逆流性食道炎(びらん性GERD) – 消化器の疾患

逆流性食道炎(Reflux esophagitis)(びらん性GERD)とは、胃の内容物が食道に逆流することで起こる炎症性の疾患です。

胃酸や消化物の逆流を防ぐ役割を担っている、食道と胃をつなぐ括約筋が十分に働かなくなることで発症します。

逆流した胃酸によって食道の粘膜が傷つき、炎症や潰瘍が起きると、胸やけや胸の痛み、飲み込みにくさなどの症状が現れます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

逆流性食道炎(びらん性GERD)の種類(病型)

逆流性食道炎(びらん性GERD)は、内視鏡検査で観察される食道粘膜の損傷の程度によって、ロサンゼルス分類という国際的な基準で分類します。

ロサンゼルス分類の概要

ロサンゼルス分類では、食道粘膜の変化や粘膜障害の程度を定義し、Grade NからGrade Dまでの6段階に分けて評価します。

グレード特徴臨床的意義
Grade N内視鏡的に変化を認めない症状がある場合はNERD(非びらん性胃食道逆流症)の可能性を考慮
Grade M色調が変化している軽度の炎症反応の開始を示唆
Grade A長径5mm以下の粘膜障害が粘膜ひだに限局軽度〜中等度の粘膜障害
Grade B長径5mm以上の粘膜障害が別々の粘膜ひだに存在中等度の粘膜障害
Grade C粘膜障害が2条以上のひだに連続するが全周性ではない重度の粘膜障害
Grade D全周性の粘膜障害最も重度の粘膜障害

Grade Nは内視鏡検査で目に見える変化がない状態を指しますが、症状がある場合は非びらん性胃食道逆流症(NERD)の可能性を考慮する必要があります。

Grade Mは粘膜の色調変化のみが観察される段階で、わずかな炎症反応が始まっていることを示しています。

Grade AからGrade Dにかけては、粘膜障害の範囲と程度が徐々に拡大していきます。

Grade A、Bは比較的軽度な粘膜障害を表し、Grade C、Dはより重度の状態となります。

逆流性食道炎(びらん性GERD)の主な症状

逆流性食道炎(びらん性GERD)主な症状は、胃酸が食道に逆流することで起こる胸やけや呑酸、食道粘膜の炎症による痛みや、咳、声のかれなどです。

症状特徴
胸やけ胸の奥や喉の付近に焼けるような感覚
逆流感胃の内容物が食道に逆流する感覚
嚥下困難食べ物や飲み物を飲み込みにくい
胸痛胸の中央部に感じる痛み

胸やけ・逆流感

胸やけ(胸の奥や喉の付近に焼けるような、あるいは灼熱感のような不快な感覚)が食後や横になったときに悪化します。特に就寝時に症状がひどくなりやすいです。

食後や前かがみの姿勢をとったときに起こる、胃の内容物が食道に逆流するような逆流感も症状の一つであり、酸っぱい味や苦い味を伴います。

嚥下困難・胸痛

  • 食事のとき、食べ物が喉に詰まったような感覚になる
  • 飲み込む際に痛みを感じる
  • 胸の痛み

嚥下困難は、食べ物や飲み物を飲み込むのが難しくなる症状です。逆流性食道炎(びらん性GERD)が進行した場合に現れます。

また、胸の中央部に痛みを感じることがあり、食道の炎症や攣縮によって起こります。心臓の問題と混同されやすいため、専門医の診断が必要です。

その他の症状

症状発生メカニズム特徴的な時間帯
慢性的な咳胃酸の気管への刺激夜間や早朝
のどの違和感胃酸の喉頭への刺激食後や就寝時
声のかすれ胃酸による声帯の炎症起床時
呼吸困難感食道の炎症による反射運動時や就寝時

誤診されやすい疾患

逆流性食道炎(びらん性GERD)と症状が類似する呼吸器疾患は以下の通りです。

誤診されやすい疾患類似する症状鑑別のポイント
喘息咳、呼吸困難食事との関連、胸やけの有無
狭心症胸痛運動との関連、食事後の症状悪化
咽頭炎のどの痛み、声のかすれ胃酸逆流の有無、症状の持続期間

逆流性食道炎(びらん性GERD)の原因

逆流性食道炎(びらん性GERD)は、胃酸や消化酵素を含む胃内容物が食道へ逆流し、食道粘膜が損傷することが主な原因です。

解剖学的要因

通常の状態では、下部食道括約筋(LES)と呼ばれる筋肉が、胃と食道の境界部分において胃内容物の逆流を防ぐ役割をしています。

ところが、この括約筋の機能が十分でない場合、胃酸が食道内に逆流しやすい状況が生まれてしまいます。

LESの機能低下をもたらす要因としては、年齢を重ねることによる筋力の衰え、先天的な素因、そして特定の薬剤の服用などが考えられます。

要因LESへの影響逆流リスク
加齢筋力低下上昇
遺伝的素因構造異常個人差あり
特定薬剤弛緩促進増加

生活習慣の影響

  • 食べ過ぎ
  • 早食い
  • 生活が夜型(寝る直前に食事をとる)
  • 肥満

過剰な食事量や急いで食べる、就寝直前の食事の習慣がある場合、胃内の圧力が上昇し逆流を引き起こしやすい環境を作り出します。

また、肥満体型の方は、腹部に余分な圧力がかかることでLESにかかる負担が増大し、逆流のリスクが上昇します。

特定の食事・飲料による影響

食品・飲料食道への影響逆流への作用
柑橘類粘膜刺激炎症促進
アルコールLES弛緩逆流促進
カフェイン胃酸分泌増加粘膜刺激増大
高脂肪食胃排出遅延逆流リスク上昇

このような食品や飲料は、LESの緊張を低下させたり、胃酸の分泌を増加させたりする作用があります。

日常的に摂取する食事や飲料の内容を見直すと、逆流性食道炎の予防や症状の軽減につながる可能性があります。

心理的要因・ストレスによる影響

ストレス状態が続くと、胃酸の分泌が促進されるだけでなく、食道の感覚が過敏になってしまう場合があります。

ストレスが逆流性食道炎に及ぼす主な影響

  • 胃酸分泌量の増加による食道粘膜への刺激増大
  • 食道の運動機能異常による内容物の滞留
  • 不規則な食事パターンによる消化器系への負担増加
  • 免疫機能の低下による粘膜防御機構の脆弱化

その他の原因

要因逆流を促進するメカニズムリスク度
喫煙LES弛緩、唾液分泌減少
妊娠ホルモン変化、腹圧上昇中〜高

喫煙は、LESの弛緩を促進するとともに、唾液の産生を抑制する作用があります。

また、妊娠中はホルモンバランスの変化によりLESが弛緩しやすくなり、子宮の増大に伴う腹圧の上昇も相まって、逆流のリスクが高くなります。

診察(検査)と診断

逆流性食道炎(びらん性GERD)の診察では、内視鏡検査・24時間pHモニタリング検査などを行い、食道粘膜の炎症や胃酸の逆流状況を評価していきます。

診察の基本

逆流性食道炎の診察では、まず主訴、症状がいつから続いているか、どのくらいの頻度で起こるか、普段の生活習慣などを確認します。

典型的な症状である胸焼けや呑酸が週に2回以上見られる場合、逆流性食道炎の可能性が高くなります。

内視鏡検査

内視鏡検査では、食道の粘膜に炎症やびらん(粘膜の傷)がないか、あるとすればどの程度なのかを調べていきます。

内視鏡で見つかった所見は、ロサンゼルス分類を用いて、粘膜の傷の程度を判定します。

バレット食道食道裂孔ヘルニアがないかも確認し、逆流性食道炎がどの程度進行しているか、どのような治療を行っていくかを決定します。

追加検査

症状が一般的でない場合や、内視鏡検査で明らかな異常が見つからない場合は、検査を追加します。

  • 24時間食道pHモニタリング(食道の酸度を24時間測定する検査)
  • インピーダンス・pHモニタリング(食道内の液体や気体の動きと酸度を同時に測定する検査)
  • 食道内圧検査(食道の筋肉の動きを調べる検査)

逆流性食道炎(びらん性GERD)の治療法と処方薬、治療期間

逆流性食道炎(びらん性GERD)の治療では、生活習慣の改善、薬物療法、重症例では外科的治療を行います。

治療法主な目的
生活習慣改善胃酸逆流の抑制と予防
薬物療法胃酸分泌の抑制と粘膜保護
外科的治療重症例における解剖学的異常の修正

治療方針

  • Grade N や M の軽度な症例:生活習慣の改善や制酸薬による対症療法が中心となります。食事内容の見直しや就寝前の食事を避けるなど、生活習慣の改善をします。
  • Grade A や B の中等度の症例:プロトンポンプ阻害薬(PPI)による積極的な治療が必要です。
  • Grade C や D の重度の症例:長期的なPPI治療や、場合によっては外科的介入を検討する場合があります。特に、薬物治療に反応が乏しい場合や合併症のリスクが高い場合は、手術療法も選択肢の一つとなります。

生活習慣の見直しについて

薬物療法と並行して、日常生活における習慣の見直しを行っていきます。

  • 食事の量を減らし、就寝前3時間は食事を控える
  • アルコールの摂取や喫煙を可能な限り控える
  • 適正体重の維持
  • 腹部を強く締め付ける衣服の着用を避ける

薬物療法

薬物療法の中心となるのは、プロトンポンプ阻害薬(PPI)です。

PPIは胃酸分泌を抑制し、損傷した食道粘膜の機能を回復させる働きがあります。

通常、標準用量のPPIを4〜8週間にわたって継続的に投与します。

症状の改善が思わしくない場合は、投与量を増やしたり、治療期間を延長したりすることもあります。

薬剤分類主な作用機序代表的な薬剤名
PPI強力な胃酸分泌抑制オメプラゾール、ランソプラゾール
H2受容体拮抗薬中程度の胃酸分泌抑制ファモチジン、ラニチジン
消化管運動改善薬食道括約筋機能改善モサプリド、ドンペリドン

PPIによる治療で十分な効果が得られない場合、H2受容体拮抗薬(ヒスタミン受容体を阻害して胃酸分泌を抑える薬)や消化管運動改善薬(胃や腸の動きを改善する薬)を併用します。

治療期間

逆流性食道炎の標準的な治療期間は、4〜8週間が目安です。

症状が改善し、内視鏡検査で食道粘膜の炎症やびらんの治癒が確認できれば、維持療法へと移行します。

維持療法ではPPIの投与量を段階的に減量し、症状に応じて間欠的な投与に切り替えていくなど、長期的な症状のコントロールを行っていきます。

治療段階一般的な期間主な目標
初期治療4〜8週間症状の緩和と粘膜病変の治癒
維持療法個別に調整症状再燃の予防と生活の質の維持

逆流性食道炎(びらん性GERD)の治療における副作用やリスク

逆流性食道炎(びらん性GERD)の治療に用いられるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、骨密度低下や感染リスク増加などの副作用が長期的な服用で報告されています。

薬物療法に伴う副作用

プロトンポンプ阻害薬(PPI)の長期使用に関して、以下のような副作用が報告されています。

副作用は個人差が大きく、全ての方に現れるわけではありませんが、特に高齢者や基礎疾患を持つ方は注意が必要です。

副作用症状や影響
骨粗鬆症骨密度の低下、骨折リスクの増加
ビタミンB12欠乏貧血、神経症状
腸内細菌叢の変化消化器症状、免疫機能への影響
低マグネシウム血症筋力低下、不整脈

手術療法(腹腔鏡下噴門形成術)のリスク

  • 術後の嚥下困難(食べ物を飲み込みにくくなる)
  • 膨満感や軽度の嘔気(吐き気)
  • まれに、食道や胃の損傷
  • 手術部位の感染
  • 麻酔に関連するリスク

治療中断のリスク

逆流性食道炎の治療を中断すると、症状の再燃や合併症が起こるリスクがあります。

症状が改善したために自己判断で治療を中止してしまう方もいますが、これは望ましくありません。

リスク影響
食道炎の悪化潰瘍形成、狭窄(食道が狭くなる)
バレット食道食道がんのリスク上昇
QOLの低下胸やけ、逆流感の再発
食道出血重度の場合、緊急処置が必要

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

逆流性食道炎(びらん性GERD)の治療は外来診療を中心とした治療が主流であり、月々の治療費は高額にならずに済むケースが多いです。ただし、長期的な管理が必要となるため、継続的に費用がかかります。

治療費の概算

項目概算費用(円)
PPI(4週間分)3,000〜7,000
H2受容体拮抗薬(4週間分)2,000〜5,000
制酸剤(4週間分)1,000〜3,000
胃カメラ検査10,000〜20,000
食道内pHモニタリング20,000〜30,000

長期的な治療費

逆流性食道炎は再発しやすい疾患であるため、症状が改善した後も、定期的な検査や予防的な薬物療法が必要です。

年間の平均治療費(概算)

  • 軽症例 50,000〜100,000円
  • 中等症例 100,000〜200,000円
  • 重症例 200,000〜300,000円以上

以上

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