口腔癌(Oral cancer)とは、口の中に発生する悪性腫瘍です。
初期段階ではほとんど症状は現れないものの、進行すると口の中の痛みやしこり、出血、口臭の悪化といった症状が現れてきます。
早期発見・早期治療が非常に大切となりますので、歯科医院などで定期的に口の中をチェックしてもらうようにしてください。
口腔癌の種類(病型)
口腔癌の種類(病型)は、発生する場所や組織の特徴によって分けられます。
発生部位による分類
発生部位 | 特徴 |
舌癌 | 一番多く見られるが、早期発見が難しい |
歯肉癌 | 歯周病と間違えやすい |
頬粘膜癌 | あまり多くはないが、進行が速い |
口底癌 | 舌の下や顎の下にある唾液腺に広がりやすい |
組織学的分類
- 扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん):最もよく見られ、約90%を占めます
- 腺癌(せんがん):唾液腺から発生する癌で、比較的まれです
- 肉腫(にくしゅ):筋肉や骨などの組織から発生する悪性の腫瘍です
- 悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ):色素を作る細胞から発生する、悪性度の高い腫瘍です
分化度による分類
腫瘍の分化度とは、癌細胞が正常な細胞にどれくらい似ているかを示す指標です。
分化度 | 特徴 |
高分化型 | 正常な細胞によく似ており、比較的経過が良好なことが多い |
中分化型 | 高分化型と低分化型の中間的な性質を示す |
低分化型 | 正常な細胞との類似性が低く、経過が良くない傾向がある |
口腔癌の主な症状
口腔癌は、初期には痛みのない病変から始まり、進行すると痛みや機能障害などの症状が出てきます。
次のような症状がある場合は、できるだけ早く専門医を受診するようにしてください。
- 2週間以上よくならない口内炎がある
- 口の中に痛みや出血がある
- 物を飲み込みにくい、または話しにくい
- 口の中に腫れや硬いしこりがある
初期症状
口腔癌の初期症状は気づきにくいものが多く、あまり痛みもないため、見過ごされがちです。
この時期には、口の中への違和感や白っぽい斑点、赤っぽい斑点が現れ始めます。
※舌や頬の内側、歯ぐきなどに現れる場合が多いです。
初期の変化 | どんな特徴があるか |
白い斑点 | こすっても取れにくい |
赤い斑点 | 表面がなめらかな感じ |
病気が進行した場合の症状
病気が進行すると、より目立つ症状が現れてきます。
- 口の中の強い痛み
- 食事や話をするのが難しくなる
- 舌がうまく動かせない
- 言葉が聞き取りにくくなる
- 口の中にしこりのようなものが出来る
口の中にできたしこりは、だんだん大きくなり周りの組織を押しつぶすようになります。
体全体に現れる症状
- 体重が減る
- 体のだるさ
- リンパ節が腫れる
特に、あごの下や首のあたりにリンパ節の硬い腫れが現れた場合、がんが体の他の部分に広がっている可能性があります。
口腔癌の原因
口腔癌(こうくうがん)は、喫煙やお酒の飲み過ぎ、ウイルス感染などが主な原因です。
喫煙・アルコール
タバコに含まれる発癌物質は、口腔内の細胞に持続的な悪影響を与えます。
また、アルコールは口腔内の粘膜を傷つけるだけでなく、他の発癌物質の吸収を促進します。
さらに喫煙と飲酒を同時に行う場合は、口腔癌のリスクが大幅に上昇します。
リスク因子 | リスク増加率 |
喫煙単独 | 約2-3倍 |
過度の飲酒単独 | 約2-3倍 |
喫煙と飲酒併用 | 約15倍 |
ウイルス感染による口腔癌発症
ヒトパピローマウイルス(HPV)(特にHPV16型)は、口腔癌の発症と関連性があることが分かってきています。
HPVとは、主に性行為を通じて口腔内に侵入するウイルスです。
長期間潜伏した後に癌化を起こす可能性があるため、若い世代でも口腔がんになる可能性はあります。
口腔衛生
日々の歯磨きが不十分であったり、定期的な歯科ケアを怠ったりしている方は、口腔内の細菌が異常に増殖し慢性的な炎症状態を起こすと言われています。
歯周病や繰り返す口内炎のような持続的な炎症がある場合、長期的には細胞の異常な増殖を誘発し、癌化のリスクを高めていく可能性があります。
慢性炎症性疾患 | リスク増加の主な要因 |
歯周病 | 細菌による持続的な炎症 |
繰り返す口内炎 | 粘膜の度重なる損傷 |
扁平苔癬(へんぺいたいせん) | 自己免疫性の慢性炎症 |
診察(検査)と診断
口腔癌の診断では、視診や触診などの基本的な検査のほか、画像診断や生検などを行います。
画像を使った診断方法
画像検査では、がんがどのくらい進んでいるか、周りの組織に入り込んでいないか、リンパ節に転移していないかなどを調べます。
検査の種類 | どんなことがわかるか |
CT検査 | がんがどこまで広がっているか、骨に入り込んでいないか |
MRI検査 | 軟部組織の様子 |
PET検査 | がんが体の他の部分に広がっていないか |
超音波検査 | リンパ節にがんが広がっていないか |
その他の検査
検査の種類 | 検査の目的 |
血液検査 | 全身の状態を調べる |
尿検査 | 腎臓の働きを確認する |
生検
症状や画像検査の結果から口腔癌が疑われる場合、組織を採取して調べる検査(生検)を行い、確定診断を行います。
組織を採取する方法
- 病変の一部または全部を切り取って調べる方法
- 細い針を使って組織や細胞を吸い取る方法
- ブラシで病変部をこすって細胞を採取する方法
採取した組織は、専門の医師(病理医)が顕微鏡で観察して診断を行います。
総合的な診断と進行度の判定
口腔癌と診断された場合、がんの進行度を判定します。進行度の判定には、TNM分類という方法を用います。
T (原発腫瘍の大きさ) | N (リンパ節転移の程度) | M (他の臓器への転移) |
Tis〜T4 | N0〜N3 | M0, M1 |
口腔癌の治療法と処方薬、治療期間
口腔癌の治療は、手術療法、放射線療法、化学療法を組み合わせて行います。治療期間は3〜6か月程度が目安となります。
主な治療法
口腔癌の治療法は、がんの進行度や発生部位、患者さんの全身状態などを考慮し決めていきます。
- 手術療法(外科的に腫瘍を取り除く方法)
- 放射線療法(高エネルギーの放射線でがん細胞を攻撃する方法)
- 化学療法(抗がん剤を用いてがん細胞の増殖を抑える方法)
- 免疫療法(体の免疫システムを活性化させてがん細胞を攻撃する方法)
初期段階の口腔癌の場合、手術による腫瘍の完全な切除を第一の選択肢として考えます。
一方、進行した症例においては、手術に加えて放射線療法や化学療法を併せて行うことが多くなります。
治療法 | 主な適応 |
手術療法 | 早期の癌、切除が可能な進行癌 |
放射線療法 | 手術が困難な症例、手術後の補助療法 |
化学療法 | 進行した癌、再発した癌 |
免疫療法 | 再発した癌、他の部位に転移した癌 |
処方薬の種類と効果
口腔癌の治療に使用する主な薬剤としては、抗がん剤と免疫チェックポイント阻害薬があります。
がんの進行を抑え、患者さんの生存期間を延ばしたり、症状を和らげたりする効果があります。
薬剤の種類 | 代表的な薬剤名 |
抗がん剤 | シスプラチン、フルオロウラシル |
免疫チェックポイント阻害薬 | ニボルマブ、ペムブロリズマブ |
抗がん剤
抗がん剤は、がん細胞の増殖を抑えたり、直接的に殺傷したりする働きを持つ薬剤です。
代表的なものとしてシスプラチンやフルオロウラシルなどがあり、単独でも使用しますが、複数の薬剤を組み合わせる場合もあります。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、体の免疫システムを活性化させることでがん細胞を攻撃する薬剤です。
ニボルマブやペムブロリズマブといった薬剤が承認されており、主に再発したがんや、他の部位に転移した口腔癌の治療に使用します。
治療期間の目安
治療法 | 一般的な治療期間 |
手術療法 | 1〜2か月(回復期間含む) |
放射線療法 | 5〜7週間 |
化学療法 | 3〜6か月 |
免疫療法 | 効果が続く限り継続します。 |
放射線療法は通常5〜7週間続け、毎日病院に通って治療を受ける必要があります。
化学療法の場合は、数日間の点滴治療を3〜4週間ごとに繰り返し、全体で3〜6か月ほど続けていただく場合が多いです。
免疫療法は、2〜3週間ごとに点滴治療を行い、効果が持続する限り継続します。
口腔癌の治療における副作用やリスク
口腔癌の治療における一般的な副作用としては、口内炎、粘膜炎による痛み、味覚障害、唾液の分泌減少、むくみ、脱毛、倦怠感などが挙げられます。
※治療法や個人の体質によって現れる症状は異なります。
治療法ごとの副作用
- 顔の外見の変化
- 口の働きが低下する
- 食事をするとき、噛む力が弱くなる
- 話す時の発音が変化する
- 口の中が乾燥する(口腔乾燥症)
- 食べ物の味がわかりにくくなる(味覚障害)
症状は治療中だけでなく、治療後も長く続く場合があります。
- 吐き気
- 体の抵抗力が弱くなる
治療に伴うリスクについて
リスク | 説明 |
感染症 | 体の抵抗力が弱まることで感染症にかかりやすくなります。 |
再発 | がんが再発する可能性があるため、定期的な検査が必要です。 |
二次がんの発生 | 放射線治療後に、新たながんが発生するリスクがあります。 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
口腔癌の治療費は、がんの進行度(ステージ)や治療法によって変動しますが、50万円から500万円の範囲が目安となります。
主な治療法と費用
治療法 | 概算費用(円) |
手術 | 80万〜350万 |
放射線 | 150万〜250万 |
化学療法 | 50万〜150万 |
口腔癌の治療には原則として健康保険が適用されます。自己負担額は年齢や所得によって異なりますが、通常3割です。
高額療養費制度を利用すると月々の自己負担額に上限が設定され、経済的負担を軽減できます。
その他の費用の目安
- 入院費(1日あたり1万円〜3万円)
- 食事代(1日あたり460円〜)
- 薬剤費(月額1万円〜10万円)
- リハビリテーション費用(1回あたり2,000円〜5,000円)
以上
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