十二指腸潰瘍 – 消化器の疾患

十二指腸潰瘍(Duodenal ulcer)とは、十二指腸の粘膜に生じる潰瘍性の病変です。

胃酸や消化酵素による粘膜の防御機能の低下、またはヘリコバクター・ピロリ菌(胃や十二指腸に生息する細菌)の感染などが主な原因となって発症します。

代表的な症状は上腹部の痛みや不快感、吐き気、食欲不振などで、特に食事の後や空腹時、夜間に悪化することが特徴です。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

十二指腸潰瘍の主な症状

十二指腸潰瘍の症状は、上腹部の痛みや不快感、消化不良、吐き気など多岐にわたります。

上腹部痛

最もよくみられる症状は上腹部の痛みで、食事の2〜3時間後や空腹時に痛みが増強し、食事をとると一時的に緩和します。

この現象は「空腹時痛」と呼ばれ、十二指腸潰瘍の特徴的な症状の現れ方です。

痛みの特徴説明
発生タイミング食後2〜3時間、空腹時
緩和要因食事、制酸薬の服用
痛みの質鈍痛、灼熱感、刺すような痛み
持続時間数分から数時間

消化器症状

十二指腸への胃酸逆流により、頻繁な胸やけ、消化不良(食後の胃部不快感)が起こります。

また、吐き気や嘔吐が生じることもよくあります。

数週間にわたって持続するような消化不良や胸やけについては、単なる胃炎だと軽視せず、専門医の診断を受けることが大切です。

全身症状

十二指腸潰瘍では、食欲不振や体重減少のような全身症状が現れることもあります。

また、長期にわたる出血によって貧血が起こる場合もあり、貧血症状としては疲労感、めまい、息切れなどが現れることが多いです。

全身症状考えられる原因
食欲不振痛みによる食事回避
体重減少栄養吸収障害、食事量減少
貧血慢性的な出血
疲労感貧血、栄養不足
めまい貧血、電解質バランスの乱れ

緊急対応が必要な症状

十二指腸潰瘍の合併症として、穿孔(潰瘍が十二指腸壁を貫通する状態)や大量出血などが起こることがあります。

以下のような症状がみられた場合は、速やかに医療機関を受診してください。

  • 突然の激しい腹痛
  • タール便(黒色便)や鮮血便
  • 大量の吐血(血液を吐くこと)
  • 冷や汗を伴う急激な体調悪化
  • 意識レベルの低下

十二指腸潰瘍の原因

十二指腸潰瘍の主な原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染と非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の使用によるものです。

そのほか、ストレスや生活習慣なども要因となります。

ヘリコバクター・ピロリ菌

ヘリコバクター・ピロリ菌は、胃や十二指腸の粘膜に感染し、炎症を引き起こす細菌です。

ピロリ菌に感染している方の多くは無症状ですが、一部のケースで潰瘍形成に至ることがあります。

NSAIDsによる影響

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期間使用により、十二指腸潰瘍が起こることがあります。

代表的なNSAIDs一般名主な用途
アスピリンアセチルサリチル酸解熱鎮痛、抗血小板
イブプロフェンイブプロフェン解熱鎮痛、抗炎症
ナプロキセンナプロキセン関節リウマチ、変形性関節症
ジクロフェナクジクロフェナクナトリウム関節痛、腰痛

NSAIDs薬剤は、体内でのプロスタグランジンの合成を抑制することにより、胃や十二指腸の粘膜を保護する機能を低下させます。

その結果、胃酸や消化酵素による粘膜の損傷が起こりやすくなり、潰瘍形成のリスクが増大します。

特に高齢者や過去に消化性潰瘍の既往がある方は、NSAIDsによる潰瘍発症のリスクがさらに高くなることが分かっています。

ストレス・生活習慣による影響

現代社会で避けられないストレスや、不規則な生活習慣も十二指腸潰瘍の発症に関与していると考えられています。

精神的なストレスがある方は、胃酸の分泌が増加し、十二指腸の粘膜が傷つきやすい状態になっています。

潰瘍のリスクを高める生活習慣

  • 習慣的な喫煙
  • 過度のアルコール摂取
  • 不規則な食事摂取
  • 慢性的な睡眠不足

他の疾患との関連性

ゾリンジャー・エリソン症候群(胃酸分泌を促進するホルモンであるガストリンを過剰に分泌する腫瘍性疾患)では、ガストリンの異常な過剰分泌により、重度の十二指腸潰瘍を引き起こすことがあります。

診察(検査)と診断

十二指腸潰瘍の診断では、内視鏡検査により潰瘍の有無や状態を確認し、組織検査を実施して確定診断を行います。

血液検査・尿検査

血液検査や尿検査は、炎症の程度や貧血の有無を確認するために行います。

血液検査では白血球数や赤血球数、ヘモグロビン値などを調べるほか、肝機能や腎機能の指標も確認し、全身状態を評価します。

尿検査では、潜血反応を確認し、消化管出血の可能性を評価します。

ヘリコバクター・ピロリ菌の検査

十二指腸潰瘍の多くはヘリコバクター・ピロリ菌の感染と関連しているため、ピロリ菌感染の有無を確認します。

主な検査方法

  • 呼気テスト:尿素を含む検査薬を飲み、呼気中の二酸化炭素を分析
  • 血清抗体検査:血液中のピロリ菌に対する抗体を測定
  • 便中抗原検査:便中のピロリ菌の抗原を検出
  • 内視鏡下での生検組織を用いた検査:胃粘膜の一部を採取し、直接菌を確認

内視鏡検査による確定診断

上部消化管内視鏡検査では、潰瘍の位置、大きさ、深さ、周囲の粘膜の状態を調べていきます。

必要に応じて生検も行い、生検組織の病理学的検査により悪性腫瘍の可能性を除外します。

内視鏡所見特徴
潰瘍の位置主に十二指腸球部
形状円形または楕円形
周囲粘膜発赤や浮腫を伴うことがある
潰瘍底白色または黄白色の苔を認めることがある

画像診断の役割

穿孔(潰瘍が壁を貫通する状態)や出血などの合併症が疑われる場合には、X線検査やCT検査などの画像診断を実施します。

検査方法主な目的
X線検査潰瘍の位置や大きさの評価
CT検査合併症の有無の確認
超音波検査腹腔内の液体貯留の確認

十二指腸潰瘍の治療法と処方薬、治療期間

十二指腸潰瘍の治療は、原因となる要因の除去と薬物療法を行います。また、生活習慣の改善も重要です。

通常は完治までに、4〜8週間程度の期間がかかります。

治療の基本

十二指腸潰瘍の治療において、最も重要なのは原因となる要因を特定し、それを取り除くことです。

多くの症例では、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs、痛みや炎症を抑える薬)の使用が原因となっています。

ヘリコバクター・ピロリ菌が検出された場合、抗生物質を用いた除菌療法を実施します。

一方、NSAIDsが原因である場合は、可能な限りその使用を中止するか、別の種類の薬への変更を検討します。

薬物療法

薬剤の種類主な作用特徴
プロトンポンプ阻害薬胃酸分泌を強力に抑制最も効果的な胃酸分泌抑制薬
H2受容体拮抗薬胃酸分泌を抑制夜間の胃酸分泌抑制に優れる
粘膜防御剤潰瘍部位の保護と治癒促進潰瘍面を覆い、修復を助ける

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は、胃酸を作り出す細胞の働きを直接抑える胃酸分泌抑制薬です。

H2受容体拮抗薬はPPIと比べるとやや効果は劣りますが、特に夜間の胃酸分泌抑制に効果が期待できる薬剤となります。

治療期間と経過観察

十二指腸潰瘍の治療期間は、通常4〜8週間程度となります。

治療開始後2週間程度で症状の改善が見られることが多いですが、内視鏡検査(胃カメラ)で潰瘍の完全な治癒を確認するまで治療を継続します。

経過観察の一般的な例

治療期間主な確認事項対応
2週間後症状の改善薬の効果確認と調整
4週間後内視鏡による潰瘍の治癒状態治療方針の再検討
8週間後完全治癒の確認必要に応じて治療継続

生活習慣の改善

薬物療法と並行して、生活習慣の改善も治療効果を高める上で重要となります。特に喫煙は潰瘍の治癒を遅らせる要因となるため、できる限りの禁煙が必要です。

  • 禁煙する
  • アルコール摂取の制限
  • 規則正しい食生活を心がける
  • ストレスを管理する

十二指腸潰瘍の治療における副作用やリスク

十二指腸潰瘍の治療では、ピロリ菌除菌薬や制酸薬による副作用として、下痢や吐き気、頭痛などの消化器症状やアレルギー反応が起こることがあります。

また、まれに肝機能障害などの重篤な副作用も報告されています。

薬物療法に伴うリスク

プロトンポンプ阻害薬(PPIは、長期使用によって骨折リスクの上昇や、ビタミンB12吸収阻害を引き起こす可能性があります。

また、H2受容体拮抗薬(胃酸の分泌を抑える別タイプの薬)ではまれに肝機能障害や血液障害が生じることがあるため、服用中は定期的な血液検査が必要です。

薬剤名主な副作用注意点
PPI骨折リスク上昇、ビタミンB12吸収阻害定期的な骨密度検査、ビタミンB12値の確認
H2受容体拮抗薬肝機能障害、血液障害定期的な肝機能検査、血液検査

除菌療法の副作用

ヘリコバクター・ピロリ菌の除菌療法では、抗生物質の使用に伴い、下痢や腹痛などの副作用が起こる可能性があります。

外科的治療のリスク

内科的治療で改善が見られない場合、外科的治療が選択肢となりますが、手術には一定のリスクが伴います。

  • 出血
  • 感染
  • 麻酔関連のトラブルなど

特に高齢者や基礎疾患を持つ方の場合、手術リスクが高まる傾向があるため注意が必要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

十二指腸潰瘍の治療費は、多くの場合薬物療法が主となるため、自己負担額は比較的少なく済みます。

ただし、合併症発生時は入院や手術が必要となるため、治療費が高額になります。

外来診療における費用

項目概算費用(3割負担時)
処方薬(1か月分)2,500円〜4,500円
血液検査1,200円〜2,000円

通常4〜8週間の治療期間中、2〜3回の通院が必要です。

治療開始時に内視鏡検査を実施する際は、約4,000円〜9,000円の自己負担が生じます。

入院治療が必要となる場合の費用

出血や穿孔などの合併症発生時は入院治療が必要です。入院費用は医療機関や入院日数により異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです。

入院期間概算費用(3割負担時)
1週間70,000円〜100,000円
2週間130,000円〜180,000円

※手術実施時はさらに15万円〜35万円程度の追加費用がかかります。

以上

References

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