慢性好酸球性白血病(CEL)(chronic eosinophilic leukemia)とは、血液中の好酸球(白血球の一種)が異常に増加する血液のがんです。
この疾患では、骨髄内で未熟な好酸球が必要以上に作られ、通常よりも多く血液中に放出されてしまいます。
本来の機能を果たせない好酸球が体内に溜まることで、さまざまな症状や合併症が現れます。
慢性好酸球性白血病(CEL)の主な症状
慢性好酸球性白血病(CEL)は、軽度から重度までさまざまな症状が複数の臓器に及びます。
全身症状
CEL患者さんでは全身性の症状が頻繁に観察され、持続的な疲労感や倦怠感は、代表的な症状です。
また、原因不明の発熱、夜間発汗、体重減少なども認められます。
これらの症状は、好酸球の過剰増殖による代謝の負荷や、慢性炎症反応の結果として生じます。
症状 | 臨床的特徴 |
疲労感 | 持続的、休息による改善に乏しい |
発熱 | 間欠的または持続性 |
夜間発汗 | 顕著な夜間発汗 |
体重減少 | 非意図的な減少 |
皮膚症状
皮膚病変は、CEL患者において高頻度に見られる症状の一つです。
掻痒を伴う発疹や蕁麻疹様症状が現れ、色素沈着や血管炎による皮膚変化も報告されています。
皮膚症状は、好酸球の皮膚組織への浸潤によって起こると考えられています。
呼吸器症状
呼吸器系の症状も起こりやすく、咳嗽、喘鳴、呼吸困難などが主要な症状です。
好酸球の肺の組織への侵入と炎症反応によって生じ、重症例では、肺線維症や胸水貯留などの合併症が起きます。
症状 | 臨床的特徴 |
咳嗽 | 持続性、多くは乾性 |
喘鳴 | 呼気時に顕著 |
呼吸困難 | 労作時に増悪 |
消化器症状
消化器系の症状も、CEL患者さんによく見られます。
腹痛、下痢、悪心、嘔吐が生じ、食欲不振や腹部膨満感を訴える患者もさん少なくありません。
心血管系症状
CELでは好酸球の心筋および血管壁への浸潤から、心血管系にも影響が及ぶことがあります。
心血管系で観察される症状
- 動悸
- 胸痛
- 呼吸困難
- 浮腫(特に下肢)
重症になると、心筋炎や血栓症などの重篤な合併症を起こすことがあるため、経過観察が必要です。
合併症 | 臨床症状 |
心筋炎 | 胸痛、呼吸困難、不整脈 |
血栓症 | 局所疼痛、腫脹、発赤 |
慢性好酸球性白血病(CEL)の原因
慢性好酸球性白血病(CEL)の原因は、造血幹細胞(血液細胞を作り出す能力を持つ細胞)における遺伝子変異にあります。
遺伝子変異
CELの発症にはさまざまな遺伝子変異が関与して、中でも注目すべきは、PDGFRA遺伝子の再構成です。
遺伝子変異により、チロシンキナーゼ(細胞内のシグナル伝達に重要な酵素)の異常な活性化が起こり、好酸球の増殖が起こります。
また、FGFR1やPCM1-JAK2などの遺伝子の再構成も、CELの原因です。
遺伝子変異 | 影響 |
PDGFRA再構成 | チロシンキナーゼの異常活性化 |
FGFR1再構成 | 細胞増殖シグナルの過剰亢進 |
PCM1-JAK2融合 | JAK-STAT経路の恒常的活性化 |
環境因子
遺伝子変異に加えて、化学物質への長期暴露や放射線被曝などが、造血幹細胞に突然変異を起こし、CELの発症リスクを高める要因となります。
また、慢性的な炎症状態や感染症が、好酸球の異常な活性化を促進し、CELの発症を誘発することも。
遺伝的素因
一部のCEL症例では家族性の傾向が見られ、特定の遺伝子変異や疾患感受性遺伝子が家系内で受け継がれている可能性を示しています。
遺伝的要因 | 特徴 |
家族性傾向 | 複数の血縁者での発症 |
特定遺伝子の継承 | PDGFRA等の変異遺伝子の家族内伝播 |
疾患感受性遺伝子 | CEL発症リスクを高める遺伝的変異 |
骨髄微小環境の役割
正常な造血機能を維持するためには、骨髄内の間質細胞やサイトカイン(細胞間の情報伝達を担うタンパク質)のバランスが保たれていることが不可欠です。
CELでは、この微小環境が乱れ、異常に好酸球が増殖します。
骨髄微小環境の変化が及ぼす影響
- 異常な造血幹細胞のニッチ形成
- 炎症性サイトカインの過剰産生
- 正常造血の抑制
- 白血病細胞の生存シグナルの増強
エピジェネティックな変化の関与
近年の研究により、エピジェネティックな変化(遺伝子の配列自体は変わらないが、その発現パターンが変化する現象)もCELの発症に関与していることが明らかになってきました。
DNAのメチル化パターンやヒストン修飾の異常が、遺伝子発現の制御を狂わせ、好酸球の異常な増殖や機能障害を起こします。
エピジェネティック変化 | CELへの影響 |
DNAメチル化異常 | 遺伝子発現の撹乱 |
ヒストン修飾の変化 | クロマチン構造の異常 |
非コードRNAの発現異常 | 遺伝子制御ネットワークの破綻 |
診察(検査)と診断
慢性好酸球性白血病(CEL)の診断は、臨床所見、血液検査、骨髄検査、および遺伝子解析を組み合わせて行われます。
臨床診断
CELの臨床診断は、患者さんの症状と血液検査結果の評価から始まります。
持続的な好酸球増加(末梢血中の好酸球が1,500/μL以上)が認められるとCELを疑い、また、患者さんの病歴や家族歴の聴取も診断の手がかりです。
この段階では、二次性好酸球増多症(アレルギーや寄生虫感染などによる一時的な好酸球増加)との鑑別が重要となります。
検査項目 | 臨床的意義 |
末梢血好酸球数 | 1,500/μL以上で CEL疑い |
白血球分画 | 好酸球の割合増加を確認 |
血液検査
血液検査はCEL診断の基本となる検査で、完全血球計算(CBC)と白血球分画を行います。
好酸球数の絶対値と割合を評価し、同時に、貧血や血小板減少の有無も確認します。
生化学検査では、ビタミンB12やトリプターゼ(肥満細胞から放出されるタンパク質で、好酸球性疾患の活動性の指標となる)などのマーカーを測定し、CELの活動性を評価。
検査結果は、CELの可能性を示唆するだけでなく、他の血液疾患との鑑別にも役立ちます。
骨髄検査
骨髄穿刺と生検は、CELの診断において不可欠な検査です。
骨髄中の好酸球系細胞の増加や形態の異常を評価し、他の骨髄系腫瘍との鑑別を行います。
骨髄検査で注目する点
- 好酸球系細胞の割合増加(通常20%以上)
- 好酸球前駆細胞の増加
- 骨髄線維化の程度
- 他の血球系列の異常の有無
骨髄組織の免疫組織化学染色も、診断の精度を高めるために実施されることがあり、好酸球の特異的なマーカーや、他の血液系腫瘍細胞を確認できます。
遺伝子検査
PDGFRA、PDGFRB、FGFR1、PCM1-JAK2の遺伝子再構成の有無を調べるために用いられるのは、FISH法(蛍光in situハイブリダイゼーション法)やPCR法(ポリメラーゼ連鎖反応法)などの分子生物学的手法です。
遺伝子検査法 | 検出対象 |
FISH法 | 染色体転座、遺伝子再構成 |
PCR法 | 特定の融合遺伝子 |
検査によって遺伝子の異常が検出されればCELの確定診断となりますが、異常が検出されない場合でも、他の診断基準を満たせばCELと診断されます。
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーはCELの診断において補助的ではあるものの、好酸球の表面抗原を解析し、異常クローンの存在を確定できます。
CD52やIL-5受容体の発現パターンは、CELの診断や治療方針の決定に有用です。
フローサイトメトリーマーカー | CELでの特徴 |
CD52 | 発現低下または欠失 |
IL-5受容体 | 過剰発現 |
鑑別診断
CELの診断では、反応性好酸球増多症、特発性好酸球増多症候群(HES)、他の骨髄増殖性腫瘍などを除外する必要があります。
- 反応性好酸球増多症 原因となるアレルギーや感染症の特定が重要。
- HES 臓器障害の有無や好酸球の機能異常の評価が鑑別のポイント。
慢性好酸球性白血病(CEL)の治療法と処方薬、治療期間
慢性好酸球性白血病(CEL)の治療は薬物療法が中心で、チロシンキナーゼ阻害剤(細胞内のシグナル伝達を阻害する薬剤)や副腎皮質ステロイド、化学療法剤が使用されます。
遺伝子変異に基づいた治療法
FIP1L1-PDGFRA融合遺伝子(遺伝子が融合して生じる異常な遺伝子)が陽性のCELでは、イマチニブが第一選択薬です。
イマチニブは、異常なチロシンキナーゼ(細胞内のシグナル伝達に関わる酵素)の働きを抑えることで、効果を発揮します。
遺伝子変異が見つからなかったり別の変異が確認された場合には、異なる治療アプローチが必要です。
遺伝子変異 | 第一選択薬 |
FIP1L1-PDGFRA陽性 | イマチニブ |
PDGFRB再構成 | イマチニブ |
FGFR1再構成 | 臨床試験段階の新薬 |
ステロイド療法と化学療法
遺伝子変異が陰性のCELや、チロシンキナーゼ阻害剤が効果を示さない症例では、副腎皮質ステロイドが使用されます。
プレドニゾン(ステロイド薬)は、体内の好酸球の数を減らし、組織の炎症を抑えることが可能です。
症状が重かったり他の治療法が効果を示さないときには、ヒドロキシウレア(化学療法剤)が選択されることもあります。
治療効果の継続的な評価
CELの治療では、定期的な血液検査や臨床症状の評価が欠かせません。
イマチニブを使用する場合1日あたり100-400mgから開始し、患者さんの反応に応じて増減します。
長期的に治療効果を維持するためには、患者さんの状態に合わせて細やかに薬剤量を調整することが大切です。
治療効果を判定する際の指標
- 血液中の好酸球数が正常範囲内に戻る
- 臨床症状が改善する
- 臓器の機能障害が改善する
- 骨髄中の異常な細胞が減少する
長期的な経過観察
CELの治療は長期間にわたるため、継続的な経過観察が必要です。
イマチニブによる治療では、5年以上にわたって病状が安定している例もありますが、治療を中止した後に再び病気が悪化することもあるので、定期的に骨髄検査や分子生物学的検査を行います。
経過観察項目 | 頻度 |
血液検査 | 1-3ヶ月ごと |
骨髄検査 | 6-12ヶ月ごと |
分子生物学的検査 | 3-6ヶ月ごと |
慢性好酸球性白血病(CEL)の治療における副作用やリスク
慢性好酸球性白血病(CEL)の治療は効果的ですが、いろいろな副作用やリスクを伴います。
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の副作用
CEL治療の中心的役割を果たすチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、特有の副作用があります。
- 消化器症状(吐き気、下痢、腹痛)
- 皮膚発疹
- 浮腫(下肢や顔面)
- 骨髄抑制(貧血、白血球減少、血小板減少)
副作用の多くは、薬剤投与開始直後に現れやすい傾向がありますが、時間の経過とともに軽減することが多いです。
副作用 | 発現頻度 | 対処法 |
消化器症状 | 高頻度 | 制吐剤、食事調整 |
皮膚発疹 | 中程度 | ステロイド外用薬 |
ステロイド治療に伴うリスク
CELの治療過程では、炎症抑制や免疫調整を目的としてステロイド薬が使用されることがあり、長期使用による副作用には注意が必要です。
- 骨粗鬆症
- 糖尿病
- 高血圧
- 感染症リスクの増加
- 副腎抑制
化学療法に関連する副作用
CELの一部の症例では、従来型の化学療法が選択されることがあります。
化学療法の副作用
副作用 | 影響を受ける臓器/システム |
骨髄抑制 | 造血系 |
脱毛 | 皮膚・付属器 |
粘膜炎 | 消化管 |
神経障害 | 末梢神経系 |
免疫抑制に伴う感染リスク
CELの治療では免疫抑制作用を持つ薬剤が使用されるため、感染症を発症するリスクが高まります。
注意すべき感染症
- 日和見感染(カンジダ症、ニューモシスチス肺炎など)
- ウイルス感染の再活性化(帯状疱疹、サイトメガロウイルス)
- 細菌感染(肺炎、敗血症など)
感染症は、ときに急速に進行し重篤化する危険性があるため、予防策と早期治療が大切です。
二次性悪性腫瘍のリスク
長期にわたる免疫抑制状態や治療薬の継続使用により、二次性悪性腫瘍(治療に関連して新たに発生する別の種類のがん)のリスクが上昇する可能性があります。
特に、皮膚癌や造血器腫瘍(白血病や悪性リンパ腫など)には注意が必要です。
二次性悪性腫瘍 | リスク因子 | スクリーニング法 |
皮膚癌 | 長期免疫抑制 | 定期的な皮膚診察 |
造血器腫瘍 | 特定の治療薬 | 血液検査、骨髄検査 |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
分子標的薬による治療費
CELの主要な治療薬であるイマチニブは、標準的な投与量である400mg/日の場合、1ヶ月あたりの薬剤費は約80万円です。
薬剤名 | 1日投与量 | 1ヶ月あたりの薬剤費 |
イマチニブ | 400mg | 約80万円 |
ニロチニブ | 600mg | 約90万円 |
入院治療に関わる費用
CELの診断時や合併症発症時には入院が必要となることがあり、費用は1日あたり2万円から3万円程度で、検査や処置の内容によってはさらに費用が増加します。
外来治療の費用
CELの長期管理は主に外来で行われ、定期的な血液検査や画像診断、薬剤費などを含めると、1回の外来受診で5万円から10万円程度です。
治療内容 | 概算費用(保険適用前) |
外来治療(月額) | 20万円〜40万円 |
入院治療(1週間) | 15万円〜25万円 |
以上
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