赤芽球癆(きゅうろう)(PRCA)(pure red cell aplasia)とは、骨髄で赤血球を産生する過程に障害が起こる血液疾患です。
この病態では、赤血球の前駆細胞(未熟な細胞)である赤芽球の生成が低下または完全に停止してし、深刻な貧血を起こします。
症状は、強い疲労感や息苦しさ、立ちくらみなどです。
赤芽球癆は、他の疾患とは無関係に単独で発症することもあれば、別の病気に付随して現れることもあります。
赤芽球癆(PRCA)の種類(病型)
赤芽球癆(きゅうろう)(PRCA)の種類(病型)は、主に先天性と後天性に大別されます。
先天性赤芽球癆
先天性赤芽球癆は、遺伝子の異常によって起きる病型です。
この病型は、出生時または生後間もない時期に発症し、遺伝的要因が関与しています。
先天性赤芽球癆の中でも、注目すべきものはリボソームタンパク質(細胞内でタンパク質を作る際に重要な役割を果たす構造)の遺伝子変異が原因のDiamond-Blackfan貧血(DBA)です。
先天性赤芽球癆の特徴
特徴 | 詳細 |
発症時期 | 出生時または生後早期 |
原因 | 遺伝子異常 |
代表的な病型 | Diamond-Blackfan貧血 |
診断方法 | 遺伝子検査が主体 |
後天性赤芽球癆
後天性赤芽球癆は、生後にさまざまな要因によって発症する病型です。
この病型はより頻度が高く、年齢を問わず発症する可能性があります。
後天性赤芽球癆の発症原因は、自己免疫疾患、ウイルス感染、薬剤性、悪性腫瘍などが挙げられます。
後天性赤芽球癆の中でも、特に重要なのが明確な原因が特定できない場合に診断される特発性赤芽球癆です。
原因 | 特徴 |
自己免疫疾患 | 体の免疫システムが赤血球前駆細胞を攻撃 |
ウイルス感染 | パルボウイルスB19などのウイルスが関与 |
薬剤性 | 特定の薬剤の副作用として発症 |
悪性腫瘍 | 胸腺腫などの腫瘍に伴って発症 |
特発性 | 原因不明の赤芽球癆 |
赤芽球癆(PRCA)の主な症状
赤芽球癆(きゅうろう)(PRCA)の症状は、重度の貧血に伴う全身の強い疲労感や息苦しさ、立ちくらみなどの症状です。
PRCAの主要症状
赤芽球癆(PRCA)の主要な特徴は、徐々に進行する貧血症状にあります。
患者さんの体内では赤血球数が次第に減少し、それに伴いヘモグロビン値(血液中の酸素運搬タンパク質の量)も低下していきます。
貧血に関連する症状
PRCAによる貧血の進行に伴い、いろいろな症状が現れます。
- 持続的な疲労感や全身の倦怠感
- 息切れや動悸(心臓がドキドキする感覚)
- 皮膚の蒼白化(顔色が悪くなる)
- めまいや立ちくらみ
症状は、体内の酸素運搬能力の低下が原因です。
症状 | 特徴 |
疲労感 | 日常的な活動でも強く感じる |
息切れ | 軽い運動でも生じやすい |
皮膚の蒼白化 | 特に口唇や爪床で顕著 |
その他の関連症状
PRCAでは、貧血以外にも感染症にかかりやすくなる易感染性の増加や、出血しやすくなる出血傾向の亢進などが挙げられます。
症状 | 原因 | 例 |
易感染性 | 白血球機能の低下 | 風邪やインフルエンザにかかりやすい |
出血傾向 | 血小板数の減少 | 歯磨き時の歯茎からの出血増加 |
発熱 | 免疫系の変調 | 原因不明の微熱が続く |
症状の進行と重症度
PRCAの症状は初期段階では軽度の疲労感程度で気付かれないこともありますが、時間の経過とともに症状が顕著になっていきます。
重症例では、心不全や呼吸困難といった深刻な合併症を起こします。
症状の変動と個別性
PRCAの症状は、個々の患者さんによって異なる経過をたどります。
経過パターン | 特徴 | 注意点 |
急性型 | 短期間で重症化 | 早期の医療介入が必要 |
慢性型 | 緩徐に進行 | 定期的な経過観察が重要 |
変動型 | 症状の強さが変動 | 症状悪化時の対応準備が必要 |
診察(検査)と診断
赤芽球癆(きゅうろう)(PRCA)の診断は、患者さんの症状や病歴を聞き取り、体の様子を詳しく診察し、血液検査や骨髄の検査を組み合わせて行います。
初期評価と臨床診断
PRCAの診断プロセスは、患者さんが感じている体の不調や、これまでの病気の経験についてお話を伺うことから始まります。
貧血に関連する症状(極度の疲れ、息苦しさ、立ちくらみなど)があるかどうか、症状がいつ頃から始まったのか、どのくらいの速さで悪化しているのかについて、聞き取りを行います。
また、過去にかかった病気や現在飲んでいる薬、家族の中で同じような症状を経験した人がいないかなども、診断を進めるうえで大切な情報です。
体の診察では、貧血によく見られる徴候(肌の色が普段より白っぽくなる、脈が早くなるなど)がないかを確認します。
血液検査
PRCAの診断において、血液検査は非常に重要な役割を果たします。
検査項目
検査項目 | 目的 |
完全血球計算(かんぜんけっきゅうけいさん) | 赤血球の数、ヘモグロビン(赤血球の中の酸素を運ぶタンパク質)の量、網赤(わもう)血球(若い赤血球)の数を調べる |
網赤血球数 | 骨髄で新しい赤血球がどのくらい作られているかを評価 |
血清鉄(けっせいてつ)、フェリチン | 体内の鉄分が不足していないかを確認 |
ビタミンB12、葉酸(ようさん) | 赤血球を作るために必要な栄養素が足りているかを調べる |
PRCAでは、重度の正球性正色素性貧血(赤血球の大きさと色が正常な貧血)と、網赤血球が著しく減少していることが特徴的です。
骨髄検査
PRCAの確定診断には、骨髄検査が必要です。
骨髄穿刺(骨髄液を採取する検査)や骨髄生検(骨髄の一部を採取する検査)により、特徴的な所見を確認します。
- 赤血球のもとになる細胞(赤芽球系前駆細胞)が著しく減少しているか、ほとんど見られない
- 白血球や血小板のもとになる細胞は正常に存在し、成熟している
- 骨髄全体の細胞の密度は正常に保たれている
鑑別診断と追加検査
PRCAの診断を進める過程では、他の貧血の原因を除外していくことが大切です。
PRCAと間違えやすい病気と確認するための追加検査
鑑別すべき病気 | 追加で行う検査 |
鉄欠乏性貧血(体内の鉄分が不足する貧血) | 血清鉄、フェリチン、総鉄結合能(体内の鉄分の状態を詳しく調べる) |
巨赤芽球性貧血(ビタミンB12や葉酸が不足する貧血) | ビタミンB12、葉酸の測定 |
溶血性貧血(赤血球が壊れやすくなる貧血) | LDH(体内の細胞が壊れると増える酵素)、ハプトグロビン(壊れた赤血球を処理するタンパク質)、直接クームス試験(赤血球に付着する抗体の有無を調べる) |
骨髄異形成症候群(血球を作る仕組みに異常がある病気) | 骨髄細胞の染色体検査、フローサイトメトリー(細胞の特徴を詳しく分析する) |
自己抗体と関連疾患の検索
PRCAは時として自己免疫疾患や腫瘍性疾患に関連して発症することがあるため、以下の検査も考慮されます。
- 抗赤芽球抗体検査(赤血球のもとになる細胞を攻撃する抗体の有無を調べる)
- 抗核抗体(ANA)、リウマトイド因子などの自己抗体スクリーニング(自己免疫疾患の可能性を調べる)
- 胸部X線、CT検査(胸腺腫という胸の中にできる腫瘍の有無を確認する)
- ウイルス学的検査(パルボウイルスB19、HIV、HTLV-1などのウイルス感染の有無を調べる)
赤芽球癆(PRCA)の治療法と処方薬、治療期間
赤芽球癆(きゅうろう)(PRCA)の治療法は、免疫抑制療法、薬物療法、輸血療法などがあります。
免疫抑制療法
免疫抑制療法は、自己免疫性赤芽球癆の主要な治療法です。この療法は、過剰に活性化した免疫システムを抑えることで、赤血球前駆細胞(赤血球のもとになる細胞)への攻撃を防ぎ、正常な赤血球産生を促します。
代表的な免疫抑制薬はシクロスポリンやタクロリムスです。
薬剤名 | 投与方法 | 作用 |
シクロスポリン | 経口 | T細胞の活性化抑制 |
タクロリムス | 経口 | T細胞の増殖抑制 |
薬剤は、3〜6ヶ月間投与され、効果が見られれば徐々に減量していきます。
ステロイド療法
ステロイド療法も赤芽球癆の治療に広く用いられています。プレドニゾロンなどの経口ステロイド薬が使用され、強力な抗炎症作用と免疫抑制作用により、赤血球産生を改善します。
ステロイド療法は高用量で開始し、症状の改善に応じて減量していきます。
治療期間は数週間から数ヶ月に及ぶこともあり、長期使用による副作用のリスクがあるため、厳密な管理のもとで使用することが大切です。
ステロイド薬 | 投与方法 | 開始用量 |
プレドニゾロン | 経口 | 0.5-1 mg/kg/日 |
メチルプレドニゾロン | 静注 | 1-2 mg/kg/日 |
輸血療法
輸血療法は、重度の貧血症状を改善するための対症療法として用いられます。
赤血球輸血により酸素運搬能力を一時的に改善し、貧血に伴う症状(息切れ、疲労感など)を軽減します。
輸血療法
- 赤血球濃厚液輸血:最も一般的な輸血方法で、濃縮された赤血球を投与
- 洗浄赤血球輸血:アレルギー反応のリスクを減らすため、赤血球を生理食塩水で洗浄したものを使用
- 照射赤血球輸血:輸血後移植片対宿主病(TA-GVHD)のリスクを減らすため、放射線照射処理を行った赤血球を使用
輸血療法は根本的な治療ではないため、他の治療法と併用されることが多いです。
薬物療法
薬物療法は、赤芽球癆の原因や病型に応じて選択されます。ウイルス性赤芽球癆の場合は抗ウイルス薬が使用され、原因となるウイルスの排除が目標です。
原因 | 使用薬剤 | 治療期間 |
パルボウイルスB19 | 静注免疫グロブリン | 5日間程度 |
HIV関連 | 抗レトロウイルス薬 | 長期継続 |
パルボウイルスB19感染による赤芽球癆では、5日間程度の静注免疫グロブリン療法で改善が見られ、HIV関連の赤芽球癆では、抗レトロウイルス療法を長期的に継続する必要があります。
治療経過
赤芽球癆の治療経過は、治療開始後2〜3週間で網状赤血球数(骨髄で新しく作られた赤血球の指標)の増加が見られ、1〜2ヶ月でヘモグロビン値の改善が期待されます。
赤芽球癆(PRCA)の治療における副作用やリスク
赤芽球癆(きゅうろう)(PRCA)の治療における副作用やリスクは、免疫抑制療法や輸血療法に関連し、感染症罹患リスクの上昇、臓器機能障害、輸血関連合併症などがあります。
免疫抑制療法に関連する副作用
PRCAの主要な治療法である免疫抑制療法は、さまざまな影響を及ぼす可能性があります。
副作用 | 詳細 |
感染症罹患リスクの上昇 | 免疫機能の抑制により、日和見感染症を含む各種感染症のリスクが増加する |
消化器症状 | 悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状が出現することがある |
肝機能障害 | 肝酵素の上昇や黄疸が観察されることがある |
腎機能障害 | 尿量減少や浮腫が現れる可能性がある |
副作用を早期に発見するため、定期的な血液検査、尿検査、肝機能・腎機能検査を実施することが大切です。
ステロイド療法特有の副作用
ステロイド薬は、PRCAの治療で頻用される薬剤ですが、長期使用に伴う特有の副作用があります。
- 骨粗鬆症
- 糖尿病の発症または増悪
- 高血圧
- 体重増加
- 皮膚の菲薄化
- 白内障
副作用は、ステロイド薬の減量や休薬により改善することが多いです。
免疫抑制剤の副作用
シクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬を使用する際は、以下の副作用に注意が必要です。
副作用 | モニタリング方法 |
腎機能障害 | 定期的な血清クレアチニン測定 |
高血圧 | 血圧モニタリング |
電解質異常 | 血清カリウム、マグネシウムの測定 |
神経毒性 | 振戦、痙攣などの神経症状の観察 |
輸血療法に関連するリスク
PRCAの患者さんは、貧血の改善のために輸血を要することがあります。
輸血療法のリスク
- 感染症(ウイルス性肝炎、HIVなど)
- 輸血関連急性肺障害(TRALI)
- 輸血後鉄過剰症
- 同種免疫反応
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
免疫抑制療法の費用
免疫抑制療法に使用されるシクロスポリンの月額費用は、約2万円から5万円です。
薬剤名 | 月額費用(概算) |
シクロスポリン | 2万円〜5万円 |
タクロリムス | 3万円〜6万円 |
ステロイド療法の費用
ステロイド薬であるプレドニゾロンの月額費用は、1万円程度となることが多いです。
輸血療法の費用
赤血球輸血1回あたりの費用は、約2万円から3万円です。
輸血種類 | 1回あたりの費用 |
赤血球濃厚液 | 2万円〜3万円 |
洗浄赤血球 | 3万円〜4万円 |
その他の治療費
- 骨髄検査費用 約1万5千円〜2万円
- 免疫グロブリン療法(5日間) 約30万円〜50万円
- 胸腺腫摘出手術 約50万円〜100万円
以上
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