Chédiak-Higashi症候群(Chédiak-Higashi syndrome)とは、特定の遺伝子に変異が生じることで起こる血液疾患です。
この症候群は、体内のさまざまな細胞、とりわけ免疫系や神経系に深刻な影響を及ぼします。
患者さんの多くは幼い頃から症状が顕在化し始め、感染症に対する抵抗力が弱まったり、出血傾向が強くなったりします。
特徴的な症状は、皮膚や髪の毛、目の色素が通常より薄くなる部分的白皮症です。
Chédiak-Higashi症候群の主な症状
Chédiak-Higashi症候群の症状は、免疫機能の低下、色素異常、出血傾向です。
免疫系への影響
Chédiak-Higashi症候群患者さんに最も見られる症状は、免疫機能の低下です。
免疫不全により、細菌やウイルスに対する防御力が大幅に低下し、感染症にかかりやすくなります。
上気道感染や肺炎などの呼吸器感染症、さらには皮膚感染症が高頻度で発症します。
通常であれば軽症で済む感染症が、この症候群の患者さんでは重症化するので、注意が必要です。
感染症の種類 | 発症頻度 |
呼吸器感染症 | 高い |
皮膚感染症 | 高い |
消化器感染症 | 中程度 |
尿路感染症 | 中程度 |
色素異常による特徴的な外見
Chédiak-Higashi症候群では、メラニン色素の分布に異常が生じることで、患者さんの外見に特徴的な変化が現れます。
色素異常により、皮膚や髪の毛(銀髪や灰色)、さらには目の色が通常よりも薄く青みがかることが多いです。
色素異常は外見上の問題にとどまらず、皮膚のメラノサイト(色素細胞)の機能低下を起こし、紫外線に対する皮膚の防御力も低下します。
出血傾向
Chédiak-Higashi症候群の患者さんでは、血小板の機能に異常があるため、出血傾向が認められます。
血小板内の顆粒(血小板内の小さな構造物)に異常があるために、正常な血液凝固のプロセスが妨げられることが原因です。
皮下出血や鼻出血、歯肉出血などが見られ、軽微な外傷でも予想を上回る出血を起こすことがあるため、日常生活においても細心の注意が求められます。
出血症状 | 頻度 |
皮下出血 | 高い |
鼻出血 | 中程度 |
歯肉出血 | 中程度 |
消化管出血 | 低い |
神経系への進行性の影響
Chédiak-Higashi症候群が進行すると、患者さんの神経系にも影響が及びます。
初期の段階では末梢神経障害による四肢のしびれや筋力低下が現れます。
病状が進行するにつれて、小脳性運動失調(運動の協調性が失われる状態)が生じ、歩行障害や日常動作における障害が顕在化します。
さらに症状が重篤化すると、認知機能の低下や意識障害といった深刻な状態に陥る危険性があり、注意が必要です。
加速期の特徴
Chédiak-Higashi症候群の経過中、突如として症状が急激に悪化する「加速期」と呼ばれる危機的な状態に陥ることがあります。
この時期には、持続する高熱や肝臓・脾臓の腫大、全身のリンパ節腫脹、さらには汎血球減少症(はんけっきゅうげんしょうしょう:すべての血球が減少する状態)などの症状が急速に進行します。
加速期の発症は患者さんの生命予後に直結するため、経過観察と症状の変化に対する迅速な対応が不可欠です。
加速期に見られる症状
- 持続する高熱
- 肝臓・脾臓の著明な腫大
- 全身のリンパ節腫脹
- 血球減少(赤血球・白血球・血小板のすべてが減少)
- 出血傾向の顕著な悪化 神経症状の急速な進行
加速期の症状 | 重症度 |
高熱 | 高い |
肝脾腫 | 高い |
汎血球減少症 | 高い |
神経症状 | 中~高 |
Chédiak-Higashi症候群の原因
Chédiak-Higashi症候群の原因は、LYST遺伝子(細胞内の小さな構造物の形成や機能を制御する遺伝子)に突然変異が生じ、細胞内小器官の機能に障害が起こることです。
遺伝子変異と細胞機能の関係
LYST遺伝子は、細胞内のリソソーム(不要物質を分解する小器官)やメラノソーム(色素を作る小器官)などの小さな構造物の形成や働きに重要な役割があります。
この遺伝子に変異が生じると、小さな構造物が正常に機能せず、細胞の働きに支障が出て、免疫細胞や色素細胞に大きな影響を与え、Chédiak-Higashi症候群の特徴的な症状を起こします。
遺伝形式と発症リスク
Chédiak-Higashi症候群は常染色体劣性遺伝(両親から変異した遺伝子を受け継ぐ必要がある遺伝形式)をとります。
両親からそれぞれ変異したLYST遺伝子を受け継いだ場合にのみ発症することを意味し、両親が共に保因者(症状は現れないが、変異遺伝子を持っている人)だと、子どもがChédiak-Higashi症候群を発症する確率は25%です。
遺伝形式 | 特徴 |
常染色体劣性遺伝 | 両親から変異遺伝子を受け継ぐ必要がある |
保因者 | 症状は現れないが、変異遺伝子を子に伝える可能性がある |
細胞内小器官の異常
LYST遺伝子の変異により細胞内の小さな構造物、特にリソソームに異常が生じます。
リソソームは細胞内の不要物質を分解する役割を持っていますが、Chédiak-Higashi症候群ではこの機能が低下します。
生じる問題
- 免疫細胞の機能低下
- メラニン色素(体の色を決める物質)の異常分布
- 血小板(出血を止める血液成分)の機能障害
免疫系への影響
Chédiak-Higashi症候群では、免疫細胞の好中球やリンパ球の機能が著しく低下し、繰り返し重度の感染症にかかりやすくなります。
免疫細胞 | 機能異常 |
好中球 | 殺菌能力の低下 |
リンパ球 | 抗体産生能力の低下 |
色素異常のメカニズム
LYST遺伝子の変異は、メラノソーム(色素を含む小胞)と呼ばれる構造物の形成にも影響を与え、メラニン色素の分布が不均一になり、皮膚や髪の色が通常よりも薄くなる部分的白皮症アルビニズムが現れます。
血小板機能障害
Chédiak-Higashi症候群では血小板の機能にも異常が見られ、血小板内の顆粒が正常に形成されないため、止血機能が低下し、皮下出血(あざ)や粘膜出血(鼻血など)が起こりやすいです。
血小板異常 | 結果 |
顆粒形成不全 | 止血機能の低下 |
凝集能力低下 | 出血時間の延長 |
診察(検査)と診断
Chédiak-Higashi症候群の診断は、特徴的な臨床症状の観察から始まり、血液塗抹標本の顕微鏡検査、そして遺伝子検査を段階的に組み合わせて行われます。
臨床症状の観察
Chédiak-Higashi症候群の診断では、患者さんの外見、特に皮膚や髪の色、さらには目の色に注目し、特徴的な色素異常の有無を確認していきます。
また、頻繁に発生する感染症や出血しやすい傾向、神経学的な症状が見られるかどうかも、重要な診断の手がかりです。
血液検査と顕微鏡による観察
Chédiak-Higashi症候群の診断において血液検査は不可欠で、末梢血塗抹標本を顕微鏡で観察します。
検査では、白血球、とりわけ好中球やリンパ球の細胞質内に、この症候群に特徴的な巨大顆粒の存在を確認できます。
細胞種類 | 特徴的所見 |
好中球 | 巨大顆粒 |
リンパ球 | 巨大顆粒 |
単球 | 巨大顆粒 |
好酸球 | 巨大顆粒 |
さらに、血小板の数を調べたり、血液の凝固機能を評価する検査も併せて実施します。
加えて、免疫機能を評価するための検査も行い、患者さんの免疫系がどの程度弱っているかを正確に把握することが大切です。
皮膚生検と電子顕微鏡を用いた精密観察
Chédiak-Higashi症候群の診断をさらに確実なものとするため、皮膚生検が用いられます。
皮膚生検ではメラノサイトの中に、普通では見られない異常な色素顆粒の蓄積を確認することが可能です。
皮膚生検で観察される主な異常所見
- メラノサイト内に見られる異常に大きな色素顆粒
- リソソーム(細胞内の分解装置)の異常な融合
- 細胞質内における異常な顆粒の蓄積
- メラニン色素(皮膚や髪の色素)の不均一な分布
遺伝子検査
Chédiak-Higashi症候群の診断において、最も決定的な役割があるのが遺伝子検査です。
遺伝子検査では、LYST遺伝子(別名CHS1遺伝子)に変異があるかどうかを調べます。
検査項目 | 検査の目的 |
LYST遺伝子解析 | Chédiak-Higashi症候群の原因となる遺伝子変異の同定 |
全エクソーム解析 | Chédiak-Higashi症候群に関連する可能性のある他の遺伝子の網羅的検索 |
類似疾患との鑑別
Chédiak-Higashi症候群の診断過程では、似たような症状を示す他の疾患との鑑別が重要です。
Griscelli症候群やHermansky-Pudlak症候群など、Chédiak-Higashi症候群と同じく先天性の免疫不全や色素の異常を伴う症候群との区別が必要となります。
Chédiak-Higashi症候群の治療法と処方薬、治療期間
Chédiak-Higashi症候群の治療は骨髄移植を中心とし、抗生物質や抗ウイルス薬の投与、免疫抑制剤の使用など、複数の方法を組み合わせて行われ、治療期間は数か月から数年、場合によっては生涯にわたります。
骨髄移植による根本的治療
骨髄移植は、Chédiak-Higashi症候群に対する最も効果的な治療法であり、患者さんの異常な骨髄細胞を健康なドナー(提供者)の細胞で置き換えることで、免疫機能(体を病気から守る仕組み)を正常化させることが目標です。
移植前には、化学療法や放射線療法による前処置(患者さんの骨髄細胞を減らす準備)が必要で、移植後も免疫抑制剤の投与が続きます。
骨髄移植の段階 | 内容 |
前処置 | 化学療法、放射線療法 |
移植 | ドナーの骨髄細胞を患者に注入 |
移植後管理 | 免疫抑制剤の投与、感染症予防 |
感染症対策と抗生物質療法
Chédiak-Higashi症候群の患者さんは、免疫機能の低下により感染症にかかりやすくなっているため、予防的な抗生物質の投与が大切です。
使用される抗生物質
- ペニシリン系(古くから使われている抗生物質の一種)
- セファロスポリン系(ペニシリン系より広い範囲の細菌に効く抗生物質)
- マクロライド系(特定の細菌に効果がある抗生物質)
抗生物質は細菌感染の予防と治療に使用され、ウイルス感染に対しては、抗ウイルス薬が処方されます。
免疫調整療法
患者さんの免疫機能を調整するためにさまざま薬剤が使用され、ステロイド薬は炎症を抑制し、免疫反応を調整する効果があります。
また、サイトカイン療法(体の免疫反応を調整するタンパク質を用いた治療)も免疫機能の強化に有効です。
免疫調整薬 | 効果 |
ステロイド | 炎症抑制、免疫抑制 |
インターフェロン | ウイルス増殖抑制、免疫賦活(免疫機能を高める) |
G-CSF | 好中球(白血球の一種)産生促進 |
出血傾向への対処
Chédiak-Higashi症候群では、血小板輸血や止血剤の投与が行われます。
重度の出血時には凝固因子の補充が考慮されることも。
長期的な治療とフォローアップ
Chédiak-Higashi症候群の治療は長期にわたるため、骨髄移植後も、定期的な検査と経過観察が欠かせません。
フォローアップ項目 | 目的 |
定期的な血液検査 | 免疫機能や血小板の状態を確認 |
感染症スクリーニング | 早期の感染症発見と対処 |
成長・発達の評価 | 全身的な健康状態の確認 |
Chédiak-Higashi症候群の治療における副作用やリスク
Chédiak-Higashi症候群の治療には、免疫抑制療法や造血幹細胞移植などの方法が用いられますが、それぞれ感染症リスクの増大、様々な臓器への障害、さらには移植片対宿主病(GVHD)といった重大な副作用やリスクを伴います。
免疫抑制療法に伴うリスク
Chédiak-Higashi症候群の治療で用いられる免疫抑制療法は、症状の改善に効果を示す一方で、患者さんの免疫機能をさらに低下させてしまう副作用があります。
免疫機能が低下することで普段は問題にならないような微生物による感染症のリスクが著しく高まります。
特に注意が必要なのは、日和見感染症と呼ばれる、健康な人では滅多に発症しない感染症のリスクが大幅に増大することです。
感染症の種類 | リスク度 |
細菌感染症 | 高 |
ウイルス感染症 | 高 |
真菌感染症 | 中 |
寄生虫感染症 | 低 |
さらに、免疫抑制剤を長期間使用することに伴い、腎臓の機能障害や肝臓の機能障害なども現れます。
造血幹細胞移植に関連するリスク
Chédiak-Higashi症候群の根本的な治療法である造血幹細胞移植には、多岐にわたるリスクが伴います。
移植を行う前の準備段階として実施される大量の抗がん剤投与や全身への放射線照射は、患者さんの体内の臓器に障害を与えます。
肺の障害、肝静脈閉塞症(肝臓の血管が詰まる病気)、出血を伴う膀胱の炎症などのリスクが高いです。
移植後の早い段階では、重症な感染症や急性の移植片対宿主病(急性GVHD)が発症する危険性が高くなります。
GVHDは、移植されたドナーの免疫細胞が患者さんの体を異物と認識して攻撃してしまう現象で、皮膚や肝臓、消化管などに深刻な障害を起こすことも。
急性GVHDで見られる症状
- 皮膚に現れる発疹や水ぶくれ(水疱)
- 黄疸(皮膚や目が黄色くなる症状)を伴う肝臓の機能障害
- 下痢や腹痛などの消化器に関連する症状
- 原因不明の発熱
長期的に及ぶ合併症のリスク
造血幹細胞移植を受けて長期間生存された患者さんの中には、慢性的なGVHDや、新たにがんが発生する(二次性悪性腫瘍)リスクが上がります。
慢性GVHDは、皮膚が硬くなったり、関節の動きが制限されたり、肺に線維化が起こるなど、体のいろいろな部分に影響を及ぼします。
また、移植の際に用いられる大量の抗がん剤治療や放射線照射の影響により、移植から数年後、あるいは数十年後に新たな白血病や他の臓器のがん(固形腫瘍)が発生するリスクが増加するので、注意が必要です。
長期的な合併症 | 発症するリスク |
慢性GVHD | 高い |
二次性白血病 | 中程度 |
固形腫瘍 | 中程度 |
不妊 | 高い |
感染症合併の高いリスク
Chédiak-Higashi症候群の患者さんは、病気そのものによる免疫機能の低下に加え、治療に伴ってさらに免疫が抑制された状態になるため、重症な感染症にかかるリスクが上昇します。
危険性が高いのは、細菌による感染症、カビなどの真菌による感染症、ウイルスによる感染症などです。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
骨髄移植の費用
骨髄移植は、Chédiak-Higashi症候群の主要な治療法です。
骨髄移植の費用は300万円から1000万円で、費用には、ドナー検索、前処置、移植手術、入院費用などが含まれます。
項目 | 概算費用 |
ドナー検索 | 50万円~100万円 |
前処置 | 100万円~200万円 |
移植手術 | 150万円~500万円 |
入院費用 | 100万円~200万円 |
薬物療法の費用
Chédiak-Higashi症候群の治療には、抗生物質、免疫抑制剤、ステロイド薬などの投与が長期間にわたるため薬剤費用も相当な額になり、10万円から50万円です。
検査・モニタリング費用
定期的な血液検査や画像診断など、継続的なモニタリングが必要で、月額5万円から15万円程度になることが多いです。
以上
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