ジカ熱(ジカウイルス感染症)

ジカ熱(ジカウイルス感染症)(zika fever)とは、ジカウイルスによって引き起こされる感染症です。

このウイルスは、デング熱やチクングニア熱の原因ウイルスと同じフラビウイルス属に分類され、主にネッタイシマカやヒトスジシマカなどの蚊によって媒介。

ジカ熱に感染しても、多くの人は軽症で自然に回復しますが、まれに重篤な合併症を発症することもあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ジカ熱(ジカウイルス感染症)の種類(病型)

ジカ熱(ジカウイルス感染症)には、大きく分けて4つの病型があります。

ほとんどの感染者は症状が出ずに済みますが、一部の人には特有の症状が現れ、この症状が出る状態をジカウイルス病と呼びます。

不顕性感染

ジカウイルスに感染しても、多くの人は無症状で経過し、この状態を不顕性感染といいます。

不顕性感染の場合、本人も周りの人も感染に気づかないことがほとんどです。

病型症状の有無
不顕性感染無症状
ジカウイルス病発熱、発疹、関節痛、結膜充血

ジカウイルス病

ジカウイルスに感染して症状が出る状態が、ジカウイルス病です。

主な症状

  • 発熱
  • 発疹
  • 関節痛
  • 結膜充血

これらの症状は通常軽度で、数日から1週間程度で自然に回復します。

先天性ジカウイルス感染症

妊娠中の女性がジカウイルスに感染すると、生まれてくる子供に先天性ジカウイルス感染症を引き起こすことがあり、胎児の脳や目の発達に影響を与え、小頭症や視覚障害などの症状が現れます。

病型リスク
先天性ジカウイルス感染症妊娠中の感染で発症
ギラン・バレー症候群まれに発症

ギラン・バレー症候群

ジカウイルスに感染した後、まれにギラン・バレー症候群を発症する場合があります。

ギラン・バレー症候群は、末梢神経の炎症によって手足の脱力や麻痺などの症状が現れる自己免疫疾患です。

通常、数週間から数ヶ月かけて徐々に回復しますが、重症化すると呼吸困難や自律神経障害などの合併症を引き起こすことがあります。

ジカ熱(ジカウイルス感染症)の主な症状

ジカウイルス感染症の代表的な症状としては、発熱、発疹、関節痛、結膜炎などが挙げられますが、比較的軽度で、数日から1週間ほどで自然に改善に向かいます。

発熱

ジカウイルス感染症の初期症状の中で最も頻繁に見られるのが発熱です。 多くの場合、37〜38度前後の比較的低めの熱が2〜7日間続きます。

症状持続期間
発熱2〜7日間
発疹2〜14日間

発疹

発熱のあとに、体幹部や手足に発疹が現れるケースがあり、赤みを帯びた斑点状または丘疹状の発疹で、痒みを伴うこともあります。

  • 体幹部に現れる斑点状または丘疹状の発疹
  • 手足に広がることもある
  • 痒みを感じる場合がある

関節痛

ジカウイルスに感染した人の多くが、手や足の関節の痛みを訴え、数日から数週間にわたって続くことがあります。

部位症状
関節痛
関節痛

結膜炎

感染者の一部では、化膿を伴わない結膜炎が発症することがあり、目の充血や異物感、涙目などの症状が見られます。

ジカウイルス感染症の症状には個人差が大きく、無症状の感染者も多数います。症状が軽めであるがゆえに、他の疾患と混同されやすい点に注意が必要です。

ジカウイルスに感染しても、大半の人は重症化することなく回復しますが、妊娠中の感染についてはより慎重な対応が求められます。

ジカ熱(ジカウイルス感染症)の原因・感染経路

ジカウイルス感染症は、ジカウイルスが原因となって発症し、主に蚊を介して感染が拡大します。

ジカウイルスとは

ジカウイルスは、フラビウイルス属に分類されるウイルスの一種で、1947年にウガンダのジカ森林で発見されました。

ジカウイルスは、デングウイルスやウエストナイルウイルスと同じフラビウイルス属です。

ジカウイルスには、アフリカ型とアジア型の2つの遺伝子型があることが知られています。

ウイルス属ウイルス名
フラビウイルス属ジカウイルス
デングウイルス
ウエストナイルウイルス

ジカウイルスの感染経路

ジカウイルスの主な感染経路は、感染した蚊に刺されることによって起こる蚊媒介感染です。

ジカウイルスを保有する蚊は、主にネッタイシマカとヒトスジシマカであり、これらの蚊に刺されることでウイルスが体内に侵入し、感染が成立します。

また、ジカウイルスに感染した妊婦から胎児へ垂直感染することがあり、先天性ジカウイルス感染症を引き起こすことも。

さらに、性行為によるジカウイルスの感染事例も報告されており、精液を介した性感染も感染経路の一つと考えられています。

  • 蚊媒介感染
  • 垂直感染
  • 性感染

蚊媒介感染の詳細

ジカウイルスを媒介するネッタイシマカとヒトスジシマカは、主に熱帯・亜熱帯地域に生息しています。

蚊の種類主な生息地
ネッタイシマカ熱帯・亜熱帯地域
ヒトスジシマカ熱帯・亜熱帯地域

ジカウイルスは蚊の唾液腺で増殖し、蚊が吸血する際に唾液と共にウイルスが注入されることで感染が起こります。

診察(検査)と診断

ジカ熱の診察では、感染が疑われる症状や渡航歴などから、血液検査や尿検査などの検査が実施されます。

症状と渡航歴からの感染の疑い

ジカ熱の症状は、発熱、発疹、関節痛、結膜炎などがあり、これらの症状と流行地域への渡航歴がある状況では、ジカ熱の可能性が高いと考えられます。

症状詳細
発熱37.5℃以上の発熱が数日間続く
発疹全身に紅斑が出現する

血液検査と尿検査による病原体の検出

ジカ熱が疑われる状況では、血液検査と尿検査が行われます。

血液検査では、ジカウイルスに対する抗体の有無を調べるIgM抗体検査や、ウイルスの遺伝子を検出するRT-PCR法などが用いられ、尿検査でも、RT-PCR法によるウイルス遺伝子の検出が可能です。

検査方法検出対象
IgM抗体検査ジカウイルスに対する抗体
RT-PCR法ウイルスの遺伝子

確定診断には病原体の検出が必要

ジカ熱の確定診断には、以下のいずれかの方法で病原体を検出することが必要です。

  • ・血液、尿、唾液などからのウイルス分離
  • ・血液、尿、唾液などからのウイルス遺伝子の検出
  • ・IgM抗体の検出と症状の確認

ただし、IgM抗体検査では、デング熱などの類似疾患との交差反応がある可能性があります。

他の検査による鑑別診断

ジカ熱と症状が類似する疾患として、デング熱やチクングニア熱などがあり、鑑別診断のために、追加の検査が行われることがあります。

  • ・デング熱を疑う状況:デングウイルスに対する抗体検査や遺伝子検査
  • ・チクングニア熱を疑う状況:チクングニアウイルスに対する抗体検査や遺伝子検査

ジカ熱(ジカウイルス感染症)の治療法と処方薬

ジカ熱に対する治療は主に対症療法が中心で、ウイルスに直接作用する特効薬はありません。

発熱や関節痛などの症状がある場合は、解熱鎮痛薬が使用されます。

解熱鎮痛薬の使用

ジカ熱の患者さんには、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬が処方されるのが一般的です。

ただし、アスピリンについては出血のリスクがあるため、使用は控えます。

薬剤名用量
アセトアミノフェン1回300〜500mg、1日3〜4回
イブプロフェン1回200〜400mg、1日3〜4回

安静と水分補給

ジカ熱の治療において、安静と十分な水分補給が大切で、体を休めることにより、免疫系がウイルスに対して効果的に働きます。

注意を払う点

  • ・ベッド上で安静にすること
  • ・スポーツドリンクや経口補水液などで水分を補給すること
  • ・脱水症状がみられる際は点滴による水分補給を受けること

重症化した場合の治療

ジカ熱患者の中には、重症化して入院治療が必要になるケースもあります。

治療法内容
点滴脱水の改善、電解質バランスの是正
酸素投与呼吸状態の改善
抗菌薬二次的な細菌感染の予防、治療

妊婦への治療の注意点

ジカウイルスが胎児に悪影響を及ぼす可能性があるため、妊婦の治療には細心の注意が求められます。

妊婦がジカ熱と診断されたときの対応

  • ・定期的に胎児の状態をモニタリングすること
  • ・症状に合わせた対症療法を行うこと
  • ・胎児への影響が疑われる際は専門医に相談すること

妊婦に対する薬剤の使用は、胎児への影響を十分に考慮したうえで、慎重に判断されます。

治療に必要な期間と予後について

ジカウイルスに感染しても、多くの場合は短期間で自然治癒します。

予後は良好ですが、妊婦の感染には注意が必要です。

ジカ熱の治療期間

ジカウイルスに感染すると、通常は1週間前後で症状が改善し、症状が軽ければ、特別な治療を行わずに自然に回復するケースが多いです。

一方、重症化した際には入院治療を要することがあり、治療期間は症状の重篤度によって変わってきます。

症状治療期間
軽症3-7日
中等症7-14日
重症14日以上

ジカ熱の予後

ジカウイルスに感染しても、大半のケースで予後は良好で、ほとんどの方は後遺症なく快復しますが、まれではありますが重篤化するケースも。

特に妊娠中の感染では胎児に先天異常が生じるリスクがあります。

妊婦への影響

妊婦がジカウイルスに感染した場合、ウイルスが胎盤を通過して、胎児の脳の発育に悪影響を及ぼす恐れがあります。

妊婦の方はジカウイルスの流行地域への渡航を控え、蚊に刺されないよう注意してください。

ジカ熱(ジカウイルス感染症)の治療における副作用やリスク

ジカ熱の治療では、患者さんに副作用やリスクが伴うことがあります。

治療薬の副作用

治療薬副作用
アセトアミノフェン肝機能障害
非ステロイド性抗炎症薬消化管出血

合併症のリスク

ジカ熱の患者さんには、以下のような合併症のリスクがあります。

  • ギラン・バレー症候群
  • 髄膜炎
  • 脳炎

中でも、ギラン・バレー症候群は、ジカウイルスに感染したことで起こる重い神経の合併症の一つです。

足の筋肉が弱くなったり、まひしたりする症状が出ます。

合併症リスク因子
ギラン・バレー症候群高齢、男性
髄膜炎、脳炎免疫抑制状態

胎児への影響

ジカウイルスに感染したお母さんから生まれた赤ちゃんは、小さな頭をもつ先天性の異常のリスクが高くなります。

予防方法

ジカ熱を予防するには、蚊に刺されないようにすることが最も効果的です。

蚊が活発に活動する時間帯をできるだけ避け、肌の露出を最小限に抑え、忌避剤を使用するなどの対策が有効とされています。

蚊に刺されないための対策

蚊に刺されないための対策

  • ・蚊が活発に活動する夕方から明け方にかけての外出を控えること。
  • ・長袖シャツや長ズボンを着用し、肌の露出を最小限に抑えること。
  • ・忌避剤を使用すること。
忌避剤の種類特徴
DEET効果が高く、長時間持続する
イカリジンDEETと同等の効果があり、低刺激性

蚊の発生源対策

蚊の発生を抑えるための対策

  • ・不要な水たまりをなくすこと。
  • ・屋内の水槽や花瓶の水は頻繁に交換すること。
  • ・網戸や蚊帳を使用し、蚊の侵入を防ぐこと。

海外渡航時の注意点

ジカ熱が流行している地域に渡航する際の注意点

  • ・渡航先の最新の感染症情報を確認すること。
  • ・妊娠中の女性は、流行地域への渡航を避けること。
  • ・帰国後も蚊に刺されないよう注意すること。
対策理由
渡航先の感染症情報の確認流行地域を把握し、適切な予防策を講じるため
妊娠中の女性の渡航自粛ジカウイルス感染による胎児への影響を防ぐため

ワクチンと抗ウイルス薬

現在、ジカ熱に対するワクチンや特異的な抗ウイルス薬はありません。 予防には蚊に刺されないことが最も重要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

ジカウイルス感染症の治療費は、軽い症状であれば数万円ほどで収まることが多いものの、重症になると数百万円以上かかってしまうこともあります。

軽症時の治療費

ジカウイルス感染症が軽症であった場合、治療にかかる費用はそれほど高くならないことがほとんどです。

項目費用
診察費3,000円~5,000円
検査費5,000円~10,000円
投薬費5,000円~10,000円

重症時の治療費

ジカウイルス感染症が重症化すると、治療費が高額になります。

項目費用
ICU管理費1日あたり20万円以上
高度医療費数百万円以上
入院費1日あたり1万円~3万円

公的医療保険の適用

ジカウイルス感染症の治療費には公的医療保険が適用されますが、先進医療に分類される治療を受けた際は保険が適用されないことがあります。

以上

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