亜急性壊死性リンパ節炎(Kikuchi-Fujimoto disease)とは、10代後半から30代の若い女性に発症する良性のリンパ節疾患です。
首の周りのリンパ節が腫れ上がり、触ると痛みを感じ、38度を超える高熱や倦怠感、食欲不振による体重減少など、全身に及ぶ症状も現れます。
現時点では、ウイルス感染や体の免疫システムの異常反応が関与しているのではないかと考えられています。
亜急性壊死性リンパ節炎の主な症状
亜急性壊死性リンパ節炎の症状は、頸部リンパ節腫脹、発熱、全身倦怠感です。
頸部リンパ節腫脹
亜急性壊死性リンパ節炎の最も顕著な症状は、頸部リンパ節の腫大です。
頸部の片側または両側に、圧痛を伴う硬結(しこり)が感じられます。
リンパ節腫脹は1〜3cmですが、5cm以上に及ぶこともあり、腫脹は数日から数週間にわたり緩徐に進行し、その後徐々に縮小していきます。
発熱と全身症状
多くの患者さんが38℃以上の発熱が数日から数週間持続し、解熱剤への反応が乏いです。
全身倦怠感も高頻度に認められ、疲労感と脱力感が現れます。
症状 | 発現頻度 |
頸部リンパ節腫脹 | 100% |
発熱 | 80-90% |
全身倦怠感 | 70-80% |
その他の症状
主要症状に加えて、他にも現れる症状があります。
- 頭痛
- 関節痛
- 筋肉痛
- 咽頭痛
- 皮疹
全ての症状が必ずしも見られるわけではありません。
症状 | 特徴 |
頸部リンパ節腫脹 | 圧痛を伴う、1〜3cm大の硬結 |
発熱 | 38℃以上、解熱剤抵抗性 |
全身倦怠感 | 疲労感、脱力感 |
痛みと皮疹 | 風邪の症状に似た痛み、湿疹 |
症状の経過と持続期間
亜急性壊死性リンパ節炎の症状は2〜3週間でピークに達し、その後改善していき、1〜4か月程度で自然寛解します。
ただし、一部の患者さんでは半年以上持続するケースも。
経過 | 期間 |
症状のピーク | 2-3週間 |
通常の寛解期間 | 1-4か月 |
遷延化する場合 | 6か月以上 |
亜急性壊死性リンパ節炎の原因
亜急性壊死性リンパ節炎(Kikuchi-Fujimoto disease)の原因は、免疫系の過剰反応や特定のウイルス感染が引き金となる可能性が高いとされていますが、現時点では完全には解明されていません。
免疫系の関与
亜急性壊死性リンパ節炎の発症には、免疫系の異常な反応が関わっています。
この疾患では、リンパ節内で特定の免疫細胞が通常以上に活性化され、組織の壊死や炎症が起こります。
特に、CD8陽性T細胞(ウイルスに感染した細胞を攻撃する免疫細胞)やヒスチオサイト(異物を取り込んで処理する細胞)と呼ばれる細胞の過剰な働きが原因です。
関与する免疫細胞 | 役割 | 亜急性壊死性リンパ節炎での働き |
CD8陽性T細胞 | ウイルス感染細胞の排除 | 過剰な活性化による組織損傷 |
ヒスチオサイト | 異物の貪食と抗原提示 | 炎症の増強と組織破壊 |
ウイルス感染との関連性
亜急性壊死性リンパ節炎は、エプスタイン・バーウイルス(EBV、伝染性単核球症の原因ウイルス)、ヒトヘルペスウイルス6型(HHV-6、突発性発疹の原因ウイルス)、パルボウイルスB19(りんご病の原因ウイルス)との関連が示唆されています。
ただし、全ての症例でウイルス感染が確認されるわけではなく、直接的な因果関係の証明には至っていないのが現状です。
遺伝的要因
亜急性壊死性リンパ節炎の発症には、遺伝的な素因も関与しています。
特定のHLA(ヒト白血球抗原、免疫応答に重要な役割を果たすタンパク質)タイプを持つ個人で発症リスクが高まり、また、家族内で発症例が報告されていることもあり、遺伝的背景の重要性が示唆されています。
HLAタイプ | 関連する人種 | 発症リスクへの影響 |
HLA-DPA1 | アジア人 | リスク増加の可能性 |
HLA-DQB1 | 欧米人 | 関連性が示唆される |
環境因子と自己免疫疾患
環境因子も亜急性壊死性リンパ節炎の発症に関わっています。
免疫系のバランスを崩す環境要因
- 日常生活におけるストレス
- ホルモンバランスの変化
- 化学物質への曝露
加えて、全身性エリテマトーデス(膠原病の一種)やシェーグレン症候群(涙腺や唾液腺に影響を与える自己免疫疾患)などの自己免疫疾患との関連も報告されています。
関連する自己免疫疾患 | 共通する特徴 |
全身性エリテマトーデス | 免疫複合体の形成 |
シェーグレン症候群 | リンパ球の浸潤 |
診察(検査)と診断
亜急性壊死性リンパ節炎(Kikuchi-Fujimoto病)の診断は、臨床症状の評価、血液検査、画像診断、そしてリンパ節生検による病理組織学的検査を組み合わせて行われます。
初診時の臨床評価
初診時には問診と身体診察が実施され、患者さんの症状の経過、既往歴などを聴取し、頸部リンパ節腫脹の有無や性状を確認します。
触診で確認するのは、リンパ節の大きさ、硬度、圧痛の有無です。
評価項目 | 確認内容 |
問診 | 年齢、性別、症状経過、既往歴 |
身体診察 | リンパ節の大きさ、硬度、圧痛 |
血液検査
血液検査は、炎症マーカーの評価や他疾患の除外に用いられます。
実施される検査項目
- 完全血球計算(CBC):血球成分の数と割合を測定
- C反応性蛋白(CRP):非特異的な炎症マーカー
- 赤血球沈降速度(ESR):炎症の指標
- 肝機能検査:肝臓の機能を評価
- 抗核抗体(ANA):自己免疫疾患のスクリーニング
画像診断
超音波検査やCTスキャンなどの画像診断は、リンパ節の状態を評価するために実施されます。
- 超音波検査 リンパ節の内部構造や血流の状態を非侵襲的に観察できる。
- CTスキャン 深部リンパ節や周囲組織の状態を評価するのに有用。
画像検査 | 評価内容 |
超音波検査 | リンパ節の内部構造、血流状態 |
CTスキャン | 深部リンパ節、周囲組織の状態 |
リンパ節生検と病理組織学的検査
亜急性壊死性リンパ節炎の確定診断には、リンパ節生検による病理組織学的検査が不可欠です。
生検では、腫大したリンパ節の一部または全体を摘出し、顕微鏡下で観察します。
特徴的な所見は、壊死巣周囲の組織球の増生や、核破砕物(カリオレキシス)の存在です。
鑑別診断
亜急性壊死性リンパ節炎の診断過程では、似ている症状を呈する他疾患との鑑別が重要です。
鑑別疾患には、悪性リンパ腫、結核性リンパ節炎、全身性エリテマトーデス(SLE)があります。
鑑別疾患 | 特徴 |
悪性リンパ腫 | リンパ系腫瘍、全身症状 |
結核性リンパ節炎 | 慢性経過、特異的組織所見 |
全身性エリテマトーデス | 多彩な臓器症状、自己抗体陽性 |
亜急性壊死性リンパ節炎の治療法と処方薬、治療期間
亜急性壊死性リンパ節炎(Kikuchi-Fujimoto disease)の治療は、症状緩和と炎症抑制を目的とし、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やステロイド薬を用いた対症療法が中心です。
対症療法
亜急性壊死性リンパ節炎の一次治療として対症療法が広く用いられていて、使用される薬剤は非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)です。
薬剤名 | 効果 | 使用量 | 作用機序 |
イブプロフェン | 解熱、鎮痛 | 1回200-600mg、1日3-4回 | シクロオキシゲナーゼ阻害 |
ナプロキセン | 抗炎症、鎮痛 | 1回250-500mg、1日2回 | プロスタグランジン合成抑制 |
ステロイド療法
ステロイド薬は強力な抗炎症作用があり、リンパ節腫脹や全身症状の改善に効果的で、プレドニゾロンなどの経口ステロイド薬が処方されます。
ステロイド療法の特徴 | 詳細 |
薬剤 | プレドニゾロン |
投与経路 | 経口 |
作用機序 | 転写因子NF-κBの抑制など |
治療期間 | 症状に応じて調整(通常2-4週間) |
免疫調節薬
難治例や再発を繰り返す症例では、免疫調節薬の使用が検討されます。
ヒドロキシクロロキンやシクロスポリンが用いられ、免疫系の過剰反応を抑制することで症状を改善することが目標です。
薬剤名 | 作用機序 | 適応 |
ヒドロキシクロロキン | Toll様受容体シグナルの阻害 | 難治性症例 |
シクロスポリン | カルシニューリン阻害によるT細胞活性化抑制 | 再発性症例 |
治療期間と経過観察
亜急性壊死性リンパ節炎の治療期間は2〜4ヶ月程度で、多くの場合この期間内に自然寛解します。
- 全身症状(発熱、倦怠感)の改善:1〜2週間
- リンパ節腫脹の縮小:2〜4週間
- 血液学的パラメータの正常化:4〜8週間
亜急性壊死性リンパ節炎の治療における副作用やリスク
亜急性壊死性リンパ節炎(Kikuchi-Fujimoto病)の治療には主に対症療法が用いられ、使用される薬剤や処置によっては副作用やリスクが生じる可能性があります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の副作用
NSAIDsは疼痛や発熱の緩和に使われますが、胃腸障害や消化性潰瘍のリスクが増加し、長期使用や高用量投与時には注意が必要です。
まれに、肝機能障害や腎機能障害を起こすこともあります。
副作用 | 発生頻度 |
胃腸障害 | 10-20% |
消化性潰瘍 | 1-5% |
肝機能障害 | <1% |
ステロイド薬の副作用
重症例や症状が遷延する場合に使用されるステロイド薬は、強力な抗炎症作用を持つ一方で、多岐にわたる副作用が懸念されます。
短期使用でも、血糖値の上昇、体重増加、不眠、気分変動などが生じ、長期使用では、骨粗鬆症、高血圧、白内障、易感染性の増大のリスクが高まります。
免疫抑制薬のリスク
難治性の症例で使用される免疫抑制薬は、感染症のリスクが上昇するので、日和見感染症や重症感染症の発症に注意が必要です。
また、長期使用によって悪性腫瘍の発生リスクが上がる可能性も指摘されています。
薬剤 | リスク |
NSAIDs | 消化器障害、腎機能障害 |
ステロイド薬 | 代謝異常、骨粗鬆症、易感染性 |
免疫抑制薬 | 感染症、悪性腫瘍 |
薬物相互作用のリスク
NSAIDsとステロイド薬の併用は、消化器系の副作用リスクを増大させ、また、免疫抑制薬と他の薬剤との相互作用により、予期せぬ副作用が生じることもあります。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
診断時の検査費用
亜急性壊死性リンパ節炎の診断には、血液検査や画像検査、リンパ節生検が必要です。
検査項目 | 費用範囲 |
血液検査 | 5,000円〜15,000円 |
CT検査 | 15,000円〜30,000円 |
リンパ節生検 | 30,000円〜80,000円 |
薬物治療の費用
亜急性壊死性リンパ節炎の治療では、主に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やステロイド薬が使用されます。
- NSAIDs 1ヶ月分 2,000円〜5,000円
- ステロイド薬(プレドニゾロン)1ヶ月分 3,000円〜8,000円
外来診療の費用
外来診療では、定期的な診察や経過観察のための検査が行われます。
診療内容 | 費用範囲 |
診察料 | 2,000円〜5,000円/回 |
経過観察用血液検査 | 3,000円〜8,000円/回 |
入院が必要な場合の費用
症状が重度だったり合併症が生じたときには、入院治療が必要です。
- 入院基本料 1日あたり 10,000円〜30,000円
- 治療費(薬剤費、処置料など)1日あたり 5,000円〜15,000円
以上
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