりおりものの量が増えたり色や臭いが変化することは、卵管や子宮に炎症が及んでいる可能性を示唆します。

異常出血が続く場合は、早めに婦人科を受診してください。

異常出血の特徴説明
タイミング生理以外の時期
通常より多いまたは少ない
通常と異なる
持続期間不規則

その他の症状

卵管炎には、上記以外にもいろいろな症状が伴います。

  • 性交痛
  • 吐き気や嘔吐
  • 排尿時の痛み
  • 腰痛
  • 疲労感

症状は単独であるいは組み合わさって現れ、症状の程度や組み合わせは個人によって異なります。

症状の進行と合併症

卵管炎の症状を放置し慢性化すると不妊や子宮外妊娠のリスクが高まり、まれに骨盤内膿瘍や腹膜炎などの重篤な合併症を引き起こします。

合併症リスク
不妊
子宮外妊娠
骨盤内膿瘍
腹膜炎
症状の持続期間推奨される行動
1週間以内経過観察
1-2週間婦人科受診検討
2週間以上速やかな受診
症状悪化時即時受診

卵管炎の原因

卵管炎の主な原因として細菌感染、性感染症、骨盤内の炎症性疾患などが挙げられます。

細菌感染による卵管炎

卵管炎の最も一般的な原因は細菌感染で、性行為や医療処置を通じて腟や子宮から卵管に侵入することで炎症が生じます。

注意が必要な細菌

  • クラミジア・トラコマティス
  • 淋菌
  • マイコプラズマ・ジェニタリウム
  • 大腸菌

性感染症と卵管炎の関連

性感染症は卵管炎の重要な原因の一つで、特にクラミジアと淋病は卵管に深刻なダメージを与えます。

性感染症卵管炎リスク
クラミジア高い
淋病非常に高い
トリコモナス中程度
マイコプラズマ中程度

性感染症は無症状のまま進行することがあるため、定期的な検査が推奨されます。

骨盤内炎症性疾患と卵管炎

骨盤内炎症性疾患(PID 殖器系の複数の部位に炎症を引き起こす疾患群)は卵管炎を引き起こす主要な要因の一つです。

PIDの原因卵管炎への影響
細菌感染直接的
免疫系の異常間接的
手術後の合併症中程度
子宮内避妊具軽度〜中程度

その他の卵管炎のリスク要因

細菌感染や性感染症以外にも、卵管炎のリスクを高める要因がいくつかあります。

リスク要因影響度
多数の性的パートナー高い
若年での性交渉開始中程度
喫煙中程度
免疫力低下高い

これらの要因は直接卵管炎を引き起こすわけではありませんが、感染のリスクを高めることで間接的に卵管炎の発症に関与します。

診察(検査)と診断

卵管炎の診断は問診から始まり、身体診察、各種検査を経て行われ、臨床症状と検査結果を総合的に評価し、確定診断に至ります。

問診と身体診察

卵管炎の診断プロセスは詳細な問診から始まり、患者さんの症状、持続期間、月経歴、性行為の有無などについて聞き取りを行います。

続いて身体診察が行われ、下腹部の圧痛や腫れの有無を確認し、内診では子宮や卵巣の状態、分泌物の性状などを調べます。

問診項目確認内容
症状痛みの部位、程度、持続時間
月経歴最終月経日、月経周期の規則性
性行為最近の性行為の有無、パートナーの状況
既往歴過去の婦人科疾患、性感染症の有無

血液検査と尿検査

血液検査と尿検査は炎症の程度や原因となる病原体を特定するために行われ、血液検査では白血球数や CRP 値を測定し、炎症の有無と程度を評価します。

尿検査では尿中の白血球や細菌の有無を調べ、尿路感染症との鑑別を行います。

検査結果は卵管炎の診断だけでなく、治療方針の決定にも重要です。

検査項目主な目的
白血球数炎症の有無と程度の評価
CRP 値炎症の程度の評価
尿中白血球尿路感染症との鑑別
尿培養原因菌の特定

画像診断

卵管炎の診断で用いられる画像検査は超音波検査、CTやMRIなどです。

  • 超音波検査 卵管の腫れや周囲の炎症、膿瘍の有無を確認。
  • 経腟超音波検査 卵管や卵巣の詳細な観察が可能。

重症例や合併症が疑われる場合には、CT や MRI などの精密検査が行われます。

画像診断法特徴
経腹超音波非侵襲的、全体像の把握
経腟超音波高解像度、卵管・卵巣の詳細観察
CT骨盤内全体の評価、膿瘍の検出
MRI軟部組織の詳細な評価

子宮頸管培養検査

子宮頸管培養検査は卵管炎の原因となる病原体を特定するために実施され、子宮頸管から採取した分泌物を培養し、クラミジアや淋菌などの性感染症の原因菌を検出します。

検査項目検出対象
クラミジア PCRクラミジア・トラコマティス
淋菌培養淋菌
嫌気性菌培養バクテロイデスなどの嫌気性菌
マイコプラズマ培養マイコプラズマ・ホミニス

腹腔鏡検査

腹腔鏡検査は卵管炎の確定診断や重症度の評価に用いられる最も確実な方法です。

侵襲性が高いため他の検査で診断が困難な場合や、合併症が疑われる際に実施されます。

腹腔鏡を用いて卵管や周囲の臓器を直接観察し、必要に応じて組織採取や膿瘍のドレナージを行う検査法です。

腹腔鏡検査は診断と治療を同時に行えるという利点がありますが、全身麻酔下で行われるため慎重に適応を判断する必要があります。

卵管炎の治療法と処方薬、治療期間

卵管炎の治療は抗生物質による薬物療法が主体で、感染の原因菌や症状の重症度によって異なりますが、通常2週間から4週間程度の抗生物質投与が必要です。

抗生物質による治療

卵管炎の治療において抗生物質の投与は最も効果的な治療法で、原因となる細菌を特定し抗生物質を選択することが重要です。

多くの場合複数の種類の細菌に対応する広域スペクトラムの抗生物質が初期治療として用いられます。

抗生物質の種類主な対象菌
セフトリアキソン淋菌、クラミジア
ドキシサイクリンクラミジア、マイコプラズマ
メトロニダゾール嫌気性菌
レボフロキサシン広範囲の細菌

治療期間と経過観察

卵管炎の治療期間は2週間から4週間程度でが、症状の改善具合や検査結果によってはさらに長期の治療が必要です。

治療開始後48時間以内に症状の改善が見られない場合は、入院治療を検討する必要があります。

治療期間主な対象
2週間軽症例
3〜4週間中等症例
4週間以上重症例

入院治療が必要な場合

重症の卵管炎や外来治療で改善が見られない場合は入院治療が選択されます。

入院治療で行われる処置

  • 静脈内抗生物質投与
  • 点滴による水分補給
  • 痛みのコントロール
  • 必要に応じた外科的処置

入院期間は通常3日から5日程度です。

治療後のフォローアップ

卵管炎の治療終了後1〜2週間後に再診を行い、症状の完全な消失を確認します。

フォローアップ項目目的
症状の再確認再発の早期発見
血液検査炎症マーカーの確認
画像検査卵管の状態評価
パートナーの検査再感染予防

また、治療後6か月程度は定期的な検診を受けることが推奨されます。

予後と再発可能性および予防

卵管炎の予後は早期発見と治療により良好ですが、再発のリスクがあるため継続的な管理が重要です。

卵管炎の予後

卵管炎の予後は良好で多くの患者さんは完全に回復しますが、重症化したり慢性化した場合は、予後に影響を与え不妊や子宮外妊娠のリスクが高まるため、注意が必要です。

予後に影響する要因影響の程度
早期発見・対応非常に良好
重症化やや不良
慢性化不良
合併症の有無様々

再発のリスクと管理

卵管炎は再発のリスクがあり再発のリスクは個人差が大きく、生活習慣や環境要因によっても変わります。

再発を防ぐための注意点

  • 性感染症の予防
  • 適切な衛生管理
  • ストレス管理
  • 免疫力の維持
  • 定期的な健康診断
再発リスク要因影響度
不適切な衛生管理
ストレス
免疫力低下
不規則な生活

予防法と生活習慣の改善

卵管炎の予防には日常生活での注意と定期的な健康管理が重要で、性感染症の予防が最も効果的です。

また、骨盤内の衛生状態を保つことも大切で、定期的な婦人科検診を受けることで早期発見・早期対応が可能となります。

予防法効果
安全な性行為
衛生管理
定期健康診断
ストレス軽減
バランスの良い食事

卵管炎の治療における副作用やリスク

卵管炎の治療には主に抗生物質が使用され、副作用としては消化器症状や皮膚反応が挙げられ、まれに重篤なアレルギー反応や二次感染のリスクもあります。

抗生物質による一般的な副作用

卵管炎治療で使用される抗生物質にはいくつかの一般的な副作用があります。

副作用は多くの場合一時的なものです。

副作用頻度
消化器症状高い
皮膚反応中程度
頭痛低い
疲労感中程度

消化器症状の中でも、特に下痢や腹痛は比較的よく見られる副作用です。

重大な副作用とリスク

まれではありますが、抗生物質治療には重大な副作用やリスクもあります。

副作用頻度
アナフィラキシー非常に低い
肝機能障害低い
腎機能障害低い
血液障害非常に低い

アナフィラキシーは生命に関わるるため、急速な症状の変化に注意が必要です。

長期的な合併症リスク

卵管炎の治療後も長期的な合併症リスクがあります。

長期的な合併症

  • 不妊
  • 慢性骨盤痛
  • 子宮外妊娠のリスク増加
  • 骨盤内癒着

薬剤耐性菌のリスク

抗生物質の使用には薬剤耐性菌の発生リスクも伴います。

リスク要因影響
不適切な抗生物質使用高い
長期間の抗生物質使用中程度
繰り返しの感染中程度
不完全な治療高い

薬剤耐性菌の問題は個人の健康だけでなく、公衆衛生上の課題でもあります。

妊娠中の治療リスク

妊娠中の卵管炎治療には特別な配慮が必要で、胎児への影響を最小限に抑えつつ母体の健康を守ることが重要です。

薬剤胎児への影響
ペニシリン系低リスク
セファロスポリン系低リスク
マクロライド系中程度リスク
テトラサイクリン系高リスク

妊娠中の薬物療法は、リスクとベネフィットを慎重に検討して行われます。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来での治療費

軽度の卵管炎では外来での薬物療法が主な治療法です。

抗生物質の処方や超音波検査などが行われ、1回の診療で5,000円から15,000円程度の費用がかかります。

治療期間は通常1〜2週間です。

項目費用(自己負担3割の場合)
薬剤費1,500円〜4,500円
超音波検査1,800円〜3,600円

検査費用

卵管炎の診断や経過観察のために行われる血液検査は1,000円から3,000円、尿検査は500円から1,500円程度です。

CT検査は1回あたり10,000円前後、MRI検査は15,000円から20,000円程度かかります。

検査項目費用(自己負担3割の場合)
血液検査1,000円〜3,000円
尿検査500円〜1,500円
CT検査9,000円〜12,000円
MRI検査15,000円〜20,000円

入院治療の費用

重度の卵管炎や合併症がある場合は入院治療が必要になります。

入院期間は通常3日から1週間程度で、1日あたりの入院費は10,000円から30,000円ほどです。

入院日数概算費用(自己負担3割の場合)
3日間30,000円〜90,000円
1週間70,000円〜210,000円

手術が必要な場合の費用

膿瘍形成などで手術が必要になった場合、腹腔鏡手術の費用が加わります。

腹腔鏡手術の費用は300,000円から500,000円程度です。

以上

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