未熟奇形腫(悪性) – 婦人科

未熟奇形腫(悪性)(immature teratoma)とは、10代後半から20代前半の若い女性の卵巣に発生することが多い腫瘍です。

この腫瘍は、十分に成熟していない細胞で構成されており、短期間で大きくなります。

正常な卵巣の組織とは違い未熟奇形腫には、皮膚や髪の毛、歯など、さまざまな組織が混在しています。

患者さんに現れやすい兆候は、腹部の痛みや張る感じ、月経不順です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

未熟奇形腫(悪性)の主な症状

未熟奇形腫(悪性)を発症すると腹部の症状、月経の異常、排尿に関することなどが現れます。

腹部の違和感

未熟奇形腫(悪性)でよく見られるのは、腹部の違和感です。

多くの患者さんが下腹部の痛みや不快感を感じると訴えられ、痛みは持続的また断続的に起こります。

また、腹部が膨満したような感覚や、張っているような感じも症状の一つです。

症状感覚
腹部の痛み下腹部を中心に、持続的または断続的な痛み
腹部の膨満感腹部が膨らんだ感じ、重さを感じる

月経の変化

未熟奇形腫(悪性)は卵巣の機能に影響を与えるため、月経に関係した症状が出ます。

月経の周期が不規則に、月経痛がいつもより強くなり、時には、月経と月経の間に出血し、予期せぬ時期に出血することも。

全身の変化

腫瘍が進行すると、全身に影響を及ぼします。

  • 明確な理由のない体重減少
  • 通常以上の疲労感
  • 発熱(特に持続性の微熱)
  • 食欲不振

排尿に関する症状

未熟奇形腫(悪性)が大きくなると膀胱や尿管を圧迫し、排尿障害が生じます。

症状は頻尿や排尿時の痛み、排尿困難です。

症状具体的な状態
頻尿排尿の回数が増加する
排尿時痛排尿時にヒリヒリとした痛みを感じる
排尿困難尿が出にくい状態になる

腫瘤を感じる

未熟奇形腫(悪性化)が進行すると腹部を触診した際に腫瘤が触れ、定期的な健康診断で発見されることが多いです。

自己触診で気づくこともありますが、専門医による正確な診断が欠かせません。

腫瘤の特徴注意点
大きさ小型から大型まで様々
硬度柔軟なものから硬いものまで多様
位置主に下腹部に触知される
可動性触診時に移動することがある

未熟奇形腫(悪性)の原因

未熟奇形腫(悪性)は卵巣に発生する珍しい腫瘍で、遺伝子の変化や生活環境などの異なる因子が絡み合っています。

遺伝子の変化と未熟奇形腫

KRASやTP53という遺伝子に変化が起きると、未熟奇形腫ができるリスクが高くなります。

遺伝子名働き
KRAS細胞が増えるときの合図を伝える
TP53腫瘍ができないように抑える

環境と生活習慣

遺伝子の問題だけでなく、私たちを取り巻く環境や生活習慣も、未熟奇形腫(悪性)ができる原因です。

化学物質に長期間さらされたり、体内のホルモンのバランスが崩れることで、腫瘍ができるリスクが上がります。

喫煙、お酒の飲みすぎ、バランスの悪い食事などが細胞のDNAを傷つけ、がんになるリスクを高めます。

また、免疫力を下げるストレスがたまりやすい生活や、運動不足も、腫瘍ができやすくなる原因です。

ホルモンのバランスの乱れ

エストロゲンやプロゲステロンといった女性ホルモンが必要以上に多く作られバランスが崩れると、卵巣の組織が異常に増えます。

ホルモン名働き
エストロゲン女性らしい特徴を作る、細胞を増やす
プロゲステロン妊娠を維持する、細胞の成長を促す

年齢と未熟奇形腫

未熟奇形腫(悪性)は、10代後半から20代の女性に発症例が多いです。

この年齢層ではホルモンのバランスが大きく変動しやすく、卵巣の組織も活発に働いているため、腫瘍ができるリスクが上昇します。

年齢層発生のリスク
10代後半〜20代高い
30代〜40代中くらい
50代以上比較的低い

診察(検査)と診断

未熟奇形腫(悪性)を正確に診断するには、最初の診察から最終的な確定診断に至るまで、さまざまな検査が必要です。

初診

未熟奇形腫(悪性)の診断は、まず詳しい聞き取りから始まり、患者さんの家族の病歴、月経の状況などの基本的な情報を確認します。

その後、触診や内診を行いしこりがないか、あるとすればどのような特徴があるかを調べます。

画像を使った診断

画像診断は、腫瘍の有無を知るために欠かせない方法です。

検査の種類どんなことがわかるか
超音波検査体に負担をかけずにすぐに結果が得られ、腫瘍の大まかな様子がわかる
CT検査腫瘍の大きさや周りの臓器との関係を細かく知ることができる
MRI検査軟らかい組織の様子がよくわかり、腫瘍の中がどうなっているかを詳しく見られる

血液検査

血液検査では腫瘍マーカーを測ります。

  • AFP(アルファフェトプロテイン):胎児の時期に作られるタンパク質で、大人では通常あまり見られない。
  • β-hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン):妊娠初期に多く作られるホルモンで、特定の腫瘍でも増える。
  • LDH(乳酸脱水素酵素):体のさまざまな組織に含まれる酵素で、細胞が壊れると血液中に増える。
  • CA125(がん抗原125):卵巣がんなどで増えることが知られている物質。

このような数値が普通よりも高くなっていると、未熟奇形腫(悪性)の可能性があるのです。

顕微鏡で見る

最終的な診断を下すには、実際に腫瘍の一部を採取して顕微鏡で調べることが重要です。

手術で取り出した腫瘍の一部を細かく切って、特殊な染色をした後に顕微鏡で観察します。

組織の採取方法特徴
お腹を大きく切る手術腫瘍を直接見て取り出せるが、体への負担が大きい
腹腔鏡を使う手術小さな穴をいくつか開けて行うため体への負担が小さいが、大きな腫瘍の場合は難しい

未熟奇形腫(悪性)の治療法と処方薬、治療期間

未熟奇形腫(悪性)という病気の治療は、手術、抗がん剤治療、放射線治療を組み合わせて行います。

手術

未熟奇形腫(悪性)の治療で、最もよく行われるのが手術です。

手術の範囲は、腫瘍の大きさや広がり具合によって決まり、病気のある側の卵巣や卵管を取り除きます。

病気が進んでいるときは、子宮や反対側の卵巣、周りのリンパ節まで取らなければならないこともあります。

手術時間は2〜4時間くらいです。

手術の種類どんな時に行うか
片側の卵巣と卵管を取る手術初期の、広がっていない腫瘍の場合
子宮全体を取る手術進行している場合や再発した場合

抗がん剤治療

手術の後に再発を防ぎ進行した病気で腫瘍を小さくするために、抗がん剤治療を実施します。

未熟奇形腫(悪性)で使用されるのは、BEP療法(ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン)という3種類の薬を組み合わせた治療法です。

BEP療法は3週間を1回として、3〜4回繰り返します。

薬の名前主にどんな働きをするか
ブレオマイシンがん細胞のDNAを切断する
エトポシドがん細胞が増えるのを邪魔する
シスプラチンがん細胞のDNAをくっつけて働けなくする

放射線治療

手術や抗がん剤治療の後に、放射線で再発のリスクが高い場所や、転移した場所を狙い撃ちします。

体の外から放射線を当てる外部照射法が使われ、1回に1.8〜2グレイという単位の放射線を、週に5回のペースで当てていきます。

全部で45〜50グレイくらいになるまで続け、治療期間は約5〜6週間です。

治療期間と経過観察

未熟奇形腫(悪性)の治療は、手術から始まって抗がん剤治療、放射線治療まで全部含めると、4〜6ヶ月くらいかかります。

治療が終わった後も、定期的に病院に通い検査を受けることが大切です。

治療が終わってから2年以内は再発しやすい時期なので、定期的にレントゲンやCT検査をしたり、血液検査で腫瘍マーカーを調べます。

治療後の期間どのくらいの間隔で検査するか
治療後2年間1〜3ヶ月ごと
3〜5年目3〜6ヶ月ごと

未熟奇形腫(悪性)の治療における副作用やリスク

未熟奇形腫(悪性)の治療は効果が期待できる一方で、さまざまな副作用やリスクがあります。

手術に関連する副作用とリスク

出血や感染症は、どのような手術でも起こることのあるリスクです。

大きな腫瘍を取り除く際には、周りにある他の臓器を傷つけてしまうことがあります。

起こりうる問題どのくらいの頻度で起こるか
出血それほど珍しくない
感染症あまり多くない~それほど珍しくない
他の臓器の損傷まれ

手術後に起こる癒着も長期的な問題の一つです。

抗がん剤治療(化学療法)に伴う副作用

抗がん剤治療は効果の高い治療法ですが、同時に体にさまざまな負担をかけます。

よく見られる副作用

  • 吐き気や実際に吐いてしまうこと
  • 髪の毛が抜けること
  • 体がだるく感じること
  • 食べたいと思わなくなること
  • 食べ物の味が変わったように感じること

血液をつくる機能と免疫力の低下

抗がん剤治療による重大な副作用に、骨髄の働きが抑えられることがあります。

影響を受ける血液の成分起こりうる問題
白血球体の抵抗力が下がり、感染症にかかりやすくなる
赤血球貧血になる
血小板出血しやすくなる

骨髄の働きが抑えられると患者さんの免疫力が低下し、さまざまな感染症にかかるリスクが高くなるので注意が必要です。

妊娠への影響

手術で卵巣を取り除き抗がん剤治療をすると、早く更年期を迎えたり、妊娠しづらくなります。

治療の種類妊娠への影響
手術(卵巣摘出)妊娠する能力が低下する
抗がん剤治療卵巣の働きに影響を与え、早期閉経や不妊のリスクが高まる

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

手術療法にかかる費用

開腹手術は、入院費用を含めて約100万円から150万円です。ただし、難度の高い手術や入院期間が長引くと、200万円を超えることもあります。

手術の種類概算費用
開腹手術(標準的)100万円〜150万円
複雑な手術150万円〜250万円

化学療法の費用

BEP療法が標準的に用いられる化学療法の費用は、1クール(3週間)あたり50万円から70万円程度です。

通常3〜4クール実施されるため、総額で約150万円から280万円ほどかかります。

治療内容概算費用
1クールのBEP療法50万円〜70万円
全クール(3〜4回)150万円〜280万円

放射線療法の費用

放射線療法の費用は、1回の照射で1万円から2万円程度で、全治療期間(5〜6週間)で計算すると、約50万円から120万円です。

以上

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