子宮筋腫 – 婦人科

子宮筋腫(uterine fibroids)とは、子宮の筋肉組織から発生する良性腫瘍です。

エストロゲンなどの女性ホルモンの影響を受けて成長するため、月経のある年代の女性に見られ、閉経後に縮小します。

大きさは米粒大から人頭大まであり、単発または多発し、症状は月経痛の悪化や出血量の増加です。

子宮筋腫は珍しい病気ではなく30~40代の女性の約3割に見られ、加齢とともに発生率が高くなります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

子宮筋腫の種類(病型)

子宮筋腫は発生部位によって粘膜下筋腫、筋層内筋腫、漿膜下筋腫の3つの病型に分類されます。

粘膜下筋腫

粘膜下筋腫は子宮内腔に突出するため、月経量の増加や不正出血を起こしやすく、大きさや突出の程度によっては、不妊の原因になります。

筋層内筋腫

筋層内筋腫は子宮筋層内に発生するため、外部からは見えにくいことがあります。

しかし、大きくなると子宮の形状や大きさに影響を与えます。

漿膜下筋腫

漿膜下筋腫は子宮の外側に向かって成長するため、大きくなると周囲の臓器を圧迫し、いろいろな症状を起こす病型です。

    漿膜下筋腫は茎を持って子宮から突出することがあり、茎捻転を起こし、急性腹症の原因になります。

    病型発生部位
    粘膜下筋腫子宮内膜直下
    筋層内筋腫子宮筋層内
    漿膜下筋腫子宮外側(漿膜下)

    複合型筋腫

    実際の臨床では単一の病型だけでなく、複数の病型が同時に存在する複合型筋腫も珍しくありません。

    複合型筋腫の場合、症状や影響はより複雑になり、個別の状況に応じた評価と管理が必要です。

    複合型特徴
    粘膜下+筋層内月経症状と圧迫症状の両方が出現
    筋層内+漿膜下多様な症状が複合的に現れる

    子宮筋腫の主な症状

    子宮筋腫は各タイプの筋腫によって起こる症状は多岐にわたるので、早期発見と対応が必要です。

    子宮筋腫の症状

    子宮筋腫の症状には、月経量の増加、月経痛の悪化、頻繁な尿意、便通の異常がありますが、全く症状を感じない方もいます。

    日常生活に大きな支障をきたすほど重篤な場合もあれば、わずかな不快感程度で済むことも。

    粘膜下筋腫の症状

    粘膜下筋腫は子宮内腔に突出する性質があるため、月経に関連する症状が顕著に現れます。

    • 月経量の著しい増加(過多月経)
    • 月経期間外の出血(不正出血)
    • 鉄分不足による貧血
    • 月経痛の増強
    症状特徴
    過多月経通常の2-3倍の出血量
    不正出血茶褐色のおりものや少量の出血
    貧血顔色不良、疲労感、めまい
    月経痛増強鎮痛剤が効きにくい痛み

    筋層内筋腫の症状

    筋層内筋腫は子宮筋層内にでき、子宮全体の肥大を招きます。

    • 下腹部の膨満感や不快な圧迫感
    • 頻繁な尿意(膀胱が圧迫されることによる)
    • 便秘傾向(直腸が圧迫されることによる)
    • 腰部や下腹部の鈍痛
    筋腫の大きさ症状の程度
    小さい(2cm未満)無症状が多い
    中程度(2-5cm)軽度の症状が出現
    大きい(5cm以上)顕著な症状が現れる

    筋腫が徐々に大きくなるにつれて、症状は段階的に悪化します。

    漿膜下筋腫の症状

    漿膜下筋腫は子宮の外側に向かって突出するタイプの筋腫です。

    • 下腹部の違和感や持続的な圧迫感
    • 腰部の不快な痛み
    • 排尿障害や便通異常(筋腫が一定以上の大きさになった場合)
    症状発生メカニズム患者さんの訴え
    下腹部違和感筋腫による物理的圧迫お腹が張っている感じ
    腰痛筋腫の重さによる骨盤への負担腰が重い、だるい
    排尿障害膀胱への圧迫トイレが近い、出にくい
    便通異常直腸への圧迫便秘がちになった

    漿膜下筋腫は他の種類の筋腫と比較して、月経に関連する症状は少ないです。

    子宮筋腫の原因

    子宮筋腫の発生メカニズムは完全には解明されていませんが、遺伝的背景、ホルモンバランス、環境からの影響、日々の生活習慣が関与していると考えられています。

    遺伝的背景

    家族歴のある女性は、そうでない女性と比較して子宮筋腫を発症するリスクが高いです。

    遺伝的要因関連性
    家族歴リスク増加
    遺伝子変異発生メカニズムに関与
    染色体異常筋腫細胞での頻度が高い

    ホルモンバランスの影響

    エストロゲンとプロゲステロンは、筋腫細胞の増殖を促進する作用を持つことが明らかになっています。

    環境因子

    環境中にあるホルモン様物質や化学物質へさらされることがが、筋腫発生のリスクを高めます。

    さらに、日常的なストレスや生活環境の急激な変化も、間接的に子宮筋腫の発生や成長を促進する要因です。

    環境要因推定される影響
    環境ホルモン内分泌撹乱作用
    化学物質曝露細胞増殖への影響
    ストレスホルモンバランスの乱れ

    生活習慣

    生活習慣もまた、子宮筋腫の発生リスクに影響を及ぼす原因の一つです。

    • 肥満や急激な体重増加
    • 慢性的な運動不足
    • 習慣的なアルコールの過剰摂取
    • 偏った食生活(赤身肉の過度な摂取)

    このような生活習慣は、体内のホルモンバランスを乱したり、慢性的な炎症状態を起こすことで、間接的に子宮筋腫の発生リスクを上昇させます。

    年齢と子宮筋腫

    子宮筋腫は30代後半から40代にかけて発生することが多く、閉経後はホルモンの自然な低下に伴い、自然に縮小していきます。

    年齢に伴うホルモン環境の変化や細胞レベルでの老化が、子宮筋腫の発生や成長パターンに大きな影響を与えています。

    年齢層子宮筋腫の特徴
    20代以下まれ
    30-40代発見頻度が高い
    閉経後自然縮小傾向

    診察(検査)と診断

    子宮筋腫の診断は、問診から始まり、身体診察、そして最新の画像技術を活用した精密検査へと進んでいきます。

    問診と内診

    子宮筋腫の問診では月経の状態(量や周期の変化など)、下腹部の不快感や張り、排尿や排便の変化といった日常生活での気になる症状について、聞き取ります。

    問診に引き続いて行われるのが内診です。

    内診では、子宮の大きさや形状、硬さ、周囲との癒着の有無を、評価していきます。

    診察項目確認内容得られる情報
    問診月経状態、腹部症状、排泄状況患者さんの自覚症状、生活への影響
    内診子宮の大きさ、形状、硬さ、可動性子宮の物理的特徴、周囲組織への影響

    画像検査

    問診と内診の結果子宮筋腫が疑われる場合、次の段階として画像検査を実施します。

    画像検査は、子宮内部の状態を非侵襲的に観察できる診断方法です。

    用いられる画像検査

    • 経腹超音波検査 体表から広範囲を観察
    • 経腟超音波検査 子宮に近接してより詳細に観察
    • MRI検査 高精細な断層画像を取得
    • CT検査 必要に応じて全身の状態を確認

    経腟超音波検査は子宮を近くで観察できるため、筋腫の大きさや位置、数を正確に把握するのに有用です。

    MRI検査はより精密な画像が得られ、筋腫と他の病変(子宮腺筋症や子宮内膜症など)との鑑別にも役立ちます。

    検査方法特徴得られる情報
    経腹超音波広範囲の観察が可能、非侵襲的子宮全体の大きさ、大まかな腫瘤の位置
    経腟超音波子宮の詳細な観察が可能筋腫の正確な大きさ、位置、数
    MRI高精細な断層画像、鑑別診断に有用筋腫の詳細な性状、他の病変との区別
    CT全身の状態を確認可能大きな筋腫による周囲臓器への影響

    臨床診断と鑑別すべき疾患

    問診、内診、画像検査の結果を総合的に分析し臨床診断をくだしますが、この段階で重要なのは、子宮筋腫以外の疾患との鑑別です。

    子宮筋腫と症状や画像所見が似ている疾患

    • 子宮腺筋症 子宮筋層内に内膜組織が入り込む疾患
    • 子宮内膜ポリープ 子宮内膜から発生する良性腫瘍
    • 子宮肉腫 子宮から発生する悪性腫瘍
    • 卵巣腫瘍 卵巣から発生する良性または悪性の腫瘍

    確定診断のための組織検査

    画像検査などで子宮筋腫が強く疑われると、多くはその時点で臨床診断が確定診断です。

    それでも悪性腫瘍の可能性が完全には否定できないときは、組織検査を実施します。

    組織検査の方法

    • 子宮内膜生検 外来で実施可能な簡便な検査
    • 子宮鏡下生検 子宮鏡を用いて直視下で組織を採取
    • 開腹手術による生検 大きな腫瘤の一部を切除して検査
    検査方法特徴適応
    子宮内膜生検低侵襲、外来で可能子宮内膜の異常が疑われる場合
    子宮鏡下生検直視下で正確に採取可能子宮内腔の異常が疑われる場合
    開腹手術生検大きな組織片の採取が可能悪性腫瘍の可能性が否定できない場合

    組織検査により良性の筋腫か、あるいは悪性腫瘍(子宮肉腫など)かを診断することが可能です。

    子宮筋腫の治療法と処方薬、治療期間

    子宮筋腫の治療法は、経過観察、薬物療法、手術療法があります。

    経過観察

    症状が軽微で筋腫のサイズが小さい方には、定期的な経過観察が選択されるケースが少なくありません。

    3〜6ヶ月ごとの超音波検査や診察を通じて、筋腫の成長速度や症状の変化をモニタリングしていきます。

    薬物療法

    薬物療法は、症状の軽減や筋腫の縮小が目標です。

    用いられる薬物療法

    • GnRHアゴニスト(性腺刺激ホルモン放出ホルモンアゴニスト):一時的に閉経状態を作り出し、筋腫を縮小させる
    • 低用量ピル(経口避妊薬):過多月経の改善に効果がある
    • 黄体ホルモン製剤:月経困難症の軽減に有効
    • 抗プロゲステロン薬:筋腫の増大を抑制する
    • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬):痛みや炎症を和らげる
    薬物療法効果使用期間
    GnRHアゴニスト筋腫縮小、症状改善3〜6ヶ月
    低用量ピル過多月経の改善3〜6ヶ月以上
    黄体ホルモン月経困難症の軽減3〜6ヶ月以上

    手術療法

    手術療法は薬物療法で十分な効果が得られなかったり、筋腫が大きいときに選択されることが多いです。

    1. 子宮全摘出術:子宮全体を摘出する根治的な方法
    2. 筋腫核出術:筋腫のみを選択的に取り除く方法
    3. 子宮動脈塞栓術:筋腫への血流を遮断することで縮小を図る方法
    4. 高密度焦点式超音波治療:超音波エネルギーを用いて筋腫を壊死させる非侵襲的な方法
    手術方法特徴入院期間
    子宮全摘出術再発なし、妊娠不可能5〜7日程度
    筋腫核出術子宮温存、再発可能性あり3〜5日程度
    動脈塞栓術低侵襲、再発可能性あり1〜2日程度

    治療期間と長期的な経過観察

    薬物療法の治療期間は3〜6ヶ月で、手術療法の場合手術自体は1日で完了し、その後の回復期間や継続的な経過観察期間が必要です。

    治療法初期治療期間経過観察期間
    経過観察閉経まで継続
    薬物療法3〜6ヶ月症状に応じて調整
    手術療法手術日+回復期間半年〜1年ごとに確認

    子宮筋腫の治療における副作用やリスク

    子宮筋腫の治療には薬剤療法や手術療法がありますが、それぞれの治療法に固有の副作用やリスクが伴います。

    薬物療法に伴う副作用

    子宮筋腫の薬物療法ではホルモン剤が使用され、副作用が報告されています。

    よく見られる副作用

    • ホットフラッシュ(突然の発汗や顔面紅潮)
    • 骨密度の低下(長期使用時)
    • 不規則な出血
    • 頭痛や吐き気
    • 気分の変動
    薬剤名副作用対策・注意点
    GnRHアゴニスト更年期様症状、骨密度低下使用期間の制限、add-back療法の併用
    黄体ホルモン製剤不正出血、体重増加定期的な体重管理、出血パターンの観察
    選択的プロゲステロン受容体調節薬頭痛、吐き気症状に応じた対症療法

    副作用の多くは一時的なものでも、長期使用には十分な注意が必要です。

    子宮動脈塞栓術のリスク

    子宮動脈塞栓術は低侵襲な治療法ですが、以下のようなリスクもあります。

    • 一時的な発熱や腹痛(術後症候群)
    • 骨盤内感染症
    • 子宮壊死(まれですが重大な合併症)
    • 卵巣機能の一時的または永続的な低下
    リスク発生頻度対策・注意点
    術後症候群90%以上術前説明、疼痛管理
    感染症1-2%術前の抗生剤投与、清潔操作の徹底
    子宮壊死1%未満塞栓物質の選択、技術の向上

    子宮鏡下筋腫核出術のリスク

    子宮鏡下筋腫核出術は粘膜下筋腫に対して行われる低侵襲手術であるものの、リスクもあります。

    • 子宮穿孔(子宮壁に穴が開くこと)
    • 過度の出血
    • 術後感染
    • 水中毒(灌流液の過剰吸収によるもの)
    リスク発生頻度予防策・対応
    子宮穿孔約1%術者の技術向上、器具の選択
    感染1-2%術前抗生剤投与、術中の無菌操作
    水中毒1%未満手術時間の管理、灌流液バランスの厳密な観察

    開腹手術・腹腔鏡下手術のリスク

    開腹手術や腹腔鏡下手術には、他の外科的処置と同様のリスクがあります。

    • 術中・術後の出血
    • 術後感染
    • 周辺臓器(膀胱、尿管、腸管など)の損傷
    • 術後の癒着形成
    • 麻酔に関連する合併症

    大きな筋腫や多発性の筋腫では出血のリスクが高くなり、時には輸血が必要です。

    また、術後の癒着は妊娠に影響を与えるため、癒着防止材の使用など予防策を講じます。

    手術方法リスク特徴・注意点
    開腹手術創部感染、癒着大きな切開創、回復に時間を要する
    腹腔鏡下手術臓器損傷、気腹関連合併症低侵襲だが高度な技術が必要

    子宮全摘出術のリスクと長期的影響

    子宮全摘出術は筋腫再発のリスクがなくなる一方で、手術に伴うリスクと長期的な影響があります。

    • 術中・術後の出血
    • 術後感染
    • 周辺臓器(膀胱、尿管、直腸)の損傷
    • 尿路系の合併症(尿失禁、排尿障害)
    • 早期閉経(卵巣も同時に摘出した場合)

    術後のホルモンバランスの変化に伴う身体的な影響についても、事前に理解しておくことが大切です。

    治療費について

    治療費についての留意点

    実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

    薬物療法の費用

    GnRHアゴニスト注射は1回あたり2万円から3万円程度で、3〜6ヶ月間継続します。

    低用量ピルは1ヶ月分で、2,000円から3,000円程度です。

    手術療法の費用

    手術療法の費用

    手術方法概算費用(3割負担の場合)
    子宮全摘出術20万円〜30万円
    筋腫核出術15万円〜25万円
    子宮動脈塞栓術10万円〜20万円

    非侵襲的治療の費用

    高密度焦点式超音波治療(HIFU)などの非侵襲的治療は、保険適用外のことが多く、全額自己負担となります。

    HIFUは、1回の治療で50万円から100万円程度です。

    以上

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