慢性心不全 – 循環器の疾患

慢性心不全(Chronic cardiac failure)とは、心臓の機能が長期間低下し、体に必要な血液を十分に送り出せなくなった状態です。

高血圧、冠動脈疾患、心筋症などが主な原因で、心臓に負担をかけ続けることで徐々に進行します。

症状の程度は軽度から重度まで幅広く見られ、息切れ、疲労感、むくみなどが特徴です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

慢性心不全の主な症状

慢性心不全の主な症状には、息切れ、疲労感、むくみなどがあります。

息切れ・疲れやすさ

慢性心不全では、心臓のポンプ機能が低下し、体に十分な血液を送り出せなくなります。

そのため、わずかな動作で息切れを感じたり、以前より疲れやすくなったりします。

  • 階段を上ったり、散歩をしたりするのも疲れる
  • 日常的な家事や仕事もこなせなくなる

体が必要とする酸素を十分に供給できないため、このように少しの運動でも息切れや疲労感を覚えるようになります。

むくみ

心臓の働きが弱まると、血液やリンパ液の循環が滞り、体の各部位に水分がたまりやすくなります。

むくみの現れやすい部位特徴
足首や足夕方に向かってより目立つようになる
お腹食事の内容や量に影響される
顔(特に目の周り)起床時に気づきやすい

むくみは重力の影響を受けやすいため、立ち仕事が多い人は足首や足にむくみが出やすくなります。

一方、寝たきりに近い状態の人では、背中や腰にむくみが現れることもあります。

その他の症状

  • 夜間の咳や息苦しさ
  • 食欲の低下
  • 急激な体重増加
  • めまいや立ちくらみ
  • 不整脈の自覚

症状は人によって現れ方や程度が異なり、初期段階では軽微で見過ごしがちです。

日本の現状

慢性心不全と診断される患者さんの数は、年々増加の一途をたどっています。

2030年には約130万人に達すると予測されており、早期発見・早期管理が今後ますます重要になってきます。

日々の生活で違和感を覚えたり、体調の変化を感じたりしたら、迷わず医療機関を受診しましょう。

慢性心不全の原因

慢性心不全は、高血圧や冠動脈疾患、心臓弁膜症、不整脈など、心臓や血管に関わる病気が主な原因となって起こります。

慢性心不全の主な原因

原因心臓への影響
高血圧心臓の筋肉が厚く、硬くなる
冠動脈疾患心筋への酸素・栄養供給が不足
心臓弁膜症血液の流れが乱れ、負担が増加
不整脈血液を効率よく送り出せない

慢性心不全の主な原因の一つが高血圧です。血圧が高い状態が長く続くと、心臓に余分な負担がかかり、十分に血液を送り出せなくなります。

次に多い原因は冠動脈疾患です。冠動脈は心臓の筋肉に酸素や栄養を届ける重要な血管ですが、この血管が狭くなったり詰まったりすると心臓の筋肉が十分な酸素や栄養を得られず、徐々に機能が低下していきます。

また、心臓弁膜症や不整脈も慢性心不全を引き起こす原因となります。

その他の原因

  • 糖尿病
  • 甲状腺機能異常
  • 肺の病気
  • 喫煙
  • 過度の飲酒
  • 運動不足
  • 塩分の取りすぎ
  • 肥満
  • 遺伝的な要因
  • 先天性の心臓の異常

また、高齢になるほど、心臓の機能が低下しやすくなります。日本の統計によると、65歳以上の高齢者の約1%が心不全を抱えているとされています。

診察(検査)と診断

慢性心不全の診察では、問診、聴診、胸部X線検査、心電図検査、心エコー検査、血液検査などの検査を行って診断を行います。

診察の流れ

段階内容
1. 問診症状や生活習慣について詳しく聞き取ります。
2. 身体診察聴診器で心音や肺の音を確認し、体の状態を調べます。
3. 検査血液検査やレントゲンなど、必要な検査を行います。
4. 総合判断得られた情報を基に、診断を行います。

主な検査方法

検査名内容
血液検査心臓から分泌されるホルモンの量などを調べます。
胸部レントゲン心臓の大きさや形、肺の状態を確認します。
心電図心臓の電気的な活動を記録し、異常がないか調べます。
心エコー超音波を使って心臓の動きや構造を調べます。

診断基準

  • 特徴的な症状(息切れ、疲れやすさ、むくみなど)の有無と程度
  • 身体診察で観察される特徴的な所見(頸静脈怒張、肺うっ血音など)
  • 各種検査結果(特に心エコーでの心機能低下の度合い)
  • 他の心臓病の存在や影響

このような結果を総合的に評価し、慢性心不全であるかどうかを判断します。

慢性心不全の治療法と処方薬、治療期間

慢性心不全の治療では、薬物療法や生活習慣の改善を行い、必要に応じて手術を検討していきます。

薬物療法(心臓機能の改善と症状緩和)

慢性心不全の治療の中心は薬物療法で、心臓の働きを助けたり、体内の水分バランスを整えたりする薬を使用します。

代表的な薬には、ACE阻害薬やARBと呼ばれる血管拡張薬があります。

薬の種類主な作用
ACE阻害薬・ARB血管を広げ、血圧を適切に調整
利尿薬過剰な水分を排出し、むくみを軽減
βブロッカー心拍数を調整し、心臓の負担を軽減
強心薬心臓のポンプ機能を改善

重症の患者さんには、心臓の収縮力を高める強心薬を使用することもあります。

効果が現れるまでに時間がかかることもあるため、医師の指示に従って粘り強く服用を続けることが大切です。

生活習慣の見直し

薬物療法と並行して、大切なのは患者さん自身の生活習慣の改善です。主に以下のような点に気をつけて過ごしましょう。

  • 塩分摂取の管理‥過剰な塩分は体内に水分をため込み、心臓に余計な負担をかけます。1日6g未満を目標に、薄味の食事を心がけましょう。
  • 適度な運動‥自分の体力に合わせた軽い運動は、心臓の機能改善につながります。ただし、無理は絶対に避けてください。
  • 禁煙‥タバコは血管を収縮させ、心臓に悪影響を及ぼします。禁煙しましょう。
  • ストレス対策‥過度のストレスは心臓に負担をかけます。リラックスする時間を意識的に作ることが大切です。

進行した症例での治療

重症の場合や、薬物療法だけでは効果が不十分な場合は、より積極的な治療法を検討します。

治療法としては、心臓再同期療法という特殊なペースメーカーを用いる方法や、人工心臓の使用などが選択肢となります。

また、一部の患者さんには心臓移植が適応となる場合もありますが、日本ではドナー不足により待機期間が長期化する傾向です。

治療期間

治療期間は個人差が大きく、多くの場合生涯にわたって継続します。

定期的な通院と検査を通じて、状態を確認しながら治療方針を調整していきます。

慢性心不全の治療における副作用やリスク

慢性心不全の治療には、副作用やリスクがあります。

薬物治療に伴う副作用

慢性心不全の治療薬とその副作用を以下の表にまとめました。

薬の種類主な副作用
降圧薬めまい、立ちくらみ、咳
利尿薬頻尿、のどの渇き、電解質異常
β遮断薬疲労感、手足の冷え、めまい
ACE阻害薬空咳、めまい、味覚異常

副作用は多くの場合、薬の量を調整したり生活習慣を工夫したりすることで対処できます。

ただし、重大な副作用が現れた時はすぐに医師に相談することが大切です。

その他の治療に伴うリスク

ペースメーカーなどの医療機器を体内に埋め込む治療では、感染症のリスクがあります。

また、手術を行う場合は出血や麻酔の影響など、一般的な手術に伴うリスクも考慮する必要があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

慢性心不全の治療費は、症状の重さや必要な治療方法によって大きく変わります。長期的な管理が必要な病気のため、継続的に治療費がかかります。

入院時の費用

症状が悪化して入院が必要になると、費用は高額になります。

一般的な病院での入院費用は1日あたり2万円から5万円程度ですが、重症度や必要な治療内容によっては、それ以上かかることもあります。

例えば集中治療室(ICU)での管理が必要な場合、1日10万円以上になることも珍しくありません。

治療費が高額になる場合は、高額療養費制度などの公的支援制度により自己負担を軽減できる可能性があります。

高額療養費制度について、詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。

外来治療にかかる費用

外来での治療は入院に比べれば安価ですが、定期的な通院が長期間必要なため、結果的に費用がかさんでいきます。

外来診療にかかる費用の目安は以下の通りです。

検査・治療項目概算費用
心エコー検査5,000円~10,000円
血液検査3,000円~8,000円
胸部レントゲン2,000円~5,000円
薬剤費(月額)5,000円~20,000円

慢性心不全の治療の中心となるのは薬物療法です。使用する薬の種類や量によって費用は変わりますが、月に5,000円から20,000円程度かかることが多いです。

状態や治療内容によって費用は大きく異なりますので、詳しい医療費については担当医や医療機関へ直接ご確認ください。

以上

References

WEBER, Karl T., et al. Pathophysiology of acute and chronic cardiac failure. The American Journal of Cardiology, 1987, 60.5: 3-9.

WEBER, Karl T.; JANICKI, Joseph S. Cardiopulmonary exercise testing for evaluation of chronic cardiac failure. The American journal of cardiology, 1985, 55.2: A22-A31.

WEBER, Karl T., et al. Exercise testing in the evaluation of the patient with chronic cardiac failure. American Review of Respiratory Disease, 1984, 129.2P2: S60-S62.

WEBER, KARL T., et al. Oxygen utilization and ventilation during exercise in patients with chronic cardiac failure. Circulation, 1982, 65.6: 1213-1223.

KOROTAEVA, Alexandra A., et al. Pro-inflammatory cytokines in chronic cardiac failure: state of problem. Terapevticheskii arkhiv, 2021, 93.11: 1389-1394.

NADAR, Sunil, et al. Positive pressure ventilation in the management of acute and chronic cardiac failure: a systematic review and meta-analysis. International journal of cardiology, 2005, 99.2: 171-185.

STEELE, I. C., et al. Cytokine profile in chronic cardiac failure. European journal of clinical investigation, 1996, 26.11: 1018-1022.

RILEY, M., et al. Resting energy expenditure in chronic cardiac failure. Clinical Science, 1991, 80.6: 633-639.

RILEY, M., et al. Oxygen consumption during corridor walk testing in chronic cardiac failure. European heart journal, 1992, 13.6: 789-793.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。