スポロトリコーシス(sporotrichosis)とは、スポロトリクス属の真菌が原因で発症する疾患です。
この感染症は、スポロトリクス属の真菌が皮膚の傷口から体内に侵入することで発症します。
多くの場合は皮膚に限局した感染症として現れますが、まれに肺や関節など他の臓器に感染が広がることもあります。
スポロトリコーシスの種類(病型)
スポロトリコーシスは、感染した部位や病変の広がり方によって、複数の種類(病型)に分類されます。
リンパ管型(皮膚リンパ管型)
リンパ管型は、皮膚に傷ができた際に菌が侵入し、リンパ管に沿うように病変が拡大していく型です。
皮膚には結節や潰瘍が多数発生し、それらがリンパ管に沿って連珠状に並びます。
病型 | 特徴 |
リンパ管型 | 皮膚の結節や潰瘍が多発 |
リンパ管型 | リンパ管に沿った連珠状配列 |
固定型
固定型は、皮膚の限られた範囲にのみ病変が生じる型で、結節や潰瘍が単発性に現れます。 この型では、リンパ管への病変の広がりは認められません。
播種型
播種型は、血液を介して全身に菌が散らばり、さまざまな臓器に病変を形成する型で、皮膚、粘膜、内臓など全身に病変が及び、重症化するリスクが高い病型です。
- 肺
- 肝臓
- 脾臓
- 骨
- 関節
など、多岐にわたる臓器で病変が生じる可能性があります。
粘膜皮膚型
粘膜皮膚型は、口腔内や鼻腔内といった粘膜に病変が生じる型です。 皮膚に病変を伴うこともあります。
病型 | 部位 |
粘膜皮膚型 | 口腔内 |
粘膜皮膚型 | 鼻腔内 |
その他の臓器型
肺、骨・関節、中枢神経系など、特定の臓器のみに病変が限局して現れる型もあり、それぞれ肺型、骨関節型、中枢神経系型などと呼ばれ、罹患した臓器に特有の症状を示します。
スポロトリコーシスの主な症状
スポロトリコーシスの主な症状は、感染部位に赤い腫れや潰瘍ができ、徐々に拡大していくものです。
皮膚症状の特徴
皮膚に現れるスポロトリコーシスの病変の特徴
特徴 | 説明 |
赤い腫れ | 感染部位に紅色の腫脹が見られる |
潰瘍形成 | 病変が進行すると、皮膚に潰瘍ができる |
病変の拡大 | 感染が広がるにつれ、病変部分が徐々に大きくなる |
リンパ管型の症状
スポロトリコーシスには、リンパ管に沿って病変が広がるリンパ管型と呼ばれる形態があり、以下のような症状が見られることがあります。
- リンパ管に沿った皮膚の腫れや硬結
- リンパ節の腫脹や圧痛
- 複数の病変が連なって現れる
リンパ管型の特徴 | 説明 |
リンパ管に沿った病変 | リンパ管に沿って皮膚の腫れや硬結が見られる |
リンパ節の腫脹 | 感染が広がると、リンパ節が腫れて圧痛を伴うことがある |
皮膚以外の症状
まれに、スポロトリコーシスが皮膚以外の臓器に感染することがあり、肺や関節などに感染が広がった場合、現れる症状があります。
症状の進行と重症化
スポロトリコーシスの症状は、治療を行わないと進行し、重症化する可能性があります。
病変が広範囲に広がったり、皮膚以外の臓器に感染が及んだりすると、治療がより困難になることがあるので注意が必要です。
スポロトリコーシスの原因・感染経路
スポロトリコーシスは、Sporothrix schenckiiと呼ばれる真菌が原因となって生じる感染症で、主な感染経路は外傷を通じて皮膚からの直接感染です。
原因真菌:Sporothrix schenckii
スポロトリコーシスの原因菌であるSporothrix schenckiiは、自然環境中に広く分布している真菌で、特に、土壌中や植物上に多く存在します。
真菌名 | 存在場所 |
Sporothrix schenckii | 土壌 |
Sporothrix schenckii | 植物 |
主な感染経路
スポロトリコーシスの主な感染経路は、Sporothrix schenckiiが付着した植物や土壌に触れた際に、皮膚に傷があることで菌が体内に侵入し、感染が成立します。
- とげのある植物に触れて負った外傷
- 土いじりの際に生じた外傷
- 動物に引っかかれたり噛まれたりして負った傷
など、皮膚の傷から感染することがほとんどです。
その他の感染経路
吸入によって肺に感染したり、汚染された物品から感染したりすることもありますが、これらの感染経路による発症はまれです。
大部分の症例は、皮膚からの直接感染によるものだと考えられています。
感染経路 | 頻度 |
皮膚からの直接感染 | 高い |
吸入による肺感染 | 低い |
汚染物品からの感染 | 低い |
感染リスクの高い職業
スポロトリコーシスに感染するリスクが高いのは、土壌や植物を扱う機会が多い職業に就いている方たちです。
農業に従事する人、園芸を行う人、造園の仕事をしている人などは、感染リスクが高い職業になります。
診察(検査)と診断
スポロトリコーシスを正しく診断するためには、臨床所見と各種検査結果を総合的に判断することが求められます。
病歴聴取と身体診察
スポロトリコーシスが疑われる際は、まず詳細な病歴を聞き、感染経路や症状が現れた時期、全身の状態などを確認します。
身体診察では、皮膚の病変部位の性状や分布、リンパ節の腫れなどを観察。
病歴聴取で確認すること | 身体診察で観察すること |
感染経路 | 皮膚病変の性状 |
症状出現時期 | 皮膚病変の分布 |
全身状態 | リンパ節腫脹の有無 |
真菌学的検査
スポロトリコーシスの確定診断のためには、病変部位から検体を採取し、真菌学的検査を行うことが必要不可欠です。
検査方法 | 目的 |
直接鏡検 | 菌要素の有無の確認 |
培養検査 | 菌の発育の確認 |
病理組織学的検査 | 菌要素や組織反応の観察 |
血清学的検査
血清学的検査は補助的な診断法で、抗体価の測定などが実施されますが、感度や特異度に限界があるため、血清学的検査単独での診断は困難です。
鑑別診断
スポロトリコーシスは、他の皮膚真菌症や細菌感染症、非感染性疾患と鑑別する必要があります。
スポロトリコーシスの治療法と処方薬
スポロトリコーシスの治療では、抗真菌薬の投与が中心です。
ヨードカリ
スポロトリコーシスの治療には長らくヨードカリが使用されてきました。
ヨードカリは比較的安価で副作用のリスクが低いという長所がある一方、効果が現れるまでに時間を要するという短所もあります。
薬剤名 | 特徴 |
ヨードカリ | 安価で副作用が少ない |
ヨードカリ | 効果発現までに時間がかかる |
イトラコナゾール
スポロトリコーシスの治療ではイトラコナゾールが第一選択薬として幅広く用いられています。
- 1日当たりの投与量は100~200mg
- 服用期間は通常3~6ヶ月程度
- 重症例ではより長期の投与が必要になる場合もある
など、感染の状態に合わせて投与方法が調整されます。
テルビナフィン
テルビナフィンもスポロトリコーシスの治療に有効であることが示されている薬剤の一つです。
イトラコナゾールと遜色ない効果が期待でき、副作用の発現頻度も低いとされています。
薬剤名 | 特徴 |
テルビナフィン | イトラコナゾールと同等の効果 |
テルビナフィン | 副作用が少ない |
アムホテリシンB
重症例や播種型の感染症例に対しては、アムホテリシンBの使用が検討されることがあります。
アムホテリシンBは注射で投与する薬剤で、抗真菌活性が強力である反面、副作用の発現率が高いため慎重な使用が求められます。
治療に必要な期間と予後について
スポロトリコーシスの治療には数週間から数ヶ月かかるのが一般的で、治療を行えば予後は良好です。
治療期間
スポロトリコーシスの治療期間は、感染の軽症の皮膚感染なら内服薬で数週間から2〜3ヶ月ほどですが、播種性スポロトリコーシスのような重症例では治療期間が長引くことがあります。
感染の種類 | 治療期間の目安 |
軽症の皮膚感染 | 数週間~2~3ヶ月 |
リンパ管炎型 | 2~6ヶ月 |
播種性感染 | 6ヶ月以上 |
予後
スポロトリコーシスは治療を行えば予後が良いことが多いです。
ただし次のようなことがあると、治療が難しくなったり再発リスクが高まったりする可能性があります。
- 免疫力が低下している患者の場合
- 診断や治療の開始が遅れたとき
- 薬剤耐性菌が原因の感染である場合
予後に影響する因子 | 影響 |
免疫力の低下 | 治療難易度の上昇、再発リスクの増加 |
診断・治療の遅れ | 重症化、治療期間の長期化 |
薬剤耐性菌 | 治療難易度の上昇 |
スポロトリコーシスの治療における副作用やリスク
スポロトリコーシスの治療用いられる抗真菌薬には、副作用やリスクがあります。
抗真菌薬の副作用
スポロトリコーシスの治療には、イトラコナゾールやテルビナフィンなどの抗真菌薬が使用され、肝機能障害や消化器症状などの副作用を引き起こすことがあります。
抗真菌薬 | 主な副作用 |
イトラコナゾール | 肝機能障害、消化器症状 |
テルビナフィン | 肝機能障害、発疹 |
薬剤相互作用のリスク
スポロトリコーシスの治療に用いられる抗真菌薬は、他の薬剤と相互作用を起こす可能性があります。
薬効が減弱したり、副作用のリスクが高まったりすることがあるため、注意が必要です。
治療期間の長期化
スポロトリコーシスの治療は、数週間から数ヶ月と長期間に及ぶことがあります。
治療期間が長引くと、副作用のリスクが高まるだけでなく、患者さんの治療へのアドヒアランスが低下する恐れも。
治療期間 | リスク |
数週間 | 副作用のリスク |
数ヶ月 | アドヒアランスの低下 |
免疫抑制状態の患者さんにおけるリスク
免疫抑制状態にある患者さんでは、スポロトリコーシスの重症化や播種性感染のリスクが高くなるので、より慎重なモニタリングと管理が求められます。
免疫抑制状態の患者さんにおけるスポロトリコーシス治療
予防方法
スポロトリコーシス感染を予防するためには、感染源を避けることが一番です。
感染源との接触を避ける
スポロトリコーシスの原因菌は、土壌や腐敗した植物などに存在します。
感染源 | 注意点 |
土壌 | 素手で触れない |
腐敗した植物 | 直接触れない |
農作業や園芸作業の際は、手袋を着用し、皮膚の露出を避けることが肝心です。
傷口を保護する
傷口からの感染を防ぐため、いくつかの点に注意が必要です。
- 傷口をしっかりと覆う
- 清潔なガーゼや包帯を使用する
- 傷口を汚染から保護する
保護方法 | 効果 |
ガーゼや包帯での保護 | 菌の侵入を防ぐ |
汚染の防止 | 感染リスクを下げる |
衛生管理を徹底する
日常生活における衛生管理も感染予防に欠かせません。
手洗いの徹底や、爪の手入れ、皮膚の清潔な状態の保ち、また、ペットを飼っている方は、ペットの健康管理にも気を配る必要があります。
免疫力を高める
感染症に対する抵抗力を高めるため、バランスの取れた食事や十分な休養が不可欠です。
また、ストレス管理も免疫力維持に大きな影響を与えます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
抗真菌薬の種類と費用
スポロトリコーシス治療に用いられる代表的な抗真菌薬は、イトラコナゾールやテルビナフィンなどです。
抗真菌薬 | 一日投与量 | 月あたりの費用目安 |
イトラコナゾール | 200mg | 約5万円~10万円 |
テルビナフィン | 250mg | 約3万円~5万円 |
治療期間と総費用
スポロトリコーシスの治療期間は、感染部位や重症度によって変わってきますが、一般的には数週間から数ヶ月間の投薬が必要です。
- 皮膚の限局性感染:2~4週間の治療が一般的
- リンパ管や関節の感染:3~6ヶ月間の治療が必要なことも
- 全身性の感染:6ヶ月以上の長期治療が必要になる場合も
感染部位 | 治療期間目安 | 総費用目安 |
皮膚(限局性) | 2~4週間 | 10万円~40万円 |
リンパ管・関節 | 3~6ヶ月間 | 50万円~180万円 |
全身性 | 6ヶ月以上 | 180万円以上 |
公的医療保険の適用
スポロトリコーシスの治療は公的医療保険の適用対象となっていますが、長期の治療を要する際は、経済的負担が生じることもあります。
以上
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