慢性肉芽腫症 – 血液疾患

慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease)とは、白血球の一種である好中球の機能に障害がある遺伝性の免疫不全症です。

この疾患では、好中球が体内に侵入した細菌やカビを効果的に排除できないため、繰り返し重症感染症にかかりやすくなります。

さらに、慢性的な炎症反応により、さまざまな臓器に肉芽腫(にくげしゅ)と呼ばれる炎症性の塊が形成されます。

生まれつきの遺伝子の変異が原因で発症し、幼少期から症状が現れることが多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

慢性肉芽腫症の主な症状

慢性肉芽腫症の症状は、繰り返す重症感染症と炎症性の肉芽腫形成が特徴的です。

頻発する感染症

慢性肉芽腫症を抱える患者さんは、健康な人であれば簡単に排除できる微生物に対しても、深刻な感染症起こします。

この現象は、好中球(体内に侵入した細菌などを攻撃する免疫細胞)が細菌やカビを効果的に殺菌できないことが原因です。

黄色ブドウ球菌、緑膿菌、アスペルギルス属などの微生物による感染が高頻度で観察されます。

感染部位症状
咳、発熱、呼吸困難
皮膚膿瘍(のうよう)、蜂窩織炎(ほうかしきえん)
骨髄炎、関節炎

全身に及ぶ肉芽腫形成

持続的な炎症反応が起こることで、体内のいろいろな器官に炎症性の肉芽腫が形成されます。

肉芽腫が好発する部位

  • 肝臓
  • 消化管
  • リンパ節
  • 皮膚

消化器系に現れる症状

消化管に肉芽腫が形成されると、以下のような症状が顕在化します。

症状説明
腹痛特に食事の前後に増悪することが多い
下痢慢性的または間欠的に持続する
食欲不振長期化すると体重減少を引き起こす
腸閉塞重篤な場合、緊急手術を要することがある

その他の多様な症状

慢性肉芽腫症は全身性の疾患であるため、リンパ節の腫脹、肝臓や脾臓の肥大化、発育の遅れが観察されます。

また、口内炎や歯肉炎も頻繁に発生するため、口腔内の衛生管理が大切です。

症状発現頻度特徴的な所見
リンパ節腫脹高い全身に見られ、感染の前兆のことも
肝脾腫中程度腹部の膨満感や不快感を伴うことがある
発育遅延低い適切な栄養管理により改善が期待できる

慢性肉芽腫症の原因

慢性肉芽腫症の原因は、好中球の活性酸素産生に関与する遺伝子の異常です。

遺伝子異常のメカニズム

慢性肉芽腫症の発症には、5つの遺伝子(CYBB、CYBA、NCF1、NCF2、NCF4)が、それぞれが異なる頻度で関与しています。

遺伝子名染色体位置遺伝形式機能
CYBBXp21.1X連鎖性活性酸素産生の中心的役割
CYBA16q24常染色体性電子伝達の補助
NCF17q11.23常染色体性酵素活性の調節
NCF21q25常染色体性複合体の安定化

遺伝子に変異が生じるとNADPHオキシダーゼ複合体の機能が低下し、好中球が活性酸素を十分に産生できなくなり、体内に侵入した細菌やカビを殺菌することができず、感染症に対する抵抗力が弱くなってしまうのです。

遺伝形式と発症頻度

慢性肉芽腫症の遺伝形式は、X連鎖性遺伝と常染色体劣性遺伝の二つです。

遺伝形式特徴発症頻度影響を受ける遺伝子
X連鎖性男性に多い、母親がキャリア約65%CYBB
常染色体劣性男女差なし、両親がキャリア約35%CYBA, NCF1, NCF2, NCF4

X連鎖性遺伝の場合CYBB遺伝子の変異が原因となり、男性に発症します。

女性はキャリア(遺伝子変異を持っているが発症していない状態)となり、子どもに遺伝子変異を受け継ぐ可能性があります。

一方、常染色体劣性遺伝の場合は、CYBA、NCF1、NCF2、NCF4遺伝子のいずれかの変異が原因で、発症に男女差はありません。

診察(検査)と診断

慢性肉芽腫症の診断は、患者さんの症状評価に始まり、血液検査や画像診断を経て、好中球の機能検査と遺伝子解析による確定診断へと進みます。

臨床症状の評価

慢性肉芽腫症の診断では患者さんの病歴を聴取し、この疾患に特徴的な感染症のパターンや肉芽腫の塊の形成有無を確認します。

注目する点

  • 乳幼児期からの繰り返す感染症の経験
  • なかなか治らない膿瘍(のうよう)の形成
  • 肺炎や肝臓の膿瘍など、体の深部で起こる感染症の既往
  • 家族内での類似症状の有無(X染色体連鎖遺伝形式の場合)

血液検査

臨床症状の評価後、次のステップとして血液検査が実施されます。

検査項目検査の意義
白血球数体内での感染の有無を確認
CRP(C反応性タンパク)体内の炎症の程度を評価
免疫グロブリン免疫システム全体の機能を把握

画像診断

血液検査に加えて、画像診断も慢性肉芽腫症の診断において重要です。

検査方法目的と特徴
胸部X線検査肺の感染症や肉芽腫の有無を確認、簡便で広く用いられる
CT(コンピュータ断層撮影)検査内臓の肉芽腫や膿瘍を詳細に評価、3D画像で精密な診断が可能
MRI(磁気共鳴画像)検査脳や脊髄の病変を高精度で確認、放射線被曝がない

画像検査を組み合わせることで、慢性肉芽腫症に特徴的な所見を多角的に捉えることができます。

好中球機能検査

慢性肉芽腫症の診断では、好中球の機能を直接評価する検査も行われます。

検査法

  • ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)還元試験:好中球の活性酸素産生能を色の変化で評価
  • ジヒドロロダミン123(DHR)フローサイトメトリー法:個々の好中球の機能を高感度で測定
  • 化学発光法:好中球が産生する活性酸素を光の強さで定量的に評価

遺伝子解析

最終的な確定診断には、遺伝子を詳しく調べる遺伝子解析が不可欠です。

慢性肉芽腫症の原因として知られるCYBB、CYBA、NCF1、NCF2、NCF4の変異を同定することで、診断を確実なものとします。

慢性肉芽腫症の治療法と処方薬、治療期間

慢性肉芽腫症の治療法は、抗生物質による感染予防と制御、抗真菌薬の使用、インターフェロン-γ療法、そして根治的治療として造血幹細胞移植が行われます。

抗生物質療法

慢性肉芽腫症に対する抗生物質療法は、感染を未然に防ぐこと、実際に感染が起きた際の治療が目的です。

目的使用薬剤投与期間特徴
予防トリメトプリム/スルファメトキサゾール継続的広範囲の細菌に効果あり
治療広域スペクトル抗生物質感染症状に応じて重症感染症に対応

抗真菌薬療法

慢性肉芽腫症の患者さんは、細菌による感染だけでなく真菌による感染にも非常に弱くなっています。

アスペルギルス属(主に土壌や空気中に存在する真菌の一種)による感染は重症化しやすく、命に関わる危険性があり、抗真菌薬を予防的に投与することが大切です。

抗真菌薬特徴投与方法
イトラコナゾール経口薬、広範囲の真菌に効果毎日内服
ポサコナゾール新世代の薬剤、耐性菌にも有効毎日内服
ボリコナゾール重症真菌感染症に使用内服または点滴

イトラコナゾールやポサコナゾールなどのアゾール系と呼ばれる種類の抗真菌薬が使用されます。

薬剤は、長期間にわたって継続的に投与されることが多いです。

インターフェロン-γ療法

インターフェロン-γは、免疫系を活性化させるサイトカイン(体内で作られる特殊なタンパク質)の一種です。

慢性肉芽腫症の患者さんにインターフェロン-γを投与することで、好中球の殺菌能力を部分的に改善させます。

インターフェロン-γ療法は週に3回の皮下注射で行われ、長期間にわたって継続します。

造血幹細胞移植

造血幹細胞移植は、慢性肉芽腫症に対する唯一の根本的な治療法です。

健康なドナー(提供者)の造血幹細胞(血液細胞のもとになる細胞)を患者さんに移植することで、正常な免疫機能を持つ細胞に置き換えられます。

ただし、この治療法には大きなリスクを伴うため、患者さんの状態や他の治療法の効果を慎重に評価したうえで実施が検討されます。

段階内容期間
前処置化学療法や放射線療法1〜2週間
移植ドナーの造血幹細胞を点滴で投与1日
生着新しい血液細胞が作られ始める2〜4週間
回復期免疫機能の回復を待つ数ヶ月〜1年
長期フォローアップ定期的な検査と管理5年以上

移植後の経過観察期間は5年以上に及び、その間、免疫抑制剤の投与や感染症の監視が重要です。

慢性肉芽腫症の治療における副作用やリスク

慢性肉芽腫症の治療には、感染症の予防や炎症を抑える目的で長期間にわたる薬物療法が必要となり、多様な副作用やリスクがあります。

抗生物質の長期使用がもたらす副作用

慢性肉芽腫症の患者さんには感染を予防するため、抗生物質を長期間にわたって投与します。

抗生物質療法の副作用

  • 腸内細菌叢(そう)の乱れ:善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れる
  • 薬剤耐性菌の出現:抗生物質が効きにくい細菌が増える
  • 肝機能障害:肝臓の働きが低下する
  • 皮疹:皮膚に発疹やかゆみが出る

ステロイド療法に伴うリスク

炎症を抑えるためのステロイド療法も、慢性肉芽腫症の治療でよく用いられる方法です。

副作用詳しい説明
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)骨の密度が低下し、骨折しやすくなる
感染リスクの上昇免疫力が抑えられ、感染症にかかりやすくなる
糖尿病血液中の糖分(血糖値)が上昇する
副腎抑制長期使用により副腎(ホルモンを分泌する臓器)の機能が低下する

副作用は、ステロイドの使用量や使用期間に応じて変わってきます。

抗真菌薬治療に伴う副作用

慢性肉芽腫症の患者さんは、カビ(真菌)による感染症にかかるリスクが高いため、抗真菌薬を予防的に使用したり、感染時に治療として用います。

抗真菌薬の種類副作用
アゾール系肝臓の機能障害、他の薬との相互作用
アムホテリシンB腎臓の機能障害、体内の電解質(ナトリウムやカリウムなど)のバランス異常
エキノカンジン系発熱、肝臓の機能異常

抗真菌薬を使用する際には、定期的に肝臓や腎臓の機能をチェックすることが欠かせません。

インターフェロン-γ療法の副作用

インターフェロン-γは、慢性肉芽腫症の患者さんの免疫機能を改善するために使用されることのある薬剤です。

インターフェロン-γの副作用

  • 発熱:体温が上昇する
  • 倦怠感:体がだるく感じる
  • 頭痛:頭が痛くなる
  • 筋肉痛:体の筋肉に痛みを感じる

造血幹細胞移植に伴う重大なリスク

症状が重い患者さんには造血幹細胞移植が選択肢となりますが、この治療法には重大なリスクが伴います。

  • 移植片対宿主病(GVHD):移植された細胞が患者さんの体を攻撃する病態
  • 致命的な感染症:免疫力が低下している間に重篤な感染症にかかる危険性
  • 臓器障害:肝臓や腎臓など、体の重要な臓器の機能が低下する
  • 不妊:生殖機能に影響が出る可能性

移植を行うかどうかの決定には、リスクと期待される効果のバランスを検討する必要があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

外来治療にかかる費用

慢性肉芽腫症の外来治療では、定期的な診察や検査、薬剤処方が主な費用です。

項目概算費用(月額)
診察料10,000円〜15,000円
検査費30,000円〜50,000円
薬剤費50,000円〜100,000円

入院治療の費用

感染症などの合併症が出ると入院が必要になることもあります。

入院期間概算費用
1週間30万円〜50万円
1ヶ月100万円〜200万円

造血幹細胞移植の費用

根治的治療法である造血幹細胞移植を選択した場合、費用は高額です。

  • 移植前処置:約100万円〜200万円
  • 移植手術:約300万円〜500万円
  • 術後管理:約200万円〜300万円(1ヶ月あたり)

移植後も長期的なフォローアップが必要で、総額で1000万円を超えることもあります。

医療費支援制度の活用

慢性肉芽腫症は指定難病に認定されており、特定医療費(指定難病)助成制度の対象です。

以上

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