浮腫(ふしゅ, Edema)とは、身体の組織に余分な水分が蓄積して膨らむ現象を指します。一般的に「むくみ」とも言います。
体のどの部分でも起こりますが、特に足首や脚、手、顔などによく出ます。
浮腫が起こる要因は、単に長時間立ち続けることや塩分を過剰に摂取するといった日々の生活習慣に関連するものから、心臓、腎臓、肝臓などの器官に問題がある場合まで、さまざまな原因が考えられます。
浮腫の種類(病型)
浮腫は大きく分けて、全身性浮腫と局所性浮腫の2つに分けられます。
全身性浮腫
全身性浮腫は、心臓や腎臓、肝臓といった体の中心となる臓器の働きが悪くなることで起こり、体全体がむくんでいるように見えます。
全身性浮腫の特徴
- 左右対称性:体の左右両方に同じようにむくみが現れます
- 重力の影響:立っているときは足や脚に、寝ているときは背中にむくみが集中します
- 1日の変化:朝は軽くなり、夕方になると悪化します
臓器の問題 | むくみの特徴 |
心臓の機能低下 | 足や脚が特に腫れやすい |
腎臓の機能低下 | 顔がむくみやすい |
肝臓の硬化 | お腹に水が溜まりやすい |
局所性浮腫
局所性浮腫は、体の特定の部分だけにむくみが現れる状態です。
局所性浮腫の代表的な例
むくみの種類 | 主な原因 |
リンパのむくみ | リンパ管がつまる・機能低下 |
静脈のむくみ | 深い静脈に血栓ができる |
炎症によるむくみ | 皮膚の感染、関節の炎症 |
アレルギーのむくみ | 薬や食べ物によるアレルギー |
むくみの種類に合わせた対処法
全身性のむくみの場合は、原因となっている臓器の病気を治すことが中心となります。
局所性のむくみでは、その部分を集中的にケアしたり、原因を取り除いたりすることが主な対策です。
むくみの種類 | 主な対処方法 |
全身性 | 水分を出す薬、塩分を控える |
局所性 | 圧迫する治療、炎症を抑える |
浮腫の主な症状
浮腫は多くの場合、足首や脚、手、顔などに現れます。
症状 | 特徴 |
皮膚の腫れ | 押すとくぼみができる |
体重増加 | 急激な増加が見られる |
違和感 | 腫れた部位の違和感や不快感 |
痛み | 腫れが強い場合に生じる |
浮腫の進行に伴う症状
軽度の浮腫から徐々に進行すると、日常生活の中で以下のような変化が現れます。
- 靴や指輪がきつくなる
- 皮膚の張りや光沢の増加
- 関節の動きにくさ
- 息切れや呼吸困難感
進行した浮腫では、靴が履きづらくなったり、服がきつく感じたりすることもあります。
浮腫の重症度評価
重症度 | 特徴 |
軽度 | 就寝後や安静時に症状が改善する |
中等度 | 日常生活に支障をきたすが、安静により軽減する |
重度 | 常に症状が強く、安静でも改善しにくい |
最重度 | 全身性の浮腫で、重大な合併症のリスクがある |
軽度の浮腫を放置したことで症状が悪化し、入院治療が必要になった患者さんを担当したことがあります。
早期の段階で対応することが重要となりますので、体の変化に気を配り、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することをお勧めします。
浮腫の原因
浮腫の発生には、主に循環器系、腎臓系、内分泌系の異常が関わっています。
循環器系の異常
心臓が血液を全身に送り出す力が弱くなると、体のすみずみまで十分な血液を届けることができなくなります。
結果として、静脈の中の圧力が高まり、毛細血管から周囲の組織へと水分が染み出しやすくなってしまいます。
また、静脈の中にある弁の働きが悪くなったり、深い静脈に血の塊ができたりすると、血液が心臓に戻りにくくなり浮腫の原因となります。
循環器系の異常 | 浮腫への影響 |
心臓の機能低下 | 静脈圧の上昇 |
静脈弁の機能不全 | 血液の逆流 |
深部静脈血栓症 | 血流の阻害 |
腎臓系の異常
腎臓の働きが悪くなると、体の中の浸透圧が高くなり、細胞の周りの隙間に水分が移動して、浮腫として現れます。
腎臓系の異常 | 浮腫への影響 |
慢性的な腎臓病 | 水分・電解質の排出障害 |
ネフローゼ症候群 | 血液中のタンパク質減少 |
急性糸球体腎炎 | 急激な水分・塩分の貯留 |
内分泌系の乱れによる浮腫
甲状腺の働きが低下すると、体全体の代謝が遅くなり、水分が体内に溜まりやすくなります。
また、副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されると、ナトリウムと水分を体内に貯める作用が強まり、浮腫が現れる可能性が高くなります。
内分泌系の異常 | 浮腫への影響 |
甲状腺機能低下症 | 代謝低下と水分貯留 |
クッシング症候群 | 副腎皮質ホルモンの過剰 |
原発性アルドステロン症 | 塩分と水分の過剰貯留 |
その他の浮腫を引き起こす要因
- 栄養が十分に取れていないことによる血液中のタンパク質の減少
- 特定の薬(カルシウム拮抗薬や非ステロイド性抗炎症薬など)の副作用
- アレルギー反応による体の局所的な腫れ
- 長時間立ち続けたり座り続けたりすることによる血液の循環不良
診察(検査)と診断
浮腫の診察で特に気をつけるべき点として、次のようなことがあります。
- むくみがどのように始まったか(急に現れたのか、徐々に進んだのか)
- むくみがどの部分にあるか、左右で違いはないか
- むくみ以外の症状はないか
- 今までにかかった病気や飲んでいる薬はあるか
視診では、むくみの場所や広がり、皮膚の色の変化などを診ます。また、むくみの程度や押すとへこむかどうかを確認します。
診察の方法 | 確認するポイント |
目で見る | 場所、広がり、皮膚の色 |
触って調べる | 程度、押すとへこむか |
話を聞く | 始まった時期、進み方、時間による変化 |
臨床的な判断のポイント
両方の足にむくみがある場合は、心臓の働きが弱っていたり、腎臓の機能が低下している可能性を考えます。
一方で、片方の足だけにむくみがある時は、足の静脈に血の塊ができている(静脈血栓症)や、リンパの流れが悪くなっている(リンパ浮腫)などの可能性を検討します。
- 両方の足のむくみ:心臓の機能低下、腎臓の病気、肝臓の硬変など
- 片方の足のむくみ:足の静脈に血の塊ができている、リンパの流れが悪い
- 体全体のむくみ:腎臓から蛋白質が漏れ出す病気、甲状腺の働きが弱い
最終的な診断に向けた検査
むくみの原因を確実に突き止めるには、検査が必要です。
どんな検査をするか | 主に何を調べるか |
血液検査 | 腎臓、肝臓、甲状腺の働き |
心臓の超音波 | 心臓の動き、弁の状態 |
足の静脈の超音波 | 静脈に血の塊がないか |
胸のレントゲン | 心臓の大きさ、胸に水がたまっていないか |
浮腫の治療法と処方薬、治療期間
浮腫は多くの場合、利尿薬の使用や日々の生活習慣の見直しにより、症状が和らぐ可能性が高いです。
薬による治療
利尿薬は体にたまった余分な水分を尿として出すことで、むくみを軽くする働きがあります。
利尿薬には主に3種類あり、それぞれ特徴が異なります。
利尿薬の種類 | 主な特徴 |
ループ利尿薬 | 強い利尿作用があり、急な症状に効果的 |
サイアザイド系 | 比較的穏やかで、長く使い続けるのに適している |
カリウム保持性 | 体内の電解質のバランスを保つのに役立つ |
どの利尿薬を使うかは、浮腫の原因や患者さんの体の状態を見て決めます。
例えば心臓が弱っていることによる浮腫には、ループ利尿薬がよく効く場合が多いです。
また、高血圧を伴っている場合は、サイアザイド系の利尿薬を選びます。
治療にかかる時間は、浮腫の原因や程度によって違います。
急に現れた浮腫であれば数日から数週間で良くなりますが、長い間続いている浮腫の場合は、数か月以上の長期にわたって治療をしなければなりません。
生活習慣の見直し
- 塩分の取りすぎに注意する
- 適度に体を動かす
- むくみやすい部分を圧迫するストッキングを履く
- むくんでいる部分を高くして休む
特に、塩分を取りすぎると体に水分がたまりやすくなるため、1日に取る塩分の量を6グラム未満に抑えるよう心がけましょう。
根本的な原因に対する治療
浮腫を根本から解決するには、その原因となっている病気を治療します。
原因となる病気 | 主な治療方法 |
心不全 | ACE阻害薬、β遮断薬、利尿薬を組み合わせて使う |
肝硬変 | 肝臓を守る治療、アルブミンという成分を点滴で補う |
腎臓の病気 | 腎臓の機能を守る治療、人工透析 |
治療期間は病気の種類や程度によって大きく異なります。
心臓や腎臓の病気など、長く付き合っていく必要がある病気の場合は、継続的に管理していきます。
浮腫の治療における副作用やリスク
浮腫の治療を行う上の主な問題点としては、利尿薬使用による体内の電解質バランスの乱れや腎臓への負担などが挙げられます。
利尿薬使用に伴うリスク
利尿薬の主な副作用 | 対策 |
電解質バランスの乱れ | 定期的な血液検査の実施 |
体の水分不足 | 適切な水分摂取方法の指導 |
腎臓機能の低下 | 腎臓の働きを定期的に確認 |
血圧が下がりすぎる | 薬の量を適切に調整する |
特にカリウムという物質が体内で不足すると、心臓の拍動が乱れる危険性があるため、定期的に血液検査を行って体の状態を確認します。
また、利尿薬を必要以上に使用してしまうと、体の水分が不足したり腎臓に流れる血液の量が減ったりして、腎臓の機能が低下してしまう恐れがあります。
水分制限によるリスク
浮腫を改善させる目的で水分摂取を極端に制限すると、以下のような影響があります。
水分制限による悪影響 | 体への影響 |
体の水分不足 | 腎臓の働きが悪くなる、電解質のバランスが乱れる |
便秘 | おなかの不快感、腸が詰まるリスクが高まる |
尿路の感染症 | 熱が出る、腎盂腎炎になる危険性が増す |
喉の渇き | 生活の質が下がる、不快感が続く |
特に高齢の方や腎臓の機能が低下している患者さんでは、注意するようにしましょう。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
浮腫の治療費は、症状の程度や原因によって大きく異なります。
浮腫の治療費の概要
外来診療では、検査料、薬剤費などがかかります。重症度によっては入院が必要となり、その際は入院費用も加わります。
項目 | 概算費用(円) |
血液検査 | 3,000~5,000 |
尿検査 | 1,000~2,000 |
心エコー検査 | 5,000~10,000 |
胸部レントゲン | 2,000~3,000 |
利尿薬(1ヶ月分) | 2,000~5,000 |
入院治療が必要な場合の費用
- 一般病棟入院費(1日あたり)15,000~25,000円
- 集中治療室入院費(1日あたり)70,000~120,000円
- 手術費用(原因疾患による)100,000~1,000,000円以上
以上
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