潰瘍性大腸炎(UC) – 消化器の疾患

潰瘍性大腸炎(Ulcerative colitis:UC)とは、大腸(結腸)の粘膜に慢性的な炎症や潰瘍が生じる炎症性腸疾患です。

典型的な症状には、血便や下痢、腹痛、体重減少などがあります。

発症する原因についてはまだ完全な解明には至っていませんが、遺伝的素因や環境要因、免疫系の機能異常などが関係していると考えられています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

潰瘍性大腸炎(UC)の種類(病型)

潰瘍性大腸炎(UC)は、主に重症度、臨床経過、病変の範囲により分類されています。

重症度による分類

重症度分類では、症状や検査結果に基づき、軽症、中等症、重症、劇症の4段階に分類します。

重症度の判定には、排便回数、血便の程度、発熱、頻脈、貧血(ヘモグロビン値)、赤沈(赤血球沈降速度)などの指標を使います。

例えば、1日の排便回数が6回以上で著明な血便があり、さらに発熱や頻脈などの全身症状を伴う場合は重症に分類されます。

重症度主な特徴
軽症血便や下痢が軽度、全身症状なし
中等症軽症と重症の中間
重症頻回の血便、全身症状あり
劇症重症の中でも特に重篤な状態

劇症型は重症の中でも特に危険な状態を指し、15回/日以上の血性下痢が続く、38℃以上の発熱、10,000/mm³以上の白血球増多、強い腹痛など、複数の深刻な症状が同時に現れます。

劇症型と診断された場合は、緊急の入院治療が必要です。

臨床経過による分類

臨床経過の型特徴
再燃寛解型症状の悪化と改善を繰り返す
慢性持続型症状が持続的に続く
急性(再燃)劇症型急激に症状が悪化する
初回発作型初回の発作のみで再燃がない

再燃寛解型が最も一般的で、症状が落ち着く時期(寛解期)と悪化する時期(再燃期)を繰り返します。

慢性持続型は、さまざまな治療を行っても症状が改善せず、活動期が継続する状態を指します。

急性(再燃)劇症型は症状が急激に悪化する危険な状態で、迅速な対応が必要です。

病変範囲による分類

病変範囲による分類では、内視鏡検査などで確認された炎症の広がりに基づいて判定します。

病変範囲の型炎症の部位
直腸炎型直腸に限局
左側大腸炎型直腸から脾彎曲部まで
全大腸炎型脾彎曲部を超えて広範囲

直腸炎型は最も限局した型で、比較的軽症で経過する場合が多いですが、頻回の排便や残便感などの局所症状に悩まされることもあります。

左側大腸炎型は中等度の症状を呈することが多く、全大腸炎型は最も広範囲に炎症が及ぶため、重症化のリスクが高くなります。

病変範囲は時間とともに変化する可能性があるため、定期的な内視鏡検査による評価が必要です。

潰瘍性大腸炎(UC)の主な症状

潰瘍性大腸炎(UC)の主な症状は、血便、下痢、腹痛、体重減少、発熱などで、症状が繰り返し現れることが特徴です。

UCの代表的な症状

潰瘍性大腸炎(UC)になると、血便や下痢が起こります。血液の量は少量から多量まで様々で、時には血液のみの排泄も見られます。

下痢の程度も個人差が大きく、1日に数回から20回以上と幅広い範囲で症状が現れます。

症状特徴
血便少量〜多量、血液のみの場合も
下痢1日数回〜20回以上

腹部症状・全身症状

UCでは、腹痛や腹部不快感といった腹部症状も頻繁に見られます。

排便前後に痛みが増強し、腹部膨満感や腸管運動の亢進による腸蠕動音の増加なども特徴的です。

また、炎症が持続することで、発熱、倦怠感、食欲不振、体重減少などの全身症状が現れることもあります。

症状の経過と重症度

UCの症状は、寛解と再燃を繰り返すことが特徴です。症状が完全に消失する寛解期と、症状が悪化する活動期が交互に現れます。

重症度は、軽症、中等症、重症に分類されますが、状態は固定的ではなく、時間とともに変化します。

重症度特徴
軽症血便は少量、下痢は1日4回以下
中等症軽症と重症の中間
重症頻回の血便、発熱、頻脈、貧血

合併症による症状

UCでは、様々な合併症が生じる可能性があり、それに伴う症状が現れることがあります。

  • 関節痛
  • 皮膚症状(結節性紅斑、壊疽性膿皮症)
  • 眼症状(ぶどう膜炎、虹彩炎)
  • 肝胆道系症状(原発性硬化性胆管炎)

このような合併症は「腸管外症状」と呼ばれ、UCの活動性と関連して出現する場合があります。

合併症主な症状
関節症状関節痛、腫脹
皮膚症状発赤、潰瘍形成
眼症状充血、視力低下
肝胆道系症状黄疸、かゆみ

潰瘍性大腸炎(UC)の原因

潰瘍性大腸炎(UC)は遺伝的素因、環境要因、免疫系の異常反応が複雑に絡み合って発症すると考えられていますが、詳しい原因は完全には解明されていません。

潰瘍性大腸炎の主な原因影響の度合い
遺伝的素因高い
環境要因中程度
免疫系の異常非常に高い
腸内細菌叢の乱れ中〜高程度

遺伝的素因の影響

潰瘍性大腸炎(UC)の発症には、遺伝的な要素が深く関与しているという見方が強いです。

家族歴のある患者さんは、そうでない方と比較して発症リスクが顕著に高くなることが分かっています。

また、双子を対象とした研究では、一卵性双生児の場合、片方が発症するともう片方も高い確率で発症することが判明しています。

遺伝子関連する機能
IL23R免疫応答の調整
NOD2細菌の認識と排除
CARD15炎症反応の制御

上記のような遺伝子に変異が生じると潰瘍性大腸炎(UC)の発症リスクが上昇すると考えられており、現在も遺伝子レベルでの研究が進められています。

環境要因

環境要因潰瘍性大腸炎への影響
食生活の欧米化リスク上昇
喫煙リスク低下
慢性的ストレス症状悪化の誘因
抗生物質の過剰使用腸内細菌叢の変化

食生活の変化、特に高脂肪・高タンパク質の西洋型食生活への移行が、発症リスクを高めるという仮説があります。

また、喫煙習慣も潰瘍性大腸炎(UC)の発症に影響を与えることが分かっており、意外にも喫煙者は非喫煙者に比べて発症リスクが低いという報告が複数あります。

通常の病気は喫煙が悪影響を与えるのですが、潰瘍性大腸炎(UC)においては、喫煙がUC発症の危険を抑制している可能性があるというものです。

しかしながら、UCの発症と喫煙の関連性はいまだ明確ではなく、喫煙が健康に悪影響を及ぼすことは明白であるため、決して推奨されるものではありません。

免疫系の異常反応

潰瘍性大腸炎(UC)が発症するしくみには、免疫系の異常な反応が深く関わっていることが分かっています。

通常、腸管内の細菌に対して過剰な免疫反応を起こさないよう精密に調整されている免疫系ですが、この調整機能に異常が生じると、腸管粘膜に持続的な炎症が起こります。

腸内細菌叢の乱れ

近年の研究では、腸内細菌叢(ビフィズス菌や乳酸菌など)のバランスの乱れも、潰瘍性大腸炎(UC)の発症に深く関与していることが明らかになってきました。

健康な状態の腸内細菌叢は腸管免疫系の正常な発達と維持に不可欠な役割を果たしていますが、何らかの要因でこのバランスが崩れると、免疫系の異常反応につながる可能性が高くなります。

腸内細菌叢のバランスを崩す原因

  • 抗生物質の過剰または不適切な使用
  • 偏った食生活や不規則な食事
  • 長期間にわたる強いストレス
  • 腸管感染症

診察(検査)と診断

潰瘍性大腸炎(UC)の診断では、内視鏡検査や病理組織学的検査、画像診断などを実施します。

問診・身体診察でのポイント

問診や身体診察では、以下の項目を確認します。

  • 症状の経過、持続期間
  • 家族歴
  • 既往歴
  • 腹痛や腹部膨満感の有無
  • 腸蠕動音の異常
  • 痔瘻や裂肛の有無

内視鏡検査

大腸内視鏡検査では、大腸粘膜の状態を直接観察し、炎症の範囲や程度を評価します。

UCに特徴的な所見として、びまん性の炎症、血管透見像の消失、粘膜の脆弱性などが挙げられます。

また、内視鏡検査中に生検(組織採取)を行い、病理組織学的検査のための組織を採取します。

内視鏡所見UCの特徴
炎症の分布連続性、びまん性
粘膜の状態易出血性、粗造
血管透見像消失または不明瞭
潰瘍浅い、多発性

病理組織学的検査

生検で得られた組織を顕微鏡で観察し、UCに特徴的な組織学的変化を確認します。

主な所見

  • 杯細胞の減少
  • 陰窩膿瘍の形成
  • 粘膜固有層への炎症細胞浸潤
  • 粘膜の構造異常

画像診断

UCの合併症や重症度の評価を行う目的で、腹部X線検査や腹部CT検査を実施します。急性期の重症例では、腸管拡張や腸管壁肥厚などの所見が認められることがあります。

また、MRIやMRエンテログラフィーは、小腸病変の評価や瘻孔の検出に有用な検査方法です。

画像検査主な評価項目
腹部X線腸管拡張、腸管ガス像
腹部CT腸管壁肥厚、腹水
MRI小腸病変、瘻孔
超音波腸管壁肥厚、血流評価

血液検査・便検査

血液検査では、炎症マーカーや栄養状態、貧血の有無などを評価します。

CRP、赤血球沈降速度、白血球数などの炎症マーカーの上昇はUCの活動性を反映しており、治療効果の判定にも用います。

便検査では、便潜血や便中カルプロテクチンの測定を行います。

検査項目意義
CRP炎症の程度を反映
赤血球沈降速度慢性炎症の指標
便中カルプロテクチン腸管炎症の直接的指標
便潜血腸管出血の有無

鑑別診断

UCの診断においては、他の炎症性腸疾患や感染性腸炎との鑑別が重要です。特に、クローン病や感染性腸炎との鑑別には注意が必要となります。

鑑別疾患特徴的な所見
クローン病非連続性病変、全層性炎症
感染性腸炎急性発症、病原体の検出
虚血性大腸炎高齢者に多い、限局性病変
薬剤性腸炎薬剤服用歴、中止による改善

潰瘍性大腸炎(UC)の治療法と処方薬、治療期間

潰瘍性大腸炎(UC)の治療は薬物療法を主軸とし、重症度に応じて外科的介入も視野に入れつつ、寛解導入から寛解維持まで長期的な病状管理を行っていきます。

薬物療法

潰瘍性大腸炎(UC)の薬物療法では、軽症から中等症の場合には5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤を第一選択薬として用います。

重症度主な使用薬剤作用機序
軽症5-ASA製剤抗炎症作用、粘膜修復促進
中等症ステロイド強力な抗炎症作用
重症免疫抑制剤免疫系の過剰反応を抑制

症状が悪化するにつれ、ステロイド薬や免疫抑制剤の使用を検討します。

ステロイド薬は強力な抗炎症作用があり急性期の症状改善に効果を発揮しますが、長期使用による副作用のリスクに注意が必要です。

免疫抑制剤は、ステロイド依存性や難治性の場合に使用を検討していきます。

生物学的製剤

生物学的製剤は、炎症に関与する特定のタンパク質や細胞を標的とする薬剤です。代表的な生物学的製剤には、抗TNF-α抗体や抗インテグリン抗体などがあります。

従来の治療に反応しないケースや、重症例に対して効果を示します。

生物学的製剤の種類作用機序主な適応
抗TNF-α抗体TNF-αの阻害中等症~重症UC
抗インテグリン抗体白血球の接着阻害中等症~重症UC
JAK阻害剤サイトカインの抑制難治性UC

ただし、生物学的製剤は感染症のリスク増加や高額な医療費がかかるなど、デメリットもあります。

外科的治療の適応

薬物療法で十分な効果が得られない場合や、重篤な合併症が生じた際には外科的治療を考慮します。

手術の主な適応としては、大量出血、腸管穿孔、癌の合併などが挙げられます。

また、長期にわたる薬物療法で副作用が顕著となる場合も、手術の対象となります。

一般的な手術方法は大腸全摘術と回腸嚢肛門吻合術で、潰瘍性大腸炎の病変部位を完全に除去し、可能な限り排便機能を温存することを目指します。

治療期間

潰瘍性大腸炎は、長期的な管理が必要な慢性疾患です。寛解導入療法で症状が改善した後も、再燃予防のための維持療法継続が必要です。

治療段階目的期間主な介入方法
寛解導入症状の改善数週間~数ヶ月強力な薬物療法
寛解維持再燃予防数年~生涯長期的な薬物療法
経過観察病状・副作用確認定期的に実施内視鏡検査、血液検査など

潰瘍性大腸炎の治療において、以下の点に細心の注意を払う必要があります。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療における副作用やリスク

潰瘍性大腸炎(UC)の治療には、5-ASA製剤、ステロイド剤、生物学的製剤など様々な薬剤が使用されますが、それぞれの薬剤に特有の副作用(例:5-ASA製剤の肝機能障害、ステロイド剤の骨粗鬆症など)があります。

また、長期的な治療による副作用や、手術に伴う合併症などのリスクもあります。

薬物療法に伴う副作用

ステロイド薬を長期間使用すると、骨粗しょう症や糖尿病、高血圧などの合併症のリスクが高まります。

また、免疫抑制剤を使用すると感染症にかかりやすくなります。

主な薬剤と副作用

薬剤主な副作用
ステロイド薬骨粗しょう症、糖尿病、高血圧
免疫抑制剤感染症リスクの上昇、肝機能障害
生物学的製剤アレルギー反応、注射部位反応
5-ASA製剤頭痛、腹痛、下痢

手術療法のリスク

手術後の主なリスクとしては、腸閉塞や感染症、縫合不全などがあります。

また、人工肛門(ストーマ)を造設する場合もあり、生活様式が大きく変化することによるデメリットもあります。

長期的な合併症のリスク

潰瘍性大腸炎の方で特に注意が必要なのは、大腸がんの発症リスクです。

潰瘍性大腸炎の罹患期間が長くなるほど、大腸がんの発症リスクが高まることが分かっています。

UC罹患期間と大腸がん発症リスクの関係

罹患期間大腸がん発症リスク
10年未満2%
10-20年8%
20-30年18%
30年以上30%

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

潰瘍性大腸炎(UC)の治療費は、軽症から中等症の患者さんの場合、月額2万円~5万円程度が目安となります。重症の場合や入院治療が必要な際は、さらに高額になります。

外来治療の費用

外来治療は主に薬物療法が中心となり、5-ASA製剤やステロイド薬、免疫調節薬などの薬剤費がかかります。

薬剤名月額費用(概算)
5-ASA製剤1万円〜2万円
ステロイド薬5千円〜1万円
免疫調節薬1万円〜2万円

入院治療の費用

症状が重症化した際には入院治療が必要になります。

入院費用は期間や使用する薬剤によって代わりますが、1週間の入院で20万円から30万円程度の費用が目安です。

生物学的製剤による治療費

従来の治療法で効果が得られない場合には生物学的製剤による治療を検討しますが、薬剤は高額であり、年間で100万円を超える治療費がかかります。

※高額療養費制度を利用することで、自己負担額を軽減できます。

生物学的製剤年間費用(概算)
インフリキシマブ100万円〜150万円
アダリムマブ120万円〜180万円

特定医療費(指定難病)助成制度

潰瘍性大腸炎は指定難病に認定されており、医療費の助成制度があります。

詳しくは難病情報センターのホームページをご確認ください。

潰瘍性大腸炎(指定難病97) ー 難病情報センター

以上

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