卵巣悪性腫瘍(卵巣がん) – 婦人科

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)(ovarian cancer)とは、卵巣で発生する悪性の腫瘍のことです。

卵巣がんは初期段階では目立った症状が現れにくいため早期発見が困難で、進行してから見つかることも少なくありません。

年齢や家族歴、特定の遺伝子変異が発症リスクを高める要因です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)の種類(病型)

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)は、上皮性腫瘍、性索間質性腫瘍、胚細胞腫瘍、その他の腫瘍に分けられます。

それぞれ発生する細胞の種類や特徴によって分類され、病型ごとに異なる性質や予後をもちます。

上皮性腫瘍

上皮性腫瘍は、卵巣の表面を覆っている上皮細胞に見られる腫瘍です。

卵巣がん全体の約60-70%を占めています。

上皮性腫瘍は顕微鏡で観察したときの腫瘍細胞の形や性質によってさらに細かい分類があります。

亜型特徴
漿液性腺癌発生頻度が最も高い
粘液性腺癌粘液を作り出す
類内膜腺癌子宮内膜に似た特徴をもつ
明細胞腺癌他の型と比べて予後があまりよくない

性索間質性腫瘍

性索間質性腫瘍は、卵巣の中で卵子を支える組織から発生する腫瘍です。

全体の約5-10%で、顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫、セルトリ・ライディッヒ細胞腫が含まれます。

性索間質性腫瘍は女性ホルモンを作り出す能力をもつものが多いです。

顆粒膜細胞腫ではエストロゲンを作り出し、不規則な出血や子宮内膜が厚くなる症状が起こります。

胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍は、卵子のもとになる細胞に起こる腫瘍で、全体の約15-20%です。

若い方に多く見られ、未分化胚細胞腫、卵黄嚢腫瘍、奇形腫、絨毛癌があります。

胚細胞腫瘍の中でも未分化胚細胞腫は速く大きくなるため、早めに見つけて治療を行うことが必要で、奇形腫は良性のものが多く比較的治りやすいです。

  • 未分化胚細胞腫は速く大きくなり、若い方に多い
  • 卵黄嚢腫瘍はAFPというタンパク質を作り、抗がん剤治療が効きやすい
  • 成熟奇形腫は良性で、手術で取り除くことで治る
  • 未熟奇形腫は悪性度によって治りやすさが変わる
  • 絨毛癌はhCGというホルモンを作り、他の場所に広がりやすい

その他の腫瘍

その他の腫瘍には珍しい種類の腫瘍が含まれ、小細胞癌や未分化癌がこのグループに属します。

これらの腫瘍はあまり多くはありませんが、治りにくいことが多いです。

腫瘍の種類特徴
小細胞癌神経内分泌系の細胞に似た特徴をもつ腫瘍
未分化癌非常に悪性度が高く、進行が速い

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)の主な症状

卵巣がんは初期段階で気づきにくく、進行に伴いお腹の張りや痛み、食欲低下、頻繁なトイレなどの症状が出てきます。

卵巣がんによる体の変化

卵巣がんで最も多く見られる症状はお腹が張る感じや痛みを感じることで、腫瘍が大きくなり周りの臓器を押してしまうために起こります。

食べる量が減る、体重が落ちる、便秘、トイレに行く回数が増える特症状も出てきます。

ただし、症状は他の病気でも見られるため、これだけで卵巣がんだと断定することはできません。

よくある症状どんな感じがするか
お腹の張りお腹がふくらんだ感じがする
腹部の痛み下腹部や骨盤あたりが痛む
食欲が落ちる食べる気がしない
トイレが近い頻繁におしっこに行きたくなる

上皮性腫瘍

上皮性腫瘍の症状は、生理の周期が乱れたり、生理でもないのに出血したりすることです。

また、お腹に水がたまることで、お腹が膨らんでしまうこともあります。

性索間質性腫瘍

性索間質性腫瘍の症状は、閉経を迎えた女性で突然生理が再び始まったり、若い女性で生理が来なくなったりすることです。

また、男性ホルモンが必要以上に作られることで、声が低くなり体毛が増えるなど、男性的な特徴が現れます。

腫瘍の種類主に現れる症状
上皮性腫瘍生理不順、異常出血、腹水
性索間質性腫瘍ホルモンの乱れ、男性的特徴の出現

胚細胞腫瘍

胚細胞腫瘍の症状として突然の強い腹痛や熱が出ることが挙げられ、これは腫瘍が大きくなって捻じれてしまい、血液の流れが悪くなることで起こります。

その他の腫瘍

その他の腫瘍の症状は多様で、元々がんがあった場所の症状と、卵巣に現れた症状が混ざって現れます。

卵巣がんのセルフチェックリスト

  • お腹の張りや痛みが長く続く
  • 食べる量が減っているのに体重が増える
  • トイレに行く回数が増えたり、便秘になったりする
  • 生理の周期が乱れたり、生理でもないのに出血がある
  • 性行為の際に痛みを感じる
  • 原因がわからないのに疲れやすい
体に現れるサイン疑われる腫瘍の種類
突然の強い腹痛と発熱胚細胞腫瘍
ホルモンの異常による体の変化性索間質性腫瘍
様々な症状が組み合わさって現れるその他の腫瘍(転移性など)

これらの症状が続くときは、できるだけ早く婦人科を受診してください。

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)の原因

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)の原因は一つだけでなく、遺伝子の特徴、普段の生活環境、女性ホルモンの変化が絡み合っています。

遺伝子

BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に変異があると、卵巣がんになる可能性が高くなることが分かっています。

遺伝子がんになる可能性の増加
BRCA1約40-60%増加
BRCA2約10-30%増加

家族の病歴も大切な手がかりになり、身近な家族が卵巣がんや乳がんにかかったことがある方は、卵巣がんになる確率が高いです。

生活環境と習慣

肥満、運動不足、喫煙、長い間のホルモン剤の使用、また化学物質に長く触れ続けることで、卵巣がんになる可能性があがります。

  • 体重が多すぎる(肥満指数BMIが30以上)
  • あまり体を動かさない生活
  • タバコを吸う習慣がある
  • お酒を飲みすぎる
  • 脂っこいものばかり食べて、野菜をあまり食べない

女性ホルモンとの関係

卵巣がんができる原因には、女性ホルモンの一種であるエストロゲンが深く関わっています。

排卵のたびに卵巣の表面が傷つき、修復する過程で遺伝子に少しずつ変化が積み重なり、がんになりやすくなります。

要因がんへの影響
初めての生理が早いなりやすくなる
閉経が遅いなりやすくなる
子どもを産んだことがないなりやすくなる

炎症と免疫力の関係

子宮内膜症や骨盤の中で続く炎症や免疫力が弱くなることも、卵巣がんの原因です。

長年子宮内膜症で悩んでいた40代の患者さんが、定期的な検査で初期の卵巣がんが見つかったことがありました。

この例からも、長く続く炎症が卵巣がんが発生する可能性を高めるのではないかと考えられます。

年齢による影響

年齢もまた、卵巣がんができやすくなる大きな要因です。

卵巣がんは50歳を過ぎて閉経を迎えた後の女性に多く見られます。

年を重ねるにつれ細胞がDNAの傷を直す力が弱くなり、遺伝子の変化が積み重なりやすくなるためです。

年齢10万人のうち卵巣がんになる人の数
30-39歳約7人
40-49歳約20人
50-59歳約40人
60-69歳約50人

診察(検査)と診断

卵巣がんの診断は、いくつかの段階を経て進められていきます。

初めての診察

初診では、患者さんの体調の変化や、ご家族の病歴、普段の生活の様子について聞き取りを行います。

次に、触診と内診を行い、卵巣が腫れていないか、硬くなっていないか、痛みはないかを確認します。

画像検査

診察の後は、体の中をより詳しく調べるために画像検査を行います。

最初に選ばれるのが超音波検査で、さらに詳しい情報が必要な方には、CTやMRIが必要です。

画像検査を通じて、腫瘍の大きさや場所、周りの組織への広がり具合などを詳しく調べられます。

画像検査の種類どんなことがわかるか
超音波検査体に負担をかけずに、リアルタイムで卵巣の様子を見ることができる
CT検査体全体の状態を広い範囲で観察できる
MRI検査柔らかい組織の細かい様子を詳しく見ることができる

腫瘍マーカー

画像検査と並行して、腫瘍マーカーを調べます。

卵巣がんでよく調べられる腫瘍マーカーは、CA125、CA19-9、CEAです。

ただし、腫瘍マーカーの値だけで「がんだ」と断定できません。

CA125という腫瘍マーカーが正常だった患者さんでも、卵巣がんが見つかったケースがあったので、腫瘍マーカーの結果は他の検査結果と合わせて総合的に判断することが必要です。

組織診断

画像検査や血液検査の結果から卵巣がんの疑いが強い際は、最終的な診断を下すために組織診断を行います。

組織診断の方法

  • おなかを大きく切開して組織を取り出す手術
  • おなかに小さな穴を開けて、カメラを使って組織を取る検査
  • おなかや胸に水がたまっている場合、その水に含まれる細胞を調べる検査
組織を調べる方法それぞれの特徴
おなかを切開する手術大きく切るので大変だが、広い範囲を詳しく見ることができる
小さな穴から行う検査体への負担が少なく、回復も早い
体液中の細胞を調べる体に傷をつけずに調べられる

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)の治療法と処方薬、治療期間

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)の治療は、手術で取り除く方法、抗がん剤を使う方法、分子標的療法があり、いくつかの方法を組み合わせて行います。

どの治療法を選ぶかは、がんの進行度、種類、患者さんの体の調子などを総合的に考えて決定します。

外科治療

手術の目的はがんのある部分を全部取り除くことと、がんがどこまで広がっているかを正確に調べることです。

両方の卵巣と卵管、子宮を取り除き、さらにお腹の中の脂肪の塊(大網)や、骨盤や大動脈の周りにあるリンパ節も取り除きます。

がんが進んでいる場合は、見えるがんをできるだけ取り除く「腫瘍減量手術」という方法があります。

手術の種類どんな時に行うか
普通の手術がんが早い段階の時
腫瘍減量手術がんが進んでいる時

化学療法

抗がん剤を使う方法(化学療法)は、手術の後に残っている可能性のあるがん細胞をたたくために使ったり、がんが進んでいる時の主な治療方法として使ったりします。

よく使われるのは、カルボプラチンとパクリタキセルという2種類の薬を組み合わせる方法(TC療法)です。

3週間に1回のペースで、6回程度繰り返します。

薬の名前どうやって体に入れるか
カルボプラチン点滴で静脈から入れます
パクリタキセル点滴で静脈から入れます

分子標的療法

最近ではがん細胞の特徴を詳しく調べて、狙い撃ちする薬(分子標的薬)を使う方法もあります。

PARP阻害薬が、卵巣がんの新しい治療法として使われるようになってきました。

PARP阻害薬は、BRCA遺伝子変異がある卵巣がんや、再発した卵巣がんに効果があります。

  • オラパリブ
  • ニラパリブ
  • ルカパリブ

PARP阻害薬は飲み薬で、がんの進行を抑える維持療法として使われます。

免疫チェックポイント阻害薬

体の免疫の力を使ってがんと闘う薬(免疫チェックポイント阻害薬)も、卵巣がんの新しい治療法です。

ペムブロリズマブやアベルマブが、特定の条件を満たした患者さんに使えるようになっています。

いずれの薬も体の中にもともとある免疫システムを活性化させて、がん細胞を攻撃する働きがあります。

薬の名前どんな働きをするか
ペムブロリズマブPD-1という物質を邪魔して免疫を活性化します
アベルマブPD-L1という物質を邪魔して免疫を活性化します

免疫チェックポイント阻害薬は、他の治療法と組み合わせて使うことが多いです。

ホルモン療法

卵巣がんの中には顆粒膜細胞腫という女性ホルモンの影響を受けて大きくなるタイプがあり、女性ホルモンを調整する薬(ホルモン療法)が選ばれます。

使われるのは、タモキシフェンやアロマターゼ阻害薬です。

ホルモン療法は他の治療法に比べて副作用が少ないので、生活の質を保ちながら長く続けられるという利点があります。

治療期間

卵巣がんの治療期間は、手術を受けてその後抗がん剤治療を受ける場合、4〜6か月くらいです。

がんが再発したりがんの進行を抑えるための維持療法は、さらに長い期間治療を続けます。

治療が終わった後も、定期的に検査を受けることが大切です。

卵巣悪性腫瘍(卵巣がん)の治療における副作用やリスク

卵巣がんの治療には、手術や薬剤による治療、放射線を使った治療がありますが、体には負担がかかります。

手術後に起こりうる体の変化

手術後にお腹に痛みが出たり、傷口が腫れたりするのは避けられません。

また、麻酔の影響で一時的に吐き気を感じたり、吐いてしまうこともあります。

もっと深刻な問題は、出血が止まらない、傷口からの細菌感染、血栓です。

手術後に起こりうることどのくらいの頻度で起こるか
痛みや腫れよくある
吐き気や嘔吐ときどきある
出血や感染あまりない
周りの臓器を傷つけるごくまれ

抗がん剤治療で生じる体の変化

抗がん剤治療はがん細胞を攻撃する一方で、健康な細胞にも影響を与えます。

よく見られる変化は、吐き気や嘔吐、食べ物がおいしく感じられなくなることです。

また、使う抗がん剤の種類によっては髪の毛が抜けたり、血液を作る働きが弱くなって貧血になったり、風邪などの感染症にもかかりやすくなります。

放射線治療に伴う体への影響

放射線を当てた部分の皮膚が赤くなり乾燥し、吐き気や下痢などお腹の調子が悪くなります。

長期的な影響では、放射線を当てた周りの組織が硬くなり、新たながんができる懸念も。

放射線治療で起こりうることいつ頃現れるか
皮膚が赤くなる・乾燥するすぐに
お腹の調子が悪くなるすぐに
組織が硬くなる時間が経ってから
新たながんができるかなり時間が経ってから

ホルモン療法で起こりうる体の変化

ホルモン療法で主に起こる体の変化

  • 急に体が熱くなる、汗をかく
  • 骨がもろくなる
  • 血液が固まりやすくなる
  • 性的な機能に影響が出る

免疫療法に関連する体への影響

免疫療法特有の体への影響は、自分の免疫系が必要以上に活発になってしまうことです。

そのため、皮膚や腸、肝臓、肺などに炎症が起きるケースもあります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

手術療法の費用

開腹手術は、入院費用を含めて約100万円から150万円程度が目安です。

腹腔鏡下手術を選択すると、若干高額になります。

手術方法概算費用
開腹手術100-150万円
腹腔鏡下手術130-180万円

化学療法の費用

TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)は、1クール(3週間)あたり約30万円から50万円程度かかります。

通常6クール行うため、総額で180万円から300万円です。

  • パクリタキセル 1回投与 約15万円
  • カルボプラチン 1回投与 約10万円
  • 支持療法薬(吐き気止めなど) 約5万円

分子標的薬の費用

PARP阻害薬などの分子標的薬はさらに高額で、オラパリブは1か月あたり約100万円かかります。

薬剤名1か月あたりの概算費用
オラパリブ約100万円
ニラパリブ約90万円

以上

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