片頭痛 – 脳・神経疾患

片頭痛(migraine)とは、頭部の片側に限局して現れ、脈打つような痛みを伴う激しい頭痛発作を主症状とする慢性疾患です。

患者さんの多くは、光や音に対する過敏性や吐き気などの随伴症状を経験します。

発作は数時間から数日間持続し、遺伝的素因と環境因子の相互作用が関係しています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

片頭痛の主な症状

片頭痛は、激しい頭痛に加え、吐き気や光・音に対する過敏性なども伴います。

片頭痛の特徴的な頭痛

片頭痛の症状は強烈な頭痛で、片側の頭部に発生しますが、両側に及ぶケースも珍しくありません。

痛みの性質は拍動性(ズキズキするような)であり、頭の中で脈打つような不快な感覚をもたらします。

頭痛の強度は中程度から重度まであり、日常的な活動を困難にするほどの痛みです。

随伴症状

片頭痛には、頭痛以外にもいくつかの特徴的な症状が見られます。

症状詳細
吐き気・嘔吐頭痛と同時に発生し、食事摂取を困難にする
光過敏(光に対する過敏症)通常の明るさでも不快感や痛みを感じる
音過敏(音に対する過敏症)日常的な音量でも耐えがたい不快感を覚える
臭い過敏(匂いに対する過敏症)特定の香りに対して通常以上の不快反応を示す

特に、光や音に対する過敏性は、片頭痛を他の種類の頭痛から区別する上で欠かせない特徴的な要素です。

前兆症状

一部の患者さんでは、頭痛が始まる前に「前兆」と呼ばれる一過性の神経症状が現れます。

前兆は通常20分から1時間程度持続し、その後に激しい頭痛が発生します。

代表的な前兆症状

  • 視覚症状(閃光や暗点(視野の一部が見えなくなる))
  • 感覚症状(手足のしびれや違和感)
  • 言語障害(言葉が出にくくなる、または単語が思い出せない)

自律神経症状

片頭痛発作中は、自律神経系の乱れによる症状も生じます。

片頭痛に伴う自律神経症状

症状特徴
発汗特に額や首筋に顕著に現れ、冷や汗をかく感覚を伴う
顔面蒼白血管収縮により、顔色が明らかに悪くなる
めまい平衡感覚の一時的な障害により、ふらつきや回転性のめまいを感じる
頻尿排尿回数が増加し、トイレに行く頻度が通常より多くなる

自律神経症状は、片頭痛が単なる頭痛ではなく、全身に影響を及ぼす神経学的疾患であることを示しています。

痛みの増悪因子

片頭痛の痛みは特定の要因によって悪化し、代表的な増悪因子は、身体活動や強い光、大きな音、特定の匂いなどです。

増悪因子影響
身体活動頭痛の強度が増す
強い光目の奥の痛みや頭痛が悪化
大きな音頭痛の増強や不快感の増大
特定の匂い吐き気の誘発や頭痛の悪化

片頭痛の原因

片頭痛の原因は、神経系の機能異常と遺伝的素因です。

神経系の機能異常

片頭痛は、脳内の神経伝達物質のバランスが乱れることで起こり、特にセロトニン(幸福感や気分の調整に関わる物質)の急激な変動が関与しています。

セロトニンレベルが急激に低下すると、脳血管の拡張や炎症反応を起こし、痛みの信号を増幅。

この過程で、三叉神経(顔面や頭部の感覚を司る神経)が活性化され、激しい頭痛や随伴症状が生じます。

遺伝的素因

片頭痛には強い遺伝的傾向があり、家族歴は最も重要な危険因子の一つです。

片頭痛患者さんの約60%に家族歴が認められ、イオンチャネル(細胞膜にある物質の通り道)に関連する遺伝子の変異が、特定のタイプの片頭痛と強く関連しています。

遺伝子関連する片頭痛のタイプ遺伝子の機能
CACNA1A家族性片麻痺性片頭痛カルシウムチャネルの形成
ATP1A2家族性片麻痺性片頭痛ナトリウム-カリウムポンプの形成
SCN1A家族性片麻痺性片頭痛ナトリウムチャネルの形成

環境因子とトリガー

環境因子やトリガー(引き金)となる要因が片頭痛の発症を促進することがあり、要因が単独で、あるいは複数組み合わさって片頭痛を誘発します。

片頭痛のトリガー

  • 精神的・身体的ストレス
  • 不規則な睡眠パターン
  • 特定の食品(チョコレート、熟成チーズなど)や飲料(アルコール、カフェインを含む飲み物)
  • ホルモンの変動(女性の月経周期に関連)
  • 気圧の変化や気温の急激な変動などの気象条件の変化

神経血管系の反応

片頭痛発作時には脳内の血管や神経系に変化が生じ、神経ペプチド(神経細胞間の情報伝達に関わる物質)の放出や血管の拡張、炎症反応などが相互に作用し合い、激しい頭痛や随伴症状を起こします。

神経血管系の変化が症状に及ぼす影響

神経血管系の変化症状への影響メカニズム
血管拡張拍動性頭痛拡張した血管が周囲の組織を圧迫
神経ペプチド放出痛みの増強痛覚神経の感受性を高める
炎症反応持続的な痛み組織の炎症が痛みを長引かせる

脳の過敏性

片頭痛患者さんの脳は普通なら問題のない刺激に対しても過剰に反応し、この現象は「皮質拡延性抑制」(脳の表面を波のように広がる一過性の神経活動の低下)と呼ばれます。

脳の過敏性は環境刺激に対する反応の閾値(いきち)を下げ、片頭痛発作のリスクを高める要因です。

脳の過敏性の表れ関連する症状影響
光過敏羞明(まぶしさに対する過敏)明るい場所での不快感
音過敏聴覚過敏騒がしい環境での苦痛
嗅覚過敏特定の匂いによる不快感香水や食べ物の匂いでの不調

診察(検査)と診断

片頭痛の診断は問診と神経学的診察を基本とし、ときには画像検査や血液検査を行いながら、国際頭痛分類に基づいて臨床診断および確定診断を下します。

問診の重要性

片頭痛の診断において、問診は最も重要な要素であり、患者さんの症状を正確に把握するための第一歩です。

患者さんから症状の説明を聞き取り、頭痛の特徴や随伴症状、発症パターンを総把握します。

問診で確認する項目

問診項目確認内容
頭痛の性質痛みの部位、強さ、持続時間、性状(ズキズキする、締め付けられるなど)
随伴症状吐き気、光過敏、音過敏の有無、程度、持続時間
発症頻度月あたりの発症回数、季節性の有無、生活リズムとの関連
前兆の有無視覚症状や感覚症状の詳細、持続時間、頭痛との時間的関係

神経学的診察

問診に続いて神経学的診察を実施し、脳神経系の機能を評価し、片頭痛以外の神経疾患の可能性を除外することが主な目的です。

神経学的診察に含まれる項目

  • 瞳孔反射の確認(光を当てたときの瞳孔の反応を観察)
  • 眼球運動の評価(目の動きに異常がないかチェック)
  • 顔面感覚・運動機能のチェック(顔の感覚や表情筋の動きを確認)
  • 筋力・反射テスト(四肢の筋力や反射の正常性を評価)
  • 協調運動の観察(指鼻試験や踵膝試験などで運動の正確さを確認)

補助的検査

多くの場合片頭痛の診断は問診と神経学的診察だけで可能ですが、症状が典型的でなかったり他の疾患が疑われる場合には、補助的な検査を行います。

検査種類目的特徴
MRI検査脳腫瘍や血管奇形の除外磁気を利用して脳の詳細な画像を撮影
CT検査頭蓋内出血の除外X線を使用して脳の断層画像を短時間で撮影
血液検査炎症性疾患や代謝異常の確認血液中の各種成分を分析し、全身状態を評価

国際頭痛分類に基づく診断

片頭痛の臨床診断および確定診断は、国際頭痛学会が定める「国際頭痛分類」に基づいて行われます。

診断項目基準
頭痛の持続時間4〜72時間(未治療または治療が無効の場合)
頭痛の特徴片側性、拍動性、中等度〜重度の痛み、日常的な動作で増悪
随伴症状吐き気や嘔吐、光過敏と音過敏のうち少なくとも1つを伴う
発作回数上記の特徴を持つ頭痛が5回以上

片頭痛の治療法と処方薬、治療期間

片頭痛の治療は、急性期の痛みを和らげる対症療法と発作の頻度を減らす予防療法を行い、薬物療法を中心としながら、非薬物療法も組み合わせます。

急性期治療

急性期治療の目的は、片頭痛発作時に現れる激しい痛みや吐き気、光過敏などの不快な症状を緩和することです。

軽度から中等度の片頭痛には市販の鎮痛薬が使用されることが多く、比較的副作用が少なく、多くの患者さんに効果があります。

ただし、重度の片頭痛だったり、一般的な鎮痛薬では十分な効果が得られない場合には、より強力な作用を持つトリプタン系薬剤が処方されることも。

薬剤分類代表的な薬剤名特徴
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)イブプロフェン、ナプロキセン炎症を抑え、痛みを和らげる
トリプタン系薬剤スマトリプタン、ゾルミトリプタン脳血管に直接作用し、片頭痛特有の症状を改善する

トリプタン系薬剤は脳内の血管を収縮させると同時に、炎症を抑制する効果があり、片頭痛に特化した治療薬で、急性期治療薬は痛みが強くなる前に服用することが最も効果的です。

予防療法

予防療法は、片頭痛の発作頻度を減らし、発作の重症度を軽減することが目標です。

月に2回以上の頭痛発作に悩まされていたり、急性期治療薬を使用しても十分な効果が得られない場合に予防療法の導入が検討されます。

予防療法に使用される薬剤

  • カルシウムチャネル遮断薬(血管の異常な収縮を防ぐ)
  • β遮断薬(血管の拡張を抑える)
  • 抗てんかん薬(神経の過剰な興奮を抑える)
  • 抗うつ薬(脳内の神経伝達物質のバランスを整える)

薬剤はそれぞれ異なるメカニズムで作用しますが、いずれも脳内の神経伝達物質のバランスを調整したり、血管の異常な拡張を抑制する効果があります。

非薬物療法

薬物療法と並行して非薬物療法も、有効な補助的治療法です。

日々の生活習慣の改善やストレス管理技法の習得は、片頭痛の発作頻度を減らす上で効果的であることが分かっています。

非薬物療法効果実践方法
バイオフィードバック自律神経系の調整特殊な機器を使用して、自身の生理的反応をモニタリングし、コントロールする
認知行動療法ストレス対処能力の向上専門家の指導のもと、ストレスに対する考え方や行動パターンを変える
リラクセーション技法筋肉の緊張緩和深呼吸法や漸進的筋弛緩法などを日常的に実践する

また、一部の患者さんには、鍼灸やマッサージなども効果がある治療法です。

治療期間

急性期治療は頭痛発作が起こった時に限定して行われ、予防療法は3~6ヶ月以上の長期にわたって継続し、症状の改善が見られた後も一定期間の継続します。

予防療法の効果は治療開始後2~3ヶ月程度経過した時点で評価されることが多いです。

治療段階期間注意点
急性期治療発作時のみ月に10日以上の使用は避ける
予防療法3~6ヶ月以上効果が現れるまで時間がかかることがある
維持療法個人差が大きい徐々に減量し、症状をモニタリングする

治療効果が十分に得られた場合でも予防薬の急な中断は避け、徐々に減量していくことが大切です。

片頭痛の治療における副作用やリスク

片頭痛の治療には様々な薬剤や方法が用いられますが、それぞれに特有の副作用やリスクがあります。

急性期治療薬の副作用

片頭痛の急性期治療には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やトリプタン系薬剤が主に使用され、効果的な痛み止めとしての作用がある一方で、いくつかの副作用が伴います。

薬剤副作用注意点
NSAIDs(イブプロフェンなど)胃腸障害、腎機能障害長期使用に注意
トリプタン系(スマトリプタンなど)胸部圧迫感、めまい心血管系疾患がある方は要注意

NSAIDsの長期使用は胃潰瘍や腎機能低下のリスクを高めることがあるため、定期的な健康チェックが大切です。

トリプタン系薬剤は血管を収縮させる作用があるため、心臓や血管に問題がある患者さんには特別な配慮が必要となります。

予防薬の副作用

片頭痛の予防薬は長期間の服用が必要となるため、副作用の管理が大切です。

予防薬の副作用

  • 抗うつ薬(アミトリプチリンなど):口の渇き、便秘、体重増加
  • β遮断薬(プロプラノロールなど):疲労感、めまい、血圧が下がりすぎる
  • 抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウムなど):眠気、めまい、物事を考えたり記憶したりする能力の一時的な低下
  • カルシウム拮抗薬(ベラパミルなど):手足のむくみ、便秘

薬物乱用頭痛のリスク

片頭痛の治療において最も注意すべきリスクの一つが、薬物乱用頭痛と呼ばれる状態です。

急性期治療薬を頻繁に使用することで、逆に頭痛が慢性化してしまうリスクがあります。

使用頻度リスク対策
月10日以上薬物乱用頭痛の発症使用日数の管理
長期継続薬剤の効果低下定期的な休薬期間の設定

薬物乱用頭痛を予防するためには急性期治療薬の使用を管理し、使用頻度や量を調整していく必要があります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

薬物療法の費用

薬剤タイプ1回あたりの費用
市販の鎮痛薬50円~200円
トリプタン系薬剤800円~1,500円

予防療法の費用

予防療法に使用される薬剤の費用

  • β遮断薬 月額1,500円~3,000円
  • 抗てんかん薬 月額2,000円~5,000円
  • 抗うつ薬 月額3,000円~6,000円

専門的治療の費用

より専門的な治療を要する場合、費用は増加します。

治療法費用の目安
ボツリヌス注射1回30,000円~50,000円
神経ブロック1回10,000円~20,000円

非薬物療法の費用

非薬物療法の費用は療法の種類や実施回数により、認知行動療法やバイオフィードバックは、1回5,000円~10,000円です。

以上

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