周期性四肢麻痺 – 脳・神経疾患

周期性四肢麻痺(periodic paralysis)とは、突然の筋力低下や筋肉の麻痺が一定の周期で繰り返し起こる神経筋疾患です。

日常生活の中で予期せぬ筋力低下に見舞われ、数時間から数日間にわたって手足の動きが困難になります。

この病気の特徴的な症状は、安静時や運動後、また食事の内容によって起こる一時的な筋力低下で、血液中のカリウム値の変動が深く関係しています。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

周期性四肢麻痺の種類(病型)

周期性四肢麻痺は大きく分けて遺伝性と二次性に分類され、遺伝性には低カリウム性と高カリウム性があります。

遺伝性周期性四肢麻痺の基本的な分類

遺伝性周期性四肢麻痺における低カリウム性と高カリウム性の違いは、血中カリウム値の変動パターンにとどまらず、遺伝子変異の部位や発症年齢、そして発作を起こす要因など多岐にわたります。

病型遺伝形式
低カリウム性常染色体優性遺伝
高カリウム性常染色体優性遺伝

低カリウム性周期性四肢麻痺

低カリウム性周期性四肢麻痺では、カルシウムチャネルやナトリウムチャネルの遺伝子変異が主要な原因となることが遺伝子解析によって解明されています。

  • CACNA1S遺伝子の変異
  • SCN4A遺伝子の変異
  • KCNJ2遺伝子の変異

高カリウム性周期性四肢麻痺

高カリウム性周期性四肢麻痺における遺伝子変異は、主にナトリウムチャネルに関連するSCN4A遺伝子に集中しています。

遺伝子関連するイオンチャネル
SCN4Aナトリウムチャネル
KCNJ2カリウムチャネル
CACNA1Sカルシウムチャネル

二次性周期性四肢麻痺の特徴と分類

二次性周期性四肢麻痺は、様々な基礎疾患や環境因子によって生じる病態であり、内分泌系の異常や薬剤性の要因が関与しています。

二次性周期性四肢麻痺に関連している疾患と環境因子

  • 甲状腺機能亢進症に伴うもの
  • 原発性アルドステロン症によるもの
  • 薬剤性のもの

基礎疾患による代謝異常やホルモンバランスの乱れが筋細胞の興奮性に影響を与えることで、発作性の麻痺症状を引き起こすメカニズムが解明されつつあります。

周期性四肢麻痺の主な症状

周期性四肢麻痺は、手足の筋力が突如として低下し、数時間から数日間にわたって麻痺症状が繰り返し現れます。

発作性の筋力低下

筋力低下の発作は、四肢の近位筋(肩や腰の周り)から始まることが多く、重力に逆らって腕を上げたり階段を昇ったりする動作が困難になっていきます。

症状は朝方に目覚めた時や長時間の安静後に顕著で、徐々に体の各部位へと広がっていきます。

近位筋での筋力低下は、日常生活における基本的な動作に大きな支障をきたすため、早期の症状認識が大切です。

運動機能の低下は通常、感覚神経の障害を伴わないことから、患者さんは筋力低下を自覚しながらも痛みや感覚異常を訴えないことが多いので注意が必要です。

発作の持続時間と頻度

発作の種類持続時間頻度
短時間型1-2時間週1-2回
長時間型6-24時間月1-2回
遷延型24時間以上年数回

発作の持続時間は個々の症例によって大きく異なり、短いものでは数時間程度で回復する一方で、重症例では数日間にわたって症状が継続することもあります。

発作の頻度についても多様性がみられ、毎週のように発作を繰り返す症例から、年に数回程度しか発作を起こさない症例も。

筋力低下のパターン

発作時に見られる主な症状

  • 四肢の脱力感や重だるさ
  • 筋肉の緊張低下
  • 深部腱反射の低下や消失
  • 感覚障害を伴わない運動機能の低下

筋力低下は対称性に現れ、進行速度は緩徐なものから急速なものまで様々なパターンを示します。

発作時の筋力低下は、一般的に近位筋優位に始まり、進行とともに遠位筋にも及んでいくという経過をたどることが多いです。

随伴症状

症状特徴的な所見出現頻度
筋痛鈍痛や痙攣様の痛み高頻度
疲労感全身性の倦怠感中等度
筋硬直こわばりや強張り低頻度

発作に伴い現れる症状は、筋力低下の程度や持続時間によって異なります。

筋痛や疲労感といった症状は発作の前駆症状として見られることもあり、症状を予測する因子として重要な意味を持ちます。

部位別の症状の特徴

発作時の筋力低下は次のような特徴的なパターンで現れます。

  • 下肢優位の対称性の筋力低下
  • 体幹筋の脱力
  • 頸部や顔面の筋力低下
  • 呼吸筋への進展

部位別の症状進展は、一定のパターンに従って進行することが多く、初期には下肢近位部の筋力低下として始まり、その後徐々に上肢や体幹へと広がっていきます。

呼吸筋に影響が出る可能性もあることから、呼吸機能の定期的な評価と観察が必要です。

周期性四肢麻痺の原因

周期性四肢麻痺は、筋細胞膜上のイオンチャネルの機能異常によって起る神経筋疾患で、遺伝子変異や基礎疾患が深く関与しています。

イオンチャネル異常のメカニズム

筋細胞膜上に存在するイオンチャネルは、細胞内外のイオンバランスを制御することで筋肉の収縮と弛緩を調節しており、このバランスが崩れることで周期性四肢麻痺の発作が誘発されます。

イオンチャネルの種類関連する遺伝子
ナトリウムチャネルSCN4A
カルシウムチャネルCACNA1S

イオンチャネルの機能異常は、筋細胞の興奮性を著しく変化させ、筋力低下や麻痺症状を起こすことが分かっています。

遺伝子変異による発症メカニズム

遺伝子変異による周期性四肢麻痺の発症機序には、複数の遺伝子が関与することが判明しており、特に筋細胞膜上のイオンチャネルをコードする遺伝子の変異が本質的な原因です。

  • SCN4A遺伝子の点変異による機能障害
  • CACNA1S遺伝子の構造異常
  • KCNJ2遺伝子の発現異常

環境因子と発症の関連性

周期性四肢麻痺の発作を誘発する環境因子は、食事内容や運動負荷、気温変化などで、特に食事内容の影響が大きいです。

誘発因子影響度
食事内容高い
運動負荷中程度
気温変化中程度

内分泌系異常との関連

内分泌系の異常によって送る二次性周期性四肢麻痺では、ホルモンバランスの乱れが筋細胞のイオンチャネル機能に影響を与えることで発作性の症状が現れます。

関与する内分泌異常

  • 甲状腺ホルモンの過剰分泌
  • 副腎皮質ホルモンの分泌異常
  • 成長ホルモンの分泌バランスの乱れ

診察(検査)と診断

周期性四肢麻痺の診断では、問診と血液検査、電気生理学的検査、遺伝子検査などを組み合わせます。

初診時の問診と身体所見

初診時の診察では、発作の特徴や家族歴、生活習慣などについて問診を行うことが必要です。

問診においては、発作の発症年齢や頻度、持続時間、誘因となる要素などについて確認を進めていきながら、診断の手がかりとなる情報を収集していきます。

問診項目確認内容
発作特徴頻度・持続時間
家族歴遺伝性の有無
生活習慣運動・食事内容

血液検査による評価

血液検査では、発作時と非発作時の電解質バランスを詳細に分析することで、病型の特定に重要な手がかりを得られます。

検査項目

  • 血清カリウム値の測定
  • 血清カルシウム値の確認
  • 甲状腺機能検査
  • 血中乳酸値の評価

検査結果を総合的に判断しながら、周期性四肢麻痺の診断精度を高めていき、特に発作時の採血タイミングが診断の成否を左右する大切なポイントです。

電気生理学的検査による機能評価

筋電図検査や神経伝導検査などの電気生理学的検査により、筋肉の興奮性や神経伝導機能を客観的に評価することが可能です。

検査で得られたデータは、診断の確実性を高める上で重要な役割を果たします。

検査種類評価項目
筋電図筋活動電位
神経伝導検査伝導速度

遺伝子検査による確定診断

遺伝子検査では、既知の病因遺伝子について詳細な解析を行うことで、遺伝性周期性四肢麻痺の確定診断を下せます。

実施する遺伝子検査

  • SCN4A遺伝子の変異解析
  • CACNA1S遺伝子の配列確認
  • KCNJ2遺伝子の変異スクリーニング

周期性四肢麻痺の治療法と処方薬、治療期間

周期性四肢麻痺の治療では、発作時の対応と長期的な予防的投薬を組み合わせることで、患者さんの症状をコントロールします。

発作時の治療アプローチ

発作時の治療で大切なのは、血中カリウム値の是正を中心とした迅速な対応で、医療機関での経過観察のもと、各病型に応じた薬物療法を実施していくことです。

発作の重症度や患者さんの全身状態を総合的に判断しながら、投与する薬剤の種類と量を決定し、初期対応の段階で正しい判断を下すことが治療効果に大きく影響します。

病型主な投与薬剤
低カリウム型カリウム製剤
高カリウム型カルシウム製剤

カリウム値の補正に際しては、投与速度の調整と継続的なモニタリングを行いながら、患者さんの状態に合わせて投薬量を決定していきます。

長期的な治療戦略

慢性期の治療では、発作の予防を主な目的とした薬物療法を実施することで、患者さんの生活の質の向上を目指します。

長期的な治療管理では、定期的な血液検査による電解質バランスの確認と、投薬調整が重要です。

長期的に行われる治療

  • アセタゾラミドによる予防的投薬
  • カリウム保持性利尿薬の定期的な服用
  • 炭酸水素ナトリウムの併用療法

投薬スケジュールの管理

投薬スケジュールの設定は、患者さんの生活リズムなどを考慮しながら、服薬タイミングを決定していくことが必要です。

薬剤の特性や相互作用を考慮に入れながら、一日の投薬タイミングを調整することで、より効果的な治療効果を引き出すことができます。

投与タイミング主な薬剤
朝食前利尿薬
就寝前カリウム製剤

治療期間の設定と経過観察

発作の重症度や頻度によって治療期間は大きく異なり、数か月の短期的な治療から、年単位の長期的な治療まで、様々なケースがあります。

  1. 急性期の集中治療期間
  2. 予防的投薬の継続期間
  3. 定期的な投薬調整の時期

医療機関での定期的なフォローアップを通じて、薬物療法の効果を評価し、必要に応じて投薬内容を見直していくことが大切です。

周期性四肢麻痺の治療における副作用やリスク

周期性四肢麻痺の治療では、使用する薬剤によって様々な副作用が生じ、長期的な経過において腎臓や心臓への負担が増加するリスクがあります。

カリウム製剤使用時のリスク

カリウム製剤の投与に伴う副作用として、消化器系の不快感や電解質バランスの急激な変動が起こることがあり、投与量や投与速度の調整が重要となります。

血中カリウム値の急激な変動は、不整脈などの心臓への悪影響を及ぼす危険性があることから、定期的なモニタリングが必要です。

副作用の種類初期症状発現頻度
消化器症状腹部不快感、悪心高頻度
心血管症状動悸、不整脈中等度
神経症状しびれ、脱力感低頻度

アセタゾラミド関連の副作用

長期使用における主な副作用として以下のものが挙げられます。

  • 代謝性アシドーシス
  • 腎臓結石
  • 電解質異常
  • 体重減少や疲労感

アセタゾラミドの継続使用は、腎機能への影響や骨密度の低下といった問題が起こる可能性があるため、定期的な経過観察が欠かせません。

利尿薬使用時の注意点

リスク要因観察ポイント対処の優先度
脱水尿量、口渇感最優先
低カリウム血症筋力低下、不整脈高優先
低ナトリウム血症倦怠感、意識レベル中優先

利尿薬を使用すると、電解質バランスの変動に伴う全身症状が現れることがあるので、慎重な経過観察を行います。

β遮断薬による合併症

β遮断薬使用時に注意すべきことがいくつかあります。

注意すべき点

  • 徐脈や血圧低下
  • 気管支収縮
  • うつ症状の誘発
  • 末梢循環障害

β遮断薬の使用は、心機能や呼吸機能への影響を考慮しながら、投与量の調整を行うことが重要です。

薬剤相互作用のリスク

複数の薬剤を併用する際には各薬剤の相互作用による副作用の増強や、新たな副作用が現れることもあるので、注意が必要です。

特に、カリウム値に影響を与える薬剤の併用では、重篤な電解質異常が起こるリスクが高まります。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

診断時の検査費用

検査項目概算費用(3割負担)
遺伝子検査15,000円
筋生検12,000円
神経伝導検査8,000円

一般的な診断に必要な各種検査の合計費用は、保険適用後の自己負担額で約3〜5万円になります。

主な治療薬の費用

薬剤名1ヶ月あたりの費用(3割負担)
アセタゾラミド2,500円
カリウム製剤1,800円
β遮断薬2,000円

薬剤費用は処方量や服用期間によって変動しますが、月額5,000円から1万円程度の範囲内に収まることが多いです。

定期検査の費用

項目概算費用(3割負担)
血液検査3,000円
心電図検査2,500円
尿検査1,000円

定期検査の頻度は症状の安定度によって個別に設定されますが、標準的には2〜3ヶ月に1回の検査を実施します。

以上

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