腎血管性高血圧(Renovascular hypertension:RVHT)とは、腎臓に血液を送る腎動脈の狭窄や閉塞によって引き起こされる高血圧です。
腎動脈の狭窄や閉塞の原因としては、動脈硬化、血管の炎症、先天性の血管奇形などがあげられます。
腎臓への血流が減少すると、腎臓内のレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)が活性化され、血管収縮や体液量の増加が起こり血圧が上昇します。
RVHTは二次性高血圧の中でも比較的頻度が高く、高血圧患者の1~5%程度を占めるとされています。
腎血管性高血圧(RVHT)の種類(病型)
腎血管性高血圧(RVHT)は、主に粥状硬化、線維筋性異形成、高安動脈炎(大動脈炎症候群)の3つの種類(病型)に分類されます。
粥状硬化
粥状硬化はRVHTの最も一般的な原因であり、特に高齢者や動脈硬化のリスク因子を有する患者に多く認められます。
この病型では、コレステロールなどの脂質が腎動脈の内壁に蓄積し、プラークを形成することで血管の狭窄や閉塞を生じさせます。
粥状硬化によるRVHTは片側性と両側性のいずれでも発症し得ますが、片側性の場合は腎機能の低下が比較的緩徐に進行する傾向にあります。
特徴 | 詳細 |
好発年齢 | 高齢者、男性に多い |
リスク因子 | 動脈硬化 |
病変の分布 | 両側性が多い |
線維筋性異形成
線維筋性異形成は、主に若年・中年女性に多く見られるRVHTの原因です。
この病型では、腎動脈の中膜が異常に肥厚し、血管の狭窄や閉塞を引き起こします。
線維筋性異形成によるRVHTは左右どちらか一方に起こるケースが多いものの、しばしば両側性に発症し、急速な腎機能の悪化を伴う場合があります。
特徴 | 詳細 |
好発年齢 | 若年・中年女性 |
病変の分布 | 左右どちらか一方 |
腎機能の悪化 | 急速に進行する場合がある |
高安動脈炎(大動脈炎症候群)
高安動脈炎は大動脈とその主要分枝の炎症を特徴とする自己免疫性疾患であり、RVHTの原因となる場合があります。
この病型では腎動脈を含む大血管の炎症により血管壁が肥厚し、狭窄や閉塞を生じさせます。
高安動脈炎によるRVHTは若年女性に多く、他の全身症状を伴うケースもあり早期の診断と治療が重要です。
腎血管性高血圧(RVHT)の主な症状
- 高血圧
- 頭痛
- めまい
- 視力低下
- 疲労感
腎血管性高血圧(RVHT)の主な症状は、高血圧、頭痛、めまい、視力低下、疲労感などが挙げられます。
これらの症状は腎動脈の狭窄や閉塞によって引き起こされる、腎臓への血流障害が原因です。
高血圧
RVHTの最も特徴的な症状は高血圧です。
腎動脈の狭窄や閉塞により、腎臓への血流が減少すると、レニン-アンジオテンシン系が活性化され、血圧が上昇します。
RVHTでは降圧薬に対する反応が乏しい場合が多く、コントロールが難しい高血圧を呈する点が特徴です。
頭痛とめまい
RVHTでは高血圧に伴う頭痛やめまいが起こる場合が多いです。頭痛は後頭部や側頭部に起こりやすく、拍動性の痛みを伴います。
立ちくらみや、回転性のめまいが起こる方もいます。
視力低下
RVHTでは高血圧による網膜症を合併し、視力低下を引き起こします。
網膜の血管が損傷を受けて出血や浮腫を生じ、重症化した際は失明のリスクも出てきます。
合併症 | 症状 |
網膜症 | 視力低下 |
腎不全 | 疲労感、浮腫 |
疲労感
腎機能の低下により、疲労感を訴える方も多いです。
腎機能が低下すると老廃物の排泄が困難となり、体内に毒素が蓄積してしまいます。その結果として、全身の倦怠感や疲労感が生じます。
腎血管性高血圧(RVHT)の原因
腎血管性高血圧は、腎動脈狭窄症や腎実質疾患、腎血管奇形、妊娠などがその主な原因として挙げられます。
腎動脈狭窄症
腎血管性高血圧の最も一般的な原因は、腎動脈狭窄症です。
腎動脈狭窄症とは、腎臓に血液を送り込む腎動脈が狭くなったり、詰まったりする状態を指します。
この状態が続くと腎臓は血流不足に陥り、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されます。
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化は、血管収縮と体液貯留を促し、血圧上昇を引き起こします。
原因 | 発症年齢 | 特徴 |
動脈硬化症 | 50歳以上 | 動脈壁にプラークが蓄積 |
線維筋性異形成症 | 50歳未満 | 動脈壁の過剰な増殖 |
血管炎 | 様々 | 血管の炎症 |
腎動脈瘤 | 様々 | 腎動脈の局所的な拡張 |
腎実質疾患
腎実質疾患も腎血管性高血圧の原因となる場合があります。腎実質疾患とは、腎臓の機能単位である腎実質に生じる病変の総称です。
慢性腎臓病や多発性嚢胞腎などの腎実質疾患では、腎血流量の減少やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化を介して高血圧を引き起こす可能性があります。
腎実質疾患 | 高血圧発症率 |
慢性腎臓病 | 50-90% |
多発性嚢胞腎 | 50-75% |
腎血管奇形
腎血管奇形は、腎血管性高血圧の稀な原因の一つです。
腎動静脈瘻や腎血管腫などの血管奇形では、腎血流の異常や血管抵抗の変化が生じ、高血圧を引き起こす場合があります。
妊娠
妊娠も腎血管性高血圧のリスク因子となります。
妊娠中は、血液量の増加や血管抵抗の変化が生じるため、腎血流量が減少し、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化されやすくなります。
特に、妊娠高血圧症候群を発症した際には、腎血管性高血圧のリスクが高まります。
診察(検査)と診断
腎血管性高血圧(RVHT)の臨床診断の際は、血圧脈波検査や腎機能検査などの負担の少ない検査を行います。
確定診断をするには腎動脈造影検査が必要です。
病歴聴取・身体所見
特に、若い年齢で高血圧を発症した方や治療に抵抗性の高血圧、急激な血圧の上昇があった方、喫煙歴や動脈硬化のリスク因子がある方などは注意が必要です。
また、身体所見では、お腹の血管雑音がみられます。
病歴聴取で確認すべきポイント | 身体所見で確認すべきポイント |
若年性高血圧の有無 | 腹部の血管雑音の有無 |
治療抵抗性の高血圧の有無 | 末梢動脈の脈拍の状態 |
急激な血圧上昇の有無 | 心雑音の有無 |
喫煙歴の有無 | 眼底所見の異常 |
動脈硬化のリスク因子の有無 | 神経学的所見の異常 |
非侵襲的検査による臨床診断
血圧脈波検査では、上腕と足の甲の動脈の血圧差が20mmHg以上ある場合に腎動脈の狭窄を疑います。
腎機能検査では、血清クレアチニン値の上昇や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下がみられる場合があります。
また、レニン・アルドステロン比(ARR)の上昇も重要な所見の一つです。
腎動脈造影検査
腎血管性高血圧(RVHT)の確定診断をするには、腎動脈造影検査が必要です。
腎動脈造影検査では、腎動脈の狭窄や閉塞の有無とその程度を直接的に評価できます。
また、狭窄している部位の性状や側副血行路の発達の状況なども確認できるため、治療方針を決める上でも重要です。
その他の画像検査
これらの検査は、腎動脈造影検査に比べて患者さんの負担が少なく、スクリーニングの目的で用いられることがあります。
画像検査の種類 | 検査の特徴 |
腹部超音波検査(ドプラー法) | 負担が少ない、費用が安い、リアルタイムで観察できる |
CT血管造影検査(CTA) | 解像度が高い、立体的な画像を作成できる |
MR血管造影検査(MRA) | 放射線被曝がない、造影剤を使用しない方法もある |
核医学検査(レノグラム、カプトプリルレノグラム) | 左右の腎機能を評価できる、レニン分泌の状態を評価できる |
腎血管性高血圧(RVHT)の治療法と処方薬
腎血管性高血圧の治療では、血圧のコントロールと腎血流の改善が主な目標です。
薬物療法が第一選択とされますが、効果が不十分な場合や重度の狭窄がある場合には外科的治療が考慮されます。
薬物療法
薬物療法では、まず降圧薬を用いて血圧のコントロールを図ります。 代表的な降圧薬には以下のようなものがあります。
薬剤名 | 作用機序 |
ACE阻害薬 | アンジオテンシンIIの生成を阻害 |
ARB | アンジオテンシンII受容体をブロック |
カルシウム拮抗薬 | 血管平滑筋の収縮を抑制 |
これらの薬剤を単独あるいは併用し、血圧を適切な範囲内に維持します。
また、腎血流の改善を目的として、以下のような薬剤が使用される場合があります。
- 抗血小板薬:血小板の凝集を抑制し、血栓形成を防ぐ
- スタチン系薬剤:コレステロールの合成を阻害し、動脈硬化の進行を抑える
外科的治療
薬物療法でコントロールが難しい場合や、腎動脈の高度な狭窄がある場合には、外科的治療が検討されます。
主な治療法は以下の通りです。
治療法 | 概要 |
経皮的腎動脈形成術 (PTRA) | カテーテルを用いて狭窄部位を拡張 |
腎動脈ステント留置術 | 狭窄部位にステントを留置し、血流を確保 |
腎動脈バイパス術 | 狭窄部位を迂回するバイパス血管を作成 |
治療に必要な期間と予後について
腎血管性高血圧の治療期間は、原因となっている状態や重症度によって幅があります。
腎血管性高血圧の治療期間
腎動脈狭窄が軽ければ、血圧を下げるお薬だけで血圧コントロールができることもあります。
しかし、腎動脈狭窄が進んでいる場合はカテーテルを使った治療や手術が必要になることが多く、治療期間も長くなる傾向です。
原因 | 治療期間目安 |
軽度の腎動脈狭窄 | 数週間~数ヶ月 |
高度の腎動脈狭窄 | 数ヶ月~1年以上 |
腎血管性高血圧の治療後の経過観察
腎血管性高血圧の治療が終わった後は、再び狭窄が起こったり症状が出たりする可能性があるため、定期的な経過観察が大切です。
経過観察の間隔は患者さんの状態によりますが、だいたい以下のような間隔で行われます。
- 治療直後~半年:1~2ヶ月ごと
- 半年~1年:3ヶ月ごと
- 1年以降:3~6ヶ月ごと
経過観察では血圧を測るだけでなく、腎臓の働きを調べたり、超音波やCTで腎動脈の画像を撮ったりして、狭窄や症状の再発がないかチェックします。
腎血管性高血圧の予後
腎血管性高血圧の予後は、早期発見と早期治療ができるかどうかで大きく変わってきます。
うまく治療できればほとんどの場合は血圧が正常に戻り、腎臓の働きも保たれます。
しかし、見つけるのが遅れたり治療が遅れたりすると、高血圧で体の臓器が傷んでしまい腎不全になる危険性が高くなります。
腎血管性高血圧(RVHT)の治療における副作用やリスク
腎血管性高血圧症の治療では、副作用やリスクが生じる可能性があります。
薬物療法の副作用
腎血管性高血圧症の治療に用いられる降圧薬では、次のような副作用が報告されています。
薬剤 | 主な副作用 |
ACE阻害薬 | 空咳、血管浮腫、高カリウム血症 |
アンジオテンシンII受容体拮抗薬 | めまい、低血圧、血管浮腫 |
カルシウム拮抗薬 | 頭痛、顔面紅潮、下腿浮腫 |
利尿薬 | 低カリウム血症、脱水、高尿酸血症 |
経皮的腎動脈形成術(PTRA)のリスク
経皮的腎動脈形成術は腎動脈狭窄に対する低侵襲な治療法ですが、次のようなリスクが伴います。
- 血管損傷や出血
- 腎動脈解離や血栓形成
- 造影剤アレルギーや腎機能悪化
- 再狭窄の可能性
手術療法のリスク
腎血管性高血圧症の外科的治療では、次のようなリスクが考えられます。
- 全身麻酔に伴う合併症
- 術後の感染症や出血
- 腎機能の悪化や腎不全
- 再狭窄や吻合部狭窄の可能性
手術療法は薬物療法やPTRAが効果を示さない場合に検討されますが、患者さんの全身状態や年齢、合併症などを考慮する必要があります。
治療後の経過観察
腎血管性高血圧症の治療後は、定期的な経過観察が欠かせません。
治療効果や副作用、合併症の有無を確認し、必要に応じて治療方針を調整します。
フォローアップ項目 | 目的 |
血圧測定 | 治療効果の判定 |
血液・尿検査 | 腎機能や電解質異常のチェック |
画像検査 | 腎動脈狭窄の再発や進行の評価 |
予防方法
健康的な食事、適度な運動、ストレス管理などで腎血管性高血圧のリスクを下げられます。
バランスの取れた食事
摂取を控えるべき食品 | 摂取を心がけるべき食品 |
高塩分食品 | 野菜や果物 |
高脂肪食品 | 全粒穀物 |
加工食品 | 低脂肪のタンパク質源 |
塩分の過剰摂取は血圧を上昇させる原因となるため、注意が必要です。一方、カリウムを多く含む食品は血圧の安定化に役立ちます。
適度な運動
定期的な運動は、血圧のコントロールに役立ちます。週に150分以上の中等度の有酸素運動を目標とするのが良いでしょう。
以下のような運動がおすすめです。
- ウォーキング
- ジョギング
- 水泳
- サイクリング
ストレス管理
慢性的なストレスは、血圧上昇の原因の一つと考えられています。自分に合ったストレス管理法を見つけ、ストレスをためないようにしましょう。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
腎血管性高血圧の治療は、原則として医療保険が適用されます。負担割合は以下のとおりです。
- 3割負担:70歳未満の方
- 1割または2割負担:70歳以上の方(所得に応じて異なる)
治療費の内訳・目安
- 診察費
- 検査費(血液検査、画像検査など)
- 薬剤費(降圧薬、利尿薬など)
- 手術費(血管形成術、ステント留置術など)
項目 | 費用目安 |
診察費 | 3,000〜10,000円 |
検査費 | 20,000〜50,000円 |
上記は目安となり、実際は上記よりも高額になる可能性もあります。治療費について、詳しくは各医療機関で直接ご確認ください。
以上
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