Fanconi貧血 – 血液疾患

Fanconi貧血(Fanconi anemia)とは、遺伝子の異常により起こる血液疾患です。

この病気では、骨髄が健康な血液細胞を十分に産生できなくなり、貧血による疲労感や息切れ、感染症への抵抗力の低下、出血傾向の増加などの症状が現れます。

さらに、Fanconi貧血は他の臓器にも影響を及ぼし、若年期からの癌発症リスクを著しく高めます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

Fanconi貧血の主な症状

Fanconi貧血の症状は、骨髄不全によって、重度の血球減少、身体的異常、および悪性腫瘍のリスク上昇が特徴です。

血液学的異常

Fanconi貧血の最も顕著な症状は、進行性の骨髄不全に起因する血球減少です。

幼少期から若年成人期にかけて徐々に血球数が減少していき、赤血球、白血球、血小板のいずれか、または全てに影響を及ぼすことがあります。

血球減少の進行度合いは個々の患者さんによって異なりますが、多くの場合症状が現れ始めるのは、10歳前後です。

血球の種類機能減少時の症状
赤血球酸素運搬貧血、疲労感
白血球免疫防御感染症リスク上昇
血小板止血出血傾向

身体的特徴

Fanconi貧血患者さんの多くは、特徴的な身体的異常を呈します。

主な身体的特徴

  • 低身長
  • 皮膚の色素沈着異常(カフェオレ斑(淡褐色の斑点)など)
  • 骨格異常(特に親指や橈骨(前腕の骨)の欠損や形成不全)
  • 小頭症(頭囲が標準より小さい状態)
  • 腎臓や生殖器の奇形

身体的特徴は全ての患者さんに現れるわけではありませんが、複数の特徴が組み合わさって現れると、Fanconi貧血を疑う重要な手がかりです。

悪性腫瘍のリスク

Fanconi貧血患者さんは、急性骨髄性白血病(AML)(骨髄中の未熟な白血球が異常増殖する血液がん)や骨髄異形成症候群(MDS)(造血幹細胞の異常により正常な血球が作られなくなる病気)のリスクが高く、注意深い経過観察が必須です。

腫瘍の種類リスク上昇の程度好発年齢
急性骨髄性白血病一般集団の数百倍20歳前後
頭頸部扁平上皮癌一般集団の数十倍30歳以降
肝臓癌一般集団の数十倍40歳以降

内分泌系の異常

Fanconi貧血患者さんでは、内分泌系の機能異常も少なからず認められます。

成長ホルモン分泌不全による成長障害や、甲状腺機能低下症、また、糖尿病の発症リスクも高いとされており、定期的な血糖値のチェックが必要です。

内分泌異常症状管理方法
成長ホルモン分泌不全低身長ホルモン補充療法
甲状腺機能低下症倦怠感、体重増加甲状腺ホルモン補充
糖尿病多飲、多尿血糖コントロール

Fanconi貧血の原因

Fanconi貧血(FA)は、DNA修復機構(遺伝子の損傷を修復する体内のシステム)の異常による遺伝性疾患であり、複数の遺伝子変異が原因です。

遺伝子変異

Fanconi貧血の原因は、DNA修復に関わる遺伝子群の変異です。

遺伝子の変異が起こるとDNA損傷が蓄積し、細胞の正常な分裂や機能に重大な支障をきたします。

特に、血液細胞を作り出す造血幹細胞に深刻な影響を与え、赤血球や白血球、血小板といった血液細胞の産生が妨げられます。

関連する遺伝子の多様性

Fanconi貧血の発症に関与する遺伝子は、現在22種類以上が科学的に特定されています。

遺伝子名染色体位置機能
FANCA16q24.3FA複合体の形成とFANCD2のユビキチン化に関与
FANCC9q22.3DNA損傷応答とアポトーシス制御に関与
FANCG9p13.3FA複合体の安定化に寄与
FANCD23p25.3DNA修復過程の中心的役割を果たす

各遺伝子の変異は、患者さんごとに異なる症状の表れ方や重症度につながる場合があります。

遺伝形式

Fanconi貧血の遺伝形式は常染色体劣性遺伝で、両親からそれぞれ変異した遺伝子を1つずつ受け継いだときにのみ発症します。

両親がともに保因者(変異遺伝子を1つだけ持っているが発症していない状態)である場合、子どもがFanconi貧血を発症する確率は25%です。

環境要因と遺伝子の相互作用

Fanconi貧血患者さんの細胞は、DNA架橋剤(DNAの二重らせん構造を異常に結合させる物質)や酸化ストレス(細胞を傷つける活性酸素の増加)に対して脆弱であることが分かっています。

環境中に存在する有害な化学物質や放射線への曝露が、DNA損傷を増加させ、症状の進行を加速させる可能性が高いです。

環境要因DNA損傷への影響具体例
化学物質ベンゼン、農薬、一部の抗がん剤
放射線X線、ガンマ線、宇宙線
酸化ストレス大気汚染物質、喫煙、過度の運動
紫外線日光、人工的なUVランプ

診察(検査)と診断

Fanconi貧血の診断は、臨床症状の評価、血液検査、染色体脆弱性試験、そして最終的な遺伝子検査を通じて段階的に行われます。

臨床診断の重要性

Fanconi貧血の診断プロセスは、患者さんの臨床症状を観察することから始まり、特徴的な身体的異常や血液学的異常がないかを確認します。

低身長、皮膚の色素沈着異常、骨格の奇形などの身体的特徴は、Fanconi貧血を疑う重要な手がかりです。

また、進行性の骨髄不全による血球減少も、診断の糸口となるケースが少なくありません。

血液検査と骨髄検査

臨床症状からFanconi貧血が疑われる場合、次のステップとして血液検査を実施します。

全血球計算(CBC)は、赤血球、白血球、血小板の数を正確に測定し、血球減少の程度を評価するうえで欠かせない検査です。

検査項目正常値Fanconi貧血での典型的な所見臨床的意義
赤血球数400-550万/μL減少貧血の評価
白血球数4,000-9,000/μL減少感染リスクの評価
血小板数15-35万/μL減少出血傾向の評価

骨髄検査も診断の重要な一部として行われることがあり、骨髄穿刺や骨髄生検により、造血幹細胞の状態や骨髄の細胞性を評価し、他の骨髄不全症候群との鑑別に活用します。

染色体脆弱性試験

Fanconi貧血の診断において、染色体脆弱性試験は感度の高い検査方法です。

この検査では、患者さんの血液細胞を特殊な環境で培養し、DNAクロスリンク剤(例えばマイトマイシンCやジエポキシブタンといった化学物質)を添加します。

Fanconi貧血患者さんの細胞は、薬剤に対して通常よりも強い反応を示し、染色体の破壊や再構成といった変化が観察されます。

検査結果Fanconi貧血健常者臨床的解釈
染色体異常の頻度高い低い異常が多いほどFanconi貧血の可能性が高い
クロスリンク剤への感受性顕著に増加正常範囲内感受性が高いほどFanconi貧血の可能性が高い
染色体破壊の種類特徴的なパターン非特異的Fanconi貧血特有のパターンがあれば診断の確実性が増す

この試験の結果が陽性の場合、Fanconi貧血の診断はほぼ確定的となりますが、最終的な確認のために遺伝子検査を行うのが一般的です。

遺伝子検査による確定診断

Fanconi貧血の最終的な確定診断は、最新の遺伝子検査技術を用いて行われます。

遺伝子検査の方法

  • 次世代シーケンシング(NGS)によるパネル検査(複数の遺伝子を同時に調べる)
  • 全エクソーム解析(タンパク質を作る遺伝子領域全体を調べる)
  • 全ゲノム解析(遺伝情報全体を調べる)
  • 特定の遺伝子を対象としたサンガーシーケンシング(特定の遺伝子を詳しく調べる)
検査方法特徴長所短所
NGSパネル検査複数遺伝子を同時解析効率的、コスト効果高新規遺伝子変異の検出が難しい
全エクソーム解析タンパク質コード領域全体を解析広範囲の遺伝子変異を検出可能データ解釈に時間がかかる
全ゲノム解析ゲノム全体を解析最も包括的な情報を得られる高コスト、データ量が膨大

Fanconi貧血の治療法と処方薬、治療期間

Fanconi貧血の治療は、造血幹細胞移植(患者さんの血液を作る細胞を健康な細胞に置き換える治療)を中心として、支持療法や薬物療法を組み合わせて行われます。

造血幹細胞移植

造血幹細胞移植は、患者さんの異常な造血幹細胞を健康なドナーの細胞に置き換えることが目的です。

移植の前には、準備段階として低用量の化学療法や放射線療法を行うことが一般的で、新しい細胞を受け入れやすい状態にします。

移植段階処置期間
前処置化学療法、放射線療法1〜2週間
移植造血幹細胞の輸注1日
生着確認血球数モニタリング2〜4週間

移植後の回復期間は、3〜6か月程度です。

支持療法

造血幹細胞移植の前後を通じて、患者さんの体調を維持するためにさまざまな支持療法が実施されます。

輸血療法は貧血や出血傾向の改善に不可欠です。

赤血球輸血はヘモグロビン値)に応じて行われ、血小板輸血は出血リスクが高まった際に実施されます。

感染予防も重要な支持療法の一つで、患者さんの免疫力が低下している時期に特に注意が必要です。

抗生物質や抗真菌薬の予防的な投与、無菌室の使用などが行われます。

薬物療法

Fanconi貧血の治療にはアンドロゲン療法(男性ホルモンを用いた治療)を用い、造血機能を一時的に改善させます。

代表的な薬剤にオキシメトロンがあり、3〜6か月の投与で効果を評価します。

薬剤名効果投与期間
オキシメトロン造血促進3〜6か月
シクロスポリン免疫抑制移植後6〜12か月
G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)好中球増加必要に応じて短期間

免疫抑制剤は、移植後のGVHD(移植片対宿主病:ドナーの細胞が患者の体を攻撃する反応)予防に重要です。

シクロスポリンやタクロリムスなどが使用され、移植後6〜12か月程度投与されます。

長期フォローアップ

Fanconi貧血の治療は、移植後も長期的なフォローアップが必要不可欠です。

定期的な血液検査や骨髄検査により、造血機能の回復を評価します。

また、二次がん(治療後に新たに発生するがん)のスクリーニングのために、口腔内や消化管の定期検査を行うことが大切です。

内分泌機能のモニタリングも長期的に行われ、成長や代謝を正常に保つために必要に応じてホルモン補充療法を実施します。

フォローアップの頻度

  • 移植後1年目 月1回の外来受診
  • 移植後2〜5年目 2〜3か月ごとの受診
  • 移植後5年以降 半年〜1年ごとの受診
フォローアップ項目実施頻度目的
血液検査1〜3か月ごと造血機能の評価
骨髄検査年1〜2回造血幹細胞の状態確認
内分泌機能検査6か月〜1年ごとホルモンバランスの評価

Fanconi貧血の治療における副作用やリスク

Fanconi貧血の治療は、患者さんの生命予後を改善する一方で、重篤な副作用やリスクを伴う可能性があります。

造血幹細胞移植に伴うリスク

造血幹細胞移植は、Fanconi貧血患者さんにとって唯一の根治的治療法ですが、さまざまなリスクを伴います。

移植前処置として行われる化学療法や放射線療法は、患者さんの体に大きな負担です。

化学療法や放射線療法は造血機能を抑制し、新しい造血幹細胞の生着を促進する目的で行われますが、同時に深刻な副作用を起こします。

副作用発生頻度重症度対策
悪心・嘔吐中~高制吐剤の使用、食事の工夫
脱毛ウィッグの使用、心理的サポート
粘膜炎中~高中~高口腔ケア、痛み止めの使用
感染症予防的抗生剤、無菌室の使用

Fanconi貧血患者さんは、DNA修復機能の異常により、通常の患者さんよりも前処置に対する感受性が高い傾向があり、移植前処置の強度を調整する必要があります。

移植片対宿主病(GVHD)

造血幹細胞移植後の大きなリスクの一つが、移植片対宿主病(GVHD)です。

GVHDは、ドナーの免疫細胞が患者さんの体を異物と認識して攻撃する現象で、急性と慢性の二つの形態があります。

GVHD発症時期症状治療法
急性移植後100日以内皮疹、下痢、肝機能障害ステロイド、免疫抑制剤
慢性移植後100日以降皮膚硬化、口腔乾燥、肺線維症免疫抑制剤、光線療法

GVHDの予防や治療には免疫抑制剤が使用されますが、薬剤自体も副作用を持ち、感染症のリスクを高めます。

二次がんのリスク

Fanconi貧血患者さんは悪性腫瘍(がん)の発症リスクが高いですが、治療によってさらにこのリスクが増加することがあります。

放射線療法や特定の化学療法薬は、DNA損傷を引き起こし、二次がん(治療後に新たに発症するがん)の発症リスクを高める可能性があります。

移植後の患者さんにおける二次がんのリスク

  • 頭頸部扁平上皮癌(頭や首の部分に発生する特定の種類のがん)
  • 皮膚がん
  • 脳腫瘍
  • 骨肉腫(骨に発生する悪性腫瘍)

二次がんは、移植後数年から数十年後に発症するため、長期的な経過観察が重要です。

感染症のリスク

造血幹細胞移植後の患者さんは免疫系の再構築に時間がかかるため、感染症のリスクにさらされます。

移植直後の期間は、重篤な細菌性、真菌性、ウイルス性感染症のリスクが高いです。

感染症の種類原因菌好発時期予防法
細菌性緑膿菌、ブドウ球菌移植直後~数週間予防的抗生剤の投与
真菌性カンジダ、アスペルギルス移植後数週間~数ヶ月抗真菌薬の予防投与
ウイルス性サイトメガロウイルス、EBウイルス移植後数ヶ月~数年抗ウイルス薬の予防投与、定期的なウイルス検査

長期的な臓器障害

Fanconi貧血の治療に使用される薬剤や放射線療法は、長期的に心臓、肺、腎臓、肝臓などの主要臓器が影響を受けることがあります。

アントラサイクリン系抗がん剤は心毒性を持ち、心機能低下を起こし、また、全身放射線照射は、肺の線維化(肺組織が硬くなる状態)や甲状腺機能低下などのリスクがあります。

臓器潜在的な長期障害モニタリング方法
心臓心機能低下、不整脈定期的な心エコー検査、心電図
肺線維症、慢性閉塞性肺疾患肺機能検査、胸部CT
腎臓慢性腎臓病、高血圧定期的な腎機能検査、血圧測定
肝臓慢性肝炎、肝硬変肝機能検査、腹部超音波検査

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

造血幹細胞移植の費用

造血幹細胞移植の総費用は、約500万円から1000万円です。

さらに、移植後の合併症や長期的なフォローアップも考慮する必要があります。

治療段階概算費用
移植前検査・処置100-200万円
移植手術300-500万円
術後管理100-300万円

薬物療法にかかる費用

造血幹細胞移植以外にも、Fanconi貧血の管理には薬物療法を用い、造血促進剤、抗生物質、免疫抑制剤などが含まれます。

薬剤費は月額で数万円から数十万円です。

定期的な検査・モニタリング費用

Fanconi貧血患者は定期的な検査とモニタリングが必要で、血液検査、骨髄検査、画像診断などを行います。

検査項目と概算費用

  • 血液検査:5,000-10,000円/回
  • 骨髄検査:50,000-100,000円/回
  • CT・MRI検査:30,000-50,000円/回

合併症治療の追加費用

Fanconi貧血患者は合併症のリスクが高く、治療に追加の費用が必要となることがあります。

合併症想定される追加費用
二次性がん治療数百万円~数千万円
臓器障害治療数十万円~数百万円

以上

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