頭蓋骨骨折 – 脳・神経疾患

頭蓋骨骨折(skull fracture)とは、頭部への強い衝撃によって頭蓋骨にひびや割れが生じる状態のことです。

この骨折は、交通事故や転落、スポーツ中の接触など、日常生活のさまざまな場面で起こります。

頭蓋骨は脳を外部の衝撃から守る防御壁の役割を果たしているため、損傷は生命に関わる重大な問題に発展する可能性があります。

症状は激しい頭痛、意識レベルの変化、頭皮からの出血などです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

頭蓋骨骨折の種類(病型)

頭蓋骨骨折は、円蓋部骨折と頭蓋底骨折という2つの種類に大別されます。

円蓋部骨折の特徴と分類

円蓋部骨折は、頭蓋冠(頭頂部から側頭部にかけての頭蓋骨の上部)に生じる骨折のことです。

この種の骨折は多くの場合、直接的な外力によって起こり、交通事故や高所からの転落などの高エネルギー外傷が原因となります。

円蓋部骨折は、形状や程度によってさらに細かく分類されます。

骨折の種類特徴臨床的意義
線状骨折単一の骨折線が認められる比較的予後が良好なことが多い
陥没骨折骨片が内側に陥没している脳実質の圧迫や損傷のリスクがある
開放骨折骨折部位が外部と交通している感染のリスクが高く、緊急処置が必要

線状骨折は軽度であることが多いですが、陥没骨折や開放骨折では、脳実質の損傷や感染症のリスクが高いです。

頭蓋底骨折の特徴と分類

頭蓋底骨折は頭蓋骨の底部に生じる骨折で、複雑な構造を持つ領域に発生するため、診断や治療には高度な専門知識と技術が必須です。

この種の骨折は、頭部への強い衝撃や、顔面への外力が頭蓋底に伝わることで発生し、影響は広範囲に及ぶ可能性があります。

頭蓋底骨折は発生部位によって以下の3つに分類されます。

  • 前頭蓋窩骨折:前頭洞(額の内側にある空洞)や篩骨洞(鼻腔の上部にある空洞)に影響を及ぼす可能性がある
  • 中頭蓋窩骨折:側頭骨(耳の周辺の骨)や蝶形骨(頭蓋底の中心部にある骨)に関与することがある
  • 後頭蓋窩骨折:後頭骨(頭の後ろ側の骨)や側頭骨錐体部(内耳を含む骨の一部)に生じることがある

頭蓋底骨折は、髄液漏(脳脊髄液が漏れ出す状態)や脳神経損傷などの重篤な合併症の危険があるので注意が必要です。

骨折の性状による分類

頭蓋骨骨折は性状によっても分類され、それぞれが異なる臨床的意義を持っています。

骨折の性状説明臨床的重要性
非開放性骨折骨折部が外部と交通していない感染リスクが比較的低い
開放性骨折骨折部が外部と交通している感染リスクが高く、緊急処置が必要
線状骨折単一の骨折線が認められる比較的予後が良好なことが多い
複雑骨折複数の骨折線や骨片の変位がある神経学的合併症のリスクが高い

頭蓋骨骨折の主な症状

頭蓋骨骨折は、頭部に加わった強い衝撃によって起こる深刻な外傷で、軽微な頭痛から生命の危険をもたらす重度の神経学的障害まで、幅広い範囲に及びます。

よく見られる症状

頭蓋骨骨折患者さんに骨折の種類や重症度にかかわらず共通して見られる症状には、以下のようなものがあります。

  • 頭痛(骨折部位周辺に集中する激しい痛み)
  • めまいや体のふらつきなど、平衡感覚の乱れ
  • 繰り返し起こる吐き気や嘔吐
  • 意識レベルの変化(軽度の混乱から昏睡状態まで様々)
  • 骨折部位における明らかな腫れや形状の変化

骨折の種類による症状の違い

頭蓋骨骨折は、形態や特徴によっていくつかに分類されます。

骨折の種類症状と特徴
線状骨折骨折部位に限局した痛み、軽度の腫れ、頭皮の変色
陥没骨折頭皮の明らかな陥没、局所的な神経症状(麻痺や感覚異常など)
開放骨折頭皮の裂傷を伴う露出した骨、髄液(脳脊髄液)の漏出
頭蓋底骨折鼻や耳からの出血、透明な液体(髄液)の漏出、眼の周りの青あざ(アライグマ眼)

神経学的症状の重要性

頭蓋骨骨折に伴って現れる神経学的症状は、脳の損傷や圧迫の存在を示唆する重要な臨床的指標です。

神経学的症状関連する脳の部位と考えられる影響
視力障害後頭葉や視神経の損傷による視覚情報処理の異常
言語障害前頭葉や側頭葉の損傷による言語中枢の機能不全
運動障害運動野や小脳の損傷による随意運動の制御異常
感覚異常感覚野の損傷による触覚、温度感覚などの異常

合併症に関連する警戒すべき症状

頭蓋骨骨折では、様々な重篤な合併症が発生する可能性があり、合併症に関連する症状を早期に発見し対処することは、患者さんの予後を大きく左右します。

  • 頭蓋内出血異常な眠気や意識レベルの急激な低下、片側の瞳孔が突然大きくなる(散大)
  • 脳浮腫持続的で激しい頭痛、嘔吐を伴う意識レベルの進行性の低下
  • 髄膜炎高熱と首の硬直(項部硬直)、光に対する過敏反応(羞明)
  • 脳脊髄液漏鼻や耳からの透明な液体の持続的な流出、塩辛い味や金属的な味を感じる

頭蓋骨骨折の原因

頭蓋骨骨折は外傷性の要因によって引き起こされますが、まれに非外傷性の要因によっても発生する可能性があります。

頭蓋骨骨折の主な原因

頭蓋骨骨折の最も一般的な原因は、頭部への直接的な外力による衝撃です。

日常生活や特定の活動中に発生するさまざまな状況下で生じ、頭蓋骨の構造的完全性を損なうほどの強さを持っています。

外傷性要因の詳細分析

外傷性の頭蓋骨骨折を起こす要因

原因特徴
交通事故自動車衝突、バイク事故高エネルギー外傷、複合的損傷のリスク大
転落高所からの落下、階段での転倒重力加速度による衝撃増大
スポーツ関連の衝撃コンタクトスポーツでの衝突反復性外傷のリスクあり
暴力行為殴打、武器による攻撃意図的な加害行為、法的問題を伴う

外傷性要因は、頭部に直接的かつ強力な衝撃を与え、頭蓋骨の耐久限界を超える力を加えることで骨折を起こします。

非外傷性要因

頻度は低いものの、非外傷性の要因によっても頭蓋骨骨折が発生することがあります。

これらの要因は、直接的な外力を伴わずに骨の構造を徐々に弱め、骨折が生じることが特徴です。

非外傷性要因説明医学的影響
骨粗鬆症骨密度の低下による骨の脆弱化微小骨折のリスク増大
先天性疾患骨形成不全症などの遺伝的要因生涯にわたる骨折リスクの上昇
腫瘍原発性または転移性の骨腫瘍局所的な骨構造の破壊
代謝性疾患カルシウム代謝異常などによる骨の脆弱化全身的な骨質低下

非外傷性の頭蓋骨骨折は、通常の日常活動中や軽微な外力によっても発生する可能性があるため、基礎疾患の管理と早期発見が重要です。

年齢と頭蓋骨骨折の関連性

年齢は頭蓋骨骨折の発生リスクに大きく影響を与える要因の一つです。

  • 乳幼児 頭蓋骨が未発達で柔らかいため、変形しやすく骨折のリスクが高い
  • 高齢者 骨密度の低下と転倒リスクの増加により、軽微な衝撃でも骨折する可能性がある
  • 成人 活動量の多さと社会生活における外傷リスクの上昇

診察(検査)と診断

頭蓋骨骨折の診断は、患者さんの状態を観察する問診から始まり、身体診察を経て、画像診断技術を用いた確定診断に至るまで、複数の段階を踏みます。

初期評価と問診

頭蓋骨骨折の診断過程では、患者さんの意識状態、外傷が発生した状況、症状の時間的経過などについて、情報を収集します。

身体診察

身体診察では視診、触診、聴診などを行い、骨折の兆候を探ります。

特に、頭部の腫れ、形の変化、出血などの目に見える異常所見に対しては、細心の注意が必要です。

診察項目確認ポイント
視診頭皮の傷や変形、出血の有無、顔面の左右対称性
触診骨の表面の凹凸、押すと痛む部位の特定
神経学的検査意識レベルの評価、瞳孔の大きさと対光反射

画像診断

X線検査、CT検査(コンピュータ断層撮影)、MRI検査(磁気共鳴画像法)など、複数の撮影方法を組み合わせることで、骨折の状態を多角的かつ詳細に評価します。

  • X線検査 骨の表面に走る線状の骨折を発見するのに効果的で、比較的簡便に実施できる
  • CT検査 骨折の詳細な形状や範囲を三次元的に把握でき、頭蓋内の出血や脳の損傷も同時に確認できる
  • MRI検査 脳や周囲の軟部組織の状態を詳しく観察でき、慢性期の評価や後遺症の確認に有用

鑑別を要する疾患

臨床診断の際には、頭蓋骨骨折と類似の症状を呈する他の疾患との鑑別が大切です。

鑑別を要する疾患特徴的な臨床所見
頭部挫傷皮下出血、局所的な腫れ、外見上の変化
硬膜外血腫意識レベルの変動(一時改善後の急激な悪化)
脳震盪短時間の意識消失、記憶障害、ふらつき

頭蓋骨骨折の治療法と処方薬、治療期間

頭蓋骨骨折の治療は、骨折の種類や重症度に応じて保存的治療から外科的介入まであります。

保存的治療

軽度から中等度の頭蓋骨骨折では、患者さんの体の自然な治癒力を活かす保存的治療が選択されます。

保存的治療の内容

  • 十分な安静と綿密な経過観察
  • 適切な疼痛管理による患者さんの苦痛軽減
  • 頭部の保護による二次的な損傷の予防
  • 定期的な画像検査を通じた骨折の治癒過程の詳細な評価
保存的治療の要素目的と効果
安静療法骨折部位の安定化と自然治癒の促進
疼痛管理患者さんの快適性確保と心身の回復支援
頭部保護予期せぬ衝撃からの二次的損傷の予防
定期的な画像診断骨折の治癒過程の詳細な評価と治療方針の微調整

外科的治療

重度の頭蓋骨骨折や、脳実質(のうじっしつ)の損傷を伴うような複雑なケースでは、より積極的な外科的治療が必要となります。

外科的治療の目的は、陥没した骨片の正確な整復、髄液漏(ずいえきろう)の確実な修復、そして頭蓋内圧の管理です。

外科的治療の種類適応と特徴
開頭術重度の陥没骨折の修復や脳内血腫の除去に用いられる基本的な手技
頭蓋形成術広範囲の骨欠損を人工材料や自家骨で修復し、脳を保護する高度な手術
硬膜修復術髄液漏を防ぐため、脳を覆う硬膜(こうまく)の損傷を修復する精密な手技

外科的治療後は、患者さんの状態を24時間体制で監視できる集中治療室での観察が必須です。

頭蓋骨骨折治療に用いられる薬剤

頭蓋骨骨折の治療過程で使われる薬剤は、患者さんの状態や潜在的なリスクに応じて選択し投与されます。

主な薬剤と用途

  • 鎮痛剤:骨折に伴う痛みを軽減し、患者さんの快適性を確保
  • 抗てんかん薬:頭部外傷後に生じることがある発作を予防
  • 抗生物質:開放性骨折や手術後の感染症を予防・治療
  • 浸透圧利尿薬:頭蓋内圧の上昇を抑制し、脳への二次的損傷を防止

頭蓋骨骨折からの回復プロセスと治療期間

治療期間の目安

骨折の程度治療期間
軽度の線状骨折4〜6週間
中等度の骨折6〜8週間
重度の骨折や外科的治療後3〜6ヶ月以上

完全な骨の癒合(ゆごう)には6〜12ヶ月程度かかり、この間は定期的な画像検査や診察によるフォローアップが欠かせません。

頭蓋骨骨折の治療における副作用やリスク

頭蓋骨骨折の治療は、骨折部位の修復と脳の保護を目的としていますが、手術や薬物療法に伴う副作用やリスクがあります。

手術に関連するリスクとその管理

頭蓋骨骨折の治療では、骨折の種類や程度によって手術が必要となるケースがあります。

手術に伴うリスクには、術後感染症、予期せぬ出血、麻酔に関連する合併症などが含まれ、リスクは患者さんの年齢や全身の健康状態、骨折の重症度によります。

リスクの種類発生頻度対策
術後感染症1-5%厳密な無菌操作、予防的抗生剤投与
術中・術後出血2-7%慎重な止血操作、凝固機能のモニタリング
麻酔関連合併症0.5-2%術前の詳細な評価、適切な麻酔方法の選択

薬物療法に伴う副作用と対策

頭蓋骨骨折の治療過程では、痛みのコントロールや感染予防のために薬剤が使用されます。

薬剤の副作用

  • 鎮痛剤胃腸の不快感(吐き気、胸やけなど)、まれに肝機能への影響
  • 抗生剤アレルギー反応(発疹、かゆみなど)、腎臓への負担
  • 抗てんかん薬強い眠気、めまい感、皮膚の発疹

長期的に注意すべき合併症

頭蓋骨骨折の治療後、時間の経過とともに現れる長期的な合併症があります。

合併症の種類症状発生頻度
外傷後てんかん突然の意識消失や体の痙攣5-10%
慢性頭痛長期にわたる頭痛の持続20-30%
認知機能の変化記憶力や集中力の低下10-15%

再手術が必要となるリスクとその背景

一部の患者さんでは、初回の手術後に再手術が必要となる場合があります。

再手術の理由発生頻度予防策
術後感染1-3%厳密な無菌管理、抗生剤使用
骨片の位置ずれ2-5%確実な固定術、過度の早期運動制限
脳脊髄液漏1-2%硬膜修復の確実な実施、術後安静

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

保存的治療の費用

軽度から中等度の頭蓋骨骨折では、保存的治療が選択されます。

項目概算費用
入院費(1日あたり)2万円~5万円
CT検査1万5千円~3万円
MRI検査3万円~6万円

1~2週間の入院を要するため、総額で30万円から100万円です。

外科的治療の費用

重度の頭蓋骨骨折や脳実質の損傷を伴うと外科的治療が必要になり、費用も高額です。

手術の種類概算費用
開頭術80万円~150万円
頭蓋形成術100万円~200万円

以上

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