結核性髄膜炎(tuberculous meningitis)とは、結核菌が髄膜に感染し、重篤な炎症を起こす疾患です。
結核菌が血流に乗って脳に侵入することで発症し、初期段階では発熱や激しい頭痛、首のこわばりが現れます。
病状が進行すると、意識障害やさまざまな神経症状が生じます。
結核性髄膜炎の主な症状
結核性髄膜炎の症状は、持続的な高熱や激しい頭痛から始まり、次第に意識障害や多様な神経学的症状へと進展します。
初期段階の症状
結核性髄膜炎の初期段階では、高熱が続き、頭痛の強度が増していき、症状は数週間にわたってゆっくりと悪化します。
倦怠感や食欲不振も多くの患者さんに見られる症状です。
初期症状 | 特徴 |
発熱 | 長期間続く高体温 |
頭痛 | 次第に強くなる |
倦怠感 | 全身の疲労感 |
食欲不振 | 食事量の減少 |
神経系への影響
病状が進むにつれて神経系への影響がはっきりと現れ、意識の清明度が低下は重大な警告のサインです。
患者さんは混乱状態に陥ったり、正常な判断ができなくなることがあります。
また、項部硬直(首の硬直)も特徴的な症状の一つです。
さらに、けいれんや麻痺など、より深刻な神経学的異常も現れることがあります。
髄膜刺激による症状
脳や脊髄を覆う髄膜の炎症に起因する特有の症状も観察されます。
項部硬直に加えて見られるのは、ケルニッヒ徴候(膝を伸ばした状態で股関節を曲げると痛みを感じる)やブルジンスキー徴候(頚部を前屈させると膝が曲がる)といった髄膜刺激症状です。
髄膜刺激症状は、髄膜の炎症により神経根が過敏になっていることで生じます。
また、光や音に対して敏感になることがあります。
全身症状
結核性髄膜炎に患者さんでは、全身性の症状も現れます。
- 体重の減少
- 寝ている間の発汗
- リンパ節の腫れ
- 持続する咳
漸新世の症状は、結核菌が全身に広がっていることを示唆するものです。
眼底を検査すると、網膜に結核による腫瘤(結核腫)や視神経乳頭の腫れが観察されます。
症状の分類 | 症状 |
初期症状 | 持続する高熱、激しい頭痛、全身のだるさ |
神経系症状 | 意識レベルの低下、痙攣、体の一部の麻痺 |
髄膜刺激症状 | 首の硬直、光や音への過敏反応 |
全身症状 | 体重減少、寝汗、リンパ節の腫れ |
結核性髄膜炎の原因
結核性髄膜炎は、結核菌が脳と脊髄を覆う髄膜に感染し炎症を起こす神経系の感染症です。
結核菌の感染経路
結核菌が髄膜に到達する主な経路は2つです。
- 血液を介した感染体内の結核病巣から血液中に入った菌が、脳へと運ばれる
- 近接組織からの直接侵入頭蓋骨や脊椎の結核病変から、髄膜へ直接広がる
結核菌は非常に小さく、通常は異物を通さない血液脳関門(脳を守る関門)を通過する能力を持っています。
結核性髄膜炎の発症リスクを高める要因
特定の条件下にある人は、結核性髄膜炎を発症するリスクが高いです。
リスク要因 | 例 |
免疫機能の低下 | HIV感染、免疫抑制剤の使用、慢性疾患 |
年齢 | 乳幼児、高齢者 |
栄養状態 | 栄養不良、ビタミンD不足 |
環境要因 | 結核が広まっている地域での生活、過密な居住環境 |
リスク要因があると、結核菌に接触する機会を増やしたり、体内に入った菌を抑える力を弱めます。
潜伏感染と再活性化のメカニズム
結核性髄膜炎の発症には長い潜伏期間が関係していて、結核菌に感染しても、すぐに症状が現れるわけではありません。
潜伏期間は免疫システムが結核菌の活動を抑えていますが、免疫力が低下すると、潜伏していた菌が再び活動を始め、髄膜炎を起こすことがあります。
結核菌の特性
結核菌には、他の細菌とは異なる特殊な性質があり、結核性髄膜炎の発症に大きく関わっています。
結核菌の特徴 | 体内での影響 |
増殖速度が非常に遅い | 症状が現れるまでに時間がかかる |
抗酸性を持つ | 一般的な抗生物質が効きにくい |
細胞内寄生が可能 | 白血球の中に潜んで生き延びる |
莢膜(きょうまく)を形成する | 免疫系から身を守る |
結核菌の特性により長期間体内に潜伏し、条件が整えば再び活動を始める能力を持っています。
遺伝的要因の関与
TLR2遺伝子やIL-1β遺伝子に変異があると、結核菌に対する体の防御反応に影響を与える可能性があります。
研究対象の遺伝子 | 推測される働き |
TLR2遺伝子 | 病原体を認識し、初期の免疫反応を引き起こす |
IL-1β遺伝子 | 炎症反応を調整する |
NRAMP1遺伝子 | 白血球が細菌を攻撃する能力に関与する |
診察(検査)と診断
結核性髄膜炎の診断は、患者さんの症状を評価し、身体診察や様々な検査結果を行い、髄液検査や培養検査によって確定診断に至ります。
臨床症状の評価
問診では患者さんの症状や病歴について聞き取り、長く続く熱や頭痛、意識状態の変化などの特徴的な症状に注目します。
過去に結核にかかったことがあるか、結核患者さんと接触したことがあるかなどの情報も、診断を進める上で重要な手がかりです。
身体診察
身体診察では項部硬直(首の硬さ)や髄膜刺激症状の有無を確認します。
意識レベルの評価に用いるのは、グラスゴー昏睡尺度(Glasgow Coma Scale)という指標です。
診察項目 | 確認ポイント |
神経学的診察 | 意識状態、脳神経機能 |
髄膜刺激症状 | 項部硬直、ケルニッヒ徴候 |
全身状態 | 体温、血圧、脈拍 |
画像検査
頭部CTやMRIを行い、脳の状態を詳しく調べ、水頭症、脳浮腫、結核腫などの所見がないかを確認します。
さらに、胸部X線検査で、肺に結核の影響が及んでいないかも調べます。
髄液検査
腰椎穿刺で脳脊髄液を採取する髄液検査は、結核性髄膜炎の診断に欠かせません。
髄液検査の項目
- 細胞数と細胞の種類(細胞分画)
- タンパク質の濃度
- ブドウ糖の濃度
- 乳酸脱水素酵素(LDH)値
- アデノシンデアミナーゼ(ADA)値
結核性髄膜炎では、リンパ球が主体の細胞数増加、タンパク質濃度の上昇、ブドウ糖濃度の低下が特徴です。
微生物学的検査
髄液の塗抹検査で、結核菌(抗酸菌)の有無を確認します。
培養検査は結核菌を同定するのに重要ですが、結果が出るまでに時間がかかるので、PCR法を使って、より迅速に診断することもあります。
検査項目 | 特徴 |
塗抹検査 | 迅速だが感度が低い |
培養検査 | 確定診断に有用だが時間を要する |
PCR検査 | 迅速で感度が高い |
補助的検査
インターフェロンγ遊離試験(IGRA)や結核菌特異抗原検査も、診断の補助になる検査法です。
血液検査では、炎症の程度を示すマーカーの上昇や、体内の電解質バランスの異常がないかを確認します。
結核性髄膜炎の治療法と処方薬、治療期間
結核性髄膜炎の治療は、複数の抗結核薬を組み合わせた長期的な薬物療法が基本です。
主要な抗結核薬
結核性髄膜炎の治療では、抗結核薬の使用が第一選択です。
- イソニアジド(INH):結核菌の細胞壁を作る働きを妨ぐ
- リファンピシン(RFP):結核菌の増殖に必要なRNAの合成を阻害
- ピラジナミド(PZA):結核菌の代謝を阻害し、殺菌効果を高める
- エタンブトール(EB)またはストレプトマイシン(SM):結核菌の細胞壁合成を阻害
薬剤を組み合わせることで効果を高め合い、薬が効きにくい耐性菌の出現を防ぎます。
薬剤名 | 作用 |
イソニアジド | 結核菌の細胞壁合成阻害 |
リファンピシン | 結核菌のRNA合成阻害 |
ピラジナミド | 結核菌の代謝阻害 |
エタンブトール | 結核菌の細胞壁合成阻害 |
治療のスケジュール
治療は、集中治療期と維持期の2つ段階で進めていきます。
集中治療期は最初の2ヶ月間で、4種類の薬剤を同時に使用する4剤併用療法を行い、維持期は続く4〜10ヶ月間で、2種類または3種類の薬剤を使用する併用療法を継続します。
治療期間 | 使用薬剤 |
集中治療期(2ヶ月) | INH + RFP + PZA + EB (またはSM) |
維持期(4〜10ヶ月) | INH + RFP (場合によってはEBも) |
ステロイド薬の併用
中枢神経系の炎症を抑えるため、抗結核薬に加えてステロイド薬を使用します。
デキサメタゾンやプレドニゾロンといったステロイド薬を使い、神経系に後遺症が残るリスクを低下させることが可能です。
治療のモニタリング
定期的に患者さんの状態を診察し、各種検査を行い、治療の効果や副作用が出ていないかを確認することが重要です。
髄液検査や頭部のCTやMRIなどの画像検査を繰り返し行い、病状が良くなっているかを調べ、薬が効きにくい耐性菌が疑われるときは、薬剤感受性試験を行い、治療方針を見直します。
治療期間の調整
標準的な治療期間は6〜12ヶ月ですが、患者さんの病状や治療への反応に応じて、期間を調整します。
結核性髄膜炎の治療における副作用やリスク
結核性髄膜炎の治療では、長期間にわたって複数の抗結核薬を使用したり、外科的な処置を行ったりするため、様々な副作用やリスクがあります。
抗結核薬による体への影響
結核性髄膜炎の治療で使用する抗結核薬は効果的ですが、同時に体にさまざまな負担をかけます。
薬の名前 | 副作用 |
イソニアジド | 手足のしびれ、肝臓の機能低下 |
リファンピシン | 肝臓の機能低下、胃腸の不快感 |
ピラジナミド | 血液中の尿酸値上昇、関節の痛み |
エタンブトール | 視神経(目から脳へつながる神経)の障害 |
肝臓機能障害のリスク
抗結核薬による肝臓への負担は、特に気をつけるべき副作用の一つです。
- イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミドは肝臓に悪影響を与える可能性が高い
- 高齢の方や、もともと肝臓に病気がある方は特に注意が必要
- 定期的に血液検査で肝臓の状態をチェックすることが大切
肝臓への影響は、軽い場合は症状がないこともありますが、重症化すると皮膚や白目が黄色くなったり(黄疸)、肝不全という深刻なリスクもあります。
神経系への影響
結核性髄膜炎の治療は、脳や神経にもさまざまな影響を及ぼすことがあります。
副作用 | 関係する薬 |
手足のしびれ | イソニアジド |
視力の低下 | エタンブトール |
聴力の低下 | ストレプトマイシン |
薬剤耐性菌の出現リスク
長期間抗結核薬を使用していると、薬剤耐性菌(薬が効きにくい菌)が現れるリスクがあります。
多剤耐性結核(MDR-TB)や超多剤耐性結核(XDR-TB)などの、通常の薬が効きにくい結核菌が出現すると、治療がより難しくなり、回復の見込みが悪くなります。
薬剤耐性菌の出現を防ぐために、指示通りに薬を正しく飲み続けることが非常に大切です。
ステロイド薬を使う際のリスク
重症の結核性髄膜炎では、脳のむくみを抑えたり後遺症を軽くしたりするために、ステロイド薬を使い、いくつかのリスクがあります。
リスク | 説明 |
感染症 | 免疫力が下がり、普段なら問題ない細菌やウイルスに感染しやすくなる |
消化性潰瘍 | 胃の粘膜を守る力が弱くなる |
骨粗鬆症 | 長期間使用すると骨の密度が低下する |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
入院費用
結核性髄膜炎の治療では、長期の入院が必要です。
入院期間 | 概算費用 |
1ヶ月 | 30万円~60万円 |
3ヶ月 | 90万円~180万円 |
検査費用
診断や経過観察のために、様々な検査を行います。
- MRI検査:2万円~3万円
- 髄液検査:1万円~2万円
- 血液検査:5千円~1万円
検査は複数回実施するため、総額で10万円から20万円程度かかります。
薬剤費
抗結核薬は長期間の服用が必要です。
薬剤名 | 1ヶ月あたりの概算費用 |
イソニアジド | 1,000円~2,000円 |
リファンピシン | 3,000円~5,000円 |
以上
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