二次性骨髄線維症(secondary myelofibrosis)とは、他の血液疾患や全身性疾患に続いて発症する、骨髄の線維化を特徴とする血液の疾患です。
この疾患では、骨髄内に異常な線維組織が過剰に増殖し、本来あるべき正常な血液細胞を作り出す機能が妨げられ、貧血や白血球減少、血小板減少などの血球が減少します。
さらに、脾臓が大きくなったり、倦怠感、発熱、体重の減少といった症状が現れることもあります。
二次性骨髄線維症の種類(病型)
二次性骨髄線維症は、腫瘍性、感染性、その他の要因によって起こされる病型に分類されます。
腫瘍性病変に伴う二次性骨髄線維症
腫瘍性病変に関連する二次性骨髄線維症は、血液系腫瘍や固形腫瘍が原因となって発症するケースが多いです。
血液系腫瘍では、慢性骨髄性白血病や本態性血小板血症(血小板が異常に増加する病気)、固形腫瘍の場合、乳がんや前立腺がんが骨転移を起こすことで、二次性骨髄線維症を誘発するケースが報告されています。
腫瘍の種類 | 代表的な疾患 |
血液系腫瘍 | 慢性骨髄性白血病、本態性血小板血症 |
固形腫瘍 | 乳がん、前立腺がん(骨転移時) |
感染症に関連する二次性骨髄線維症
慢性感染症や全身性感染症が骨髄に影響を及ぼし、線維化を起こすことがあります。
二次性骨髄線維症に関連する疾患は、結核や梅毒などの慢性感染症、HIV感染症(エイズウイルス感染症)などです。
感染症にかかると、持続的な炎症反応や免疫系の異常活性化が骨髄微小環境に変化をもたらし、線維芽細胞の増殖を促進します。
その他の要因による二次性骨髄線維症
腫瘍性病変や感染症以外にも、自己免疫疾患、放射線被曝、特定の薬剤の長期使用も二次性骨髄線維症の原因です。
自己免疫疾患では、全身性エリテマトーデス(多臓器に炎症が起こる自己免疫疾患)や強皮症(皮膚や内臓が硬くなる自己免疫疾患)が骨髄線維化を誘発します。
要因 | 具体例 |
自己免疫疾患 | 全身性エリテマトーデス、強皮症 |
外的要因 | 放射線被曝、特定薬剤の長期使用 |
また、一部の抗がん剤や免疫抑制剤の長期使用も、骨髄線維化のリスク因子です。
二次性骨髄線維症の主な症状
二次性骨髄線維症は、前繊維化期では軽度の症状が見られるのに対し、繊維化期になると患者さんの体により大きな負担をかける重篤な症状が生じます。
前繊維化期の症状
前繊維化期では、骨髄の線維化がまだ軽度にとどまっているため、症状が目立ちません。
出る可能性のある軽度の症状
症状 | 特徴 |
倦怠感 | 日常生活に支障をきたすほどの強い疲労感や脱力感 |
発熱 | 37度台の微熱が長く続くことが多い |
体重減少 | 明確な原因がないにもかかわらず体重が減少する |
寝汗 | 夜間に就寝中、異常な発汗が見られる |
症状は、骨髄の機能が低下することで血液細胞の生成に障害が生じ、さらに体内で炎症反応が起きることで現れます。
また、血液検査を行うと、軽度の貧血や血小板増加、白血球増加が認められることも。
繊維化期の症状
繊維化期になると、骨髄の線維化がさらに進行し、よりはっきりとした症状が出てきます。
- 重度の貧血による息切れや極度の疲労感(軽度の運動でも息苦しさを感じる)
- 出血傾向の亢進(歯磨き時の歯肉出血増加)
- 感染症罹患リスクの上昇
- 脾腫(脾臓の腫大)による腹部膨満感や左上腹部痛
- 門脈圧亢進症(肝臓への血流圧上昇)による食道静脈瘤(食道静脈の拡張)
- 骨痛や関節痛
血球減少に伴う症状
繊維化期では骨髄の線維化により正常な造血機能が阻害されるため、血球減少症がより顕著です。
血球の種類 | 減少時の症状 |
赤血球 | 貧血(めまい、息切れ、倦怠感など) |
白血球 | 免疫機能低下、感染症罹患リスク上昇 |
血小板 | 出血傾向亢進(皮下出血、粘膜出血など) |
髄外造血に伴う症状
繊維化期PMFでは、本来造血を担う骨髄以外の臓器で血液細胞が産生される「髄外造血」という現象が生じます。
髄外造血により起こる症状
影響を受ける臓器 | 症状 |
脾臓 | 脾腫(脾臓腫大)、左上腹部痛 |
肝臓 | 肝腫大、右上腹部痛 |
リンパ節 | リンパ節腫脹 |
皮膚 | 皮下結節形成 |
特に脾腫は二次性骨髄線維症の特徴的な症状で、腹部膨満感や早期満腹感を起こします。
二次性骨髄線維症の原因
二次性骨髄線維症は、基礎疾患や外的要因によって発症する血液疾患です。
血液系腫瘍による骨髄線維化
二次性骨髄線維症で最もよく見られる原因は、血液腫瘍である骨髄増殖性腫瘍(MPN)です。
その中でも、真性多血症(赤血球が異常に増加する病気)、本態性血小板血症(血小板が異常に増加する病気)、原発性骨髄線維症(骨髄が線維化する病気)が、影響のある疾患として知られています。
血液系腫瘍 | 骨髄線維化のリスク |
真性多血症 | 中~高 |
本態性血小板血症 | 中 |
原発性骨髄線維症 | 高 |
固形腫瘍の骨髄転移による影響
乳がん、前立腺がん、肺がんなどが骨髄に転移すると、二次性骨髄線維症を起こします。
腫瘍細胞が骨髄に侵入することで、局所的な炎症反応や組織のリモデリング(再構築)が誘発され、線維化が進行するのです。
慢性炎症性疾患の関与
全身性エリテマトーデス(多臓器に炎症が起こる自己免疫疾患)、関節リウマチ、結核、HIV感染症は、骨髄線維化のリスク因子です。
持続的な炎症性サイトカイン(炎症を引き起こす物質)の産生や免疫系の異常な活性化が、骨髄ストローマ細胞(骨髄の支持細胞)の機能に変化をもたらし、線維化を促進します。
慢性炎症性疾患 | 骨髄線維化のメカニズム |
自己免疫疾患 | 自己抗体、炎症性サイトカイン |
慢性感染症 | 持続的な免疫応答、組織障害 |
環境因子と薬剤性
放射線被曝は直接的に骨髄細胞にダメージを与え、修復過程で線維化を起こし、薬剤性の骨髄線維症も見逃せません。
抗がん剤、免疫抑制剤、抗生物質の長期使用が、骨髄微小環境に悪影響を及ぼし、線維化を誘発します。
遺伝的素因の役割
遺伝も、二次性骨髄線維症の発症の要因です。
JAK2、CALR、MPLなどの遺伝子変異は、骨髄増殖性腫瘍の発症リスクを高めると同時に、骨髄線維化の進行にも影響を与えます。
診察(検査)と診断
二次性骨髄線維症の診断は、症状の評価、血液検査、画像診断、骨髄生検を行い進めていきます。
臨床診断の重要性
臨床診断では、患者さんの訴える症状や過去の病歴、体の状態を調べます。
特に、脾臓が腫れていないか、貧血の症状がないか、出血しやすくなっていないかなど、この病気に特徴的な兆候を確認します。
臨床所見 | 診断上の意義 |
脾腫(脾臓の腫れ) | 骨髄以外の場所で血液細胞が作られている可能性を示唆 |
貧血症状 | 血液を作る機能に障害が起きていることを示す指標 |
出血しやすい傾向 | 血小板の機能に異常が起きている兆候 |
全身的な疲労感 | 長期間にわたって骨髄の機能が低下していることの表れ |
血液検査
血液検査は二次性骨髄線維症を診断するうえで欠かせません。
完全血球計算(CBC)や、血液を薄く引き延ばして顕微鏡で観察する末梢血液塗抹標本の評価が行われます。
血液検査で観察される所見
- 貧血(赤血球の数が減少している状態)
- 血小板の数の異常(増加または減少)
- 白血球の数の変化
- 涙滴赤血球(涙のしずくのような形の赤血球)や有核赤血球(従来は骨髄内にのみ存在する核を持った赤血球)の出現
- 通常より大型の血小板
画像診断
二次性骨髄線維症を診断する補助として超音波検査やCTスキャンなどが用いられ、脾臓や肝臓の腫れを評価するのに役立ちます。
検査法 | 評価対象 |
超音波検査 | 脾臓・肝臓の大きさや内部の構造 |
CTスキャン | 腹部臓器の詳細な形態や状態 |
MRI | 骨髄の状態、骨髄外造血の有無 |
骨髄生検による確定診断
骨髄生検は、二次性骨髄線維症という疾患を最終的に確定するうえで、最も重要な検査です。
骨内の骨髄組織を直接採取して顕微鏡で調べることで、骨髄内の線維化の程度や、血液細胞が産生されている様子を直接観察できます。
骨髄生検で確認する点
- 骨髄内の線維化の程度
- 巨核球という大型の血液細胞の異常増殖の有無
- 造血細胞の分布異常
- 骨梁の肥厚や変形の有無
二次性骨髄線維症の治療法と処方薬、治療期間
二次性骨髄線維症の治療は、原因になっている疾患の管理と症状の緩和を中心に行われます。
原因疾患の治療
二次性骨髄線維症の治療において大切なのは、原因となっている基礎疾患の管理です。
血液系腫瘍が原因の場合、抗がん剤治療や分子標的薬が用いられます。
骨髄増殖性腫瘍に対してはJAK阻害薬(特定の酵素を阻害する薬)であるルキソリチニブが効果を示し、固形腫瘍の骨転移による場合は、原発巣の治療と並行して、ビスホスホネート製剤(骨を強くする薬)などの骨修飾薬を使用します。
原因疾患 | 治療薬 |
骨髄増殖性腫瘍 | ルキソリチニブ、インターフェロン-α |
固形腫瘍骨転移 | ビスホスホネート製剤、デノスマブ |
造血機能のサポート
二次性骨髄線維症では、造血機能の低下に対するサポートが欠かせません。
貧血に対しては赤血球輸血やエリスロポエチン製剤(赤血球を増やす薬)が、血小板減少に対しては血小板輸血が行われます。
重症の場合、造血幹細胞移植が検討されることもあります。
症状緩和療法
脾腫(脾臓の腫れ)による腹部膨満感や疼痛に対しては、薬物療法や放射線療法が選ばれ、ヒドロキシウレアやルキソリチニブが脾臓の縮小効果を示しています。
また、極端な脾腫大の場合は脾臓摘出術が考慮されることも。
症状 | 治療法 |
脾腫 | ヒドロキシウレア、ルキソリチニブ、放射線療法 |
骨痛 | 鎮痛薬、ビスホスホネート製剤 |
治療期間と経過観察
二次性骨髄線維症の治療は、生涯にわたることが多いです。
原因疾患の管理や症状緩和療法は継続的に行われ、定期的な血液検査や骨髄検査、画像検査を通じて、病状の進行や治療効果を観察します。
二次性骨髄線維症の治療で重要な点
- 原因疾患の特定と管理
- 造血機能のサポート(輸血、造血促進剤)
- 症状緩和療法(脾腫、骨痛対策)
- 定期的な経過観察と治療調整
- 新規治療法の評価と適用
治療段階 | 内容 |
初期評価 | 原因疾患の特定、病状の評価 |
治療開始 | 原因疾患の治療、症状緩和療法 |
経過観察 | 定期的な検査、治療効果の評価 |
長期管理 | 継続的な治療調整、新規治療の検討 |
二次性骨髄線維症の治療における副作用やリスク
二次性骨髄線維症の治療は、患者さんの状態や病気の進行度に応じて選択されますが、どの治療法を選んでも副作用やリスクがあります。
薬物療法における副作用
薬物療法は二次性骨髄線維症の主要な治療法の一つで、副作用が報告されています。
薬剤 | 副作用 |
JAK阻害剤 | 貧血、血小板減少、感染症にかかりやすくなる |
免疫調節薬 | 血球減少、血栓症(血液の固まりができやすくなる)、末梢神経障害 |
アンドロゲン | 肝機能障害、男性化症状(女性での声の低音化など) |
輸血療法に関連するリスク
輸血療法は貧血を改善するのに効果的ですが、リスクもあります。
- 輸血関連急性肺障害(TRALI):輸血後に肺に水がたまるなどの症状が現れる
- 鉄過剰症:輸血を繰り返すことで体内の鉄分が増えすぎてしまう
- 同種免疫感作:他人の血液成分に対して抗体ができてしまう
- 感染症伝播:非常にまれですが、輸血によって感染症がうつる可能性がある
長期間にわたって輸血に頼らざるを得ない状況では、鉄過剰症のリスクが高く、心臓や肝臓に障害を起こす可能性があるため、注意深く監視することが必要です。
造血幹細胞移植のリスク
造血幹細胞移植は二次性骨髄線維症を根本的に治療できる唯一の方法であるものの、重大なリスクを伴います。
リスク | 説明 |
移植片対宿主病(GVHD) | ドナーから移植された免疫細胞が、患者さんの体の組織を異物と認識して攻撃してしまう |
感染症 | 免疫力が低下している状態で、普段なら問題にならない微生物に感染してしまう |
臓器障害 | 移植の前処置や使用する薬剤によって、様々な臓器に悪影響が及ぶ可能性がある |
不妊 | 大量の抗がん剤治療により、生殖機能に影響が出る可能性がある |
リスクは、患者さんの年齢や全身の状態、ドナーとの適合度によって変わってきます。
脾臓摘出術のリスク
脾臓摘出術は、脾臓が異常に大きくなることで起こる症状を改善する目的で行われます。
脾臓摘出術のリスク
- 手術後の感染症(莢膜細菌と呼ばれる細菌による重い感染症)
- 血栓症(血液の固まりができやすくなる)
- 手術後に血小板が増えすぎることによる血栓症
- 手術に伴う合併症(出血、周りの臓器を傷つけてしまう)
脾臓を摘出した後は感染症にかかるリスクが高くなるため、予防接種を受けたり、予防的に抗生物質を使用することが大切です。
放射線療法の副作用
放射線療法は、脾臓の腫れや骨髄以外の場所で血液細胞が作られている部分を小さくする目的で用いられ、以下のような副作用があります。
- 急性期の副作用(吐き気、嘔吐、強い疲労感)
- 放射線を当てた部分の皮膚の炎症
- 骨髄の働きが抑えられてしまう
- 将来、新たにがんが発生するリスクが高まる
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
薬剤費
JAK阻害薬のルキソリチニブは、1ヶ月あたり約30万円から50万円です。
エリスロポエチン製剤を使用する場合、月額10万円から20万円程度の費用がかかります。
薬剤名 | 月額費用(概算) |
ルキソリチニブ | 30万円~50万円 |
エリスロポエチン製剤 | 10万円~20万円 |
検査費用
血液検査は1回あたり数千円から1万円、骨髄検査は1回あたり2万円から5万円です。
CT検査やMRI検査などの画像診断は、1回あたり約1万円から5万円になります。
入院費用
症状が悪化したり合併症が出たときは、治療のために入院が必要です。
入院費用は1日あたり2万円から5万円程度かかります。
入院タイプ | 1日あたりの費用(概算) |
一般病棟 | 2万円~3万円 |
特別室 | 3万円~5万円 |
その他の関連費用
- 輸血療法費用(1回あたり2万円~5万円)
- 造血幹細胞移植費用(数百万円~1000万円以上)
- 在宅医療機器のレンタル費用
以上
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