黄熱(yellow fever)とは、黄熱ウイルスが原因で発症する急性のウイルス性出血熱です。
主にアフリカや中南米の熱帯地域に生息する蚊によって媒介され、感染すると発熱、黄疸、出血などの症状が現れます。
重症化した際には、肝臓や腎臓の機能が低下したり、出血性ショックを引き起こしたりすることがあり、時として致死率が高くなります。
黄熱の種類(病型)
黄熱ウイルスに感染した場合、症状や重症度によって4つの異なる病型に分類されます。
不顕性感染
不顕性感染は、ウイルスに感染しても何も症状が現れない病型で、感染者の大半がこの病型に該当します。
不顕性感染の場合、自分が感染したことに気づかないことが多いです。
軽症型(非特異的症状)
軽症型では、発熱やインフルエンザに似た症状が見られるのが特徴です。
症状 | 説明 |
発熱 | 38℃を超える高熱が数日間続くことがある |
頭痛 | 頭全体に鈍い痛みや圧迫感を感じる |
筋肉痛 | 体の筋肉に痛みや張りを感じる |
全身倦怠感 | 体全体のだるさや強い疲労感がある |
多くのケースでは、これらの症状は数日で自然に回復に向かいます。
重症型(ワイル病型)
重症型の一つであるワイル病型は、肝臓や腎臓の機能不全など重篤な合併症を引き起こすことがあります。
ワイル病型の致死率は20〜50%と非常に高いです。
重症型(脳炎型)
重症型のもう一つの形である脳炎型では、脳に炎症が生じ、様々な神経症状が現れます。
症状 | 説明 |
意識障害 | 意識のレベルが低下したり、昏睡状態になったりする |
けいれん | 全身や体の一部で筋肉が不随意に収縮する |
脳症 | 脳の機能障害により、認知機能や行動に異常が現れる |
脳炎型も適切な治療を受けられない場合は、死亡リスクが高くなります。
黄熱の主な症状
黄熱の主な症状は発熱、筋肉痛、背部痛、頭痛、悪寒、食欲不振、吐き気などで、感染後3〜6日の潜伏期間を経て、突如として発症します。
初期症状
初期症状は、39度近くの高熱、激しい頭痛、背中や筋肉の痛み、吐き気や食欲不振などです。
この段階では、他の感染症と区別するのが難しいこともあります。
症状 | 説明 |
高熱 | 39度前後の突然の発熱 |
頭痛 | 激しい頭痛を伴う |
病状の進行
患者さんの一部では症状が一旦改善した後、重篤な症状が現れることがあります。
症状 | 説明 |
黄疸 | 皮膚や白目が黄色くなる |
出血 | 鼻血、歯茎からの出血、吐血など |
この段階になると、肝臓や腎臓の機能が低下し、重篤な状態に陥る恐れも。
回復期
多くの患者さんは、支持療法を受けることで回復に向かい、完全に回復するまでには数週間から数ヶ月かかることがあります。
回復期に見られる症状
- 全身倦怠感が続く
- 食欲不振が残る
- 体重減少が見られる
黄熱の原因・感染経路
黄熱は、フラビウイルス科に属する黄熱ウイルスが原因で起こる感染症です。
このウイルスは、主にネッタイシマカやヒトスジシマカといった蚊によって媒介されます。
黄熱ウイルスの特徴
黄熱ウイルスは、直径約50nmの球形のウイルスで、一本鎖のRNAをゲノムとして持って、ウイルスの表面には、エンベロープと呼ばれる脂質二重層があり、その上にE蛋白質とM蛋白質が存在しています。
ウイルス構成要素 | 役割 |
ゲノムRNA | ウイルスの遺伝情報を担う |
エンベロープ | ウイルスの外殻を形成 |
E蛋白質 | 宿主細胞への結合と侵入に関与 |
M蛋白質 | ウイルス粒子の形成に関与 |
感染サイクル
黄熱ウイルスは、蚊の吸血によってヒトの体内に侵入し、以下のような感染サイクルを経て増殖します。
- ウイルスが宿主細胞に結合し、エンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれる。
- エンドソーム内で低pHになると、ウイルスエンベロープと細胞膜が融合し、ウイルスゲノムが細胞質内に放出される。
- ウイルスゲノムがリボソームで翻訳され、ウイルス蛋白質が合成される。
- ウイルスゲノムが複製され、新しいウイルス粒子が形成される。
- 新生ウイルス粒子が細胞外に放出され、他の細胞に感染する。
感染経路
黄熱ウイルスは、主に以下の2つの感染経路によって伝播します。
感染経路 | 主な感染環 |
ジャングル黄熱 | サル → 蚊 → サル(ヒト) |
都市型黄熱 | ヒト → 蚊 → ヒト |
診察(検査)と診断
黄熱の診断では、臨床症状と検査結果を総合的に評価します。
臨床診断
黄熱の臨床診断は、特徴的な症状や黄熱流行地への渡航歴などを基に行われます。
発熱、頭痛、筋肉痛、嘔吐などの非特異的な症状が初期に現れるケースが多いです。
症状 | 頻度 |
発熱 | 90% |
頭痛 | 80% |
筋肉痛 | 70% |
その後、一部の患者さんでは重症化し、黄疸、出血傾向、腎不全などの症状が出ることがあります。
検査診断
確定診断に用いられる検査
- ウイルス分離
- 血清学的検査(IgM抗体の検出など)
- 遺伝子検査(RT-PCR法)
検査方法 | 検出対象 |
ウイルス分離 | 黄熱ウイルス |
血清学的検査 | IgM抗体など |
遺伝子検査 | ウイルス遺伝子 |
ウイルス分離は発症早期の血液や組織からの検出を試み、血清学的検査ではIgM抗体の検出が診断に役立ちます。
遺伝子検査は感度が高く、迅速な診断が可能です。
鑑別診断
黄熱と類似した症状を示す他の感染症との鑑別が必要です。
- マラリア
- デング熱
- レプトスピラ症
- ウイルス性肝炎
これらの病気を念頭に置き、注意深く診断を進めていくことが求められます。
黄熱の治療法と処方薬
黄熱の治療では、主に症状の緩和と合併症の予防に重点が置かれます。
支持療法
黄熱の治療の中心は、支持療法です。
治療法 | 内容 |
輸液 | 脱水や電解質バランスの補正 |
解熱剤 | 発熱の管理 |
鎮痛剤 | 痛みの緩和 |
支持療法は、患者さんの状態に合わせて実施する必要があります。
抗ウイルス薬
現在、黄熱ウイルスに特異的な抗ウイルス薬はありません。
しかし、いくつかの抗ウイルス薬が黄熱の治療に有用である可能性が示唆されています。
- リバビリン
- インターフェロン
抗菌薬
黄熱の患者さんは、免疫力が低下しているため、二次的な細菌感染のリスクが高いです。
抗菌薬 | 対象 |
セフトリアキソン | グラム陰性菌 |
バンコマイシン | グラム陽性菌 |
集中治療
重症の黄熱患者さんは、集中治療室での管理が必要になることがあります。
集中治療で行われる治療
- 人工呼吸器による呼吸管理
- 血液浄化療法
- 輸血
これらの治療によって、重篤な合併症を防ぎ、患者さんの命を守ることが可能です。
治療に必要な期間と予後について
黄熱の治療を行ううえで最も大切なことは、早期に発見し、支持療法を速やかに開始することです。
治療期間
黄熱の治療に必要な期間は、症状がどの程度重いかによってさまざまです。
重症度 | 治療期間 |
軽症 | 1〜2週間 |
中等症 | 2〜4週間 |
重症 | 4週間以上 |
症状が軽い場合は、比較的すみやかに回復に向かい、1〜2週間ほどで治癒することが多いです。
しかし重症の場合は、長期にわたって集中治療が必要となることもあり、治療期間が4週間以上になることもあります。
予後
黄熱の予後は、いつ治療を始めたのかと、症状の重さに影響を受けます。
症状が軽度から中等度の患者さんが、早い段階で治療を受けられた場合、予後は比較的良好で、多くの場合後遺症もなく回復することが可能です。
ただし重症化してしまった患者さんの予後は芳しくなく、死亡率は20〜50%にも上ります。
予後を改善するために
予後をよりよいものにするために重要な点
- 早期発見・早期治療
- 適切な支持療法
- 合併症の予防と管理
予後改善のポイント | 内容 |
早期発見・早期治療 | 症状出現から48時間以内の治療開始が理想的 |
適切な支持療法 | 輸液、電解質管理、呼吸管理などを適切に行う |
合併症の予防と管理 | 二次感染予防、臓器不全の管理などが重要 |
黄熱の治療における副作用やリスク
黄熱の治療で用いられる薬剤には、副作用とリスクが伴います。
抗ウイルス薬の副作用
抗ウイルス薬は、ウイルスの増殖を抑制し、症状を緩和するために使用されますが、いくつかの副作用が報告されています。
副作用 | 症状 |
消化器症状 | 吐き気、下痢、腹痛 |
皮膚症状 | 発疹、かゆみ |
これらの副作用は一般的に軽度です。
免疫グロブリン製剤のリスク
免疫グロブリン製剤は、他者から採取した抗体を患者さんに投与する治療法です。
免疫グロブリン製剤のリスク
- アレルギー反応
- 感染症の伝播
- 血栓症
リスクを最小限に抑えるため、免疫グロブリン製剤は厳重な品質管理のもとで製造・管理され、また、投与前にはアレルギーや感染症の有無を確認したうえで、患者さんへ処方されます。
支持療法の副作用
治療法 | 副作用 |
輸液療法 | 電解質異常、浮腫 |
解熱鎮痛薬 | 消化器症状、肝機能障害 |
予防方法
黄熱の予防に最も効果的なのは、ワクチン接種です。 感染リスクの高い地域へ渡航する際は、事前のワクチン接種が欠かせません。
ワクチン接種の重要性
黄熱ワクチンは、感染リスクを大幅に下げられ、渡航の少なくとも10日前までにワクチン接種を受けます。
ワクチン接種の間隔 | 予防効果の持続期間 |
1回目 | 約10年間 |
2回目 | 終生 |
感染リスクの高い地域
黄熱の感染リスクが高いのは、主にアフリカと南米の一部の国々で、これらの地域へ渡航する予定がある方は、事前にワクチン接種をしてください。
アフリカ | 南米 |
ナイジェリア | ブラジル |
コンゴ民主共和国 | ペルー |
ガーナ | エクアドル |
蚊に刺されない対策
黄熱は、感染した蚊に刺されることで広がるので、蚊に刺されないための対策も、黄熱の予防には欠かせません。
- 長袖の衣類や長ズボンを着用する
- 虫よけスプレーを使用する
- 蚊帳を使用して就寝する
医療機関への相談
黄熱の流行地域から帰国後、発熱などの症状が現れたら、すぐに医療機関を受診することが大切です。
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
日本国内では、黄熱の治療費用の大半は公的医療保険の適用対象です。
治療費の目安
日本国内での黄熱の治療費用の目安
項目 | 費用 |
入院費(1日あたり) | ¥30,000~¥50,000 |
検査費 | ¥50,000~¥100,000 |
薬剤費 | ¥100,000~¥200,000 |
重篤な患者さんの場合、治療費用が数百万円に達することもあります。
重症度 | 推定治療費 |
軽症 | ¥500,000~¥1,000,000 |
中等症 | ¥2,000,000~¥5,000,000 |
重症 | ¥5,000,000以上 |
高額療養費制度
日本には高額療養費制度が設けられており、患者さんの自己負担額には上限が定められています。
- 70歳未満の方:月額上限は¥80,100~¥252,600(収入に応じて変動)
- 70歳以上の方:月額上限は¥44,400~¥140,100(収入に応じて変動)
以上
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