更年期障害(menopause)とは、女性の体に起こる自然な変化の一つです。40代後半から50代にかけて、生殖機能が徐々に低下していく過程でさまざまな症状が現れます。
この時期には女性ホルモンの分泌が大きく変動し、急に体が熱くなる「ほてり」や寝つきが悪くなる「不眠」、気分の浮き沈みなどを経験します。
更年期障害の主な症状
更年期障害は女性の身体に変化をもたらし、身体のほてり、月経周期の乱れ、また、精神的な面にも少なからず影響を与えます。
体に現れる変化
更年期障害では、身体にいくつかの特徴的な変化が現れます。
多くの方が経験するのが急な体の熱さと汗の症状です。突然始まるので予測がつかず、日中の活動はもちろん、夜の睡眠の質にも影響します。
月経に関する変化も見られ、周期が乱れたり、出血量が変わったりすることがあるでしょう。また、デリケートゾーンの不快感を感じる方も。
このほか、頭痛やめまい、肩のこわばりといった、はっきりとした原因がわかりにくい体の不調を感じることもあります。
主な体の変化 | どのように感じるか |
体の熱さと汗 | 突然の体温上昇感、寝汗 |
月経の変化 | 周期の乱れ、量の変動 |
デリケートゾーンの不快感 | 乾燥感、痛み |
その他の体調不良 | 頭痛、めまい、肩こりなど |
心の変化
更年期障害は心の状態にも変化を与えます。
感情の起伏が激しくなったり、不安を感じやすくなったり、気分が落ち込みがちになったりし、このような気分の浮き沈みが周囲の人々との関係に影響を及ぼした経験がある方もいるでしょう。
また、物事に集中しづらくなったり、以前より物忘れが増えたりすることもあります。
眠りの質の低下も見逃せません。寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めやすくなったりすることで、更年期の身体の変化と重なり日中の疲れが取れにくくなったりも。
生活の場面 | 影響を受けやすい症状 |
職場 | 体の熱さ、集中力低下、感情の変化 |
家庭 | 眠りの質の低下、気分の落ち込み、疲労感 |
社交 | 感情の変化、自信の揺らぎ |
更年期障害の原因
更年期障害は、女性ホルモンの急激な変動が要因となって生じ、この変化は卵巣機能の低下に端を発し、身体的・精神的症状をもたらします。
女性ホルモンの役割と変化
女性ホルモンは女性の健康を保つ役割をしていますが、更年期に差し掛かると、ホルモンバランスが大きく崩れます。
ホルモン | 主な働き |
エストロゲン | 女性らしさの維持、骨の健康保持 |
プロゲステロン | 子宮内膜の調整、妊娠の維持 |
エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が減ると、体にいろいろな変調が現れます。
卵巣機能の低下
更年期障害の根本にあるのは、卵巣機能の低下です。年を重ねるにつれ卵巣内の卵子数が減り、ホルモンを作る力も衰えていきます。
卵巣機能の低下が起きる過程で見られる状態
- 卵胞刺激ホルモン(FSH)の上昇
- 黄体形成ホルモン(LH)の乱れ
- インヒビンBの減少
これらの変化が絡み合い、ホルモンバランスの乱れを引き起こすのです。
遺伝的要因と環境因子
更年期障害の始まる時期や症状の強さには個人差があり、遺伝的な背景が関係していると考えられ、また、環境要因も見逃せません。
要因 | 影響 |
遺伝的背景 | 更年期の始まる時期、症状の強さに関与 |
生活習慣 | ストレス、食事、運動が症状に影響 |
双子の姉妹で更年期症状の出現時期や程度がよく似ていたケースがありました。このことからも、遺伝的要因の影響が大きいことがうかがえます。
診察(検査)と診断
更年期障害の診断には、問診とホルモン値を測る検査が必要です。
患者さんとの対話から始まる診断
更年期障害を診断するうえで、患者さんとの対話は非常に大切です。
どのような症状がいつ頃からあるのか、どの程度不快に感じているのかなどを詳しくお聞きします。
また、日々の生活にどのような影響があるのか、過去に大きな病気をしたことがあるか、ご家族に似たような症状の方がいるかなども確認します。
診察では、更年期特有の症状だけでなく、似たような症状が起きる他の病気の可能性も考えながら進めていくことが大切です。
医師が確認すること | 具体的な内容 |
症状について | どんな症状が、いつから、どの程度 |
生活への影響 | 仕事や家庭生活、人間関係など |
病歴 | これまでかかった病気、手術の経験 |
家族の健康状態 | 親族の病歴 |
体の状態を確認する診察
問診のあとに、体の状態を確認する診察を行います。
一般的な診察に加えて婦人科特有の診察も行い、必要に応じて内診や超音波検査で子宮や卵巣の様子を調べることも。
また、首の辺りにある甲状腺も触診します。甲状腺の働きに問題があると、更年期によく似た症状が出ることがあるためです。
診察した方の中に、更年期の症状だと思って来院されたものの、実際には甲状腺機能の異常だったというケースがありました。
このように、体の診察は他の病気を見逃さないためにも欠かせません。
血液検査で体の中の変化を探る
更年期障害の診断には、血液検査も役立ちます。
調べるホルモン
- 卵胞刺激ホルモン(FSH)
- 黄体形成ホルモン(LH)
- エストラジオール(E2)
ホルモンの値の変化は、更年期障害を判断する手がかりになります。
検査するホルモン | 分かること |
FSH | 閉経に近づいているかどうか |
LH | 卵巣の働き具合 |
E2 | 女性ホルモンの量 |
また、甲状腺の働きを見る検査や、貧血がないかを調べる検査なども同時に行うことが多いです。
総合的に判断する診断
更年期障害の診断は、主に症状や経過から判断します。
典型的な症状があり、年齢や症状の現れ方が更年期障害に当てはまる場合、更年期障害と診断されます。
ただし、確定診断をするために以下のことも考慮することが必要です。
- 他の病気の可能性がないか
- 血液検査の結果はどうか
- 症状がどのように変化しているか
更年期障害の治療法と処方薬、治療期間
更年期障害への対処法はホルモン補充療法と非ホルモン療法があり、それぞれに使われる薬剤や治療期間があります。
ホルモン補充療法(HRT)
ホルモン補充療法は更年期障害の治療の第一選択肢です。ホルモン補充法では、減ったエストロゲンを補うことで、更年期障害に伴ういろいろな不調をやわらげます。
投与方法 | 特徴 |
飲み薬 | 毎日服用、効き目が安定 |
貼るタイプ | 皮膚から吸収、肝臓への負担が軽い |
塗るタイプ | 皮膚に塗布、量の調整がしやすい |
HRTは、症状が落ち着くまで続け、3〜5年ほどで終わることが多いです。
患者さんの要望によりその後も続けることもありますが、長期にわたるホルモン剤の使用は副作用やリスクもあるので注意が必要です。
ホルモンを使わない治療法
ホルモン療法が合わない方や望まない方には別の選択肢があり、非ホルモン療法は特定の症状に焦点を当てて行います。
- 漢方薬(例えば当帰芍薬散、加味逍遙散など)
- 抗うつ薬(SSRI、SNRIなど)
- 骨を強くする薬
- 睡眠薬
これらの薬は症状の強さや続く期間に合わせて処方し、定期的に様子を見ながら調整していきます。
日々の生活の見直しと補助的な療法
薬による治療と並行して、日常生活の見直しも大切です。食事や体を動かすこと、ストレスとの付き合い方などを工夫すると、症状の緩和の助けになります。
見直す項目 | 推奨される取り組み |
食事 | カルシウム、ビタミンDを多めに |
運動 | 有酸素運動、筋トレ |
また、鍼(はり)やヨガなどを試してみるのも良いかもしれません。
個人に合わせた治療と期間
更年期障害の治療はそれぞれの方の状況に合わせることがとても大切です。
症状の種類や程度、これまでの病歴、生活環境などを総合的に考え、最も適した方法を選びます。
診てきた患者さんの中に、50代前半の方で、ホルモン補充療法を2年ほど続けた後、少しずつ漢方薬に切り替えて症状をうまくコントロールできたケースがありました。
このように、治療法を段階的に変えていくのも効果的な場合があります。
治療法は一つではなく、いろいろなものを組み合わせて最善の方法を見つけることになります。
更年期障害の治療における副作用やリスク
更年期障害への対処に使われるホルモン剤は血栓や乳がんのリスクがあり、漢方薬にも注意すべき点があります。
ホルモン補充療法の注意点
女性ホルモンを補う方法は、更年期の不快な症状をやらげるのに効果的ですが、いくつか気をつけるべきことがあります。
特に気になるのは、乳がんになる危険性が高まることです。長く続けると、乳がんの可能性が若干増えます。
過去の乳がんを経験していたり、家族歴がある方は注意が必要です。
また、血液が固まりやすくなる心配もあります。特にたばこを吸う方や、太り気味の方は慎重に使用してください。
注意すべきこと | どんな人が気をつけるべきか |
乳がん | 長期間続ける人 |
血液が固まりやすくなる | たばこを吸う人、太り気味の人 |
漢方薬を使う際の注意点
漢方薬は比較的体への負担が少ないと言われていますが、全く心配がないわけではありません。
まれに肝臓の働きが悪くなったり、肺に炎症が起きたりすることがあり、長く飲み続けると体内の水分バランスが崩れることもあります。
注意すべきこと | 症状 |
肝臓への影響 | だるさ、食欲不振など |
肺への影響 | せき、息苦しさなど |
漢方薬は「自然のもの」と思われがちですが、やはり薬ですので注意が必要です。
抗うつ薬の注意点
更年期に伴う心の不調に対して抗うつ薬が使われることがあり、この薬にも気をつけるべき点があります。
抗うつ薬の副作用
- 眠気やだるさ
- 口の渇き
- 便秘症状
- 性的な関心が薄れること
これらの影響は人によって大きく違い、薬の種類や量によっても変わってきます。
生活習慣を見直す際の注意点
生活習慣を見直すことは体への負担が少ない方法ですが、やりすぎには気を付けましょう。
急に食事を極端に減らしたり激しい運動を始めたりすると、かえって体調を崩します。
気をつけること | なぜ注意が必要か |
急な食事制限 | 栄養が足りなくなる恐れ |
急な激しい運動 | 筋肉や関節を痛める可能性 |
生活習慣の見直しは、少しずつ進めていきましょう。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
保険適用の治療費用
健康保険を利用した治療では、自己負担額は比較的抑えられます。
治療内容 | 概算費用(3割負担の場合) |
血液検査 | 2,000円〜5,000円 |
超音波検査 | 3,000円〜6,000円 |
ホルモン補充療法(HRT)を選択した場合、薬剤費が追加されます。
自由診療の費用
保険適用外の治療を選択する場合、費用は高額です。
- 漢方薬治療 1回あたり5,000円〜10,000円
- サプリメント療法 月額10,000円〜30,000円
- 美容医療的アプローチ 1回あたり30,000円〜100,000円
薬剤費の詳細
薬剤の種類によって、費用は異なります。
薬剤の種類 | 月額費用(概算) |
ホルモン剤 | 3,000円〜8,000円 |
抗うつ薬 | 2,000円〜6,000円 |
以上
Greendale GA, Lee NP, Arriola ER. The menopause. The Lancet. 1999 Feb 13;353(9152):571-80.
Mckinlay SM. The normal menopause transition: an overview. Maturitas. 1996 Mar 1;23(2):137-45.
Hill K. The demography of menopause. Maturitas. 1996 Mar 1;23(2):113-27.
McKinlay SM, Brambilla DJ, Posner JG. The normal menopause transition. Maturitas. 1992 Jan 1;14(2):103-15.
Shuster LT, Rhodes DJ, Gostout BS, Grossardt BR, Rocca WA. Premature menopause or early menopause: long-term health consequences. Maturitas. 2010 Feb 1;65(2):161-6.
Matthews KA. Myths and realities of the menopause. Psychosomatic medicine. 1992 Jan 1;54(1):1-9.
Rogers AR. Why menopause?. Evolutionary Ecology. 1993 Jul;7:406-20.
Burger HG, Dudley EC, Robertson DM, Dennerstein L. Hormonal changes in the menopause transition. Recent progress in hormone research. 2002 Jan 1;57:257-76.
Roberts H, Hickey M. Managing the menopause: An update. Maturitas. 2016 Apr 1;86:53-8.
McKinlay S, Jefferys M, Thompson B. An investigation of the age at menopause. Journal of biosocial science. 1972 Apr;4(2):161-73.