硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍 – 脳・神経疾患

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍(subdural empyema and epidural abscess)とは、脳や脊髄を覆う髄膜の周囲に膿が蓄積する感染症のことです。

血流を通じて広がる細菌、頭部や脊椎への損傷、または手術後の合併症などが引き金となって発生します。

初期段階では高熱や激しい頭痛、意識状態の変化といった症状が現れやすく、病状が進行すると神経系全体に影響を及ぼします。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の主な症状

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の症状は、頭痛や発熱、神経学的異常です。

頭痛と発熱

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の最も一般的な症状は、激しい頭痛と高熱です。

頭痛は持続的で、通常の鎮痛薬では緩和しにくい特徴があります。

発熱は38度以上の高熱が続くことが多く、悪寒を伴うことも少なくありません。

症状特徴
頭痛持続的、激しい
発熱38度以上の高熱

神経学的症状

膿瘍による脳や脊髄への圧迫や炎症の波及によって起こる神経学的症状は、硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍でよく見られ指標です。

意識レベルの変化は軽度の混乱から昏睡まで幅広く現れ、けいれん発作や麻痺症状も観察されます。

麻痺は片側性顔面や四肢に現れ、片側性です。

髄膜刺激症状

膿瘍による髄膜への刺激や炎症で生じる髄膜刺激症状も、硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍に特徴的な症状です。

  • 項部硬直(首の硬直)
  • 光過敏(まぶしさに対する過敏な反応)
  • 嘔吐
  • Kernig徴候(膝を曲げた状態で股関節を曲げると痛みを感じる)

全身症状

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍は、局所的な症状だけでなく全身にも影響を及ぼします。

全身倦怠感や食欲不振、体重減少などが見られ、また、感染の進行に伴い、血圧低下や頻脈などの循環器系の症状が現れることもあり、注意が必要です。

全身症状循環器系症状
倦怠感血圧低下
食欲不振頻脈
体重減少

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の原因

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍は、細菌感染が引き金となって発症し、頭部への衝撃や手術後の思わぬ合併症、隣接する組織からの感染の広がりなどが原因です。

細菌感染の経路

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍が発生するには、さまざまな感染経路が関与しています。

血行性感染は、体内の別の場所にある感染源から血液の流れに乗って細菌が運ばれ、脳や脊髄の周辺に到達することで起こる現象です。

また、隣り合う組織からの直接的な感染も、重要な経路の一つです。

感染経路
血行性感染肺炎、心内膜炎
直接感染副鼻腔炎、中耳炎

感染経路を通じて細菌が髄膜の周囲に侵入し、炎症反応を起こすことで膿瘍が形成されます。

外傷と手術後のリスク

頭部や脊椎に加わった強い衝撃は、硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍が発生するリスクを高める要因です。

外傷によって生じた傷口や損傷部位から細菌が侵入し感染が広がることがあり、脳や脊髄の手術を受けた後も、感染の危険性が高まります。

  • 頭蓋骨折
  • 開頭手術
  • 脊椎手術
  • 硬膜穿刺

免疫機能低下の影響

体内で免疫機能が十分に働いていない状態は、硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍が発生するリスクを押し上げる要因です。

免疫低下の原因
慢性疾患糖尿病、HIV感染症
薬物療法免疫抑制剤、ステロイド

診察(検査)と診断

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の診断は問診と神経学的診察に始まり、画像検査や髄液検査などの補助的検査を組み合わせて行います。

初期診察と問診

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の問診では患者さんの症状の経過、過去の病歴、最近の感染症の有無などを確認し、頭痛の性質や発熱の程度に注目しながら判断します。

神経学的診察

次に意識レベルの評価、脳神経機能の確認、運動機能と感覚機能のチェックなどの神経学的な診察を行います。

特に髄膜刺激症状の有無を確認するため、項部硬直(首の硬直)やKernig徴候(膝を曲げた状態で股関節を曲げると痛みを感じる)を観察することが重要です。

神経学的診察項目評価内容意義
意識レベルGlasgow Coma Scale脳機能全体の評価
脳神経機能瞳孔反射、眼球運動など脳幹機能の評価
運動機能筋力、協調運動大脳や小脳の機能評価
感覚機能触覚、痛覚、温度覚神経伝導路の評価

血液検査

血液検査は、感染の存在と重症度を評価するために欠かせない検査です。

白血球数、CRP(C反応性タンパク)、赤血球沈降速度(ESR)などの炎症マーカーを測定し、値が上昇していれば、体内で強い炎症反応が起きていることを示唆します。

また、抗菌薬を選ぶために血液培養を行い、原因菌を特定します。

画像検査

次に、画像検査で病変の位置や大きさ、周囲への影響を評価します。

頭部CTを実施し、膿瘍の存在や脳浮腫の程度を確認しますが、CTでは初期の小さな膿瘍を見逃す可能性があるため、より詳細な画像が得られるMRIが有用です。

画像検査特徴利点
CT迅速、骨病変の評価に優れる緊急時の迅速な評価が可能
MRI軟部組織の評価に優れる、小病変の検出に有用詳細な病変の性状評価が可能

髄液検査

画像検査で頭蓋内圧亢進の所見がないことを確認してから髄液検査を実施し、髄液の性状、細胞数、蛋白、糖、培養検査などを行います。

典型的な所見

  • 髄液圧の上昇(脳や脊髄を取り巻く液体の圧力が高くなる)
  • 多核白血球優位の細胞数増加(感染に対する体の反応)
  • 蛋白の上昇(炎症による血液脳関門の破綻を反映)
  • 糖の低下(細菌による消費を反映)
  • グラム染色や培養での起炎菌の検出(感染の直接的証拠)
髄液検査項目典型的所見臨床的意義
髄液圧上昇頭蓋内圧亢進の指標
細胞数増加(多核白血球優位)炎症の程度を反映
蛋白上昇血液脳関門の破綻を示唆
低下細菌感染を示唆

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の治療法と処方薬、治療期間

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の治療は抗生物質を用いた薬物療法と、外科的処置を組み合わせて進めます。

抗生物質治療

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の治療では、抗生物質による療法が中心です。

多くのケースでは、さまざまな種類の細菌に対応するため、複数の抗生物質を組み合わせて使用します。

抗生物質の種類標的細菌
セフトリアキソングラム陽性菌、グラム陰性菌
バンコマイシンメチシリン耐性黄色ブドウ球菌

外科的処置

抗生物質による治療と同時進行で、膿瘍を体外に排出したり、脳への圧迫を和らげたりすることを目的とした手術を行うことで、神経系への悪影響を軽減します。

  • 穿頭術(頭蓋骨に小さな穴を開ける手術)
  • 開頭術(頭蓋骨の一部を一時的に取り除く手術)
  • 椎弓切除術(脊椎の一部を取り除く手術)

治療期間と経過観察

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の治療には、4〜8週間程度の期間が必要です。

治療段階期間内容
入院での集中治療2〜4週間24時間体制の観察、強力な抗生物質投与
外来での継続治療2〜4週間定期的な検査、抗生物質の調整

治療期間中は、定期的に血液検査や MRI などの画像診断を行います。

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の治療における副作用やリスク

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の治療は抗菌薬療法と外科的介入を用いますが、感染症の悪化、薬剤耐性菌の出現、手術に伴う合併症などの副作用やリスクがあります。

抗菌薬療法のリスク

抗菌薬は長期間にわたって高用量の投与が必要となるため、消化器系の不調や肝臓・腎臓の機能に悪影響を及ぼすことがあります。

また、薬剤によるアレルギー反応や、薬剤耐性菌も懸念されます。

広域スペクトラム抗菌薬の注意点は、腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスの乱れを起こし、二次感染のリスクを高めることです。

抗菌薬副作用注意点
ペニシリン系アレルギー反応、下痢アレルギー歴の確認が重要
セファロスポリン系肝機能障害、腎機能障害定期的な肝機能・腎機能検査が必要
カルバペネム系痙攣、肝機能障害てんかんの既往がある患者では注意が必要

外科的介入のリスク

外科的介入は、膿瘍を直接除去したり脳の圧迫を軽減したりするのに有効ですが、手術に伴う様々なリスクがあります。

開頭術や穿頭術による感染の拡大や、予期せぬ出血、脳浮腫の悪化などが起こることがあります。

稀なケースではありますが、麻酔に関連する合併症や、手術後に脳脊髄液が漏れ出す髄液漏なども発生する可能性があり、術後の経過観察が大切です。

ステロイド使用のリスク

抗菌薬療法と並行して、脳浮腫を軽減するためにステロイドを使用することがあり、副作用があります。

ステロイドには免疫機能を抑制する作用があるため、既存の感染症を悪化させたり、新たな日和見感染を起こすリスクがあり、使用には注意が必要です。

また、長期間使用すると副腎皮質機能の低下、骨がもろくなる骨粗鬆症、胃や十二指腸に潰瘍ができる消化性潰瘍なども懸念されます。

ステロイド短期的リスク長期的リスク注意点
デキサメタゾン血糖上昇、感染増悪骨粗鬆症、副腎機能抑制血糖値の定期的なチェックが必要
プレドニゾロン消化器症状、不眠筋力低下、易感染性胃潰瘍予防薬の併用を検討

抗けいれん薬のリスク

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍に伴うけいれん発作の予防や治療のため、抗てんかん薬を使用しますが、副作用があります。

眠気や認知機能の低下、めまいなどの中枢神経系に影響を及ぼします。

また、長期間使用すると骨の密度が低下したり、重篤な皮膚反応や肝臓の機能障害を起すリスクもあるため、定期的な検査や経過観察が欠かせません。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

入院費用

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の治療では、2〜4週間の入院が必要です。

病室タイプ1日あたりの費用
大部屋2万円〜3万円
個室3万円〜5万円

手術費用

硬膜下膿瘍・硬膜外膿瘍の手術費用

  • 穿頭術:50万円〜80万円
  • 開頭術:100万円〜150万円
  • 椎弓切除術:80万円〜120万円

薬剤費

抗生物質の費用

抗生物質の種類1日あたりの費用
セフトリアキソン5,000円〜10,000円
バンコマイシン10,000円〜20,000円

以上

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