Hodgkinリンパ腫 – 血液疾患

Hodgkinリンパ腫(Hodgkin lymphoma)とは、リンパ系に発生する悪性腫瘍です。

この疾患では、リンパ節や脾臓、胸腺などのリンパ組織内で異常な細胞が無秩序に増殖し、正常な免疫機能を妨げます。

Hodgkinリンパ腫の特徴は、「リード・シュテルンベルグ細胞」と呼ばれる大型細胞が見つかることで、この細胞の存在が他のタイプのリンパ腫との大きな違いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Hodgkinリンパ腫の種類(病型)

Hodgkinリンパ腫は結節性リンパ球優位型(NLPHL)と古典的Hodgkinリンパ腫(CHL)に分けられ、CHLはさらに4つの亜型に細分化されます。

結節性リンパ球優位型(NLPHL)

NLPHLは、Hodgkinリンパ腫全体の約5%を占める珍しい病型です。

この病型では、特徴的な「ポップコーン細胞」と呼ばれる腫瘍細胞が観察され、他の病型と比較して、進行が緩やかで予後は良好です。

古典的Hodgkinリンパ腫(CHL)の4つの亜型

CHLは、Hodgkinリンパ腫全体の約95%を占める主要な病型です。

CHLはさらに4つの亜型に分類され、それぞれが異なる臨床的特徴と予後を持っています。

CHLの4つの亜型

CHL亜型特徴
結節硬化型若年者に多い、縦隔腫瘤(胸部中央の腫れ)が特徴的
混合細胞型幅広い年齢層で発症、多様な細胞が混在
リンパ球豊富型予後良好、リンパ球が豊富に存在
リンパ球減少型高齢者に多い、予後不良の傾向

Hodgkinリンパ腫の主な症状

Hodgkinリンパ腫は、低悪性度群、中悪性度群、高悪性度群の各段階で特徴的な症状が見られます。

初期症状

Hodgkinリンパ腫の初期段階で最も頻繁に見られるのは、リンパ節の腫れです。

腫れは痛みを伴わず、首や鎖骨の上、脇の下、または鼠径部(足の付け根)に出現します。

腫れたリンパ節はゴムのような硬さを持ち、指で触ると動かせます。

全身性の症状(B症状)

病気が進行すると全身に影響を及ぼす症状が現れ、B症状と呼ばれます。

  • 原因不明の発熱(38℃以上の体温上昇が続く)
  • 寝汗(夜間に寝具を替えるほどの過度の発汗)
  • 著しい体重減少(6ヶ月以内に体重の10%以上が減少)

進行度別の症状

Hodgkinリンパ腫の症状は、病気の進行度によって異なる特徴を示します。

進行度症状
低悪性度群リンパ節の腫れ(痛みを伴わないもの)、軽度の疲労感
中悪性度群B症状の出現、息切れ、胸部の不快感や痛み
高悪性度群重度のB症状、様々な臓器の機能障害、骨の痛み

低悪性度群では症状が軽微であることが多いです。

中悪性度群に進行するとB症状が顕著になり始め、高悪性度群では症状がさらに悪化し、複数の臓器に影響が及びます。

その他の関連症状

Hodgkinリンパ腫の進行に伴い、患者さんによっていろいろな症状が見られます。

症状説明
掻痒感体のあちこちに現れる、原因不明の強いかゆみ
慢性的な疲労感休息を取っても改善しない持続的な疲れや倦怠感
食欲不振普段の食事量が取れない、もしくは食べる気が起きない状態
呼吸困難胸部のリンパ節腫大により、息苦しさや息切れを感じる

Hodgkinリンパ腫の原因

Hodgkinリンパ腫の発症には、遺伝的要因と環境因子の相互作用が関係しています。

遺伝的要因

遺伝子変異や染色体異常が、Hodgkinリンパ腫の疾患の発症リスクを上昇させます。

遺伝的要因リスク増加
家族歴あり2-3倍
HLA遺伝子1.5-2倍

環境因子の影響

Epstein-Barrウイルス(EBV)はB細胞に感染することで細胞の増殖を促進し、Hodgkinリンパ腫の発症リスクを高めます。

さらに、HIV感染者やその他の免疫不全状態にある方も、Hodgkinリンパ腫の発症リスクが上昇することが分かっています。

生活習慣と職業環境

喫煙は、特に若年層でのHodgkinリンパ腫発症リスクを増大させるので、注意が必要です。

また、農業や木材加工業に携わる方は、農薬や化学物質への曝露によりリスクが上昇する可能性があります。

免疫系の異常と炎症

Hodgkinリンパ腫の発症には、免疫系の異常や慢性的な炎症状態も関与しています。

自己免疫疾患を持つ方はHodgkinリンパ腫の発症リスクが高く、これは、長期的な免疫系の活性化や炎症が、リンパ球の異常な増殖を起こす可能性があるためです。

免疫関連因子リスク増加
自己免疫疾患2-3倍
慢性炎症1.5-2倍
免疫抑制剤使用2-4倍

年齢と性別

Hodgkinリンパ腫の発症は、20代前半と50代以降に発症のピークがあり、男性の方が女性よりもやや発症率が高いです。

Hodgkinリンパ腫の危険因子

  • 遺伝的素因
  • Epstein-Barrウイルス感染
  • 免疫不全状態
  • 喫煙
  • 特定の職業環境への曝露
  • 自己免疫疾患の存在
年齢層発症リスク
20代前半
30-40代
50代以降

診察(検査)と診断

Hodgkinリンパ腫の診断は、初期の臨床診断から始まり、さまざまな検査を通じて確定診断に至ります。

初期臨床診断

Hodgkinリンパ腫の診断は、問診と丁寧な身体診察から始まります。

患者さんの症状、これまでの病歴、ご家族の病歴などについて聞き取り、リンパ節の腫れや全身に現れる症状の有無を確認します。

診察項目確認のポイント
リンパ節の触診大きさ、硬さ、指で動かせるかどうか
全身の状態発熱の有無、体重減少、寝汗の程度
これまでの病歴免疫に関連する病気、ウイルス感染の経験
家族の病歴血縁者のリンパ腫罹患歴

画像診断

初期臨床診断でHodgkinリンパ腫の可能性が疑われた場合、画像による診断が大切です。

用いられる画像診断法には、CT(コンピュータ断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像法)、PET(陽電子放射断層撮影)があります。

PET-CTは、体全体のリンパ節や臓器の状態を一度の検査で評価できる優れた方法として、注目されています。

血液検査

Hodgkinリンパ腫の診断では、血球計算や生化学検査に加え、血液マーカーの測定も行います。

検査項目

  • 血球計算(赤血球、白血球、血小板の数と割合)
  • LDH(乳酸脱水素酵素)値(細胞の破壊を反映する指標)
  • 炎症の程度を示すマーカー(CRP、赤血球沈降速度)
  • 肝臓や腎臓の機能を調べる検査
  • 特殊なマーカー(可溶性IL-2受容体などのリンパ腫に関連するタンパク質)

確定診断のための生検

Hodgkinリンパ腫の最終的な確定診断には、リンパ節の一部または全体を採取する生検が不可欠です。

摘出されたリンパ節は、顕微鏡を使って細かく観察し、Hodgkinリンパ腫に特徴的なリード・シュテルンベルグ細胞の有無や、組織の構造に異常がないかを調べます。

さらに、免疫組織化学染色や遺伝子検査などの高度な分析技術も行います。

検査項目目的と内容
HE染色組織の全体的な構造と個々の細胞の形を観察します
免疫組織化学染色特定のタンパク質の発現を確認し、腫瘍の性質を調べます
フローサイトメトリー腫瘍細胞の表面にある特徴的な分子を解析します
遺伝子検査リンパ腫に関連する特定の遺伝子の異常を調べます

Hodgkinリンパ腫の治療法と処方薬、治療期間

Hodgkinリンパ腫の治療法は、ABVD療法やBEACOPP療法といった複数の抗がん剤を組み合わせた化学療法が中心です。

化学療法

Hodgkinリンパ腫の化学療法で最もよく使われる化学療法の組み合わせは、ABVD療法と呼ばれるものです。

ABVD療法では、4種類の抗がん剤を組み合わせて使用します。

  • A ドキソルビシン(Adriamycin) がん細胞のDNA合成を妨げる
  • B ブレオマイシン(Bleomycin) がん細胞のDNAを切断
  • V ビンブラスチン(Vinblastine) がん細胞の分裂を止める
  • D ダカルバジン(Dacarbazine) がん細胞のDNA合成を阻害

2週間を1回のサイクルとして投与し、4〜6回のサイクルを繰り返します。

薬剤名働き
ドキソルビシンがん細胞のDNAを傷つけ、増殖を抑える
ブレオマイシンがん細胞のDNAを切断し、細胞死を引き起こす
ビンブラスチンがん細胞の分裂に必要な構造を壊す
ダカルバジンがん細胞のDNA合成を妨げ、増殖を止める

より強力な化学療法

Hodgkinリンパ腫が進行していたり再発のリスクが高いと判断される場合に行われるのは、BEACOPP療法です。

BEACOPP療法では、以下の7種類の薬剤を組み合わせて使用します。

  • B ブレオマイシン(Bleomycin) がん細胞のDNAを切断する
  • E エトポシド(Etoposide) がん細胞の分裂を妨げる
  • A ドキソルビシン(Adriamycin) がん細胞のDNA合成を阻害
  • C シクロホスファミド(Cyclophosphamide) がん細胞のDNAを傷つける
  • O ビンクリスチン(Oncovin) がん細胞の分裂を止める
  • P プロカルバジン(Procarbazine) がん細胞の増殖を抑える
  • P プレドニゾン(Prednisone) 炎症を抑え、他の薬の効果を高める

BEACOPP療法は、ABVD療法と比べてより高い治療効果が期待できますが、同時に副作用も強くなります。

放射線療法との組み合わせ

早期のHodgkinリンパ腫では、化学療法と放射線療法を組み合わせることで、より高い治療効果が得られます。

放射線療法は、局所的に腫れたリンパ節に対して行われ、化学療法後に残った病変を消失させることが目的です。

20〜30グレイの放射線を、2〜3週間にわたって少しずつ分けて照射します。

治療期間と経過観察

Hodgkinリンパ腫の標準的な初回治療期間は、2〜6ヶ月程度です。

治療を何回繰り返すかは、病気の進行度や治療への反応によって決めることになります。

病気の進行度治療期間
早期2〜3ヶ月
進行期4〜6ヶ月

治療が終わった後も、定期的に病院を受診して経過を観察することが大切です。

Hodgkinリンパ腫が再発する場合治療終了後2年以内に起こるため、この期間は注意深く観察する必要があります。

Hodgkinリンパ腫の治療における副作用やリスク

Hodgkinリンパ腫の治療は効果的である一方、多様な副作用やリスクを伴います。

化学療法に伴う副作用

化学療法はHodgkinリンパ腫治療の中心となる方法ですが、多くの副作用が起こり、よく見られるのは吐き気、嘔吐、脱毛、倦怠感です。

副作用発生頻度
吐き気70-80%
脱毛90%以上
倦怠感80-90%

また、化学療法は骨髄抑制を起こし、白血球、赤血球、血小板の減少につながり、感染症のリスクが高まったり、貧血や出血傾向が生じたりします。

放射線療法のリスク

放射線療法は、局所的な治療法として有効ですが、照射部位周辺の正常組織にも影響を与えます。

胸部への照射の場合、肺炎や心臓への影響が懸念され、長期的には、二次がん(治療後に新たに発生するがん)の発生リスクが若干上昇する危険性も。

放射線療法の影響リスク
肺炎5-15%
心臓への影響1-5%
二次がん1-2%

免疫療法の副作用

Hodgkinリンパ腫の治療に導入されている免疫療法は、従来の治療法と比べて副作用が少ないとされていますが、全くないわけではなく、免疫関連有害事象と呼ばれる特有の副作用が生じます。

皮膚炎、大腸炎、肝炎、肺炎などが含まれ、時に重篤化することもあります。

長期的な副作用とリスク

Hodgkinリンパ腫の治療後、長期的な副作用やリスクにも注意が必要です。

特に若年患者さんでは、不妊や早期閉経などの生殖機能への影響が問題になります。

また、心血管疾患のリスク増加や、甲状腺機能低下症も報告されています。

長期的リスク発生率
不妊30-50%
心血管疾患10-20%
甲状腺機能低下症20-30%

副作用管理

副作用の管理は、治療の継続と患者さんの生活の質維持に欠かせません。

副作用のための対策

  • 制吐剤(吐き気を抑える薬)の使用
  • 感染予防のための衛生管理と予防投薬
  • 貧血対策としての輸血や造血促進剤の使用
  • 皮膚ケアと口腔ケア
  • 長期的なフォローアップと定期検査の実施

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

化学療法の費用内訳

ABVD療法の1クールあたりの薬剤費は、約20万円から30万円です。

項目概算費用
抗がん剤20-30万円
入院費5-10万円
検査費3-5万円

放射線療法の追加費用

早期のHodgkinリンパ腫では、化学療法に加えて放射線療法が併用されることがあります。

放射線療法の費用は、1回あたり2万円から3万円程度です。

標準的な治療では15回から20回程度の照射が行われるため、総額で30万円から60万円の追加費用が発生します。

支持療法にかかる費用

化学療法や放射線療法に伴う副作用対策として、支持療法が必要です。

  • 制吐剤 1回あたり 5,000円から10,000円
  • G-CSF製剤(白血球減少対策) 1回あたり2万円から3万円
  • 輸血  1回あたり2万円から5万円

長期的なフォローアップ費用

Hodgkinリンパ腫の治療後は、定期的な検査や経過観察を行います。

検査項目頻度概算費用
CT検査半年に1回2-3万円
PET-CT年1回10-15万円
血液検査2-3ヶ月に1回5,000-10,000円

以上

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