高齢者高血圧 – 循環器の疾患

高齢者高血圧(Elderly hypertension)とは、年齢を重ねるにつれて血圧が少しずつ上昇し、収縮期血圧が140mmHg以上あるいは拡張期血圧が90mmHg以上の状態が続く状態です。

高齢者は、動脈硬化や腎機能の低下などが原因で、若い人と比べて高血圧になる可能性が高くなります。

高齢者高血圧は、脳卒中や心筋梗塞など重い合併症を引き起こす危険性が高いので、早期発見と管理が大切です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

高齢者高血圧の種類(病型)

高齢者高血圧は血圧変動が大きい特徴があり、さまざまな病型が存在します。

孤立性収縮期高血圧

孤立性収縮期高血圧は高齢者に最も多くみられる血圧異常の病型です。収縮期血圧のみが高値を示し、拡張期血圧は正常範囲内にとどまります。

この病型は大動脈の硬化によって生じると考えられています。

収縮期血圧拡張期血圧
140mmHg以上90mmHg未満

白衣高血圧

白衣高血圧は、医療機関で測定した血圧が高値を示すにもかかわらず、家庭血圧は正常範囲内にとどまる病型です。

医療環境に対する不安や緊張が一時的な血圧上昇をもたらすと考えられていて、高齢者に比較的多くみられます。

起立性高血圧

起立性高血圧は、座位や臥位から立位に姿勢を変化させた際に、血圧が過度に上昇する病型です。

自律神経機能の低下により、体位変換時の血圧調節が適切に行われないことが原因と考えられています。

体位収縮期血圧上昇
座位→立位20mmHg以上
臥位→立位30mmHg以上

夜間非降圧型(non-dipper)

夜間非降圧型は、夜間の血圧が十分に低下しない病型です。

健常者では、夜間の血圧は日中と比較して10〜20%程度低下しますが、夜間非降圧型ではこの低下が認められません。

  • 夜間の血圧低下が10%未満の場合、夜間非降圧型と診断されます。
  • 夜間の血圧が日中よりも高値を示すときは、夜間昇圧型(riser)と呼ばれます。

早朝の昇圧(モーニングサージ)

早朝の昇圧は、起床時から午前中にかけて血圧が急激に上昇する病型です。この病型は、心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めると考えられています。

高齢者では、早朝の昇圧が顕著にみられるケースがあり、注意が必要です。

時間帯収縮期血圧上昇
起床時〜午前中55mmHg以上

高齢者高血圧の主な症状

高齢者の高血圧でよくみられる症状は、めまい、頭痛、動悸、息切れなどです。

ただし、特徴的ではないものが多く見落とされやすいため、定期的な血圧測定が大切です。

めまい

高齢者の高血圧では、急な血圧上昇により脳への血流が減少し、めまいを感じます。

めまいには、ふらつき、立ちくらみ、回転性めまいなどの種類があり、日常生活に影響を及ぼす場合もあります。

めまいの種類症状
ふらつきバランスを取りにくい、足元がおぼつかない
立ちくらみ立ち上がった時に一時的に意識が遠のく
回転性めまい自分や周囲が回転しているように感じる

頭痛

高齢者の高血圧では、片頭痛のようにズキズキと脈打つような頭痛や、頭を締め付けられるような圧迫感を伴う頭痛がみられる場合があります。

動悸

高血圧の影響で心臓に負担がかかるため、動悸を感じる方もいます。

動悸の症状心拍数
軽度80-100拍/分
中等度100-120拍/分
重度120拍/分以上

息切れ

高齢者の高血圧では心不全を合併する場合があり、以下のような症状がみられる際は注意が必要です。

  • 安静時でも息切れを感じる
  • 平地を歩いていても息切れを感じる
  • 横になると息苦しさを感じる

高齢者高血圧の原因

高齢期の高血圧の原因は多岐にわたり、個人差も大きいと言えます。

加齢に伴う身体的な変化に加え、生活習慣や基礎疾患、遺伝的要因などが複雑に絡み合い、高血圧の原因となっています。

加齢に伴う身体的変化

加齢と共に血管壁は硬化し、弾力性が失われていきます。その結果、血管は収縮しづらくなり、血圧が上昇しやすい状態になります。

さらに、腎機能の低下も高血圧の一因です。腎臓は血圧の調節に重要な役割を担っているため、その機能が低下すると高血圧につながります。

原因詳細
血管壁の硬化加齢に伴う変化により血管壁が硬くなる
腎機能の低下腎臓の血圧調節機能が低下する

生活習慣の影響

生活習慣高血圧へのリスク
食事塩分の過剰摂取
運動運動不足
喫煙喫煙習慣
飲酒過度の飲酒
ストレス慢性的なストレス

塩分の取りすぎは高血圧の大きなリスク要因の一つです。日本人の食生活は塩分が多めで、高齢者は味覚の低下から更に塩分を多く摂ってしまいがちです。

また、運動不足も高血圧の原因となります。

基礎疾患の存在

高齢者は様々な病気を抱えている方が多く、それらが高血圧の原因になるケースがあります。

例えば、糖尿病や脂質異常症は動脈硬化を促し、高血圧のリスクを高めます。

また、甲状腺機能の低下は血管の抵抗を増やし、高血圧を引き起こす可能性があります。

遺伝的要因

高血圧には遺伝的な要因も関わっていると考えられています。 両親や兄弟姉妹に高血圧の人がいる場合、高血圧を発症するリスクが高くなります。

ただし、遺伝だけで高血圧が決まるわけではなく、生活習慣などの環境要因との相互作用が重要です。

遺伝的素因があっても、健康的な生活習慣の心掛けによって高血圧の発症を抑制したり、発症を遅らせたりすることが可能です。

診察(検査)と診断

高齢者の高血圧の診察では、血圧測定に加えて、心電図検査や血液検査、尿検査で臓器への影響を評価します。

血圧測定

血圧の測定は、安静にした状態で座った姿勢で行います。測定は何度か繰り返し、その平均値を採用します。

また、自宅で測定した血圧の値も参考になります。

心電図検査

心電図検査によって、左室肥大の有無を評価します。左室肥大は、高血圧によって心臓に負担がかかっていることを表しています。

また、不整脈の有無も確認します。

血液検査の項目

血液検査では、以下の項目を評価します。

検査項目評価内容
腎機能クレアチニン、eGFR
電解質ナトリウム、カリウム
脂質コレステロール、中性脂肪
血糖空腹時血糖、HbA1c

高齢者高血圧の診断基準

高齢者の高血圧の診断基準は、以下の通りです。

  1. 収縮期血圧140mmHg以上
  2. 拡張期血圧90mmHg以上

ただし、高齢者の場合、収縮期血圧の上昇が主な問題であり、拡張期血圧はそれほど重視されません。また、白衣高血圧にも注意が必要です。

高齢者高血圧の治療法と処方薬

高齢者の高血圧症の治療は、薬物療法と生活習慣の改善を併用し行っていきます。

薬物療法

薬剤名特徴
カルシウム拮抗薬血管拡張作用により血圧を下げる
アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)レニン・アンジオテンシン系を抑制し血圧を下げる

年齢や合併症、腎機能などを総合的に判断して薬剤を選択します。

高齢者では副作用の危険性が高くなるため、少量から開始して徐々に増量していくのが一般的です。

生活習慣の改善

薬物療法と同時に、生活習慣の改善を指導します。

  • 減塩
  • 運動療法
  • ストレス管理

これらの生活習慣の改善によって薬物療法の効果が高まり、心血管イベントの危険性を低減できると考えられています。

治療に必要な期間と予後について

高齢者の高血圧治療は、基本的に長期的な治療が必要です。治療の継続により、予後の改善が見込めます。

治療期間の目安

高血圧は慢性疾患であり、一時的な治療では根本的な解決にはなりません。基本的には一生涯にわたって継続する必要があります。

高齢者高血圧の治療目標

  • 74歳までの患者さん: 140/90mmHg未満を目指して降圧治療を行う。
  • 75歳以上の患者さん: 150/90mmHg未満を目指して降圧治療を行う。ただし、患者の状態によっては、140/90mmHg未満を目指すことも考慮する。
  • 心血管系イベントのリスクを減らす
  • QOLの維持・向上を図る

上記はあくまでも目安であり、状態に合わせて治療目標や治療法の調整が必要です。

高齢者高血圧の予後

高齢者の高血圧は、治療の継続によって高血圧をコントロールし、合併症のリスクを大幅に減らすことができます。

反対に、治療を怠ると高血圧は進行し、脳卒中、心筋梗塞、腎不全などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高くなります。

高齢者高血圧の治療における副作用やリスク

高齢者の高血圧治療では主に薬物療法が行われますが、副作用やリスクを伴います。

薬物療法の副作用

高齢者への降圧薬の使用では、低血圧や起立性低血圧、電解質異常、腎機能悪化などの副作用が起こる可能性があります。

特に、利尿薬や ACE 阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬などの使用時は注意が必要です。

薬剤主な副作用
利尿薬低カリウム血症、脱水、高尿酸血症
ACE 阻害薬咳嗽、高カリウム血症、急性腎不全

合併症リスクの増大

高齢者は、糖尿病や慢性腎臓病などの合併症を有している場合が多く、高血圧の治療によってこれらの疾患が悪化するリスクがあります。

例えば、降圧療法により腎血流量が低下し、腎機能が悪化することがあります。

認知機能への影響

降圧療法が認知機能に与える影響については、明確な結論は出ていませんが、過度の血圧低下は認知機能低下のリスクを高める可能性があります。

特に、脳血流の自動調節能が低下している高齢者では注意が必要です。

血圧低下の程度認知機能への影響
軽度(収縮期血圧10~20mmHg低下)影響は少ない
中等度(収縮期血圧20~30mmHg低下)一時的な認知機能低下の可能性あり
高度(収縮期血圧30mmHg以上低下)認知機能低下のリスク高い

予防方法

高血圧の予防には、生活習慣の見直しが何より大切です。

適度な運動習慣

高齢者の場合、激しい運動は控えめにしつつ、ほどよい運動の習慣づけが血圧管理に役立ちます。

ウォーキングやストレッチなど、無理なく続けられる運動を定期的に行うようにしましょう。

運動の種類頻度
ウォーキング週3〜5回
ストレッチ毎日

バランスの取れた食事

塩分の取りすぎが高血圧のリスクを高めるため、減塩を心がける必要があります。

同時に、野菜や果物、低脂肪食品を中心とした食生活を送りましょう。

  • 塩分は1日6g未満に抑える
  • カリウムを多く含む食品(野菜、果物など)を積極的に摂取する
  • 飽和脂肪酸や trans 脂肪酸の摂取を控える

ストレス管理

ストレスは血圧上昇の一因となり得ます。 自分なりのストレス解消法を見つけ、心をリラックスさせる時間を持ちましょう。

定期的な血圧チェック

家庭での血圧測定を日課とし、数値の異常な上昇がないか定期的に確認しましょう。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

日本では、高齢者医療確保法に基づく公的医療保険制度により、高齢者の医療費の一部が補助されています。

75歳以上の後期高齢者医療制度の対象者は、医療費の1割から3割の自己負担で治療を受けられます。

年齢自己負担割合
75歳以上1割(現役並み所得者は3割)
70〜74歳2割(現役並み所得者は3割)

治療費の目安

高齢者高血圧の治療は、薬物療法が中心です。薬代が治療費の大きな部分を占めますが、症状の管理には定期的な診察や検査も必要です。

項目費用
薬物療法月額数千円〜
定期診察1回あたり数千円
必要検査年間数万円

以上

References

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