下肢静脈瘤(Varix of the lower extremity)とは、足の静脈が異常に拡張したり蛇行したりする病気です。
高齢者や女性に多く見られ、立ち仕事や座り仕事など同じ姿勢を長時間続けると発症リスクが高まります。
足のだるさ、痛み、かゆみ、こむら返りなどの自覚症状がある場合もありますが、自覚症状がない人もいます。
下肢静脈瘤を放置すると、皮膚の色素沈着や潰瘍を引き起こす恐れがあるため注意が必要です。
下肢静脈瘤の種類(病型)
下肢静脈瘤の外観(見た目)は静脈瘤ができる場所によって異なり、伏在静脈瘤、側枝静脈瘤、網目状静脈瘤、クモの巣状静脈瘤の4つの型が代表的です。
伏在静脈瘤
伏在静脈瘤は下肢の表面近くを走る大伏在静脈や小伏在静脈にできる静脈瘤で、足の付け根から足首までの間に、くねくねと拡張した静脈が見られるのが特徴です。
伏在静脈瘤は下肢静脈瘤の中で最も多く、日本人の約2割が患っていると考えられています。
立ち仕事や長時間の座りっぱなしなどによって、静脈の血流が滞ることが主な原因です。
種類 | 発生する場所 |
大伏在静脈瘤 | 足の内側 |
小伏在静脈瘤 | 足の外側 |
側枝静脈瘤
側枝静脈瘤は、伏在静脈から分かれた側枝静脈にできる静脈瘤です。
主に足の外側や後ろ側に、数mmから数cm程度の青っぽい盛り上がった静脈の拡張が見られます。
伏在静脈瘤と比べると症状は軽いケースが多いですが、見た目の問題から治療を希望する人が多いです。
網目状静脈瘤
網目状静脈瘤は、皮膚のすぐ近くの細い静脈にできる静脈瘤で、網目状に広がった青みや赤みを帯びた静脈の拡張が特徴です。
足首から下腿にかけての内側に多いですが、太ももや膝の裏側にできる場合もあります。
網目状静脈瘤は下肢静脈瘤の初期段階と考えられる場合が多く、以下のような生活習慣の見直しにより悪化を防ぐことが大切です。
- 弾性ストッキングをはく
- 足を高くあげる
- 適度な運動
- 体重をコントロールする
クモの巣状静脈瘤
クモの巣状静脈瘤は網目状静脈瘤よりもさらに細い静脈にできる静脈瘤で、クモの巣のように放射状に広がった赤い静脈の拡張が特徴です。
足首や足の甲に多く、数mm程度の大きさのものがたくさん集まって見られます。
クモの巣状静脈瘤は、ホルモンバランスが変化する思春期や妊娠中にできやすいと言われています。
下肢静脈瘤の主な症状
下肢静脈瘤の主な症状は、足のだるさや重さ、むくみ、かゆみ、痛み、こむら返りなどが挙げられます。
足のだるさ・重苦しさ
下肢静脈瘤の患者さんの多くは、足のだるさや重さを訴えます。その原因は、静脈弁の機能不全による血液のうっ滞だと考えられています。
立ち仕事や座り仕事など、同じ姿勢を長時間取り続けなければならない環境下では、より強く症状の自覚があります。
むくみ
下肢静脈瘤の特徴的な症状として、むくみも知られています。
むくみは、静脈のうっ滞が引き金となり、毛細血管から組織への水分移動が亢進することで生じます。
むくみは下腿部に出現しやすく、靴の圧迫感を感じたり、くるぶしのラインが不明瞭になったりする場合もあります。
かゆみ・痛み
かゆみと痛みもよくある症状の一つです。かゆみは静脈周囲の炎症が原因で、特に夜間に悪化します。
加えて、血流のうっ滞が皮膚の栄養状態を低下させ、痛みを伴う皮膚炎を誘発するケースもあります。
- 脂漏性皮膚炎
- 接触皮膚炎
- ステロイド誘発性皮膚炎
こむら返り
下肢静脈瘤の患者さんの中には、こむら返りに悩まされる方も少なくありません。
静脈のうっ滞により、筋肉への酸素や栄養の供給が滞ることが一因として指摘されています。
こむら返りは突然の発症と強い痛みを特徴とするため、日常生活の質を著しく低下させる症状の一です。
下肢静脈瘤の原因
静脈瘤は一次性静脈瘤と二次性静脈瘤に分けられ、それぞれ原因が異なります。
一次性静脈瘤が起こる原因
静脈瘤の多くが一次性静脈瘤で、静脈壁の弱さや静脈弁の機能低下が主な原因です。
原因 | 説明 |
静脈壁の弱さ | コラーゲンやエラスチンが減少するため |
静脈弁の機能低下 | 弁の変性や破壊によって逆流が起こるため |
以下のような要因が関与していると考えられています。
- 加齢により静脈壁の弾力性が失われる
- 遺伝的な要因
- ホルモンバランスの変化(妊娠中や更年期など)
- 肥満によって下肢の静脈に負担がかかる
- 長時間立ったり座ったりすることで静脈の血流が滞る
二次性静脈瘤が起こる原因
二次性静脈瘤は深部静脈の血栓や閉塞が主な原因で、深部静脈血栓症(DVT)や骨盤内静脈うっ滞症候群(PCS)などが代表的な病気です。
病気 | 説明 |
深部静脈血栓症(DVT) | 下肢の深部静脈に血栓ができる |
骨盤内静脈うっ滞症候群(PCS) | 骨盤内の静脈にうっ血が起こる |
診察(検査)と診断
下肢静脈瘤の診察では、視診、触診、聴診、血管エコー検査、CT検査、MRI検査などの検査が行われます。
CEAP分類による病態評価
下肢静脈瘤の病態評価には、CEAP分類(2004年改訂)を用いるのが一般的です。CEAP分類は以下の4つの項目で分類します。
CEAP分類では、静脈瘤の重症度や病態を総合的に評価できます。
視診と触診による診察
視診では下肢の皮膚の色調変化や腫脹、静脈の拡張や蛇行、潰瘍形成などを確認し、触診では、静脈の硬さや圧痛の有無、浮腫の程度などを評価します。
静脈の拡張や蛇行の程度の分類
Grade | 症状 |
1 | 目立たない静脈の拡張 |
2 | 軽度の静脈の拡張と蛇行 |
3 | 中等度の静脈の拡張と蛇行 |
4 | 高度の静脈の拡張と蛇行 |
血管エコー検査
血管エコー検査は、下肢静脈瘤の診断に非常に有用な検査方法です。この検査では、超音波を用いて静脈の形態や血流の状態を評価します。
静脈弁の逆流の有無や程度、血栓の有無なども確認できます。
血管エコー検査で評価する項目
- 静脈の拡張や蛇行
- 静脈弁の逆流
- 血栓の存在
- 静脈壁の肥厚
CT検査とMRI検査
下肢静脈瘤の重症度評価や合併症の有無を確認するために、CT検査やMRI検査が行われる場合もあります。
これらの検査では、静脈の形態や周囲組織との関係を詳細に評価できます。
臨床診断と確定診断
下肢静脈瘤の臨床診断は、視診、触診、血管エコー検査などの結果を総合的に判断して行われます。
一方、確定診断には静脈造影検査が用いられる場合もありますが、侵襲的な検査であるため、必要性を十分に検討する必要があります。
検査方法 | 評価項目 |
視診 | 皮膚の色調変化、腫脹、静脈の拡張や蛇行、潰瘍形成 |
触診 | 静脈の硬さ、圧痛、浮腫の程度 |
血管エコー検査 | 静脈の形態、血流の状態、静脈弁の逆流、血栓の有無 |
CT検査・MRI検査 | 静脈の形態、周囲組織との関係、重症度評価、合併症の有無 |
下肢静脈瘤の治療法と処方薬、治療期間
下肢静脈瘤の治療には保存療法と根治療法があり、症状の程度により治療方法を決定します。
軽度であれば弾性ストッキングの着用や生活習慣の改善などの保存的治療が行われるのが一般的です。
ただし、重度だったり、保存的治療で改善が見られなかったりする場合は外科的治療が検討されます。
- 圧迫療法(弾性ストッキングや弾性包帯の着用)
- 長時間の立位を避ける
- 下肢挙上(足を持ち上げる)
- 血管内焼灼(しょうしゃく)術
- ストリッピング(静脈抜去術)
- 高位結紮(けっさつ)術
- 硬化療法
圧迫療法(弾性ストッキングの着用)
弾性ストッキングは下肢の静脈還流を促進し、静脈瘤の悪化を防ぐ効果があります。
医師の指示に従い、毎日着用することが大切です。
硬化療法
硬化療法は、静脈瘤内に薬剤を注入し、静脈を閉塞させる治療法です。比較的小さな静脈瘤に対して有効であり、局所麻酔下で行われます。
血管内焼灼術
高周波焼灼術は、超音波ガイド下で静脈内にカテーテルを挿入し、高周波エネルギーを用いて静脈を焼灼して閉塞させる治療法です。
比較的侵襲が少なく、入院期間も短く済むのが利点です。
静脈抜去術
静脈抜去術は、静脈瘤を直接切除する外科的治療法です。
重度の静脈瘤や、他の治療法が奏功しない場合に適応となります。
使用される主な治療薬
処方薬 | 作用 |
フラボノイド | 静脈トーヌスを改善し、浮腫を軽減する |
ペントキシフィリン | 赤血球変形能を改善し、血流を改善する |
静脈瘤の治療期間
静脈瘤の治療期間は、保存的治療の場合、症状の改善までに数ヶ月から数年かかる場合もあります。
硬化療法や高周波焼灼術の場合、治療後数週間から数ヶ月で症状の改善が期待できるのが一般的です。
静脈抜去術の場合は手術後の回復に数週間から数ヶ月を要しますが、効果は長期的に持続します。
予後と再発可能性および予防
下肢静脈瘤の治療後は、再発防止のための対策と定期的な経過観察により良好な予後を維持し、再発のリスクを最小限に抑えられます。
治療後の予後
下肢静脈瘤の治療後の予後は、一般的に良好であるとされています。治療により症状は改善し、合併症のリスクも低減します。
ただし、治療後も定期的な経過観察が必要であり、再発のリスクについても注意が必要です。
再発のリスク
下肢静脈瘤は、治療後も再発する可能性があります。再発のリスクは、以下の要因によって異なります。
- 年齢
- 肥満
- 遺伝的素因
- 長時間の立ち仕事や座り仕事
60歳以上の方や肥満(BMI 30以上)の方は、再発率が高い傾向です。
再発予防のためのケア
下肢静脈瘤の再発を予防するためには、以下のようなケアが重要です。
- 適切な弾性ストッキングの着用
- 定期的な運動
- 健康的な食生活
- 適切な体重管理
下肢静脈瘤の治療における副作用やリスク
下肢静脈瘤の治療法は外科的治療と非外科的治療の2種類がありますが、いずれの治療法でも、副作用やリスクが生じる可能性があります。
外科的治療の副作用とリスク
外科的治療の代表例である静脈抜去術では、次のような副作用やリスクがあります。
副作用・リスク | 概要 |
出血 | 手術中や手術後に出血が起こる可能性があります。 |
感染 | 手術部位に細菌が入り込み、感染症を引き起こすリスクがあります。 |
神経障害 | 手術により神経を傷つけ、しびれや痛みが生じる可能性があります。 |
血栓症 | 手術後に血栓ができ、肺塞栓症などの重篤な合併症を引き起こすリスクがあります。 |
硬化療法の副作用とリスク
非外科的治療の1つである硬化療法では、以下のような副作用やリスクが報告されています。
- 注入部位の痛み、腫れ、皮膚の変色
- アレルギー反応(かゆみ、発疹、呼吸困難など)
- 血管炎(血管の炎症)
- 深部静脈血栓症(脚の深部静脈に血栓ができる)
治療後の合併症
下肢静脈瘤の治療後には、以下のような合併症が生じる可能性があります。
合併症 | 概要 |
静脈炎 | 治療部位の静脈に炎症が生じ、痛みや腫れが起こる |
色素沈着 | 治療部位の皮膚が褐色に変色する |
静脈瘤の再発 | 一度治療した静脈瘤が再び現れる |
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
下肢静脈瘤の治療費用は、選択する治療法や患者さんの症状の程度によって大きく変わります。
治療法による治療費の違い
圧迫療法は比較的安価ですが、硬化療法や手術療法は高額になる傾向があります。
治療法 | 概算費用 |
圧迫療法 | 1万円〜5万円 |
硬化療法 | 10万円〜30万円 |
手術療法 | 30万円〜100万円 |
上記は目安となり、保険適用の有無や医療機関によっても費用が変わってくるため、具体的な治療費は各医療機関で直接ご確認ください。
以上
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