胸痛 – 循環器の疾患

胸痛(Chest pain)とは、胸の辺りに感じる不快感や痛みのことです。心臓や肺、食道などの胸郭内に位置する器官の異常によって起こります。

胸痛は、私たちの体に何らかの問題が起きていることを知らせるサインとなる場合もあります。

胸に痛みを感じたときは、どのくらいの時間続いているのか、他にも気になる症状はないかなど、自分の体の状態をよく観察してみましょう。

痛みが持続する、徐々に強くなるなど、気になる痛みがある場合には速やかに医療機関を受診してください。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

胸痛の主な症状

胸痛は、胸の中心部や左側に不快感が起こる方が多いです。中には、右側や背中に痛みが広がることもあります。

痛みの種類特徴患者さんの表現例
鋭い痛み突然の強い痛み“針で刺されるよう”
圧迫感重みを感じる“象が乗っているみたい”
灼熱感胸やけのような“焼けるように熱い”
締め付け感帯で縛られたような“ベルトで締められている”

痛みが起きるタイミング

胸痛は、「この動作のときに起こる」「これをすると起きる」のような特定の状況や動作によって起こる場合が多いです。逆に、特定の行動によって症状が軽くなるのも特徴です。

痛みが起きやすいタイミング
  • 体に負担のかかる動作(階段の上り下りやジョギングなど)
  • 心理的なプレッシャーやストレス
  • 食事(特に脂っこいものや量の多い食事)
  • 寒い環境への急な移動

痛みが和らぐタイミング

痛みを和らげる要素注意点
じっとする、休む長時間の安静は避ける
楽な姿勢をとる無理な姿勢は逆効果
ゆっくりと深呼吸過度な呼吸は避ける
温かいタオルを当てる熱すぎないよう注意

症状の時間による変化

胸痛は、朝方にひどくなったり、夜になると強くなったりするなど、一日の中で症状の程度が変わることもあります。

時間の経過に伴う変化のパターンが把握できれば、正確な診断につながる可能性が高まるため、症状の変化をできるだけ詳しく記録しておくと良いでしょう。

時間帯症状の特徴考えられる要因
早朝痛みが強まる体位変換、血圧変動
日中活動により変化身体的ストレス
夜間横になると悪化胃酸の逆流など
食後症状が出現消化器系の問題

胸痛の原因

胸痛の原因は多くあり、心臓や血管といった循環器系の問題をはじめ、胃腸の調子を司る消化器系、呼吸に関わる呼吸器系、さらには筋肉や骨格を形成する筋骨格系の異常まで、幅広い原因が関わっている可能性があります。

循環器系の要因

心臓を取り巻く血管に異常が生じると、狭心症や心筋梗塞を招くことがあります。

このような病気になると、心臓の筋肉に十分な血液が行き渡らなくなり、胸部に痛みが起きます。

循環器系の原因特徴
狭心症体を動かしたときや精神的なプレッシャーを感じたときに起こりやすい
心筋梗塞突然襲ってくる激しい痛みが長時間続く

消化器系の要因

胸やけや、食道に酸が逆流する病気(逆流性食道炎)なども胸の痛みを起こす原因になります。

特に、横隔膜という呼吸に重要な筋肉の近くに位置する上部消化管に異常が起きると、それが胸の痛みとして認識されやすくなります。

消化器系の原因症状の特徴
逆流性食道炎食事の後や横になったときに症状が悪化する
食道けいれん物を飲み込みにくくなる症状を伴う痛み

呼吸器系の要因

肺炎や肺に穴が開く「気胸」、肺の血管が詰まる「肺塞栓症」などの呼吸器系の病気は、息苦しさを伴う胸の痛みを起こします。

  • 肺炎‥細菌やウイルスなどの微生物が肺に感染して起こる炎症
  • 気胸‥肺から空気が漏れ出して胸の中にたまる状態
  • 肺塞栓症‥肺の動脈が血の固まりによって詰まってしまう病気

筋骨格系の要因

胸の壁や背中の筋肉、肋骨などの問題も、胸痛につながることがあります。

激しい運動や長時間の不自然な姿勢、外から強い衝撃を受けたなどで組織が傷つくと、胸に痛みが生じます。

例えば、「肋軟骨炎」という肋骨と胸骨をつなぐ軟骨の炎症や、「胸郭出口症候群」という首から腕にかけての神経や血管が圧迫される病気が挙げられます。

筋骨格系の原因痛みの特徴
肋軟骨炎胸の前面を押すと痛みを感じる
胸郭出口症候群腕を動かすと痛みが強くなる

このように胸痛の原因は多く考えられますので、胸の痛みがあるという患者さんを診察するときは、まずは命に関わる可能性のある病気を除外することから始めます。

診察(検査)と診断

胸痛がある場合、問診や心電図検査、胸部X線検査、血液検査などを行い、心筋梗塞や肺塞栓症といった重篤な病気から、胸膜炎や肋間神経痛など比較的軽度の病気まで、考えられるものの中から原因を特定していきます。

問診

確認事項診断上の意義
痛みの特徴虚血性心疾患などの可能性を探る
痛みの場所関係する臓器を推定する手がかりとなる
痛みの継続時間急性か慢性かの判別に役立つ
付随する症状他の疾患の存在を示唆する場合がある

必要なのは、痛みの特徴や継続時間、胸痛と一緒に出る症状の情報です。狭心症や心筋梗塞など、緊急性の高い病気を見逃さないようにします。

また、大動脈解離のような致命的な疾患の可能性も常に念頭に置き、診察を行っていきます。

身体診察のポイント

  • 視診 顔色の変化、呼吸の様子、汗の出方などを観察します
  • 触診 胸部に圧痛がないか、皮膚に異常がないかを確認します
  • 聴診 心臓の音、肺の音、血管の異常な音などを聴きます
  • 打診 胸部を軽くたたいて、内部の状態を推測します

検査

身体診察の結果を踏まえ、状況に応じた検査を選びます。

検査の種類主たる目的
心電図検査心臓の電気的活動を記録し、虚血や不整脈を発見する
胸部X線撮影心臓の大きさや肺の状態を確認する
血液検査心筋の損傷や体内の炎症反応を数値で把握する
心臓超音波検査心臓の動きや弁の状態を動画で観察する

場合によっては複数の検査を行います。いくつか検査をすると、単独の検査では見逃しやすい異常を発見できるケースもあります。

鑑別診断

行った検査結果を総合的に判断し、鑑別診断を進めます。最終的な確定診断までには、さらに検査を追加することもあります。

心臓に由来する胸痛はもちろんのこと、肺や消化器系の疾患による胸痛の可能性も考えて最終的な確定診断をします。

症状の原因となる系統代表的な疾患名
心臓血管系狭心症、心筋梗塞、心膜炎など
呼吸器系肺血栓塞栓症、自然気胸など
消化器系胃食道逆流症、胆石発作など
筋肉や骨の系統肋間神経痛、帯状疱疹など

胸痛の治療法と処方薬、治療期間

胸痛に対する治療は、その原因や症状の程度によって変わります。代表的な治療は薬による治療や、日々の生活習慣改善です。重症の場合は手術も検討します。

薬による治療

胸痛に対する主な薬と効果は次の通りです。

薬の種類効果
硝酸薬心臓の血管を広げる
β遮断薬心臓の拍動を遅くする
Ca拮抗薬血管を広げる
抗血小板薬血液の固まりを防ぐ

日々の生活を見直す

薬による治療と並行して、生活習慣を改善することで胸痛が再び起こるリスクを減らすことができます。

  • たばこを吸わない
  • 適度に体を動かす
  • バランスの良い食事を心がける
  • ストレスをためないようにする
  • しっかり休養を取る

症状が重い場合の対応

薬による治療や生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合、カテーテルを使って心臓の血管を広げる治療(PCI)や、心臓の血管をバイパスする手術(CABG)を検討します。

治療法どんな時に行うか特徴
PCI心臓の血管が狭くなっている時体への負担が比較的小さい治療
CABG複数の血管に問題がある時胸を開く大きな手術だが根本的な治療ができる

手術の後も、経過を見守りながら薬による治療を続けることが大切です。

治療期間

胸痛の治療にかかる期間は、原因となる病気や状態によって大きく異なります。

心筋梗塞のような緊急性の高い病気の場合は、数週間から数か月の入院治療をしなければなりません。

狭心症のような長く付き合っていく病気の場合は、通院しながら薬を飲み続ける治療が基本となります。

胸痛の治療における副作用やリスク

胸痛の治療法によっては、副作用やリスクがあります。

お薬による治療で気をつけたいこと

お薬の種類気をつけたい症状
血液をサラサラにするお薬出血しやすくなる
血管を広げるお薬頭痛、血圧が下がる
心臓の働きを抑えるお薬脈が遅くなる、疲れやすい
血管を緩めるお薬むくみ、便秘

治療中は定期的に体調を観察し、副作用による症状が出ていないか気を付けて治療を進めます。

外科治療で注意すべきこと

カテーテル治療や手術など、体に大きな負担のかかる治療には、リスクが伴います。

  • カテーテル治療‥出血、血管を傷つける、造影剤でアレルギー反応が出るなど
  • 心臓のバイパス手術‥傷口の感染、脳梗塞、不整脈など

長期間の治療で気をつけること

長期間にわたる治療薬の服用により、次のような副作用が起こる可能性があります。

気をつけたい副作用関係するお薬
腎臓の働きが悪くなる痛み止めの一種
胃や腸から出血する血液をサラサラにするお薬
筋肉に異常が起きるコレステロールを下げるお薬

長期間お薬を飲んでいる患者さんには、定期的に血液検査や腎臓の働きを調べる検査を行い、副作用が起きていないか確認します。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

胸痛の治療費は保険適用です。具体的な金額は、原因や重症度によって異なります。

診断にかかる費用

胸痛の原因を特定するための検査項目と費用の目安は以下の通りです。

検査項目費用の目安
心電図検査5,000円〜8,000円
血液検査3,000円〜10,000円
胸部X線撮影2,500円〜4,000円
心エコー検査8,000円〜15,000円

※保険適用により、実際の自己負担額は1~3割程度となります。

入院費用

重度の胸痛や緊急性の高い場合は入院が必要です。費用は入院日数によって変動します。

  • 一般病棟(1日あたり) 18,000円〜30,000円
  • 集中治療室(1日あたり) 50,000円〜100,000円
  • 食事療養費(1食あたり) 460円〜

治療費の内訳

治療法費用の目安
薬物療法5,000円〜20,000円/月
冠動脈形成術150万円〜300万円
開心術300万円〜500万円

以上

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