メッケル憩室 – 消化器の疾患

メッケル憩室(Meckel’s diverticulum)とは、小腸の一部が突出してできた袋状の構造物を指します。胎児期に一時的に存在する卵黄腸管(おなかの中で栄養を取り込む管)が、生後も残存することによって発生します。

多くの場合は無症状ですが、憩室内に消化液や内容物がたまり炎症を起こすと、腹痛や下血(血便)などの症状が現れます。

また、腸閉塞や腸重積、憩室炎、憩室穿孔などの合併症を引き起すこともあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

メッケル憩室の主な症状

メッケル憩室は、多くの場合において無症状であることが特徴的ですが、合併症を引き起こした際には様々な症状が現れます。

無症状であることが多い

メッケル憩室を有する人の大多数は、一生の間に症状を経験することはないと言われています。

これは、メッケル憩室のサイズが小さく、腸管の機能に悪影響を及ぼさないことが理由として考えられます。

メッケル憩室の有病率症状の有無
約2%無症状
0.4%有症状

合併症による症状

しかしながら、メッケル憩室が原因となって合併症を引き起こしてしまった場合には、様々な症状が表れることがあります。

メッケル憩室に関連する主な合併症としては、憩室炎(憩室の炎症)、腸閉塞、憩室出血、憩室穿孔などが挙げられます。

合併症主な症状
憩室炎腹痛、発熱、嘔吐
腸閉塞腹痛、嘔吐、腹部膨満
憩室出血下血、貧血症状
憩室穿孔激しい腹痛、発熱、腹膜炎症状

これらの合併症が生じると、腹痛、嘔吐、下痢、血便などの症状が現れる可能性が高くなります。

年齢によって異なる症状

メッケル憩室による症状は、年齢によってその傾向が異なることが知られています。

乳幼児期においては、腸重積や腸閉塞に関連する症状が多く見られる一方で、成人期になると憩室炎や憩室出血による症状が目立つようになります。

年齢主な症状
乳幼児期腸重積、腸閉塞
成人期憩室炎、憩室出血

症状の重篤度

メッケル憩室の合併症がもたらす症状は、場合によっては非常に重篤なものとなることがあります。

中でも、憩室穿孔は腹膜炎を引き起こし、生命に関わる危険性を伴います。

また、大量の憩室出血が生じた場合には、ショック状態に陥ってしまうリスクが高まります。

合併症症状の重篤度
憩室炎中等度
腸閉塞中等度~重度
憩室出血軽度~重度
憩室穿孔重度

メッケル憩室は、無症状であるケースが多いものの、合併症を引き起こした場合には重篤な症状が現れることがあります。

メッケル憩室を持つ人は、何らかの症状が表れた際には、速やかに医療機関を受診することが大切だと言えるでしょう。

メッケル憩室の原因

メッケル憩室は、胎生期の卵黄腸管(らんおうちょうかん:胎児に栄養を運ぶ管)の遺残が原因で発生する先天性の病気です。

胎生期の卵黄腸管とは

胎生初期の段階では、胎児はお母さんから栄養を受け取るのではなく、卵黄嚢から栄養を受け取ります。

卵黄嚢と腸管をつなぐ管を卵黄腸管と呼び、胎生5週目頃に腸管に取り込まれて消失します。

胎生週数卵黄腸管の状態
5週目まで卵黄嚢と腸管をつないでいます
5週目以降腸管に取り込まれて消失します

メッケル憩室発生のメカニズム

卵黄腸管の遺残が原因でメッケル憩室が発生します。卵黄腸管の消失が不完全な場合、遺残した部分が憩室(腸の壁が袋状に飛び出た状態)として残ることがあります。

この憩室がメッケル憩室です。

メッケル憩室の好発部位

メッケル憩室は、回腸末端部から口側に50~100cmの部位に好発します。これは、卵黄腸管が回腸末端部に接続していたためです。

メッケル憩室の組織学的特徴

メッケル憩室には、胃粘膜や膵組織などの異所性組織(本来あるべき場所以外に存在する組織)が存在することがあります。

これは、卵黄腸管が消失する過程で、胎生期の多能性幹細胞が迷入するためです。迷入した幹細胞が、胃粘膜や膵組織などに分化することで、異所性組織が形成されます。

診察(検査)と診断

メッケル憩室の診断では、症状や身体所見、画像検査などを総合的に判断して行います。

身体診察・問診

腹部の触診を行うと、メッケル憩室の場合、腹部の右下部に圧痛を伴う腫瘤(しこり)を触知することがあります。

また、出血や腸閉塞などの合併症を示唆する症状がないかどうかも確認します。

画像検査

メッケル憩室の診断には、以下のような画像検査が用いられます。

検査名目的
腹部単純X線検査腸閉塞の有無を確認するために行われます
腹部CT検査憩室の位置や大きさ、周囲の組織への影響を詳しく評価するために行われます

腹部単純X線検査では、腸閉塞を示唆するニボー(腸管内のガスと液体の貯留)が見られる可能性があります。

一方、腹部CT検査では、憩室の位置や大きさ、周囲の組織への影響を評価することができます。

核医学検査

メッケル憩室の確定診断には、核医学検査が非常に有用です。

検査名目的
メッケルシンチグラフィ憩室内の異所性胃粘膜(本来あるべき場所以外に存在する胃の粘膜)の存在を確認するために行われます
99mTc-pertechnetate シンチグラフィ憩室内の異所性胃粘膜の存在を確認するために行われます

メッケルシンチグラフィや99mTc-pertechnetate シンチグラフィでは、憩室内の異所性胃粘膜に集積する放射性同位元素を用いて、憩室の存在を明らかにします。

内視鏡検査と確定診断

場合によっては、小腸内視鏡検査(ダブルバルーン内視鏡やカプセル内視鏡)を行うこともあります。

内視鏡検査では、憩室の開口部や内部の粘膜の状態を直接観察することが可能です。

さらに、憩室内の粘膜から生検(組織の一部を採取すること)を行い、病理学的検査で異所性胃粘膜の存在を確認することで確定診断が得られます。

メッケル憩室の治療法と処方薬、治療期間

メッケル憩室の治療は、症状の有無や重症度に応じて、外科的切除や内科的治療を行います。

症状のないメッケル憩室に対する治療方針

メッケル憩室は、多くの場合、無症状で経過するため、治療を必要としないことが一般的です。

偶発的に発見された無症状のメッケル憩室に対しては、経過観察を行うことが推奨されています。

定期的な検査を実施し、症状の出現や合併症の有無を確認することが重要となります。

治療方針実施頻度
経過観察3-6ヶ月ごとに実施
検査年1回の頻度で実施

症状を伴うメッケル憩室に対する治療選択

症状を伴うメッケル憩室の治療においては、外科的切除が第一選択となります。

メッケル憩室切除術は、腹腔鏡下手術または開腹手術によって行い、憩室を含む回腸の一部を切除します。

手術後は、数日間の入院加療が必要となりますが、合併症がなければ速やかな回復が見込まれます。

手術方法入院加療期間
腹腔鏡下手術3-5日間の入院
開腹手術5-7日間の入院

出血を伴うメッケル憩室に対する緊急対応

  • 内視鏡的止血を実施
  • 輸血による対症療法を実施
  • 外科的切除を早期に検討
  • 鉄剤投与による貧血の改善

出血を伴うメッケル憩室の治療においては、緊急性が高く、迅速な対応が求められます。

内視鏡的止血や輸血などの対症療法を実施しつつ、早期の外科的切除を検討する必要があります。

手術後は、貧血の改善を図るために、鉄剤の投与が行われる場合があります。

メッケル憩室切除術後の管理と治療期間

メッケル憩室切除術後は、抗菌薬の投与や創部の管理を適切に行い、感染症の予防を図ることが必要です。

術後の経過が良好であれば、1-2週間程度で退院可能となります。退院後も、数週間から数ヶ月間にわたって定期的な外来通院が必要です。

術後管理項目実施期間
抗菌薬の投与3-5日間投与
創部の管理7-10日間管理
外来通院数週間-数ヶ月間通院

メッケル憩室の治療における副作用やリスク

メッケル憩室の治療における手術療法には、一定の副作用やリスクが伴います。

手術療法に伴う副作用

副作用症状
感染症発熱、炎症反応の上昇
出血創部からの出血、貧血
疼痛手術部位の痛み
創傷治癒遅延創部の治癒が遅れる

手術療法に伴うリスク

  • 術後の癒着
  • 腸閉塞
  • 吻合部の縫合不全
  • 術後イレウス(腸管の癒着や絞扼による通過障害)

長期的な予後

メッケル憩室の手術後の長期的な予後は、一般的に良好であるとされています。
しかしながら、まれではありますが、再発や他の合併症が生じる可能性があるため、定期的な経過観察が必要です。

経過観察の間隔検査項目
術後1ヶ月身体診察、血液検査
術後6ヶ月身体診察、血液検査、必要に応じて画像検査
術後1年以降身体診察、血液検査(年1回程度)
術後5年以降身体診察、血液検査(数年に1回程度)

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

メッケル憩室の治療費は、手術が必要な場合、入院費や手術費用が高額になります。

治療費用の目安

無症状の場合は経過観察のみで済むことが多いですが、出血や腸閉塞などの合併症が生じた場合は手術が必要となります。

治療方法費用の目安
腹腔鏡下手術120万円〜150万円
開腹手術180万円〜250万円

入院期間と費用

手術が必要な場合、腹腔鏡下手術では7〜10日程度、開腹手術では14〜21日程度の入院が必要とされます。

入院費用は1日あたり5万円から15万円程度となります。

入院期間費用の目安
7日35万円〜105万円
14日70万円〜210万円
21日105万円〜315万円

以上

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