ブラインドループ症候群(Blind Loop Syndrome)とは、手術などによって腸に袋状の部分(盲管)ができ、そこに食べ物が溜まりやすくなった状態です。
腸内細菌が異常繁殖してしまい、栄養吸収障害や腹痛、下痢などの症状を引き起こします。
胃の手術や腸の手術など、お腹を切る手術を受けた後に起こることが多いですが、生まれつき腸の形が異常な場合にも起こります。
※盲管症候群とも呼ばれます。
ブラインドループ症候群(盲管症候群)の種類(病型)
ブラインドループ症候群(盲管症候群)は、吻合(ふんごう:手術で腸管同士をつなぐこと)の形式により盲環型、盲嚢型、盲端型の3つの病型に分類され、それぞれ異なる臨床症状を示します。
病型 | 形態学的特徴 | 主な臨床症状 |
盲環型 | 腸管の一部が輪状に膨らむ | 栄養吸収障害、腹部不快感 |
盲嚢型 | 腸管の一部が袋状に拡張する | 腹部膨満感、腹痛 |
盲端型 | 腸管の一部が行き止まりになる | 腹部不快感、腸閉塞のリスク |
盲環型
盲環型は、腸管の一部が輪状に膨らみ、腸内容物が停滞します。
腸内細菌の異常増殖が起こりやすくなるため、栄養吸収障害や腹部不快感などの症状が現れます。
盲嚢型
盲嚢型は、腸管の一部が袋状に拡張することが特徴です。
袋状の部分に腸内容物が貯留すると、腹部膨満感や腹痛などの症状がみられるほか、細菌の異常増殖による栄養吸収障害も起こる場合があります。
盲端型
盲端型では腸管の一部が行き止まりになり、腸内容物の流れが阻害されます。
腸内容物の停滞が最も顕著に現れやすく、腹部不快感や腹痛、さらには腸閉塞のリスクが高まります。
ブラインドループ症候群(盲管症候群)の主な症状
ブラインドループ症候群(盲管症候群)では腸内細菌の異常増殖により、栄養吸収障害や様々な消化器症状を伴います。
主な消化器症状
最も頻繁に見られるのは、腹痛、腹部膨満感、下痢、吐き気、嘔吐などです。
主な消化器症状 | 特徴 |
腹痛 | 食後に増強することが多い |
腹部膨満感 | ガスがたまったような不快感 |
下痢 | 慢性的に続くことがある |
吐き気・嘔吐 | 食事摂取を困難にする |
栄養吸収障害による影響
ブラインドループ症候群では、腸内細菌の異常増殖により栄養素の吸収が妨げられます。
この栄養吸収障害により、体重減少、疲労感、貧血、筋力低下、骨密度の低下といった症状が現れますが、特に注意が必要なのはビタミンB12の吸収障害です。
ビタミンB12は神経系の正常な機能維持に不可欠な栄養素であり、欠乏すると神経症状を起こすことがあります。
栄養吸収障害による症状 | 影響を受ける栄養素 |
体重減少 | タンパク質、脂質、炭水化物 |
貧血 | 鉄分、ビタミンB12、葉酸 |
骨密度低下 | カルシウム、ビタミンD |
筋力低下 | タンパク質、ビタミンD |
神経系への影響
ビタミンB12の吸収障害が進行した場合の神経症状には、手足の末端から始まるしびれ感、バランスを崩しやすくなる歩行障害などがあります。
このほか、記憶力低下、気分の落ち込みや意欲の低下といった抑うつ症状なども挙げられます。
皮膚や粘膜の変化
栄養吸収障害が長期化すると、皮膚の乾燥、爪の変形、口内炎、舌の炎症(舌炎)などがみられることがあります。
ビタミンやミネラルの不足によって起こる症状で、特にビタミンB群や鉄分の欠乏が関与していることが多いです。
皮膚・粘膜の変化 | 関連する栄養素 |
皮膚の乾燥 | ビタミンA、ビタミンE |
爪の変形 | 鉄分、亜鉛 |
口内炎 | ビタミンB群、鉄分 |
舌炎 | ビタミンB12、葉酸 |
ブラインドループ症候群(盲管症候群)の原因
ブラインドループ症候群(盲管症候群)は、消化管内で細菌が異常に増殖することによって起こります。
解剖学的な異常
ブラインドループ症候群は、消化管の構造に異常がある場合に発生しやすくなります。
腸管の一部が袋状に膨らんだり狭くなったりすると、そこに食物や消化液の流れが滞ってしまい、腸内細菌が過剰に増殖する原因となります。
手術後の合併症として発症するケース
外科的処置の後にもブラインドループ症候群が発生することがあります。
手術の種類 | リスク要因 |
胃切除術 | 吻合部の変形 |
腸管切除術 | 腸管の癒着 |
手術により消化管の解剖学的構造が変化し、食物の通過障害や細菌の異常増殖が起こります。
慢性疾患による発症リスクの増加
以下のような慢性疾患もブラインドループ症候群の原因となります。
- クローン病
- 強皮症
- 糖尿病性神経障害
特に糖尿病の患者さんの場合、神経障害により腸管の蠕動運動が低下し、食物の停滞が起こりやすくなります。
その他の要因による発症
まれではありますが、腸管内の異物や腫瘍もブラインドループ症候群の原因となります。
要因 | 影響 |
異物 | 腸管の閉塞 |
腫瘍 | 腸管の狭窄 |
診察(検査)と診断
ブラインドループ症候群(盲管症候群)の診断では、腹部レントゲン検査、CT検査、小腸造影検査、小腸内視鏡検査などを実施し、盲管の有無や炎症、細菌の異常増殖などを確認します。
診断段階 | 主な評価項目 | 目的 |
臨床診断 | 症状、身体所見、基本的検査 | 疑診の確立 |
画像診断 | X線、CT、MRI、超音波 | 形態学的評価 |
機能検査 | 細菌学的検査、吸収機能検査 | 病態生理の評価 |
確定診断 | 内視鏡検査、生検 | 最終的な診断確定 |
画像診断
画像診断では、ブラインドループの存在や範囲、周囲への影響などを評価していきます。
検査法 | 特徴 | 利点 |
X線造影検査 | 腸管の形態や通過障害を評価 | 広範囲の観察が可能 |
CT検査 | 腸管壁の肥厚や周囲組織の状態を確認 | 高い空間分解能 |
MRI検査 | 軟部組織のコントラストに優れ、詳細な評価が可能 | 放射線被曝がない |
超音波検査 | 腸管壁の肥厚や腸液貯留を非侵襲的に観察 | リアルタイムでの観察が可能 |
細菌学的検査・吸収機能検査
ブラインドループ症候群では腸内細菌叢の異常増殖や栄養吸収障害が生じるため、以下の検査を実施し、問題の有無を確認します。
- 便培養検査:異常増殖した細菌の同定と抗生物質感受性の評価
- 呼気水素ガス試験:小腸内の細菌過増殖の評価と程度の判定
- D-キシロース吸収試験:小腸の吸収機能の定量的評価
- ビタミンB12吸収試験:ビタミンB12の吸収障害の程度の測定
検査結果は診断の確定だけでなく、治療方針の決定や経過観察の指標としても活用します。
内視鏡検査
内視鏡検査では腸管粘膜の状態や盲管の形成、狭窄の有無などを調べていきます。また、必要に応じて生検を行います。
検査法 | 特徴 | 適応 |
上部消化管内視鏡 | 十二指腸までの観察が可能 | 上部消化管の評価 |
カプセル内視鏡 | 小腸全体の非侵襲的観察が可能 | 広範囲の小腸病変のスクリーニング |
ダブルバルーン内視鏡 | 深部小腸の観察と処置が可能 | 小腸病変の評価と治療 |
シングルバルーン内視鏡 | ダブルバルーン内視鏡と同様の機能 | 〃 |
診断における注意点
ブラインドループ症候群は症状が非特異的であることから、他の消化器疾患との鑑別が必要です。特に、炎症性腸疾患や腸管感染症、小腸腫瘍などとの区別が重要となります。
鑑別疾患 | 類似点 | 鑑別のポイント |
炎症性腸疾患 | 慢性的な腹部症状 | 内視鏡所見、炎症マーカー |
腸管感染症 | 急性の消化器症状 | 便培養、抗体検査 |
小腸腫瘍 | 腸管狭窄症状 | 画像所見、腫瘍マーカー |
慢性膵炎 | 栄養吸収障害 | 膵機能検査、CT所見 |
ブラインドループ症候群(盲管症候群)の治療法と処方薬、治療期間
ブラインドループ症候群(盲管症候群)の治療は、抗生物質療法を中心に、栄養補給や外科的介入も行っていきます。
治療期間は通常3〜6週間程度必要となりますが、個々の状態や症状の改善具合によって長期化することもあります。
治療法 | 主な効果 | 期間 |
抗生物質療法 | 腸内細菌の正常化 | 2〜4週間 |
栄養療法 | 栄養状態の改善 | 3〜6週間 |
外科的治療 | 解剖学的異常の修正 | 2〜4週間(回復期間) |
経過観察 | 治療効果の確認 | 治療期間中継続 |
抗生物質療法
抗生物質療法では、幅広い種類の細菌に効果を発揮する抗生物質を用います。
代表的な薬剤としてテトラサイクリン系やアンピシリンなどがあり、腸内の微生物バランスを整える効果があります。
投与期間は一般的に2〜4週間ですが、症状の改善状況を見ながら延長することもあります。
抗生物質の種類 | 一般的な投与期間 | 主な特徴 |
テトラサイクリン | 2〜3週間 | 広範囲の細菌に効果あり |
アンピシリン | 3〜4週間 | ペニシリン系で安全性が高い |
栄養療法
ブラインドループ症候群では栄養吸収に障害が生じるため、抗生物質による治療と並行して栄養状態の改善を行っていきます。
口から十分な栄養を摂取できない場合には、静脈から直接栄養を送り込む経静脈栄養や、鼻から胃や腸に管を通して栄養を送る経腸栄養を実施します。
また、ビタミンB12、葉酸、鉄分などの微量栄養素の補給も大切です。
栄養療法の期間は抗生物質療法と同じく、3〜6週間程度継続します。
外科的治療
薬物療法で十分な改善が見られない場合や、解剖学的な異常が明らかな場合には外科的治療を検討します。
手術の目的は、盲管の形成を引き起こしている原因を根本から取り除くことです。
具体的な手術方法には以下のようなものがあります。
- 腸管の狭くなっている部分を広げる手術
- 異常な管(瘻孔)を閉じる手術
- 腸管の一部が膨らんでいる部分(憩室)を切除する手術
- 腸管の一部を迂回させるバイパス手術
手術後の回復期間は通常2〜4週間ですが、全身状態や手術の複雑さによって変動します。
手術の種類 | 回復期間 | 主な適応 |
狭窄部位の拡張 | 2〜3週間 | 腸管の狭窄がある場合 |
瘻孔の閉鎖 | 3〜4週間 | 異常な管がある場合 |
憩室の切除 | 3〜4週間 | 腸管の一部が膨らんでいる場合 |
バイパス手術 | 4週間以上 | 複雑な解剖学的異常がある場合 |
ブラインドループ症候群(盲管症候群)の治療における副作用やリスク
ブラインドループ症候群(盲管症候群)の治療では、薬物療法では下痢やアレルギー反応などの副作用が、外科療法では出血や感染、癒着などの手術に伴うリスクがあります。
抗生物質療法に関連する副作用
長期的に抗生物質をすると腸内細菌叢のバランスが乱れ、下痢や腹痛などの消化器症状が副作用として出現する場合があります。
副作用 | 症状 | 対策 |
腸内細菌叢の乱れ | 下痢、腹痛 | プロバイオティクスの摂取 |
抗生物質耐性菌 | 治療効果の低下 | 適切な抗生物質の選択と投与期間の管理 |
カンジダ症 | 口腔内や性器の白斑 | 抗真菌薬の予防的投与 |
外科的治療に伴うリスク
外科的介入では、感染、出血、麻酔関連の合併症、術後の腸管癒着による腸閉塞などが代表的なリスクとして挙げられます。
※リスクは年齢や全身状態、既往歴によって異なります。
再発のリスク
治療後も再発のリスクが存在します。特に、解剖学的な異常が完全に修正されない場合、症状が再び現れる可能性があります。
再発リスク因子
- 不完全な手術
- 腸管運動の低下
- 免疫機能の低下
治療費について
実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。
ブラインドループ症候群の治療費は医療保険の適用となりますが、高額になるケースも少なくありません。
特に手術が必要な場合は、処置費や手術費などがかかるため、治療費が高額になる可能性があります。
保存的治療の費用
保存的治療では抗生物質や栄養補助剤の処方が中心となるため、比較的負担が少なく済む場合が多いです。
治療内容 | 概算費用(月額) |
抗生物質 | 8,000円〜20,000円 |
栄養補助剤 | 5,000円〜15,000円 |
検査費用の目安
- X線検査8,000円〜15,000円
- CT検査20,000円〜40,000円
- MRI検査30,000円〜50,000円
- 呼気試験15,000円〜25,000円
外科的治療の費用
手術内容 | 概算費用 |
腸管切除術 | 800,000円〜1,500,000円 |
バイパス手術 | 1,000,000円〜2,000,000円 |
以上
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