深在(しんざい)性カンジダ症(invasive candidiasis)とは、カンジダ属の真菌が引き起こす全身性の感染症のことです。
カンジダ属の真菌は、健康な人の皮膚や粘膜に普通に存在していますが、免疫力が落ちた状態では、カンジダ属の真菌が血液中に入り込み、全身に感染が広がることがあります。
深在性カンジダ症は、免疫力の低下した患者さんや集中治療室で管理が必要な重症の患者さんなどに発症しやすいです。
深在性カンジダ症の種類(病型)
深在性カンジダ症は、カンジダ血症、播種性カンジダ症、慢性播種性カンジダ症の3つの主要な病型に分けられます。
カンジダ血症
カンジダ血症は、カンジダ属真菌が血流に侵入し、血液中で増殖することで発症する病型で、カンジダ属真菌が血管内で増殖し、全身の臓器に播種する可能性があります。
病型 | 特徴 |
カンジダ血症 | カンジダ属真菌が血流に侵入し、血液中で増殖 |
播種性カンジダ症 | カンジダ属真菌が全身の臓器に播種 |
播種性カンジダ症
播種性カンジダ症は、カンジダ属真菌が血流を介して全身の臓器に播種し、多臓器障害を引き起こす病型です。
この病型では、カンジダ属真菌が肝臓、脾臓、腎臓、肺などの臓器に播種し、それぞれの臓器で炎症や膿瘍を形成します。
播種性カンジダ症における主な臓器別の病変
- 肝臓:多発性の微小膿瘍
- 脾臓:多発性の微小膿瘍
- 腎臓:腎膿瘍、腎盂腎炎
- 肺:肺炎、肺膿瘍
慢性播種性カンジダ症
慢性播種性カンジダ症は、播種性カンジダ症の一亜型であり、カンジダ属真菌が長期間にわたって全身の臓器に播種し、慢性的な多臓器障害を引き起こす病型です。
主に免疫抑制状態の患者さんに発症し、肝脾腫や眼内炎などの特徴的な症状が現れます。
病型 | 特徴 |
慢性播種性カンジダ症 | カンジダ属真菌が長期間にわたって全身の臓器に播種し、慢性的な多臓器障害を引き起こす |
肝脾カンジダ症 | 肝脾腫を呈する慢性播種性カンジダ症の一亜型 |
深在性カンジダ症の主な症状
深在性カンジダ症は、症状が非特異的なため、早期発見が難しい感染症です。
発症初期は、はっきりとした症状が出ないことが多く、感染が進んでから症状が目立ってきます。
発熱
深在性カンジダ症で最もよくみられる症状は、発熱で、38℃以上の熱が出ることが多いです。
発熱は、抗真菌薬での治療を始めてからも数日間続くことがあります。
発熱の程度 | 体温 |
微熱 | 37℃台 |
中等度の発熱 | 38℃台 |
高熱 | 39℃以上 |
全身倦怠感
深在性カンジダ症では、全身のだるさを伴うことがあり、発熱と一緒に現れることが多く、感染が進むにつれてひどくなります。
全身倦怠感の程度 | 説明 |
軽度 | 日常生活に支障はないが、だるさを感じる |
中等度 | 日常生活に支障が出るほどのだるさ |
重度 | 安静にしていてもだるさが続く |
臓器特異的症状
深在性カンジダ症では、感染した臓器によって特有の症状が出ることがあります。
播種性病変
深在性カンジダ症では、感染が全身に広がる播種性病変を伴うことがあります。
播種性病変は、カンジダ血症の後に発症することが多く、皮膚、眼、肝臓、脾臓、腎臓などにたくさんの膿瘍ができます。
播種性病変を疑わせる皮膚の症状
- 赤〜紫色のしこりのような発疹
- 中心部が壊死し、周りが赤く腫れた発疹
- たくさんの皮下のしこり
深在性カンジダ症の原因・感染経路
深在性カンジダ症は、カンジダ属酵母の一種であるカンジダ・アルビカンスやカンジダ・グラブラータなどが原因で、主に日和見感染によって感染が成立します。
カンジダ属酵母
深在性カンジダ症の原因菌であるカンジダ属酵母は、健康な人の皮膚や粘膜に常在しています。
特に、口腔内や腸管内、腟内などに多く存在しており、通常は病原性を示しません。
カンジダ属酵母の種類 | 主な常在部位 |
カンジダ・アルビカンス | 口腔内、腸管内、腟内 |
カンジダ・グラブラータ | 口腔内、腸管内 |
日和見感染
深在性カンジダ症の主な感染経路
- 常在菌からの内因性感染
- 医療関連感染(カテーテル関連血流感染など)
- 外因性感染(手術部位感染など)
感染経路 | 詳細 |
常在菌からの内因性感染 | 宿主の免疫力低下により、常在菌が病原性を獲得 |
医療関連感染 | カテーテル挿入部位や血管内留置カテーテルからの感染 |
外因性感染 | 手術部位や外傷部位からの感染 |
感染のリスク因子
深在性カンジダ症に感染するリスク因子
- 免疫抑制状態(悪性腫瘍、臓器移植、HIV感染など)
- 広域抗菌薬の長期使用
- 中心静脈カテーテルの留置
- 集中治療室への長期入院
予防法
深在性カンジダ症を予防するためには、対策を取ることが大切です。
- 免疫抑制状態を改善すること
- 不必要な抗菌薬の使用を制限すること
- 中心静脈カテーテルを早期に抜去すること
- 手指衛生を徹底すること
診察(検査)と診断
深在性カンジダ症の診断は、症状が明確でないため、診断が遅れがちです。 確定診断をつけるには、無菌の場所からカンジダ属を見つける必要があります。
問診・身体診察
深在性カンジダ症の診察では、まず問診と身体診察を行います。
発熱、全身のだるさなどの症状の有無や、免疫が抑えられている状態かどうか、カテーテルを入れているかどうかなどの危険因子を確認。
項目 | 内容 |
問診 | 発熱、全身のだるさなどの症状の有無、免疫が抑えられている状態かどうか、カテーテルを入れているかどうかなど |
身体診察 | 全身の状態の評価、皮膚・粘膜の異常の有無、臓器特有の症状の有無など |
血液検査
深在性カンジダ症の診断に役立つ血液検査
検査 | 基準値 |
β-Dグルカン | 11pg/mL |
カンジダマンナン抗原 | 0.5ng/mL |
プロカルシトニン | 0.5ng/mL |
画像検査
深在性カンジダ症では、感染した臓器に合わせて画像検査を行うと、 CTやMRIで、肝臓や脾臓の膿瘍、腎臓の膿瘍などの病変を見つけられます。
- 胸部CT検査:肺の病変の評価
- 腹部CT検査:肝臓や脾臓の膿瘍、腎臓の膿瘍などの評価
- 頭部MRI検査:脳の病変の評価
確定診断
深在性カンジダ症の確定診断をつけるには、無菌の場所からカンジダ属を見つける必要があり、血液培養検査が最も重要な検査ですが、見つかる確率は必ずしも高くありません。
確定診断に役立つ検査
- 血液培養検査
- 無菌の場所(髄液、胸水、腹水など)の培養検査
- 組織の生検検査
カンジダ属が見つかった場合は、抗真菌薬が効くかどうかの検査を行い、治療方針を決めます。
深在性カンジダ症の治療法と処方薬
深在性カンジダ症の治療には、抗真菌薬の投与が欠かせません。 患者さんの病態や感染の重症度に応じて、薬剤を選択します。
治療の基本方針
深在性カンジダ症の治療方針
- 感染源の同定と除去
- 抗真菌薬の全身投与
- 免疫抑制状態の改善
- 合併症の予防と管理
主な抗真菌薬
深在性カンジダ症の治療に用いられる主な抗真菌薬
薬剤クラス | 代表的な薬剤 |
アゾール系 | フルコナゾール、ボリコナゾール |
キャンディン系 | ミカファンギン、カスポファンギン |
ポリエン系 | リポソーマルアムホテリシンB |
治療期間と投与経路
深在性カンジダ症の治療期間は、感染の重症度や患者の反応性によって異なります。
投与経路 | 適応 |
静脈内投与 | 重症例、経口投与が困難な場合 |
経口投与 | 軽症例、静脈内投与後の維持療法 |
治療効果の判定
深在性カンジダ症の治療効果は、次の指標を用いて判定します。
- 臨床症状の改善
- 血液培養の陰性化
- 画像所見の改善(CT、MRIなど)
- 炎症反応の正常化(CRP、プロカルシトニンなど)
治療に必要な期間と予後について
深在性カンジダ症では、免疫が抑えられている患者さんや、全身の状態が悪い患者さんは、治療期間が長引き、予後が悪くなる可能性があります。
治療期間
深在性カンジダ症の治療期間は、感染の重さや治療の効果によって決まり、抗真菌薬での治療は、症状や検査の結果が良くなるまで続けられます。
感染の重症度 | 治療期間 |
軽症〜中等症 | 2〜4週間 |
重症 | 4〜8週間以上 |
カンジダ血症では、血液培養で菌が検出されなくなってから少なくとも2週間、治療を続けます。
眼の中や心臓の内膜に感染が広がっている場合は、さらに長い治療が必要になることも。
予後因子
深在性カンジダ症の予後は、いくつかの要因によって左右されます。
- 免疫が抑えられているかどうか
- 全身の状態の良し悪し
- 感染の重さ
- 治療を始めるタイミング
免疫が抑えられている患者さんや、全身の状態が悪い患者さんでは、予後が悪くなる可能性が高いです。
予後の要因 | 死亡率 |
免疫抑制状態あり | 30〜50% |
全身状態不良 | 50%以上 |
重症感染症 | 40〜60% |
再発
深在性カンジダ症は、治療後に再発することがあります。
再発のリスクの要因
- 免疫が抑えられた状態が続いている
- カテーテルを入れたままにしている
- 感染の元となった場所のコントロールが不十分
長期予後
深在性カンジダ症の長期的な予後は、基礎疾患の状態に大きく左右され、 基礎疾患がコントロールできない場合は、感染が再発したり、他の感染症を合併したりして、予後が悪くなることがあります。
一方、基礎疾患がコントロールできる場合は、治療で感染を抑えることができれば、長期的な予後は比較的良好です。
ただし、感染が再発したり、他の感染症にかかったりするリスクは高いので、注意深く経過を見ていく必要があります。
深在性カンジダ症の治療における副作用やリスク
深在性カンジダ症の治療では、抗真菌薬の投与が中心となりますが、これらの薬剤には一定の副作用やリスクが伴います。
抗真菌薬治療の副作用
深在性カンジダ症の治療に用いられる抗真菌薬には、副作用が報告されています。
- 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
- 肝機能障害
- 腎機能障害
- アレルギー反応
- 電解質異常
抗真菌薬クラス | 主な副作用 |
アゾール系 | 肝機能障害、消化器症状、アレルギー反応 |
キャンディン系 | 肝機能障害、電解質異常 |
ポリエン系 | 腎機能障害、電解質異常、発熱 |
薬物相互作用のリスク
深在性カンジダ症の治療では、抗真菌薬と他の薬剤との相互作用に注意が必要です。
併用に注意が必要な薬剤
- 免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムスなど)
- 抗凝固薬(ワルファリンなど)
- 一部の抗がん剤
- 一部の抗HIV薬
耐性菌出現のリスク
深在性カンジダ症の治療では、抗真菌薬の長期使用により、耐性菌が出現するリスクがあります。
特に、フルコナゾールの長期使用により、カンジダ・グラブラータなどの非アルビカンス・カンジダ属の耐性化が問題です。
抗真菌薬 | 耐性リスクの高いカンジダ属菌種 |
フルコナゾール | カンジダ・グラブラータ、カンジダ・クルーゼイ |
ボリコナゾール | カンジダ・グラブラータ |
副作用・リスク管理の重要性
深在性カンジダ症の治療では、副作用やリスクの管理を行います。
- 治療中の定期的な臨床検査(肝機能、腎機能、電解質など)
- 併用薬剤の相互作用チェック
- 耐性菌の早期発見と対策
予防方法
深在性カンジダ症を予防するためには、免疫力を高めて感染リスクを減らすことが大切です。
免疫力を高める
免疫力を高めることが深在性カンジダ症の予防に不可欠です。
健康的な生活習慣を心がけ、バランスの取れた食事、適度な運動、十分な睡眠を取ることで免疫力を維持しましょう。
免疫力を高める方法 | 具体例 |
バランスの取れた食事 | 野菜、果物、タンパク質を十分に摂取する |
適度な運動 | 週に3回以上、30分以上の有酸素運動を行う |
十分な睡眠 | 成人は1日7〜8時間の睡眠を取る |
ストレス管理 | 瞑想、ヨガ、趣味の時間を持つ |
感染リスクを減らす
感染リスクを減らすことも深在性カンジダ症の予防には重要です。
注意する点
- 手洗いを徹底する
- 病院や介護施設では、感染対策ガイドラインに従う
- カテーテルなどの医療機器は清潔に保ち、必要以上に長期間使用しない
- 抗生物質の不必要な使用は避ける
感染リスクを減らす方法 | 注意点 |
手洗いの徹底 | 流水と石鹸で30秒以上洗う |
医療機器の管理 | 定期的な消毒と交換 |
抗生物質の適正使用 | 医師の指示に従う |
基礎疾患の管理
基礎疾患がある場合は、管理することで、深在性カンジダ症の予防につながります。
- 糖尿病患者さん:血糖値のコントロール
- 免疫抑制状態にある患者さん:医師に相談しながら病状を管理
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
治療費の内訳
深在性カンジダ症の治療費は、主に以下の項目で構成されています。
- 診断費用(血液検査、画像検査など)
- 薬剤費(抗真菌薬など)
- 入院費(重症例では長期入院が必要なこともあり)
項目 | 費用目安 |
診断費用 | 10万円~30万円 |
薬剤費 | 50万円~100万円 |
入院費 | 30万円~100万円 |
治療費に影響する要因
深在性カンジダ症の治療費は、以下の要因によって大きく変動します。
- 患者の全身状態や合併症の有無
- 感染の重症度
- 使用する抗真菌薬の種類と投与期間
- 入院期間の長さ
要因 | 治療費への影響 |
全身状態不良、合併症あり | 高額になりやすい |
感染の重症度が高い | 高額になりやすい |
新しい抗真菌薬の使用 | 高額になりやすい |
長期入院が必要 | 高額になりやすい |
公的助成制度の活用
深在性カンジダ症の治療費負担を軽減するために、以下のような公的助成制度が利用できることがあります。
- 高額療養費制度
- 医療費控除
- 重度障害者医療費助成制度
以上
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