ChiariaⅡ型奇形(Chiari malformation type II)とは、先天的に小脳の一部が頭蓋底の大きな開口部である大後頭孔を通って脊柱管内に下降する疾患です。
この病態では、脳幹の変形や脊髄の異常も伴うことが多く、多様な神経学的症状が現れます。
ChiariaⅡ型奇形は、多くのケースで二分脊椎症(脊椎や脊髄の先天的な欠損)と密接に関連しており、胎児期における神経管閉鎖不全が原因です。
Chiari Ⅱ型奇形の主な症状
Chiari Ⅱ型奇形は、多様な神経学的症状を起こす先天性異常で、患者さんの年齢や病変の程度によって症状が異なります。
中枢神経系への影響
Chiari Ⅱ型奇形では、小脳扁桃(しょうのうへんとう:小脳の下部にある組織)の下方偏位により、脳幹や上位頸髄が圧迫されることで、神経学的症状が現れます。
咳やくしゃみなどの動作で悪化する頭痛や首の痛みは、多くの患者さんが経験する代表的な症状の一つです。
運動機能障害
運動機能に関する症状も、Chiari Ⅱ型奇形の特徴です。
症状 | 詳細 |
運動失調 | バランスや協調運動の障害 |
筋力低下 | 特に上肢や下肢の筋力が低下 |
痙性(けいせい) | 筋肉の異常な緊張や硬直 |
運動機能の症状により、歩行困難や細かい手の動きの制御が難しくなり、また、眼球運動の異常や複視(物が二重に見える)といった視覚的な問題も生じます。
自律神経系の障害
Chiari Ⅱ型奇形は自律神経系にも影響を与え、呼吸困難や睡眠時無呼吸、嚥下障害、心拍数や血圧の調節異常が現れる可能性があります。
特に幼児期には生命を脅かす危険性があるため、早期発見と対応が極めて大切です。
感覚異常と痛み
感覚系の症状も、Chiari Ⅱ型奇形の患者さんに見られます。
- 四肢のしびれや感覚異常
- 顔面の感覚低下
- 慢性的な痛み(特に頭部や頸部)
- 温度感覚の異常
脳脊髄液の循環障害
Chiari Ⅱ型奇形では脳脊髄液の正常な循環が妨げられ、神経学的症状をさらに悪化させる要因になります。
症状 | 影響 |
水頭症 | 脳室内圧の上昇 |
脊髄空洞症 | 脊髄内に空洞形成 |
水頭症は、頭蓋内圧の上昇により頭痛や嘔吐、意識レベルの低下などが生じることがあり、緊急の対応が必要です。
一方、脊髄空洞症では、感覚異常や運動機能障害がより顕著になります。
Chiari Ⅱ型奇形の原因
Chiari Ⅱ型奇形(Chiari malformation type II)の原因は、胎児期における神経管閉鎖不全と、脳脊髄液の異常です。
神経管閉鎖不全の影響
神経管閉鎖不全は、胎児の発達初期段階で神経管(将来の脳と脊髄になる構造)が正常に閉じないことで、ChiariⅡ型奇形の発生に関与しています。
神経管閉鎖不全により、脊髄や脳の一部が露出し、二分脊椎症(脊椎や脊髄の先天的な欠損)を起こすだけでなく、脳や脊髄の形成にも大きな影響を与えるのです。
脳脊髄液の異常な流れ
神経管閉鎖不全に伴い脳脊髄液の循環に異常が現れ、小脳や脳幹の位置異常を生じさせ、Chiari Ⅱ型奇形の特徴的な所見につながります。
正常な状態 | Chiari Ⅱ型奇形 |
脳脊髄液が正常に循環 | 脳脊髄液の流れが阻害される |
小脳が正常位置に留まる | 小脳が大後頭孔(頭蓋底の開口部)を通って下降する |
脳幹が正常な形態を保つ | 脳幹が変形や圧迫を受ける |
遺伝的要因の関与
Chiari Ⅱ型奇形の発症には単一の遺伝子だけでなく、複数の遺伝子が相互に作用して発症リスクを高めると推測されていて、この複雑な遺伝的背景が、疾患の多様な表現型につながっています。
環境要因の影響
環境要因もChiari Ⅱ型奇形の発症に関与する可能性があります。
神経管閉鎖不全のリスクを高める要因
- 葉酸不足(神経管の正常な閉鎖に必要な栄養素)
- 妊娠中の高熱(胎児の発達に悪影響を与える可能性がある)
- 特定の薬物摂取(胎児の神経系発達を阻害する可能性のある薬物)
- 糖尿病(母体の血糖コントロールが胎児の発達に影響を与える)
- 肥満(母体の代謝異常が胎児に影響を及ぼす可能性がある)
環境要因は単独で作用するだけでなく、遺伝的要因と相互に作用して発症リスクを上昇させます。
環境要因 | 影響メカニズム |
葉酸不足 | 神経管閉鎖に必要な代謝過程の阻害 |
高熱 | 胎児の細胞分裂や遺伝子発現の異常 |
薬物摂取 | 神経系発達を直接的に阻害 |
糖尿病 | 胎児の代謝異常や血管形成障害 |
肥満 | 母体の代謝異常が胎児発達に影響 |
二次的影響と合併症
Chiari Ⅱ型奇形の原因となる初期の発達異常は、さらなる二次的影響を起こし、脳幹の圧迫や脊髄の異常な形成は、様々な神経学的症状の原因です。
また、水頭症を合併することも多いです。
診察(検査)と診断
Chiari Ⅱ型奇形の診断は、病歴聴取、神経学的診察、および画像検査を組み合わせて行われます。
初期評価と臨床診断
Chiari Ⅱ型奇形の問診では、患者さんの主訴や神経学的症状の発現時期、進行の様子を確認します。
また、家族歴も重要な情報源です。
神経学的診察
神経学的診察は、Chiari Ⅱ型奇形の臨床診断において不可欠です。
検査項目 | 評価内容 |
運動機能 | 筋力、協調運動、歩行パターン |
感覚機能 | 触覚、温度感覚、痛覚 |
反射 | 深部腱反射、病的反射 |
検査結果を総合的に評価し、中枢神経系の異常を示唆する所見を分析しながら、Chiari Ⅱ型奇形の特徴的な症状がないかを観察します。
画像診断
病変の詳細な構造を可視化できる画像検査は、Chiari Ⅱ型奇形の確定診に欠かせません。
- MRI(磁気共鳴画像法):脳や脊髄の詳細な構造を観察
- CT(コンピュータ断層撮影):骨構造の異常を確認
- X線撮影:脊柱の変形や異常を検出
中でもMRIは、脳と脊髄の詳細な構造を非侵襲的に観察できるため、Chiari Ⅱ型奇形の診断において最も有用な検査方法です。
MRIでは、小脳扁桃の下方偏位や脊髄空洞症の有無、脳室の拡大などを確認できます。
特殊検査
一部の患者さんでは、より詳細な機能評価のために特殊な検査が必要です。
検査名 | 目的 |
脳波検査 | てんかん発作の評価 |
睡眠ポリグラフ | 睡眠時無呼吸の診断 |
特殊検査は、Chiari Ⅱ型奇形に関連する合併症の有無や程度を判断するのに役立ちます。
また、脳脊髄液の循環動態を評価するために、特殊なMRI撮影法が用いられることもあり、脳脊髄液の流れの異常を観察することが可能です。
鑑別診断
Chiari Ⅱ型奇形の診断では、類似の症状を示す他の疾患との鑑別が重要です。
特に、Chiari I型奇形やその他の頭蓋頸椎移行部(ずがいけいついいこうぶ:頭蓋骨と頸椎のつなぎ目)の異常との鑑別には注意を払い、各疾患の特徴的な所見を比較し判断します。
Chiari Ⅱ型奇形の治療法と処方薬、治療期間
Chiari Ⅱ型奇形の治療は、手術的介入、薬物療法、リハビリテーションを組み合わせて行います。
手術的治療
Chiari Ⅱ型奇形での手術の目的は、脳幹(呼吸や心拍などの生命維持機能を担う部位)や小脳(運動の調節を行う部位)への圧迫を軽減し、脳脊髄液の流れを改善することです。
手術は後頭下減圧術で、頭蓋底の骨を一部除去し、硬膜(脳を覆う膜)を拡大することで、脳幹や小脳への圧迫を軽減します。
手術名 | 目的 | 手術内容 |
後頭下減圧術 | 脳幹圧迫の軽減 | 頭蓋底の骨を一部除去し、硬膜を拡大 |
脊髄係留解除術 | 脊髄の緊張緩和 | 脊髄を固定している異常な組織を切除 |
シャント術 | 脳脊髄液の排出 | 脳室から腹腔へ管を留置 |
薬物療法
薬物療法は患者さんの生活の質の向上を目的とし、主症状の緩和や合併症の管理に用いられます。
処方される薬剤
- 鎮痛剤(頭痛や神経痛の緩和を目的)
- 抗てんかん薬(けいれん発作の予防や抑制)
- 筋弛緩剤(筋肉の過度な緊張を和らげる)
- 利尿剤(脳脊髄液の産生を抑制し、頭蓋内圧を下げる)
薬剤の種類 | 目的 | 薬剤名 |
鎮痛剤 | 痛みの緩和 | アセトアミノフェン、イブプロフェン |
抗てんかん薬 | けいれん発作の予防 | カルバマゼピン、レベチラセタム |
筋弛緩剤 | 筋緊張の緩和 | バクロフェン、ダントロレン |
利尿剤 | 頭蓋内圧の低下 | アセタゾラミド、フロセミド |
リハビリテーション
リハビリテーションは、運動機能や日常生活動作の改善を目的として行われ、患者さんの自立性を高めるために不可欠です。
理学療法や作業療法が中心となり、患者さんの状態に合わせて個別のプログラムが作成し、継続的に実施されます。
リハビリテーションの目標
- 運動機能の維持・改善
- バランス能力の向上
- 筋力強化
- 日常生活動作の自立度向上
- 呼吸機能の改善
治療期間
Chiari Ⅱ型奇形の手術後の急性期回復期間は2〜6週間程度ですが、その後のリハビリテーションや経過観察は長期にわたり、場合によっては生涯にわたる医学的管理が必要です。
治療期間の目安
- 手術後の入院期間:1〜2週間
- 集中的リハビリテーション期間:3〜6ヶ月
- 継続的な外来フォローアップ:数年〜生涯
フォローアップと経過観察
MRI(磁気共鳴画像法)などの画像検査や神経学的評価を行う定期的なフォローアップと経過観察は、治療の症状の再発や合併症の早期発見・対応に不可欠です。
フォローアップの頻度
- 術後1年目:2〜3ヶ月ごと
- 術後2〜5年目:6ヶ月ごと
- 術後5年以降:年1回
Chiari Ⅱ型奇形の治療における副作用やリスク
Chiari Ⅱ型奇形の治療、特に外科的介入には、神経系の複雑さと解剖学的変異のため、様々な副作用やリスクが伴います。
手術に関連するリスク
Chiari Ⅱ型奇形の主要な治療法である減圧手術には、一般的な手術リスクに加え、脳や脊髄に近い領域での手術であるため特有の危険性が存在し、医療チームは細心の注意を払いながら手術を行います。
手術部位の感染や出血は、どの手術でも起こり得る合併症ですが、脳や脊髄に近い領域での手術であるため注意が必要です。
また、手術操作による神経組織の損傷は、新たな神経学的症状を起こすリスクもあります。
髄液漏と関連合併症
減圧手術後、髄液漏(脳脊髄液が手術部位から漏れ出すこと)は高頻度に発生する合併症の一つです。
合併症 | リスク |
髄膜炎 | 感染リスクの上昇 |
頭痛 | 持続的な不快感 |
髄液漏が持続すると、髄膜炎(脳や脊髄を覆う膜の炎症)のリスクが増大し、緊急の再手術が必要となることもあるため、術後の経過観察と対処が重要です。
シャント手術のリスク
水頭症(脳室内に髄液が過剰に貯留する状態)を合併するChiari Ⅱ型奇形患者さんでは、シャント手術が必要になることがあり、特有のリスクがあります。
- シャントの機能不全:髄液の排出が適切に行われなくなる状態
- シャント感染:体内に留置したシャントチューブに細菌が付着し、感染が生じる状態
- 過剰排水による頭蓋内圧低下:必要以上に髄液が排出され、頭痛や嘔吐などの症状が生じる状態
合併症には、再手術や長期の抗生物質治療を行います。
特に小児患者さんでは、成長に伴うシャントの調整や交換が必要になることがあり、長期的な管理が重要です。
脊髄係留解除手術のリスク
Chiari Ⅱ型奇形に伴う脊髄係留(脊髄が周囲の組織に固定されて自由に動けなくなる状態)に対する手術もリスクがあります。
リスク | 影響 |
神経機能悪化 | 運動・感覚障害 |
髄液漏 | 感染リスク上昇 |
脊髄の操作に伴う神経機能の一時的あるいは永続的な悪化は、患者さんの機能予後に重大な影響を及ぼすため、手術中の神経モニタリングや術後のリハビリテーションなど、総合的なアプローチが大切です。
また、手術部位の髄液漏は、感染リスクを高め、再手術の必要性を増大させるため、術後の創部管理や感染予防策の徹底が欠かせません。
麻酔関連のリスク
Chiari Ⅱ型奇形患者さんでは、脳幹の圧迫や変形により、呼吸中枢の機能が影響を受けている場合があり、麻酔からの覚醒遅延や術後の呼吸管理に特別な注意が必要です。
長期的な合併症
手術後の長期経過では、瘢痕組織(傷跡の組織)の形成による再狭窄や、脊髄空洞症(脊髄内に液体で満たされた空洞ができる状態)の進行など、時間経過とともに症状が再燃または悪化する可能性があるため、長期的なフォローアップが不可欠です。
成長期の小児患者さんでは、骨の成長に伴う解剖学的変化により、再手術が必要となることもあるため、成長に合わせた治療計画の見直しと柔軟な対応が求められます。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
手術費用
Chiari Ⅱ型奇形の手術の費用
手術名 | 自己負担額(概算) |
後頭下減圧術 | 20万円〜50万円 |
脊髄係留解除術 | 15万円〜40万円 |
入院費用
手術に伴う一般的な入院期間である2〜4週間の場合、保険適用後の自己負担額は約10万円から30万円です。
薬物療法費用
代表的な薬剤の月額自己負担額の目安
- 鎮痛剤:1,000円〜5,000円
- 抗てんかん薬:3,000円〜10,000円
- 筋弛緩剤:2,000円〜8,000円
リハビリテーション費用
リハビリテーションの費用は、頻度や内容によって変わり、保険適用後の自己負担額は、1回あたり1,000円から3,000円程度になります。
リハビリ種類 | 1回あたりの自己負担額(概算) |
理学療法 | 1,000円〜2,000円 |
作業療法 | 1,500円〜3,000円 |
以上
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