サルモネラ症とは、サルモネラ属菌が原因で発症する感染症の一種です。
この菌に汚染された食べ物や飲み物を口にすることで感染が成立し、主に胃腸炎の症状を引き起こすことが知られています。
サルモネラ症の潜伏期間は6時間から48時間程度で、下痢や腹痛、発熱などの症状が現れるのが特徴的です。
重症化した際には、敗血症や髄膜炎などの合併症を引き起こす可能性もあるため、注意が必要とされています。
サルモネラ症の種類(病型)
サルモネラ症には、腸管型、敗血症型、腸外型の3つの主な病型があり、それぞれ特徴が異なります。
腸管型サルモネラ症
腸管型は、サルモネラ症の中で最も一般的な病型です。
サルモネラ菌に汚染された食品や水を介して感染することで発症します。
潜伏期間 | 症状 |
6~48時間 | 下痢、腹痛、発熱 |
腸管型サルモネラ症の特徴は以下の通りです。
- 急性胃腸炎症状が主体
- 通常は数日で自然治癒
- 重症化すると敗血症や髄膜炎を併発する危険性がある
重症化リスク因子 | 理由 |
乳幼児 | 免疫力が未発達 |
高齢者 | 免疫力が低下 |
免疫抑制状態 | 感染症にかかりやすい |
敗血症型サルモネラ症
敗血症型は、サルモネラ菌が血流に侵入し、全身に感染が広がる病型です。
適切な抗菌薬治療が必要とされる重篤な病型の一つで、合併症として以下のようなものがあります。
- 髄膜炎
- 骨関節炎
- 腸管穿孔
敗血症型サルモネラ症は、早期発見と迅速な治療開始が肝要です。
腸外型サルモネラ症
腸外型は、サルモネラ菌が腸管以外の臓器に感染する病型です。
感染部位としては、以下のようなものが挙げられます。
- 胆嚢
- 尿路
- 心内膜
- 骨
- 関節
腸外型サルモネラ症は、基礎疾患がある人に多くみられる傾向があります。
腸外型サルモネラ症を発症しやすい基礎疾患 |
胆石症 |
尿路結石 |
人工弁置換術後 |
サルモネラ症の主な症状
サルモネラ症の主な症状は、急性胃腸炎症状と全身症状です。
急性胃腸炎症状は、下痢、腹痛、発熱、嘔吐などが特徴的で、全身症状を伴う場合は、重篤な合併症のリスクがあるため、注意が必要です。
急性胃腸炎症状
サルモネラ症の急性胃腸炎症状には、以下のようなものがあります。
- 下痢(水様性または血性)
- 腹痛
- 嘔吐
- 発熱
これらの症状は、サルモネラ菌に汚染された食品や水を摂取してから、通常6~48時間後に出現します。
症状 | 頻度 | 特徴 |
下痢 | 90%以上 | 水様性または血性 |
腹痛 | 70~80% | 激しい腹痛を伴うことがある |
発熱 | 50~70% | 38℃以上の高熱が多い |
嘔吐 | 30~50% | 脱水のリスクが高まる |
急性胃腸炎症状は、通常は数日で自然に軽快することが多いです。
しかし、重症化すると脱水や電解質異常を引き起こす危険性があるため、注意が必要です。
重症化の危険因子 | 理由 |
乳幼児 | 脱水を起こしやすい |
高齢者 | 免疫力が低下している |
基礎疾患がある | 感染が広がりやすい |
全身症状
サルモネラ症が重症化した場合、以下のような全身症状を伴うことがあります。
- 高熱
- 頭痛
- 関節痛
- 背部痛
- 意識障害
全身症状を伴う際は、敗血症や髄膜炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
サルモネラ症を引き起こす原因菌と感染経路
サルモネラ症は、サルモネラ属菌による感染症であり、主に経口感染によって発症します。
サルモネラ属菌
サルモネラ症の原因となるのは、サルモネラ属菌です。
サルモネラ属菌は、以下のような特徴を持つグラム陰性桿菌です。
- 通性嫌気性菌
- 非芽胞形成菌
- 運動性を有する
サルモネラ属菌には、2500種類以上の血清型が存在します。
主な血清型 | 特徴 | 感染源 |
S. Enteritidis | 鶏卵や鶏肉に関連 | 家禽類 |
S. Typhimurium | 家畜や愛玩動物に関連 | 哺乳類 |
感染経路
サルモネラ属菌は、以下のような経路で感染します。
- 経口感染
- 接触感染
経口感染は、サルモネラ属菌に汚染された食品や水を摂取することで成立します。
一方、接触感染は、感染動物やその排泄物との直接的な接触によって起こります。
感染源となりやすい食品 | 注意点 |
鶏卵 | 生卵や半熟卵は避ける |
鶏肉 | 十分に加熱する |
牛肉 | 生食は控える |
豚肉 | 中心部までよく火を通す |
サルモネラ属菌は、低温でも増殖可能な菌です。
冷蔵庫内で汚染食品を保存していても、菌が増殖する危険性があります。
感染リスクの高い人
以下のような人は、サルモネラ症に感染するリスクが高いとされています。
- 乳幼児
- 高齢者
- 免疫力の低下した人
- 胃酸の分泌が少ない人
特に、生肉や生卵を摂取する習慣がある際は、注意が必要です。
診察(検査)と診断
サルモネラ症の診察では、臨床症状や疫学情報に基づいて診断を行い、確定診断には、細菌培養検査や血清学的検査が用いられます。
臨床診断
サルモネラ症の臨床診断は、以下の情報を総合的に評価して行います。
臨床診断に重要な情報 | 理由 |
症状 | サルモネラ症に特徴的な症状がある |
発症までの経過 | 潜伏期間が参考になる |
食事歴 | 感染源となる食品の特定に役立つ |
海外渡航歴 | 渡航先での感染リスクを評価できる |
感染症発生状況 | 集団発生の可能性を検討できる |
検査方法
サルモネラ症の確定診断には、以下のような検査が行われます。
検査方法 | 特徴 |
細菌培養検査 | 感度が高い |
血清学的検査 | 迅速に結果が得られる |
細菌培養検査では、患者の便や血液などの検体からサルモネラ属菌の分離・同定を行います。
血清学的検査では、サルモネラ属菌に対する抗体価の測定を行います。
確定診断
サルモネラ症の確定診断は、以下の場合に行われます。
- 細菌培養検査でサルモネラ属菌が分離、同定された際
- 血清学的検査でサルモネラ属菌に対する抗体価の上昇が確認された際
確定診断には、複数の検査結果を総合的に評価することが重要で、検査結果の解釈には、臨床症状や疫学情報も考慮する必要があります。
サルモネラ症の治療法と処方薬
サルモネラ症の治療は、主に対症療法と抗菌薬療法を組み合わせて行います。
対症療法
サルモネラ症の対症療法では、以下のような治療を行います。
- 補液療法
- 制吐薬の投与
- 解熱鎮痛薬の投与
補液療法は、脱水の予防と治療のために重要です。
補液療法の種類 | 特徴 |
経口補液 | 軽症例に適している |
静脈内補液 | 重症例や経口摂取が困難な際に用いる |
制吐薬や解熱鎮痛薬は、症状の緩和を目的として使用されます。
これらの薬剤の使用は、患者の状態に応じて判断する必要があります。
抗菌薬療法
サルモネラ症の抗菌薬療法では、以下のような薬剤が用いられます。
抗菌薬の種類 | 特徴 |
フルオロキノロン系薬 | 経口投与が可能 |
セフェム系薬 | 重症例に用いられる |
アミノグリコシド系薬 | 他の抗菌薬との併用で使用される |
抗菌薬の選択は、患者の年齢や基礎疾患、感受性試験の結果などを考慮して行います。
治療期間
サルモネラ症の治療期間は、症状の重症度によって異なります。
治療期間は、症状の改善状況や検査結果を見ながら、適宜調整する必要があります。
また、再発を防ぐために、十分な治療期間を確保することが肝要です。
注意点
サルモネラ症の治療には、以下のような注意点があります。
- 抗菌薬の不必要な使用は避ける
- 治療中も手洗いや食品の衛生管理を徹底する
- 治療終了後も一定期間は経過観察を行う
適切な治療と感染対策を行うことで、サルモネラ症の早期回復と再発防止につながります。
治癒までに要する期間と予後
サルモネラ症の治療期間と予後は、感染部位や重症度によって異なります。
腸管型サルモネラ症の治療期間と予後
腸管型サルモネラ症の治療期間は、通常3~7日間です。
多くの際、対症療法と抗菌薬療法を組み合わせることで、症状は改善します。
重症度 | 治療期間 |
軽症 | 3~5日間 |
中等症 | 5~7日間 |
腸管型サルモネラ症の予後は良好であり、適切な治療を行えば、後遺症を残すことは稀です。
ただし、高齢者や基礎疾患がある人では、重症化するリスクが高いため、注意が必要です。
敗血症型サルモネラ症の治療期間と予後
敗血症型サルモネラ症の治療期間は、通常2~3週間です。
抗菌薬の静脈内投与が必要となるため、入院治療が基本となります。
合併症 | 治療期間 |
髄膜炎 | 3~4週間 |
骨関節炎 | 4~6週間 |
敗血症型サルモネラ症の予後は、早期に適切な治療を開始できるかどうかが重要です。
治療が遅れると、致死率が高くなるため、迅速な診断と治療開始が肝要です。
腸外型サルモネラ症の治療期間と予後
腸外型サルモネラ症の治療期間は、感染部位によって異なります。
- 胆嚢炎:2~3週間
- 尿路感染症:1~2週間
- 心内膜炎:4~6週間
腸外型サルモネラ症の予後は、基礎疾患の有無や感染部位によって左右されます。
基礎疾患がある人や高齢者では、重症化するリスクが高くなります。
再発と慢性化
サルモネラ症では、治療終了後も再発する可能性があります。
再発を防ぐためには、以下のような点に注意が必要です。
- 抗菌薬の投与期間を十分に確保する
- 治療後も手洗いや食品の衛生管理を徹底する
- 基礎疾患がある際は、厳重な経過観察を行う
稀ではありますが、サルモネラ症が慢性化することもあり、慢性化した際は長期的な抗菌薬投与が必要となる場合があります。
サルモネラ症の治療における副作用やリスク
サルモネラ症の治療では、抗菌薬の副作用や耐性菌の出現、基礎疾患による影響などに注意が必要です。
抗菌薬の副作用
サルモネラ症の治療に用いられる抗菌薬には、以下のような副作用があります。
- 消化器症状(悪心、嘔吐、下痢など)
- 皮膚症状(発疹、かゆみなど)
- 肝機能障害
- 腎機能障害
これらの副作用は、抗菌薬の種類や投与量、患者の体質などによって異なります。
抗菌薬の種類 | 主な副作用 |
フルオロキノロン系 | 消化器症状、中枢神経症状 |
セフェム系 | 消化器症状、アレルギー反応 |
アミノグリコシド系 | 腎機能障害、聴覚障害 |
耐性菌の出現リスク
サルモネラ症の治療では、抗菌薬の不適切な使用により、耐性菌が出現するリスクがあります。
耐性菌が出現すると、抗菌薬が効かなくなり、治療が困難になる恐れがあり、耐性菌の出現を防ぐためには、以下のような点に注意が必要です。
- 抗菌薬の不必要な使用を避ける
- 抗菌薬は医師の指示通りに使用する
- 抗菌薬の投与期間を守る
適切な抗菌薬の使用は、耐性菌の出現を防ぐために肝要です。
基礎疾患がある患者のリスク
サルモネラ症の治療では、基礎疾患がある患者では、特に注意が必要です。
基礎疾患 | リスク |
免疫不全 | 重症化、治療反応性の低下 |
腎機能障害 | 抗菌薬の副作用が出やすい |
肝機能障害 | 抗菌薬の代謝が遅延する |
基礎疾患がある患者では、抗菌薬の選択や投与量の調整が重要です。
また、基礎疾患の管理を並行して行うことで、治療の安全性を高めることができます。
予防方法
サルモネラ症の予防には、食品の衛生管理と手洗いなどの個人衛生が欠かせません。
特に、免疫力の低下した人や妊婦は、ハイリスク食品の摂取に注意が必要です。
食品の衛生管理
サルモネラ症を予防するためには、食品の衛生管理が肝要で、以下のような点に注意が必要です。
- 生肉や生卵は十分に加熱する
- 調理器具は洗浄・消毒を徹底する
- 食品は適切な温度で保存する
- 賞味期限や消費期限を守る
食品 | 注意点 |
鶏肉 | 中心部まで火を通す |
卵 | 生卵や半熟卵は避ける |
牛肉 | 加熱不足に注意 |
豚肉 | 中心部まで十分に加熱 |
食中毒予防の三原則である「付けない、増やさない、やっつける」を実践することが重要です。
個人衛生の徹底
サルモネラ症を予防するためには、個人衛生の徹底も大切です。
特に、以下のような場面で手洗いを行うことが推奨されています。
- 調理の前後
- トイレの後
- おむつ交換の後
- 動物に触れた後
手洗いの方法 | ポイント |
石けんを使う | 手のひらだけでなく、指の間や爪の間も洗う |
流水で洗う | ためた水では不十分 |
30秒以上洗う | 短時間では菌が残る可能性がある |
ペーパータオルで拭く | タオルは共用しない |
手洗いは、サルモネラ菌を含む様々な病原体を除去するために有効な方法です。
ハイリスク食品の回避
サルモネラ症のリスクが高い食品は、できるだけ避けるようにしましょう。
ハイリスク食品としては、以下のようなものが挙げられます。
- 生の鶏肉や豚肉
- 洗浄不十分な野菜
- 加熱不足の卵料理
- 賞味期限や消費期限の切れた食品
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
サルモネラ症の治療費は、症状の重症度や治療方法によって異なりますが、一般的には数万円から数十万円程度です。
軽症の場合の治療費
軽症のサルモネラ症では、外来治療で済むことが多く、治療費は比較的安価です。
治療内容 | 費用 |
診察料 | 3,000円 – 5,000円 |
検査費 | 5,000円 – 10,000円 |
投薬費 | 3,000円 – 5,000円 |
合計すると、1回の受診で10,000円 – 20,000円程度の費用がかかります。
通常、軽症の際は数回の通院で治癒するため、総額でも5万円以下に収まることが多いです。
中等症の場合の治療費
中等症のサルモネラ症では、入院治療が必要となる可能性があります。
治療内容 | 費用 |
入院費 | 1日あたり10,000円 – 20,000円 |
検査費 | 10,000円 – 30,000円 |
投薬費 | 5,000円 – 10,000円 |
入院期間は症状により異なりますが、1週間 – 2週間程度が一般的です。
合計すると、20万円 – 50万円程度の費用がかかることがあります。
以上
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