卵黄嚢腫瘍 – 婦人科

卵黄嚢腫瘍（yolk sac tumors）とは、卵巣に発生する珍しいタイプの悪性腫瘍です。

この腫瘍は胎児期の卵黄嚢に似た組織から生じ、10代後半から20代前半の女性や小児に見られます。

典型的な症状は、下腹部の違和感や膨満感、月経不順です。

卵黄嚢腫瘍の主な症状

卵黄嚢腫瘍は初期の段階では目立った症状が現れにくく、病気が進行するにつれて、体のさまざまな部位に変化が現れます。

お腹の違和感

卵黄嚢腫瘍で最も多い症状は、お腹の違和感や痛みです。

患者さんは、下腹部に何となく違和感を覚えたり、鈍い痛みを感じます。

月経の変化

卵黄嚢腫瘍ができると普段の月経とは違う時期の出血があったり、いつもより多い経血が見られたり、月経の期間が長引いたりし、月経痛がこれまでよりも強くなります。

症状	どんな特徴があるか
不規則な出血	生理でもないのに出血がある
経血量が増える	いつもより多くの出血がある
生理痛がひどくなる	これまでより強い痛みを感じる

体全体の変化

卵黄嚢腫瘍の患者さんは原因不明の疲れや食欲のなさを感じ、体重が減ります。

微熱が続くこともあり、症状が重なって現れると、体調が優れないと感じるように。

排尿に関する症状

腫瘍が大きくなってくると周りの臓器を押して、トイレに行く回数が増えたり、排尿時に痛みを感じ回数が増えたり、尿の色が変わります。

• お腹が張る感じがする
• 下腹部が痛む
• トイレに行く回数が増える
• 食べたくない
• 体がだるい

他にも現れる症状

卵黄嚢腫瘍の患者さんの中には、お腹の中や胸に水が溜まることがあります。

症状	現れる割合
お腹が痛む	多くの人
生理の異常	ある程度の人
体がだるい	ある程度の人
お腹に水がたまる	少ない人

最初は単なる月経不順だと思っていた方が、お腹の張りと痛みが少しずつ強くなっていったため詳しい検査をしたところ、卵黄嚢腫瘍だったこともあります。

長く続く不快感や違和感は軽く考えず、医療機関を受診してください。

症状	特徴的な変化
お腹の痛み	徐々に強くなる
体重の変化	急に減ることがある
疲れやすさ	日常生活に支障が出る
生理の異常	出血量や周期が変わる

卵黄嚢腫瘍の原因

卵黄嚢腫瘍は、胚細胞が異常な成長をすることで発生します。

胚細胞の変化

本来なら胚細胞はきちんとした順序で成長し、体のさまざまな部分を作り上げていきますが、何かの拍子にこの過程が乱れると、卵黄嚢腫瘍を含む胚細胞腫瘍が起こりやすくなります。

遺伝子変異

卵黄嚢腫瘍の発症には、遺伝子の変異が関係しています。

遺伝子の名前	どんな異常が起こるか
KIT遺伝子	細胞が必要以上に増える
TP53遺伝子	細胞の成長をコントロールできない

遺伝子に変異が起こると、細胞の正常な増え方や成長の仕方が崩れ、腫瘍ができやすくなるのです。

生活習慣や環境の影響

生活習慣や周りの環境も、卵黄嚢腫瘍ができるリスクに影響を与えます。

• 放射線を浴びすぎる
• 体に悪い化学物質に長い間さらされる
• いつも強いストレス
• 生活のリズムが乱れる

こういった要因が遺伝子を不安定にし、免疫の働きを弱めることで、腫瘍ができやすくなります。

年齢と卵黄嚢腫瘍

卵黄嚢腫瘍は若い人でリスクが高く、この時期に胚細胞が活発に働いていることと関係しています。

年齢	腫瘍ができるリスク
10代から20代	高い
30代から40代	やや高い
50代以上	低い

診察（検査）と診断

卵黄嚢腫瘍を正確に診断するには、まず患者さんの症状や体の状態から疑いを持ち、その後さまざまな検査を組み合わせて総合的に判断します。

初診

卵黄嚢腫瘍の初診では患者さんがどんな症状を感じているか、いつ頃から始まったのか、過去に大きな病気をしたことがあるか、家族にがんになった人がいるかを聞き取ります。

次にしこりがないか、大きさはどのくらいか、押すと痛みがあるかなどを確認し、内診で骨盤の中に異常がないかを調べます。

画像を使った検査

超音波検査は体に負担が少なくその場ですぐに結果が分かるので、最初によく使われます。

CTスキャンとMRI検査ではもっと細かく腫瘍の状態を見ることができ、他の場所に広がっていないかも確認が可能です。

検査の種類	どんな特徴があるか
超音波検査	体への負担が少なく、すぐに結果が出る
CTスキャン	詳しい画像が撮れ、広がり具合も分かる
MRI検査	柔らかい組織の様子がよく分かる

血液検査

血液検査で腫瘍マーカーを測ることで、診断の手がかりを得ます。

卵黄嚢腫瘍で上昇がみられるのは、アルファ・フェトプロテイン（AFP）です。

他にもhCGやLDHを一緒に調べて、総合的に判断します。

組織検査

卵黄嚢腫瘍を確実に診断するには、顕微鏡で組織を詳しく調べる検査が大切です。

• 顕微鏡で見た時の組織の特徴
• 特殊な染色をした時の反応
• 遺伝子を調べた結果
• 腫瘍がどのくらい成長しているか

鑑別が必要な疾患

卵黄嚢腫瘍は、他の卵巣の腫瘍と症状や画像が似ているので、鑑別が必要になります。

特に若い女性の場合、未分化胚細胞腫やテラトーマという別の種類の腫瘍との区別が重要です。

見分けが必要な病気	どんな特徴があるか
未分化胚細胞腫	AFPは正常だが、hCGが高くなる
成熟嚢胞性奇形腫	画像検査で特徴的な様子が見られる

20歳代前半の患者さんで、最初は普通の卵巣の嚢腫だと思われていたケースがありましたが、腫瘍マーカーとMRI検査の結果から卵黄嚢腫瘍の疑いが強くなり、最終的に手術をして組織を調べたことで確定診断に至りました。

診断の段階	何をするか
初診時	問診、触診、内診
画像検査	超音波、CT、MRI
血液検査	腫瘍マーカーの測定
確定診断	組織の病理検査

卵黄嚢腫瘍の治療法と処方薬、治療期間

卵黄嚢腫瘍の治療は、手術と抗がん剤治療を組み合わせます。

手術で腫瘍を取り除く

卵黄嚢腫瘍の治療で最初に行うのが、手術によるがんの切除です。

手術の目的はがんの組織をできるだけたくさん取り除くことで、その後に行う抗がん剤治療の効果をより高められます。

どんな手術をするか	どんな時に行うか
片側の卵巣と卵管を取る手術	がんが初期の段階
子宮も含めて全部取る手術	がんが進んでいる場合

手術が終わったら取り出したがんの組織を顕微鏡で詳しく調べ、結果をもとに、これからの治療方針を決めていきます。

抗がん剤治療

手術の後に行う抗がん剤治療の標準的な治療法はBEP療法で、ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンの3種類の抗がん剤を組み合わせて使う方法です。

BEP療法は3週間を1セットとして、4〜6セット行います。

抗がん剤の名前	気をつけるべき副作用
ブレオマイシン	肺に影響が出ることがある
エトポシド	血液を作る力が弱くなることがある
シスプラチン	腎臓や耳に影響が出ることがある

抗がん剤治療中は定期的に血液検査やCTなどの検査を行い、治療がうまくいっているか、副作用は出ていないかを調べます。

治療期間と治療後の経過観察

卵黄嚢腫瘍の治療は手術から抗がん剤治療が終わるまで、約3〜6ヶ月です。

治療が終わった後も再発の可能性があるので、血液検査で腫瘍マーカーを調べ、CTやエコー検査をするために、定期的に病院に通うことが欠かせません。

• 治療が終わってから2年間 1〜2ヶ月ごとに診察と検査
• 3年目から5年目まで 3〜4ヶ月ごとに診察と検査
• 5年以降 6ヶ月〜1年ごとに診察と検査

将来の妊娠の可能性

卵黄嚢腫瘍は若い女性に多い病気なので、治療が将来妊娠に与える影響を考えることが大切です。

治療を始める前に、卵子や受精卵を凍結保存することを検討します。

治療後に妊娠できる可能性は、手術でどのくらい卵巣を取ったか、抗がん剤治療をどのくらい強く行ったかによって変わってきます。

治療の種類	妊娠への影響
片側の卵巣だけを取る手術	妊娠の可能性は比較的高い
両側の卵巣を取る手術	自然妊娠は難しくなる

卵黄嚢腫瘍の治療における副作用やリスク

卵黄嚢腫瘍の治療には手術や抗がん剤治療（化学療法）などが使われますが、いろいろな副作用やリスクがついてきます。

手術に関わる副作用とリスク

卵黄嚢腫瘍の主な治療法である手術には、どんな手術にもある一般的な副作用があります。

麻酔を使うことによる体への影響や、手術後の痛み、傷口が細菌に感染するリスクです。

おなかに小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術の場合、他の臓器を傷つけたり出血することがあり、おなかを大きく切り開く開腹手術では傷口が大きいため、体の回復に時間がかかります。

抗がん剤治療（化学療法）による副作用

化学療法は、がん細胞を攻撃する一方で、体の正常な細胞にも影響を与えてしまいます。

よく見られる副作用は、吐き気、実際に吐いてしまうこと、食べ物がおいしく感じられなくなること、髪の毛が抜けることです。

血液を作る骨髄の働きが弱くなることで貧血になったり、体を守る白血球が減ったり、血を止める働きをする血小板が減ります。

副作用	どうやって対処するか
吐き気・嘔吐	吐き気を抑える薬を使う
髪の毛が抜ける	かつらを使う
血液の細胞が減る	薬の量を調整する

妊娠への影響

卵巣の一部を取り除くと、卵子の数が減り将来の妊娠に影響があります。

化学療法を行うと、一時的または長期的に卵巣の働きが弱くなる懸念も。

長期的な影響

使う抗がん剤の種類によっては、何年か経ってから副作用が現れます。

• 心臓の働きが弱くなる
• 肺の働きが弱くなる
• 別の種類のがんができるリスクが高くなる
• 若いうちに閉経（生理が完全に止まること）になる

副作用が出る時期	いつ頃か
すぐに出る副作用	治療直後〜数週間後
後から出る副作用	数ヶ月〜数年後

治療費について

手術費用の内訳

腹腔鏡下手術は、約30万円から50万円です。

開腹手術ではより高額となり、60万円から100万円程度の費用がかかります。

手術方法	概算費用
腹腔鏡下手術	30-50万円
開腹手術	60-100万円

費用には、手術室使用料、麻酔料、技術料が含まれます。

化学療法の費用

BEP療法を中心とした化学療法の費用は、1クール（3週間）あたり30万円から50万円程度です。

標準的な治療では4〜6クール行うため、総額で120万円から300万円ほどになります。

• 抗がん剤費用（ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチン）
• 投薬管理料
• 副作用対策の薬剤費
• 入院費用（必要な場合）

外来で治療を受ける場合は入院費用が不要で、総額が抑えられます。

検査・画像診断費用

治療経過のモニタリングに必要な検査や画像診断にも費用がかかります。

検査項目	概算費用
腫瘍マーカー検査	5,000-10,000円
CT検査	15,000-30,000円
MRI検査	25,000-50,000円

検査は定期的に行われるため、治療期間全体で50万円から100万円程度です。

以上