ローランドてんかん – 脳・神経疾患

ローランドてんかん(benign rolandic epilepsy)とは、小児期に発症する脳・神経系の疾患で、脳のローランド領域(感覚や運動を司る部分)に異常な電気活動が生じる状態です。

最も特徴的な症状は、夜間に顔や口の周りに痙攣が起こることで、発作中も意識が保たれます。

思春期までに自然に症状が治まるケースが多いです。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

ローランドてんかんの主な症状

ローランドてんかん症状は、夜間や睡眠中に発生する顔面や口腔の片側性けいれんと、発話困難や唾液分泌過多です。

ローランドてんかんの発作の特徴

ローランドてんかんは、小児期に発症する特殊な形態のてんかんです。

発作は夜間や睡眠中に起こり、患者さんやご家族が気づかないうちに発作が起きていることもあります。

発作の典型的なパターンは、顔面や口腔の片側に限局したけいれんです。

このけいれんは、頬や唇、舌などの筋肉に影響を及ぼし、不随意な動きを起こします。

発作中は、患者さんの意識状態が保たれていることが多いのも特徴的です。

発作の特徴詳細
発生時間夜間や睡眠中
影響部位顔面や口腔の片側
症状けいれん、発話困難
意識状態保たれている

発作時の症状

ローランドてんかんの発作中、患者さんはいくつかの症状を経験します。

まず、顔面のけいれんにより、片側の頬や唇がピクピクと動く様子が観察され、この不随意な動きは、数秒から数分間続きます。

次に、舌や喉の筋肉も影響を受けるため、発話が困難になります。

患者さんは言葉を発しようとしても、はっきりと発音できず、さらに、唾液の分泌が過剰になることも特徴です。

患者さんは唾液を飲み込むことが難しくなり、よだれが出やすくなります。

症状は、発作が起きている側の顔面や口腔に限局して現れることが多いです。

意識状態と発作の持続時間

ローランドてんかんの発作中、患者さんの意識状態は保たれていますが、完全に意識がはっきりとはしていません。

発作が起きていることを自覚し周囲の状況を把握できてはいても、やや朦朧とした状態です。

発作の持続時間は短く、ほとんどの場合数分以内に自然に収まります。

発作の頻度と年齢による変化

ローランドてんかんの発作は、毎晩のように起こることもあれば、数か月に1回程度のこともあります。

年齢による変化

  • 発症年齢:3歳から13歳の間
  • ピーク期:7歳から9歳頃に発作頻度が最も高い
  • 寛解年齢:多くの場合、思春期までに自然寛解(症状が自然に治まる)
年齢区分特徴
幼児期~学童期発症のピーク
思春期前後発作頻度が減少
成人期多くの場合寛解

ローランドてんかんの原因

ローランドてんかんの原因は、脳の特定部位における異常な電気活動と遺伝的要因の複合的な影響です。

脳の電気活動の乱れ

ローランドてんかんは、脳の中心溝付近にあるローランド領域(感覚や運動を制御する重要な部分)での異常な電気活動によって起こります。

ローランド領域で神経細胞間の情報伝達が正常に行われず、突然の過剰な電気的興奮が生じることで、てんかん発作が生じるのです。

通常、脳内の電気信号は秩序立って伝わりますが、ローランドてんかんではこのバランスが崩れ、制御不能な電気的嵐が一時的に発生します。

遺伝的要因の関与

ローランドてんかんの発症には、遺伝的な要因が関与していることが、明らかになってきました。

家族性の傾向が見られ、親や兄弟にてんかんの既往歴がある場合、発症リスクが高まります。

遺伝子関連する機能変異の影響
GRIN2A神経伝達物質受容体シナプス機能の異常
PRRT2シナプス小胞放出神経伝達の乱れ
SCN2Aナトリウムチャネル神経細胞の興奮性変化

脳の発達過程との関連

ローランドてんかんが主に小児期に発症することから、脳の発達過程との関連が指摘されています。

脳の成長に伴い、神経回路の再編成や神経細胞の成熟が急速に進む中で、一時的に電気的な不安定さが生じやすくなる時期があるのです。

この時期特有の脳の状態が、ローランドてんかんの発症に寄与していると考えられており、多くの場合、思春期を過ぎると自然に症状が改善します。

環境要因と誘発因子

遺伝的素因や脳の発達状況に加えて、環境要因もローランドてんかんの発症や発作の誘発に関与することが分かっています。

発作のきっかけになる因子

  • 睡眠不足や不規則な生活リズム:脳の休息が不十分になり、電気的不安定さが増大
  • ストレスや精神的緊張:脳内の神経伝達物質のバランスが乱れる
  • 過度の疲労:脳のエネルギー代謝に影響を与え、電気活動を不安定にする
  • 発熱や体調不良:全身の代謝変化が脳機能にも影響を及ぼす
誘発因子影響の程度対策の重要性
睡眠不足高い非常に高い
ストレス中程度高い
発熱高い非常に高い
過度の疲労中程度高い

脳の電気活動パターンの特徴

ローランドてんかんでは、脳波検査で特徴的な波形が観察され、この波形は中心側頭部棘波(セントロテンポラルスパイク)と呼ばれます。

特徴的な脳波パターンは、ローランド領域での異常な電気活動を反映しており、睡眠中に顕著です。

脳波の特徴意義観察されやすい状況
中心側頭部棘波診断の決め手睡眠中
背景脳波の正常性他の脳機能の正常さを示す覚醒時
発作時の律動性変化発作の進行を反映発作中(稀)

診察(検査)と診断

ローランドてんかんの診断は、問診、神経学的診察、脳波検査を中心とした検査、そして臨床所見の総合的な評価に基づいて行われます。

診断の基本アプローチ

まず、問診では発作の特徴、頻度、持続時間、発症年齢などの情報を収集します。

家族歴も診断の手がかりとなる重要な要素で、てんかんの家族歴がある場合は、ローランドてんかんの可能性を考える上で参考になります。

続いて行われる神経学的診察では、意識レベル、反射、運動機能、感覚機能を評価し、他の神経疾患との鑑別も同時に行うことが大切です。

診断ステップ内容目的
問診症状、経過、家族歴患者背景の把握
神経学的診察意識、反射、運動機能神経系の評価

脳波検査

脳波検査は、ローランドてんかんの診断において最も重要な検査の一つです。

検査では、特徴的な脳波所見として、中心・側頭部に高振幅の棘波や鋭波と呼ばれる異常な波形が観察されます。

異常波形は、睡眠中に顕著になることが多いため、睡眠脳波検査が有用です。

さらに詳細な評価が必要な場合、長時間ビデオ脳波モニタリングという方法を用いると、発作時の脳波変化と臨床症状の関連を細かく観察できます。

画像検査

MRIやCTなどの画像検査は、ローランドてんかんの診断で、補助的に用いられます。

検査の目的は、てんかんの原因となる可能性のある脳の構造的異常を除外し、他の疾患との鑑別をすることです。

ローランドてんかんでは明らかな構造的異常は認められませんが、この「異常がない」という所見自体が診断の手がかりになります。

  • MRI:脳の詳細な構造を評価し、微細な異常も検出可能
  • CT:急性期の異常や脳内の石灰化を確認
  • SPECT(脳血流シンチグラフィ):発作時の脳血流変化を評価(必要に応じて実施)
画像検査目的特徴
MRI脳構造の詳細評価高解像度、軟部組織の描出に優れる
CT急性期異常の確認短時間で撮影可能、骨部の評価に適する

臨床診断と確定診断

ローランドてんかんの臨床診断は、典型的な発作症状と特徴的な脳波所見を総合的に評価することで行われます。

確定診断に必要な要素

  1. 年齢相応の発達と神経学的所見が正常である(発達の遅れや神経学的異常がない)
  2. 特徴的な発作症状(顔面や口腔の片側性けいれん)が観察される
  3. 脳波検査で特徴的な所見(中心・側頭部の棘波や鋭波)が確認される
  4. 画像検査で明らかな構造的異常が認められない

これらの条件を満たす場合、医師はローランドてんかんと診断を下します。

ただし、非典型的な症例や他のてんかん症候群との鑑別が困難な場合もあるため、経過観察と定期的な再評価が欠かせません。

診断基準評価項目判断のポイント
臨床症状発作パターン、年齢典型的な症状と発症年齢
検査所見脳波異常、画像所見特徴的な脳波と構造的異常の有無

ローランドてんかんの治療法と処方薬、治療期間

ローランドてんかんの治療は抗てんかん薬による薬物療法を中心とし、思春期までの期間継続しながら、定期的な経過観察を行います。

薬物療法の基本方針

ローランドてんかんの治療において、薬物療法は最も重要な治療法です。

抗てんかん薬を使用することで、脳内で起こっている異常な電気活動を抑え込み、発作の回数や強さを減らすことが期待できます。

治療を始めるタイミングや使用する薬の選択は、発作がどのくらいの頻度で起こるか、どれほど深刻か、患者さんの年齢を総合的に判断して決めていきます。

主な抗てんかん薬

ローランドてんかんの治療によく用いられる抗てんかん薬

薬剤名作用機序特徴
カルバマゼピンナトリウムチャネル阻害発作の広がりを抑える
バルプロ酸GABA増強作用脳の興奮を鎮める
レベチラセタムシナプス小胞タンパク結合神経伝達物質の放出を調整

多くの場合、一つの薬だけで十分な効果が得られますが、必要に応じて他の薬を追加することもあります。

投薬スケジュールと用量調整

抗てんかん薬の投与は少ない量から始めて、徐々に増やしていきます。

  • 控えめな量から始める(初期投与量の設定)
  • 薬の効き目と副作用が出ていないかを観察
  • 必要に応じて薬の量を調整
  • 定期的に血液検査で薬の濃度を確認

段階を踏んだアプローチにより最も効果的な治療を行いながら、同時に副作用のリスクを最小限に抑えることが可能です。

治療期間と経過観察

ローランドてんかんの治療期間は、思春期までの数年間です。

年齢治療方針注意点
小児期積極的な薬物療法発達への影響に注意
思春期漸減・離脱の検討慎重な経過観察が必要
成人期個別に判断生活スタイルの変化に対応

定期的な診察と脳波検査を通じて、薬の効き目や発作の状況を評価し、必要があれば治療の方針を微調整していきます。

薬剤離脱の判断と方法

2年以上発作が起きていない状態が続き、脳波の検査結果も良好になっている場合、薬を減らしたり、最終的には中止することを考慮します。

評価項目判断基準補足
発作間隔2年以上発作なし日常生活での観察も重要
脳波所見異常波の消失定期的な検査が必要
患者年齢思春期以降個人差を考慮
生活環境安定しているストレス要因の評価

薬は突然やめるのではなく、数か月かけてゆっくりと量を減らしていくことが大切です。

ローランドてんかんの治療における副作用やリスク

ローランドてんかんの治療には抗てんかん薬が用いられますが、薬剤にはさまざまな副作用やリスクの可能性があります。

抗てんかん薬の副作用

抗てんかん薬は、ローランドてんかんの発作をコントロールする上で効果的な治療法ですが、副作用があります。

最も頻繁にみられる副作用は、眠気、めまい、吐き気です。

副作用は投薬開始直後に現れ、時間の経過とともに軽減していきますが、一部の患者さんでは症状が持続することもあります。

副作用発現頻度特徴
眠気日中の活動に影響
めまい転倒リスクに注意
吐き気食事摂取に影響

認知機能への影響

抗てんかん薬は、患者さんの認知機能に影響を与えることがあり、成長期にある小児患者さんにとって重要な懸念事項です。

注意力の低下、記憶力の減退、学習能力の低下などの認知機能への影響は、使用する薬剤の種類や投与量によります。

認知機能への影響対応策
注意力低下学習環境の調整
記憶力減退記憶補助ツールの活用
学習能力低下個別指導の検討

皮膚反応と過敏症

抗てんかん薬は重篤な皮膚反応を起こす可能性があり、注意が必要なのは、スティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死症などの重度の過敏反応です。

注意を払う必要がある症状

  • 広範囲にわたる発疹や皮膚の赤み
  • 原因不明の高熱
  • 口内炎などの粘膜病変
  • 首や脇の下のリンパ節の腫れ

症状が現れた場合、緊急に医療機関を受診してください。

肝機能障害のリスク

抗てんかん薬は肝機能に影響を与えることがあり、軽度の酵素上昇から重度の肝不全まであります。

バルプロ酸は肝機能障害のリスクが高く、定期的な肝機能検査が大切です。

抗てんかん薬肝機能障害リスク管理のポイント
バルプロ酸頻回な肝機能検査
カルバマゼピン定期的な検査

骨密度への影響

長期にわたる抗てんかん薬の使用は骨密度低下を引き起こすことがあり、成長期の小児にとって重要な問題です。

骨密度低下のメカニズムは完全には解明されていませんが、ビタミンDの代謝異常や、カルシウムの吸収障害などが関与していると考えられています。

リスクに対処するため定期的な骨密度検査を行い、カルシウムやビタミンDの補充を推奨することも。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

抗てんかん薬の費用

ローランドてんかんの治療で使用される抗てんかん薬の月額費用

薬剤名1日投与量月額費用(3割負担)
カルバマゼピン400mg約2,000円
バルプロ酸600mg約1,500円
レベチラセタム1000mg約3,500円

診察・検査費用

定期的な診察と脳波検査が治療には不可欠です。

  • 脳波検査 約5,000円(3割負担)
  • 血液検査 約2,000円(3割負担)
  • MRI検査 約10,000円(3割負担)

年間の総治療費

年間の総治療費は薬剤費と検査費用を合わせて、およそ5万円から10万円程度となります。

以上

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