不妊症 – 婦人科

不妊症(infertility)とは、1年以上の期間、妊娠を希望しても受胎に至らない状態です。

この症状の背景には、男性因子や女性因子、あるいは双方の要素が複雑に関与しています。

原因は多様で、加齢による生殖機能の低下、内分泌系の不調、生活習慣などです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

不妊症の種類(病型)

不妊症には、内分泌・排卵因子、卵管因子、子宮因子、頸管因子、免疫因子があります。

内分泌・排卵因子

内分泌・排卵因子は、不妊症の中でも発生頻度が高い病型です。

要因には、視床下部-下垂体-卵巣系における機能異常が含まれ、排卵障害や黄体機能不全があります。

内分泌・排卵因子特徴
多嚢胞性卵巣症候群排卵障害、高アンドロゲン血症
早発卵巣不全卵巣機能の早期低下
高プロラクチン血症乳汁分泌、排卵障害

卵管因子

卵管因子による不妊症では卵管の閉塞や癒着が問題で、卵子と精子の遭遇を妨げ、受精や胚の輸送を著しく困難にします。

クラミジア感染症の既往がある患者さんで卵管因子による不妊症を多く目にしてきました。

これは感染後の炎症反応が卵管に影響を与えるためです。

子宮因子

子宮に関連する不妊症の要因には先天性と後天性の異常があります。

子宮因子不妊への影響
子宮奇形着床障害、流産リスク増加
子宮筋腫着床環境の変化、血流障害
子宮内膜症炎症、着床障害
子宮腺筋症子宮内膜機能低下

頸管因子

頸管因子による不妊症は、頸管粘液の質的・量的異常や頸管狭窄が原因です。

頸管因子特徴
頸管粘液異常粘稠度の変化、量の減少
頸管狭窄手術や感染後の瘢痕化

免疫因子

免疫系の異常も不妊症の原因となり、抗精子抗体や抗卵子抗体の存在は受精や着床を阻害します。

免疫因子不妊への影響
抗精子抗体精子の運動性低下、受精阻害
抗卵子抗体卵子の機能障害、受精阻害
NK細胞活性異常着床障害、流産リスク増加

不妊症の主な症状

不妊症の症状は、原因によって多岐にわたります。

内分泌・排卵因子の症状

内分泌・排卵因子による不妊症では、月経周期の乱れや排卵の異常が見られます。

  • 月経不順(月経周期が28日±7日の範囲を超える)
  • 無月経(3ヶ月以上月経がない)
  • 稀発月経(35日以上の間隔で月経がある)
  • 頻発月経(25日未満の間隔で月経がある)
  • 無排卵性月経(月経はあるが排卵がない)
症状特徴関連するホルモン
月経不順周期が不規則エストロゲン、プロゲステロン
無月経3ヶ月以上月経なしFSH、LH、プロラクチン

卵管因子の症状

卵管因子による不妊症は、卵管の機能障害や閉塞が原因です。

卵管因子の可能性を考慮する状況

  • 骨盤内炎症性疾患(PID)の既往歴がある
  • 下腹部の慢性的な痛みや不快感がある
  • 性交時に痛みを感じる
  • 不正出血がある

子宮因子の症状

子宮因子による不妊症では、子宮の形態異常や機能障害が関与しています。

  • 月経痛が強い
  • 月経量が多い、または少ない
  • 不正出血がある
  • 下腹部の痛みや圧迫感がある
症状関連する疾患特徴
強い月経痛子宮内膜症、子宮筋腫鎮痛剤が効きにくい
月経量の異常子宮ポリープ、子宮腺筋症貧血を伴うことがある
不正出血子宮頸部ポリープ性交後に出血することがある

頸管因子の症状

頸管因子による不妊症は、子宮頸管の粘液の質や量の異常の症状があります。

  • 排卵期に透明で伸びるような頸管粘液が見られない
  • 性交後に膣内の精子の運動性が低下している
  • 頸管炎症状(帯下の増加、悪臭、かゆみなど)がある
症状特徴関連する因子
頸管粘液の異常粘液が少ない、または質が悪いエストロゲン分泌不足
精子の運動性低下性交後試験で確認抗精子抗体の存在

免疫因子の症状

免疫因子による不妊症は、体内の免疫システムが精子や受精卵を異物として攻撃することで起こります。

免疫因子の症状

  • 習慣性流産(2回以上の連続した流産)
  • 原因不明の不妊
  • 体外受精の反復失敗

不妊症の原因

不妊症の原因には、卵巣機能障害、卵管の構造的・機能的問題、子宮の解剖学的異常、内分泌系の不調、免疫学的要因があります。

卵巣機能障害

卵巣機能障害は卵子の質および量に影響を及ぼし、妊娠の可能性を低下させます。

卵巣機能障害の要因特徴
加齢卵子の質・量の経時的低下
多嚢胞性卵巣症候群ホルモンバランスの乱れ、慢性的な排卵障害
早発卵巣不全40歳未満での卵巣機能の急激な低下
卵巣予備能低下卵巣内の卵胞数の減少

卵管の構造的・機能的問題

卵管は受精と胚の輸送において重要な役割があり、卵管の構造的あるいは機能的な異常は不妊症の原因の一つです。

  • 卵管閉塞:完全または部分的な卵管の閉鎖
  • 卵管癒着:周囲組織との癒着
  • 卵管炎症:慢性または急性の炎症性変化
  • 卵管内膜症:卵管内の内膜組織の異所性増殖
  • 卵管機能不全:繊毛運動や蠕動運動の障害

クラミジア感染症の既往がある患者さんにおいて卵管因子による不妊症を多く目にしてきました。

感染後の持続的な炎症反応が、卵管の微細構造や機能に不可逆的な影響を与えることがあるためです。

子宮の解剖学的異常

子宮に関連する不妊症の要因には、先天性および後天性の異常が含まれます。

子宮の異常不妊への影響
子宮奇形着床障害、反復流産リスクの顕著な増加
子宮筋腫着床環境の変化、子宮内膜血流の著しい障害
子宮内膜症慢性炎症、着床障害、卵巣機能低下
子宮腺筋症子宮内膜機能の著しい低下、着床障害

解剖学的異常は胚の着床を直接阻害するだけでなく、妊娠の継続にも影響を及ぼします。

内分泌系の不調

内分泌系の不調は排卵過程や子宮内膜の準備に影響を与え、不妊の主要な原因になります。

  • 甲状腺機能亢進症または低下症:基礎代謝や他のホルモンバランスへの影響
  • 高プロラクチン血症:排卵障害や黄体機能不全の誘発
  • 副腎機能異常:ステロイドホルモンバランスの乱れ
  • 視床下部-下垂体-卵巣軸の機能障害:ゴナドトロピン分泌異常や排卵障害

免疫学的要因

免疫系の異常も不妊症の重要な原因になり、自己免疫疾患や自己抗体は、受精や着床プロセスに影響があります。

抗精子抗体や抗卵子抗体などの自己抗体は、生殖細胞を異物と誤って認識し攻撃してしまうことで不妊を起こし、さらに、NK細胞活性の異常上昇も、着床障害や早期流産の一因となることが明らかになってきました。

免疫学的要因不妊への影響
抗精子抗体精子の運動性低下、受精能の著しい阻害
抗卵子抗体卵子の機能障害、受精プロセスの阻害
NK細胞活性異常着床障害、反復流産リスクの増大
抗リン脂質抗体症候群血栓形成、胎盤機能不全

診察(検査)と診断

不妊症の診断は問診から始まり、各種検査を経て、最終的な確定診断に至ります。

初診時の問診と基本検査

不妊症の問診では患者さんの既往歴、家族歴、生活習慣、そして妊娠を望んでからの期間などを聴取します。

問診後身体診察と検査を実施し、これには血液検査や尿検査が含まれます。

問診項目確認内容
既往歴過去の病気や手術歴
家族歴家族の不妊症や遺伝性疾患
生活習慣喫煙、飲酒、運動習慣
妊娠希望期間妊娠を試みている期間

特殊検査

不妊症診断では、卵巣機能や子宮の状態を評価する検査が必要です。

  • 基礎体温測定 排卵の有無を判断するのに効果的な方法で、患者さんご自身で毎朝測定。
  • ホルモン検査 卵巣機能や排卵に関与するホルモンの分泌状態を調べる。 
  • 血液検査 卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、エストラジオール、プロゲステロンの値を測定。
  • 超音波検査 卵巣や子宮の形態異常を詳細に確認するために実施し、卵胞の発育状態や子宮内膜の厚さなども綿密に評価できる。
  • 子宮卵管造影検査(HSG) 子宮や卵管の形態異常や通過性を精査する検査で、造影剤を子宮内に注入しX線撮影を行うことで、卵管の状態を視覚的に確認。
検査名目的
基礎体温測定排卵の有無の確認
ホルモン検査内分泌機能の評価
超音波検査卵巣・子宮の形態確認
子宮卵管造影検査卵管通過性の評価

不妊症の治療法と処方薬、治療期間

不妊症に対しては、排卵誘発から高度生殖医療まで、多様なアプローチ治療法があります。

排卵誘発療法

排卵障害が原因の不妊症には排卵誘発療法が第一選択で、卵巣機能を刺激し、質の良い卵子の発育と排卵を促すことが目的です。

クロミフェンクエン酸塩やレトロゾールといった経口薬、あるいはFSH製剤などの注射薬を用いて、卵巣を刺激し排卵を促します。

治療期間は3~6ヶ月が目安です。

薬剤名投与方法作用治療期間の目安
クロミフェン経口視床下部に作用し、ゴナドトロピン分泌を促進3~6ヶ月
レトロゾール経口アロマターゼ阻害により卵胞発育を促進3~6ヶ月
FSH製剤注射直接卵巣を刺激し、卵胞発育を促進1~3ヶ月

人工授精(AIH)

人工授精は排卵のタイミングを把握し、精子を直接子宮内に注入する方法です。

軽度の男性不妊や原因不明不妊に対して有効性が高く、自然な妊娠に近い形で受精の確率を高めます。

体外受精(IVF)

体外受精は採取した卵子と精子を体外環境で受精させ、培養した胚を子宮内に戻す手法です。

重度の卵管障害や男性不妊、長期の原因不明不妊に対して高い効果を示します。

治療の流れ

  • 卵巣刺激:FSH製剤などを用いて複数の卵胞を同時に発育させる
  • 採卵:経膣超音波ガイド下で成熟した卵子を体外に取り出す
  • 受精:採取した卵子と調整済みの精子を培養液中で受精させる
  • 胚培養:受精卵を最適な環境下で5~6日間培養し、胚盤胞まで発育させる
  • 胚移植:選別された良好胚を専用のカテーテルを用いて子宮内に戻す

一回の治療周期は約2週間で、複数回の実施が必要なケースも少なくありません。

段階使用薬剤例目的投与期間
卵巣刺激FSH製剤、hMG製剤複数卵胞の発育促進7~14日
排卵誘発hCG製剤最終的な卵子成熟の誘発単回投与
黄体補充プロゲステロン製剤着床環境の整備2~3週間

顕微授精(ICSI)

顕微授精は体外受精の応用技術で、精子を直接卵子細胞質内に注入し、重度の男性不妊や、通常の体外受精で受精が成立しない場合に選択される治療法です。

凍結胚移植

凍結胚移植は採卵で得られた良好胚を超低温で凍結保存し、融解して子宮内に戻す方法です。

自然周期での実施も可能で、体への負担が比較的少なく、また、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクを回避できる利点もあります。

凍結方法特徴融解後の生存率適応
ガラス化法急速凍結、高い生存率90%以上胚盤胞凍結に適する
緩慢凍結法従来法、安定性が高い70-80%初期胚凍結に適する

不妊症の治療における副作用やリスク

不妊症にはさまざまな治療法がありますが、それぞれに固有の副作用やリスクが伴います。

排卵誘発剤使用に伴う副作用とリスク

排卵誘発剤は不妊治療において頻繁に使用される薬剤で、副作用やリスクが報告されています。

  • 腹部膨満感や不快感
  • 吐き気や嘔吐
  • 頭痛や目まい
  • ほてりや発汗
  • 気分の変動や情緒不安定

また、重大なリスクとして卵巣過剰刺激症候群(OHSS)があります。

重症度症状管理方法
軽度腹部膨満感、軽度の腹痛経過観察、水分摂取
中等度嘔吐、腹水貯留外来での密な経過観察
重度呼吸困難、血栓症入院管理、集中治療

人工授精(AIH)に関連するリスクと注意点

人工授精は低侵襲な治療法ですが、いくつかの潜在的なリスクがあります。

  • 子宮内感染症:頻度は低いものの、慎重な無菌操作が必要
  • 軽度の出血:通常は自然に止まりますが、経過観察が重要
  • 腹痛:一過性のことが多いですが、強い痛みの場合は精査が必要
  • 多胎妊娠のリスク増加:排卵誘発剤との併用で頻度が上がる
リスク発生頻度対策
子宮内感染症1%未満無菌操作の徹底
多胎妊娠約5-10%排卵誘発剤の調整

体外受精(IVF)および顕微授精(ICSI)における副作用とリスク

体外受精や顕微授精はより高度で侵襲的な治療法であり、それに伴うリスクも相対的に増加します。

  • 採卵時の出血や骨盤内感染
  • 麻酔に関連する合併症
  • 多胎妊娠(複数胚移植の場合)
  • 異所性妊娠の頻度上昇
リスク発生頻度予防法・対策
多胎妊娠約20-30%単一胚移植の推奨
異所性妊娠約2-5%早期超音波検査
採卵時合併症1%未満熟練した術者による施行

凍結胚移植に伴うリスクと留意点

凍結胚移植は新鮮胚移植に比べて全体的にリスクは低いものの、いくつかの注意点があります。

  • 凍結・融解過程での胚のダメージ:技術の向上により最小限に
  • 子宮内膜の同期化の難しさ:ホルモン補充が重要
  • 妊娠率の変動:凍結方法や胚の質に依存
要因影響対策
凍結方法胚の生存率に影響ガラス化法の採用
子宮内膜調整着床率に影響個別化したホルモン補充

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

タイミング療法の費用

タイミング療法の費用は、1周期あたり2万円から5万円程度です。

項目費用(円)
基本検査10,000~20,000
排卵誘発剤5,000~20,000
超音波検査5,000~10,000

人工授精の費用

人工授精の1回あたりの費用は、おおよそ2万円から5万円の範囲です。

体外受精・顕微授精の費用

  • 採卵費用:15万円~30万円
  • 胚培養費用:10万円~20万円
  • 胚移植費用:10万円~20万円

1回の治療サイクルで、40万円から100万円かかります。

治療法平均費用(円)
タイミング療法30,000~50,000
人工授精20,000~50,000
体外受精400,000~1,000,000

以上

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