加速型-悪性高血圧(Accelerated-malignant hypertension)とは、高血圧が急速に悪化し、臓器損傷を引き起こす重篤な急性高血圧症です。
拡張期血圧120~130mmHg以上と著しく高く、腎臓機能が急速に悪化します。
放置すると、高血圧性脳症、心不全、脳出血など、命に関わる合併症を引き起こす危険性が高いです。
近年、高血圧治療の進歩により、高血圧緊急症全体の死亡率は大幅に改善されています。しかし、加速型-悪性高血圧は依然として予後不良であり、早期発見と治療が重要です。
加速型-悪性高血圧の種類(病型)
従来、眼底所見により乳頭浮腫を伴う悪性高血圧と、出血や浸出性病変のみを伴う加速型高血圧は区別されていました。
現在では、両者の進行や予後に差がないことから、2つをまとめて加速型-悪性高血圧と呼ばれるようになりました。
Keith-Wagener分類
分類 | 眼底所見 |
Ⅲ群 | 出血や浸出性病変のみ |
Ⅳ群 | 乳頭浮腫を伴う |
悪性高血圧
悪性高血圧は、Keith-Wagener分類のⅣ群に相当し、乳頭浮腫を伴う病型です。
この病型は、高血圧が重症化した状態であり、眼底に乳頭浮腫という変化が生じます。
乳頭浮腫は、視神経乳頭の腫脹を意味しており、重大な合併症の一つとされています。
加速型高血圧
加速型高血圧は、Keith-Wagener分類のⅢ群に相当し、出血や浸出性病変のみを伴う病型を指します。
この病型では、眼底に出血や浸出斑などの変化が見られますが、乳頭浮腫は伴いません。
眼底所見の重要性
所見 | 重症度 |
乳頭浮腫 | 重症 |
出血・浸出斑 | 中等症〜重症 |
加速型-悪性高血圧の主な症状
加速型-悪性高血圧は重篤な急性高血圧症であり、直ちに治療しないと生命を脅かす合併症の発症リスクが高まります。
主な症状は乏尿、高血圧脳症の症状、心不全症状などです。
乏尿
乏尿とは、1日の尿量が通常よりも著しく減少する状態です。
成人の場合、1日に排出される尿量が500ミリリットル未満であると乏尿と診断されます。
加速-悪性高血圧は、非常に高い血圧が急速に上昇する状態であり、重要な器官への血流が阻害されます。
これにより腎臓などの器官が適切な血液供給を受けられず、その機能が低下します。
腎臓の機能低下は乏尿の原因となり、これは腎臓が尿を生成する能力が低下したために起こります。
頭痛、めまい、吐き気
初発症状としては、激しい頭痛、めまい、吐き気などが多くの場合に認められます。
これらの諸症状は、急激な血圧の上昇によって脳血流が減少することに起因しています。
症状 | 詳細 |
頭痛 | 後頭部や側頭部の強い疼痛 |
めまい | ふらつき、立ちくらみ |
吐き気 | 嘔吐を併発する場合もある |
視覚障害
さらに進行すると、網膜血管への障害によって視力の低下や視野異常などの視覚障害が出現します。
重症化すると失明のリスクもあるため、迅速な治療介入が必要です。
心不全症状
- 息切れ、呼吸困難感
- 動悸、胸部不快感
- 下腿の浮腫(むくみ)
血圧の高度の上昇によって心臓への負荷が高まると、息切れ、動悸、むくみなどの心不全症状が現れる場合があります。
心不全が悪化の一途を辿ると、生命に関わる危機的状況を招く恐れがあります。
腎機能障害
症状 | 詳細 |
タンパク尿 | 尿中へのタンパク質の異常漏出 |
血尿 | 尿中への赤血球の混入 |
腎機能低下 | 血中尿素窒素(BUN)やクレアチニンの上昇 |
加速型-悪性高血圧は腎臓の細動脈にも傷害を及ぼし、タンパク尿、血尿、腎機能低下などの腎障害を引き起こします。
重症例では急速に腎不全が進行し、透析療法を要する事態に陥るケースもあります。
加速型-悪性高血圧の原因
加速型-悪性高血圧は、多くの場合、基礎疾患や生活習慣が原因となっています。
また、高血圧発症時から血圧が高い、降圧治療の中断、長期にわたる精神的・身体的ストレスが悪性高血圧の発症に関与するとされています。
高血圧の重症化
加速型-悪性高血圧の主な原因は、高血圧の重症化です。
長期間にわたって高血圧が管理されずに放置されると、血管壁への負担が増大し、血管の収縮や硬化が進行するのです。
血圧の分類 | 収縮期血圧(最高血圧) | 拡張期血圧(最低血圧) |
正常血圧 | 120mmHg未満 | 80mmHg未満 |
高値血圧 | 120-129mmHg | 80mmHg未満 |
高血圧(1度) | 130-139mmHg | 80-89mmHg |
高血圧(2度) | 140mmHg以上 | 90mmHg以上 |
二次性高血圧
また、二次性高血圧も加速型-悪性高血圧の原因となることがあります。
二次性高血圧とは、他の疾患が原因で生じる高血圧を指します。
- 腎実質性疾患(慢性腎臓病、腎血管性疾患など)
- 内分泌疾患(原発性アルドステロン症、クッシング症候群など)
- 大動脈縮窄症
- 薬剤誘発性高血圧
生活習慣
過度の塩分摂取、肥満、運動不足、過剰なアルコール摂取、喫煙などは、血圧上昇の要因です。
生活習慣 | 高血圧への影響 |
過度の塩分摂取 | ナトリウムの過剰摂取は体内の水分量を増加させ、血圧を上昇させる |
肥満 | 肥満は血管への負担を増大させ、インスリン抵抗性を引き起こす |
運動不足 | 運動不足は血管の硬化を促進し、血圧上昇のリスクを高める |
過剰なアルコール摂取 | アルコールの過剰摂取は血管を収縮させ、血圧を上昇させる |
喫煙 | 喫煙は血管を収縮させ、動脈硬化を促進する |
遺伝的要因
加速型-悪性高血圧の発症には、遺伝的要因も関与している可能性があります。
高血圧の家族歴がある場合、加速型-悪性高血圧のリスクが高くなることが知られています。
診察(検査)と診断
加速型-悪性高血圧の患者は、高血圧(180/120 mmHg以上)と、以下のいずれか1つ以上の臓器障害を呈します。
臨床検査による評価
次のような検査を実施して、臓器の障害がどの程度進んでいるのか、合併症があるのかどうかを調べます。
- 血液検査(腎機能、電解質、貧血など)
- 尿検査(タンパク尿、血尿など)
- 心電図
- 胸部X線
- 眼底検査
検査項目 | 目的 |
血清クレアチニン | 腎機能評価 |
尿タンパク定量 | 腎障害の程度評価 |
心電図 | 左室肥大、虚血性変化の有無 |
眼底検査 | 高血圧性網膜症の重症度評価 |
血液検査では溶血性貧血(破砕赤血球、血小板減少、高ビリルビン血症、低ハプトグロビン血症など)、尿検査では蛋白尿を認めます。
画像検査による評価
場合によっては以下のような画像検査を行い、臓器の障害をより詳しく評価したり、高血圧の原因となっている病気がないかを調べたりします。
- 心エコー図
- 腎エコー
- 腹部CT/MRI
- 副腎CT/MRI
確定診断
以下の基準を満たす場合に、加速型-悪性高血圧と診断されます。
- 拡張期血圧120~130 mmHg以上
- 腎機能障害の急速な進行
- 脳症、心不全、網膜症などの臓器障害
加速型-悪性高血圧の治療法と処方薬
加速型-悪性高血圧は重篤な病態であり、速やかに治療を開始する必要があります。
治療には、降圧薬、利尿薬、β遮断薬、血管拡張薬などの薬物療法に加え、生活習慣の改善も重要です。
治療の基本方針
加速型-悪性高血圧の治療目標は、可及的速やかに血圧を下げ、臓器障害の進行を防ぐことにあります。
通常、入院治療が必要とされ、血圧のモニタリングを行いながら、強力な降圧薬を用いて血圧管理を行います。
降圧薬の選択
加速型-悪性高血圧の治療には、作用発現が速く、確実な降圧効果が期待できる薬剤が選択されます。
代表的な薬剤として、以下のようなものが挙げられます。
薬剤名 | 作用機序 |
ニカルジピン | カルシウム拮抗薬 |
ニトロプルシド | 血管拡張薬 |
ヒドララジン | 血管拡張薬 |
ラベタロール | α・β遮断薬 |
降圧速度と目標血圧
急激な降圧による臓器虚血のリスクがあるため、緩徐に血圧を下げていく必要があります。
一般的には、最初の1~2時間で平均血圧を20~25%程度下げ、その後24~48時間かけて目標血圧まで下げていきます。
期間 | 目標降圧率 |
最初の1~2時間 | 20~25% |
次の24~48時間 | 目標血圧まで |
目標血圧は、年齢や合併症によって異なりますが、通常は収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg未満を目指します。
降圧後の維持療法
急性期の降圧治療後は、適切な降圧薬による維持療法が重要です。 以下のような薬剤が長期的な血圧管理に用いられます。
- ACE阻害薬/ARB
- カルシウム拮抗薬
- サイアザイド系利尿薬
- β遮断薬
これらの薬剤を組み合わせて使用し、状態に応じて調整します。
治療に必要な期間と予後について
加速型-悪性高血圧は重篤な急性高血圧症であり、治療を受けなければ死に至る可能性もある予後不良の病態です。
治療期間と予後の関係
治療の開始が遅れるほど、臓器障害が進行し予後が悪化します。反対に、早期の治療開始により予後は大幅に改善します。
治療の内容と期間
加速型-悪性高血圧の治療では以下の点が重要となります。
- 降圧薬の投与による速やかな血圧のコントロール
- 臓器障害に対する対症療法
- 基礎疾患の治療
これらの集中的な治療により、通常1-2週間程度で血圧は安定します。
予後
年代 | 5年生存率 |
---|---|
1977年以前 | 32.0% |
1997-2006年 | 91.0% |
英国の検討では1977年以前の症例に比べ、1997-2006年の症例では、5年生存率が大幅に改善しています。
一方、発症後平均5.6年の経過で31%が末期腎不全に至るとの報告もあり、腎の予後はよくないとされています。
急性期の治療後も、長期的な血圧管理が重要です。
加速型-悪性高血圧の治療における副作用やリスク
加速型-悪性高血圧の治療に用いられる降圧薬には副作用があります。また、急激な降圧にはリスクが伴います。
降圧薬の副作用
降圧薬は加速型-悪性高血圧の治療に欠かせませんが、副作用にも注意が必要です。
薬剤名 | 主な副作用 |
ACE阻害薬 | 空咳、血管浮腫、高カリウム血症 |
カルシウム拮抗薬 | 頭痛、顔面紅潮、浮腫 |
過度の降圧による副作用
急激な降圧は、脳血流の低下や臓器虚血を引き起こしかねないため、細心の注意が求められます。
腎機能の損傷
悪性高血圧は腎臓に重大な損傷を引き起こす場合があり、治療に使用される薬剤も腎臓に負担をかけることがあります。
予防方法
健康的な食事や生活を心がけることで、加速型-悪性高血圧の発症リスクは大幅に下げられます。
バランスの取れた食事
食品群 | 摂取量の目安 |
野菜 | 1日350g以上 |
果物 | 1日200g程度 |
また、塩分の過剰摂取には気をつける必要があります。 1日の塩分摂取量の目標は、男性8g未満、女性7g未満とされています。
適度な運動習慣
週150分以上の中強度の運動を行うと、血圧上昇を抑制する効果が見込めます。
- ウォーキング
- ジョギング
- 水泳 など
禁煙
喫煙は血管が収縮し、血圧が上昇する原因になります。
禁煙が難しい場合は、禁煙外来を利用するのも一つの手です。健康のためにも今すぐタバコはやめましょう。
ストレス管理
慢性的なストレスは、交感神経を刺激し血圧を上げてしまいます。ストレス対処法を身につけ、上手にストレスを解消しましょう。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
加速型-悪性高血圧の治療にかかる費用は、重篤であればあるほど高額になります。
特に、加速型-悪性高血圧は緊急治療が必要なため、救急室や集中治療室(ICU)での治療が必要になる場合が多いです。
ただし、国民健康保険制度により自己負担額は医療費の30%となり、残りは保険がカバーします。
※自己負担額はその方の年齢や収入など、状況により異なります。
治療費の概算
加速型-悪性高血圧の治療費は、おおむね以下のような金額になります。
治療形態 | 概算費用 |
救急室・入院 | 入院日数や治療内容にもよりますが、数万円から数十万円の自己負担が考えられます。 |
薬剤費 | 保険適用後、数千円から数万円 |
ただし上記は一般的な目安に過ぎず、実際の費用は患者さんの状況や治療方法により異なります。
治療費について、詳しくは担当医や各医療機関へ直接ご確認ください。
高額療養費制度
加速型-悪性高血圧の治療で多額の医療費が発生した場合は、高額療養費制度の適用を受けられます。
同制度では、月単位の自己負担額に上限が定められており、その額を超過した部分は払い戻しの対象となります。
所得水準に応じて自己負担限度額が設定されているため、所得が低いほど負担額は抑えられます。
詳しくは厚生労働省のホームページをご確認ください。
以上
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