マロリーワイス症候群 – 消化器の疾患

マロリーワイス症候群(Mallory-Weiss syndrome)とは、食道と胃がつながる部分の粘膜に、裂け目ができてしまう病気です。

粘膜に裂け目ができると出血し、血を吐いたり、便が黒くなったりする症状が現れます。

大人の方に多く見られる病気ですが、年齢に関係なく誰でもかかる可能性があります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

マロリーワイス症候群の種類(病型)

マロリーワイス症候群を分類する際、最も一般的に使用されているのがZeifer分類という方法です。

裂創(れっそう)が発生する部位によって、大きく3つに分けられます。

病型特徴一般的な発生頻度
I型食道に限局約30%
II型食道と胃の両方に存在約60%
III型胃に限局約10%

Ⅰ型

Ⅰ型は食道限局型と呼ばれ、裂創が食道だけに存在する場合を指します。

食べ物を飲み込む際の痛みや、胸やけといった症状が強く現れます。

Ⅱ型

II型は、裂創が食道と胃の両方に及んでいる症例です。食道胃接合部を中心に、広範囲に裂創が及ぶことが多いです。

飲み込み時の痛みと同時に上腹部の不快感が起こるなど、症状が組み合わさって出現することが多いです。

Ⅲ型

III型は裂創が胃にのみ見られるものを指します。お腹の上部の痛みや、吐血(血を吐くこと)が主な症状となります。

マロリーワイス症候群の病型を正確に把握することは、適切な治療方針を決定する上で非常に重要です。 そのため、詳細な内視鏡検査と的確な病型診断が求められます。

病型ごとの治療方法

病型主な治療アプローチ
I型内視鏡を使った止血術
II型内視鏡を使った止血術 + 薬による治療
III型内視鏡を使った止血術 + 血管を詰める治療

マロリーワイス症候群の主な症状

マロリーワイス症候群の主な症状は、突然の吐血や黒色便です。典型的には、激しい嘔吐の後に現れることが多いです。

症状特徴
吐血鮮やかな赤色の血液を含む
黒色便タール状で粘り気がある

関連する症状

  • 胸の痛みや上腹部の不快感
  • ふらつきや立ちくらみ
  • 冷や汗が出る
  • 息苦しさ

症状の進行

進行度症状
軽度少量の吐血が見られる
中等度吐血が繰り返し起こる、黒色便が見られる
重度大量の吐血、ショック症状(血圧低下や意識障害など)が現れる

マロリーワイス症候群の症状は、時として命に関わる危険性があります。吐血や黒色便が見られた場合は、迷わずに医療機関を受診しましょう。

マロリーワイス症候群の原因

マロリーワイス症候群の主な原因は、激しい嘔吐や咳など、急激な腹腔内圧の上昇によって起こる食道胃接合部粘膜の裂傷です。

発症するしくみ

食道は咽頭から胃へと続く管状の器官であり、その内側は粘膜で覆われています。

食道胃接合部は機械的ストレスに弱い部位であり、激しい嘔吐や咳によって腹腔内の圧力が急激に上昇すると、胃の内容物が食道へ逆流する原因となります。

逆流によって食道胃接合部の粘膜に過度の張力がかかると、結果として裂傷が生じてしまうことがあるのです。

原因発生メカニズム
嘔吐腹圧上昇による食道胃接合部への負荷
胃内容物の逆流と粘膜への機械的ストレス

発症リスクを高める要因

  • アルコールの過度な摂取
  • 過食傾向
  • 妊娠期間中
  • 長期間続く咳

アルコールを過度に摂取すると、胃粘膜を刺激し、嘔吐を誘発しやすくなります。

また、過食は胃を必要以上に膨張させてしまい、食道胃接合部に過剰な負担がかかります。

二次的要因

慢性的な胃食道逆流症(GERD)がある場合、長期間にわたって食道粘膜を刺激し続けることで、脆弱性が高まります。

また、ヘリコバクター・ピロリ菌(胃に感染する細菌の一種)による慢性胃炎も間接的に影響があると言われています。

診察(検査)と診断

マロリーワイス症候群の診断では、激しい嘔吐後の吐血などの症状から病気を疑い、血液検査、上部消化管内視鏡検査などを行って食道に裂傷があるかどうかを確認していきます。

血液検査・画像診断

血液検査では、貧血の程度や血液が固まる機能を調べます。

また、腹部のレントゲン写真やCT検査を撮影し、他の消化器の病気の可能性がないかを確認します。

内視鏡検査による確定診断

マロリーワイス症候群を確実に診断するためには、上部消化管内視鏡検査(のどから細い管を入れて食道や胃の中を見る検査)が必要です。

内視鏡検査では、食道胃接合部付近の粘膜に裂け目があるかどうかを診ます。

縦に走る線のような粘膜の裂け目が特徴的な所見であり、出血がみられる場合もあります。

内視鏡で見える特徴どんな様子か
粘膜裂創縦走する線状
出血出血していることもある
位置食道胃接合部付近

内視鏡検査では、病気を診断できるだけでなく、同時に出血を止める治療もできます。

鑑別が必要な疾患

マロリーワイス症候群と似た症状が出る病気には、食道静脈瘤や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などがあります。

似た症状が出る病気特徴的な所見
食道静脈瘤蛇行した静脈の拡張
胃潰瘍胃粘膜の深い欠損
十二指腸潰瘍十二指腸球部の潰瘍

マロリーワイス症候群の治療法と処方薬、治療期間

マロリーワイス症候群の治療では、主に保存的治療を行います。止血薬の投与や内視鏡的止血術を実施し、通常1〜2週間で回復します。

治療の基本方針

マロリーワイス症候群の治療において、最も重要な点は出血のコントロールです。多くの場合、自然に止血するため、まずは経過観察を行います。

しかしながら、出血が持続する場合や大量出血の際には、積極的な介入が必要となります。

治療方針適応
経過観察軽度の出血
薬物療法中等度の出血
内視鏡的治療重度の出血
外科的治療他の治療法で止血困難

薬物療法

薬物療法は出血のコントロールと粘膜保護を目的とし、主に以下の薬剤を使用します。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI)(胃酸の分泌を抑える薬)
  • H2受容体拮抗薬(胃酸の分泌を抑える薬)
  • 止血剤(トラネキサム酸など)
  • 粘膜保護剤(胃や食道の粘膜を保護する薬)

内視鏡的治療

内視鏡的治療は、持続的な出血や大量出血の場合に選択します。

治療法特徴
クリップ法出血点を直接クリップで止血
局注法エピネフリン(アドレナリン)などを局所注射
熱凝固法高周波や熱プローブで凝固
バンド結紮法出血部位をゴムバンドで縛る

治療期間

マロリーワイス症候群の治療期間は、1〜2週間程度が目安です。

治療開始後は再出血の有無や貧血の進行などを定期的に確認し、必要に応じて治療方針を調整します。

再出血のリスクが高い期間は、入院管理が望ましいです。 その後、症状が安定したら外来での経過観察に移行しますが、患者さんの生活環境や支援体制なども考慮して決定します。

経過観察のポイント頻度
血液検査初期は毎日、その後状態に応じて
内視鏡検査初回治療後と症状に応じて
食事再開出血停止確認後、段階的に
退院判断全身状態安定、食事摂取可能時

治療後の注意点

  • アルコール摂取の制限:特に治療直後は控え、その後も適量を守る
  • 喫煙の禁止:粘膜の修復を妨げるため、完全な禁煙が望ましい
  • 過度な嘔吐の回避:嘔吐反射を誘発する行動や食事を控える
  • ストレス管理:ストレスによる胃酸過多を防ぐ

マロリーワイス症候群の治療における副作用やリスク

マロリーワイス症候群の治療に使用する止血剤やプロトンポンプ阻害剤は、下痢や頭痛などの副作用が報告されています。

また、内視鏡的止血術や外科手術には、穿孔や感染症などの合併症のリスクがあります。

内視鏡的止血法に関連するリスク

リスクどのくらいの頻度で起こるか
咽頭痛比較的よくある
出血あまり多くない
穿孔とても稀

お薬による治療に伴う副作用について

お薬の種類気をつけるべき主な副作用
胃酸を抑えるお薬(PPI)骨折しやすくなる、腎臓への影響
止血剤血栓ができるリスク

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

マロリーワイス症候群の治療費は、軽度の場合は外来での保存的治療で済みますが、重度の場合は入院や内視鏡的治療が必要となり、費用が高額になります。

外来診療の場合の治療費

軽症のマロリーワイス症候群では外来での診察や検査、投薬で対応できることが多いです。

項目費用(円)
血液検査5,000
投薬(1週間分)3,000
胃カメラ検査15,000

入院が必要な場合の治療費

重症例や、出血が持続する際は入院治療が必要です。

項目費用(円)
入院料(1日)20,000
食事療養費(1日)2,000
内視鏡的止血術150,000
輸血(1単位)10,000

保険適用と自己負担

マロリーワイス症候群の治療は健康保険の適用対象です。医療費の自己負担割合は年齢や所得によって異なります。

  • 70歳未満 30%
  • 70歳以上75歳未満(現役並み所得者以外) 20%
  • 75歳以上(現役並み所得者以外) 10%

以上

References

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