子宮内膜症 – 婦人科

子宮内膜症(endometriosis)とは、本来子宮の内側を覆うはずの子宮内膜が、何らかの原因で子宮外の場所に付着し増える疾患です。

この状態では、月経周期の度に子宮外にある内膜組織も通常の子宮内膜と同様に、肥厚と剥離を繰り返します。

腹腔内で炎症反応や組織の癒着が生じ、月経痛の増強や骨盤部の持続的な痛みが起こります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

子宮内膜症の主な症状

子宮内膜症は、月経痛の増悪や慢性的な骨盤痛、妊娠困難を起こします。

増悪する月経痛

子宮内膜症において最も頻繁に見られる症状は、従来の月経痛よりも強い痛みです。

普通の月経痛とは異なり市販の鎮痛薬では十分な効果が得られにくく、日常生活に支障をきたすほどの激痛を伴うケースも珍しくありません。

痛みの背景には、子宮内膜症によって生じる骨盤内の炎症や組織の癒着が関与しています。

月経痛子宮内膜症に伴う月経痛
市販薬で緩和可能鎮痛薬の効果が限定的
1-2日程度で軽快長期間持続する傾向あり
主に下腹部に限局腰部や背部にまで波及
生活への影響は軽度日常活動に大きな支障

持続的な骨盤部痛

子宮内膜症患者の多くが経験する症状は、月経期間外にも続く慢性的な骨盤部の痛みです。

骨盤内で続く炎症や組織の癒着が、絶え間ない痛みをたらします。

妊娠困難

子宮内膜症に起因する慢性的な炎症や組織の癒着が、卵巣機能や卵管の状態に影響を及ぼし、受精過程や胚の着床を阻害することがあります。

不妊治療を受診する女性の約3〜5割に子宮内膜症が認められるとの統計もあり、妊娠に与える影響の大きさは見過ごせません。

子宮内膜症と妊孕性低下の関連要因
卵巣予備能の低下
卵管周囲の癒着
子宮内膜環境の変化
慢性炎症による卵子質への影響
ホルモンバランスの乱れ

その他の症状

子宮内膜症は骨盤内に影響を及ぼすため、その他にもいろいろな症状が起こります。

  • 排便時の痛み・不快感
  • 性交渉時の疼痛
  • 腰部から下肢にかけての痛み
  • 排尿時の違和感や痛み
  • 慢性的な疲労感や倦怠感

子宮内膜症の原因

子宮内膜症の発症には、遺伝的要因、環境因子、免疫系の異常など、複数の要素が絡み合っています。

逆流月経

逆流月経では、月経時に子宮内膜組織の一部が卵管を通じて腹腔内に逆流し、そこで生着・増殖することで病変が形成されます。

逆流月経自体は多くの女性に起こる現象ですが、子宮内膜症の患者さんでは頻度や量が多いです。

また、子宮奇形や子宮頸管狭窄など、逆流を促す解剖学的な要因を持つ女性で発症リスクが高まります。

免疫系の影響

正常な状態では、腹腔内に逆流した子宮内膜組織は免疫系によって排除できますが、子宮内膜症患者さんでは、免疫応答がきちんと機能していない可能性があります。

免疫系の異常子宮内膜症への影響
NK細胞活性低下異所性内膜組織の排除不全
マクロファージ機能異常炎症反応の持続
自己抗体産生組織障害と癒着形成
T細胞バランスの乱れ局所免疫応答の変調

ホルモン環境

子宮内膜症の発症と進行には、エストロゲンが関与しています。

エストロゲンは子宮内膜組織を増やす作用があり、子宮内膜症病変の成長にも欠かせないホルモンです。

子宮内膜症患者さんでは、次のようなホルモン環境の異常が見られます。

  • 局所的なエストロゲン産生の増加
  • エストロゲン受容体の発現亢進
  • プロゲステロン抵抗性の獲得
  • アロマターゼ活性の上昇

このような要因があると、子宮内膜症病変が持続的にエストロゲンの影響を受け、増えたり大きくなります。

ホルモン因子子宮内膜症への影響
局所エストロゲン産生↑病変の増殖促進
エストロゲン受容体↑ホルモン感受性亢進
プロゲステロン抵抗性増殖抑制作用の低下
アロマターゼ活性↑エストロゲン産生増加

遺伝的要因

子宮内膜症の家族歴のある女性では子宮内膜症の発症リスクが高く、子宮内膜症の遺伝率は約50%です。

遺伝的要因子宮内膜症との関連
第一度近親者での発症リスク3-7倍増加
双子での一致率一卵性で顕著に高い
感受性遺伝子座複数同定されている
エピジェネティック変化DNA メチル化異常など

環境因子

子宮内膜症の発症に関して、内分泌かく乱物質(環境ホルモン)であるダイオキシン類や多塩化ビフェニル(PCB)が関係している可能性があります。

また、過度の飲酒や喫煙、運動不足、高脂肪食も、ホルモンバランスの乱れや慢性炎症の原因です。

診察(検査)と診断

子宮内膜症の診断は、問診、身体診察、各種画像検査を通して行われます。

問診と身体診察

子宮内膜症の問診では患者さんが経験している症状、持続期間、月経周期との関連性、日常生活への影響度を聞き取り、子宮内膜症の可能性を評価します。

身体診察では、骨盤内の触診や双合診を通じて、圧痛の有無、子宮や卵巣の腫大、骨盤内の腫瘤形成などを確認していきます。

症状聴取のポイント身体診察のチェック項目
疼痛の性質と発生部位骨盤内の圧痛箇所と程度
月経周期との関連性子宮の大きさと可動性
症状の経時的変化付属器領域の腫瘤の有無
家族歴の確認ダグラス窩の硬結や圧痛
既往歴(特に婦人科手術歴)子宮頸部の視診所見

画像診断

問診と身体診察の後に画像検査を実施し、病変の位置や大きさ、周囲組織への影響などを調べます。

経腟超音波検査は患者さんの負担が少なく繰り返し行えるため、初期の段階で広く用いられる方法です。

MRI検査は深部子宮内膜症の評価や、他の骨盤内疾患との鑑別に優れています。

血液検査と腫瘍マーカー

血液検査や腫瘍マーカーの測定は、子宮内膜症の診断のために補助的に使われます。

ただし、CA125は子宮内膜症に関連する腫瘍マーカーであるものの、値の上昇は子宮内膜症に特異的ではありません。

他の婦人科疾患や炎症性疾患でも上昇するので、CA125の値は他の臨床所見や検査結果と併せて総合的に評価することが不可欠です。

検査項目臨床的意義
CA125子宮内膜症の活動性評価と経過観察
CRP骨盤内炎症の程度の客観的評価
血算慢性的な出血による貧血の有無の確認
女性ホルモン値内分泌環境の評価と治療方針の決定
HE4卵巣癌との鑑別に有用な新規マーカー

腹腔鏡検査と病理組織診断

子宮内膜症の最終的な確定診断には腹腔鏡検査が使われます。

直接骨盤内の病変を観察し、同時に組織を採取することで病理学的な確定診断が可能です。

腹腔鏡検査の実施を積極的に検討すべきケース

  • 非侵襲的な画像検査では診断の確定が困難
  • 症状が重度で、早急な治療方針の決定が求められる
  • 不妊治療の一環として、詳細な病変の評価が必要
  • 悪性腫瘍との鑑別が必要
  • 保存的治療に抵抗性を示し、外科的治療の検討が必要

子宮内膜症の治療法と処方薬、治療期間

子宮内膜症の治療は薬物療法と手術療法に大別され、患者さんの年齢、症状の程度、妊娠希望などを総合的に考慮して選択します。

薬物療法

薬物療法は子宮内膜症の第一選択肢で、ホルモン療法が中心です。

ホルモン治療法は、エストロゲンの分泌を抑制することで症状の改善を目指します。

使われる薬剤

  • 低用量ピル(経口避妊薬):排卵を抑制し、症状の軽減を図る。
  • ジエノゲスト(プロゲステロン製剤):子宮内膜の増殖を抑え、痛みを軽減。
  • GnRHアゴニスト:卵巣機能を一時的に停止させ、症状の改善を目指す。
  • レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS):子宮内に直接ホルモンを放出し、局所的に作用。
薬剤名作用治療期間の目安特徴
低用量ピル排卵抑制3-6ヶ月以上避妊効果も期待できる
ジエノゲスト子宮内膜増殖抑制6-12ヶ月痛み軽減効果が高い
GnRHアゴニスト卵巣機能の一時的停止最長6ヶ月閉経様状態を誘導
LNG-IUS局所的なホルモン作用5年間留置可能長期的な症状管理に有効

手術療法

薬物療法で十分な効果が得られなかったり大きな嚢胞があるときには、手術療法を検討します。

患者さんの負担を軽減するため、低侵襲な腹腔鏡下手術が主流です。

手術の種類

  1. 保存手術:子宮や卵巣を温存しながら病変を除去し、妊孕性を維持。
  2. 根治手術:重症例で子宮や卵巣の摘出を行い、症状の完全な改善を目指す。
手術法特徴入院期間の目安回復期間
腹腔鏡下手術低侵襲・早期回復3-5日1-2週間
開腹手術広範囲の処置が可能7-10日4-6週間
ロボット支援手術精密な操作が可能3-5日1-2週間
子宮鏡下手術子宮内病変に対応日帰り-2日数日-1週間

手術後は再発予防のため薬物療法を併用し、治療期間は数ヶ月から数年です。

痛み止め

子宮内膜症に伴う痛みの管理には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が使用されます。

薬剤名使用のタイミング注意点特性
ロキソプロフェン痛み発現時胃腸障害に注意即効性がある
ジクロフェナク予防的投与長期使用は避ける持続的な効果
セレコキシブ定期的な服用心血管リスクに注意胃腸への負担が少ない
メロキシカム長期使用に適する肝機能障害に注意1日1回の服用で済む

痛み止めは短期的な症状緩和には有効ですが、根本的な治療ではないため、他の治療法と組み合わせます。

子宮内膜症の治療における副作用やリスク

子宮内膜症の治療には、ホルモン療法や手術療法があり、それぞれに固有の副作用やリスクがあります。

ホルモン療法に伴う副作用

ホルモン療法は低エストロゲン状態を意図的に起こすため、更年期のような症状が現れることが少なくありません。

また、長期にわたる使用では骨密度の低下が懸念されるため、定期的な骨密度測定が必要です。

副作用発現頻度対処法
ホットフラッシュ生活習慣の調整、漢方薬の併用
体重増加食事指導、運動療法
気分変動カウンセリング、必要に応じて向精神薬
骨密度低下低〜中カルシウム摂取、ビタミンD補充
不正出血中〜高経過観察、必要時薬剤調整

手術療法に伴うリスク

手術療法は即効性が期待できる一方で、侵襲的な治療法であるためリスクは避けられません。

腹腔鏡手術は低侵襲ですが、出血や感染といった手術リスクはあります。

さらに、周辺臓器の損傷や、術後の癒着による新たな症状が現れることにも注意を払うことが必要です。

薬物療法がもたらす全身への影響

ホルモン療法や鎮痛剤は、子宮内膜症に伴う諸症状の緩和に効果を示す一方で、全身へのさまざまな影響もあります。

長期にわたる薬物療法は、肝機能や腎機能に負担をかけるため、定期的な血液検査によるモニタリングが欠かせません。

また、ホルモン製剤使用時には血栓症のリスクがあります。

薬剤全身への影響リスク管理策
経口避妊薬血栓症リスク上昇禁煙指導、定期的な血液検査
GnRHアゴニスト骨密度低下、脂質代謝異常骨密度測定、add-back療法
NSAIDs胃腸障害、腎機能低下胃粘膜保護剤併用、腎機能モニタリング
ジエノゲスト不正出血、脂質異常症鉄剤補充、定期的な血液検査
ダナゾール男性化徴候、肝機能障害肝機能モニタリング、使用期間の制限

妊孕性への影響

手術療法、特に卵巣チョコレート嚢胞に対する嚢胞摘出術は慎重な判断が必要で、一方、ホルモン療法は治療期間中に妊娠を抑えますが、中止後の妊孕性の回復は良好です。

妊孕性温存の観点から注意が必要な点

  • 卵巣組織の過剰な切除を避けるための手術技法の選択
  • ホルモン療法による一時的な排卵抑制と、治療中止後の妊孕性回復
  • 患者さんの年齢による妊孕性低下と、治療介入のタイミングとの兼ね合い
  • 治療の遅延による病変進行が妊孕性に及ぼす潜在的リスクの評価
  • 卵子凍結の検討

再発リスクと長期的な管理

保存的手術後の5年再発率は約50%で、手術単独では完治が困難です。

ホルモン療法も効果は投与期間中に限定され、中止後に症状が再燃するケースが少なくありません。

治療法5年再発率再発リスク低減策
保存的手術単独約50%術後ホルモン療法の併用
ホルモン療法単独中止後再燃あり長期継続投与の検討
手術+術後ホルモン療法再発率低下定期的な画像検査による経過観察
根治的手術(子宮全摘+両側付属器切除)10%未満閉経後HRTのリスク評価

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法にかかる費用

薬物療法は子宮内膜症の主要な治療法で、ホルモン剤や鎮痛剤が使用されます。

薬剤名1ヶ月あたりの概算費用
低用量ピル3,000円~8,000円
ジエノゲスト7,000円~12,000円
GnRHアゴニスト15,000円~25,000円

薬剤は保険適用です。

手術療法の費用

症状が重度のときは、手術を選択します。

手術方法概算費用(保険適用前)
腹腔鏡下手術30万円~50万円
開腹手術40万円~60万円

費用には入院費も含まれています。

検査費用

子宮内膜症の診断や経過観察には、さまざまな検査が必要です。

  • 経腟超音波検査:5,000円~8,000円
  • MRI検査:20,000円~30,000円
  • 血液検査:5,000円~10,000円

以上

References

Lebovic DI, Mueller MD, Taylor RN. Immunobiology of endometriosis. Fertility and sterility. 2001 Jan 1;75(1):1-0.

Jubanyik KJ, Comite F. Extrapelvic endometriosis. Obstetrics and gynecology clinics of North America. 1997 Jun 1;24(2):411-40.

Symons LK, Miller JE, Kay VR, Marks RM, Liblik K, Koti M, Tayade C. The immunopathophysiology of endometriosis. Trends in molecular medicine. 2018 Sep 1;24(9):748-62.

Johnson NP, Hummelshoj L, Adamson GD, Keckstein J, Taylor HS, Abrao MS, Bush D, Kiesel L, Tamimi R, Sharpe-Timms KL, Rombauts L. World Endometriosis Society consensus on the classification of endometriosis. Human reproduction. 2017 Feb 1;32(2):315-24.

Eskenazi B, Warner ML. Epidemiology of endometriosis. Obstetrics and gynecology clinics of North America. 1997 Jun 1;24(2):235-58.

Leyland N, Casper R, Laberge P, Singh SS, Allen L, Arendas K, Leyland N, Allaire C, Awadalla A, Best C, Contestabile E. Endometriosis: diagnosis and management. Journal of Endometriosis. 2010 Jul;2(3):107-34.

Olive DL, Pritts EA. Treatment of endometriosis. New England Journal of Medicine. 2001 Jul 26;345(4):266-75.

Cramer DW, Missmer SA. The epidemiology of endometriosis. Annals of the new york Academy of Sciences. 2002 Mar;955(1):11-22.

Vercellini P, Viganò P, Somigliana E, Fedele L. Endometriosis: pathogenesis and treatment. Nature Reviews Endocrinology. 2014 May;10(5):261-75.

Falcone T, Flyckt R. Clinical management of endometriosis. Obstetrics & Gynecology. 2018 Mar 1;131(3):557-71.

免責事項

当記事は、医療や介護に関する情報提供を目的としており、当院への来院を勧誘するものではございません。従って、治療や介護の判断等は、ご自身の責任において行われますようお願いいたします。

当記事に掲載されている医療や介護の情報は、権威ある文献(Pubmed等に掲載されている論文)や各種ガイドラインに掲載されている情報を参考に執筆しておりますが、デメリットやリスク、不確定な要因を含んでおります。

医療情報・資料の掲載には注意を払っておりますが、掲載した情報に誤りがあった場合や、第三者によるデータの改ざんなどがあった場合、さらにデータの伝送などによって障害が生じた場合に関しまして、当院は一切責任を負うものではございませんのでご了承ください。

掲載されている、医療や介護の情報は、日付が付されたものの内容は、それぞれ当該日付現在(又は、当該書面に明記された時点)の情報であり、本日現在の情報ではございません。情報の内容にその後の変動があっても、当院は、随時変更・更新することをお約束いたしておりませんのでご留意ください。