十二指腸憩室 – 消化器の疾患

十二指腸憩室(Duodenal Diverticulum)とは、十二指腸の壁が袋状に突出してできた憩室を指します。憩室には、生まれつき存在する先天性のものと、後から発生する後天性のものがあります。

多くの場合は無症状ですが、憩室炎や出血、穿孔などの合併症を引き起こすこともあります。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

十二指腸憩室の種類(病型)

十二指腸憩室には管腔外型と管腔内型の2種類があり、それぞれ特徴が異なります。

管腔外型十二指腸憩室の特徴

管腔外型の十二指腸憩室は、十二指腸壁が外側に向かって突出する形態をとります。

このタイプの憩室が形成される原因は、十二指腸の壁が脆弱化することにあると考えられています。

特徴説明
好発部位主に十二指腸下行脚や水平脚に発生する
サイズ比較的大きいサイズのものが多い
自覚症状無症状で経過することが多い

管腔外型の十二指腸憩室は、十二指腸の壁が外側に向かって突出することで形成されるため、内腔の狭窄や閉塞を引き起こす危険性は低いと考えられています。

しかしながら、憩室内に食物残渣や胆汁などの貯留によって、憩室炎を発症する可能性があることに注意が必要です。

管腔内型十二指腸憩室の特徴

管腔内型の十二指腸憩室は、十二指腸の内腔側に向かって突出する形態をとり、先天的な要因によるものと考えられています。

特徴説明
好発部位主に十二指腸球部に発生する
サイズ比較的小さいサイズのものが多い
自覚症状無症状で経過することが多いが、時に腹痛や嘔吐を伴う場合がある

管腔内型の十二指腸憩室は、内腔側に突出することによって、十二指腸の通過障害を引き起こす可能性があります。

また、憩室内に食物残渣が貯留することによって、憩室炎を発症するリスクもあります。

十二指腸憩室の主な症状

十二指腸憩室は、多くの場合無症状ですが、時として重篤な合併症を引き起こすことがあります。

無症状の場合が大半を占める

十二指腸憩室を有する患者の大半は無症状であり、検査や手術などの際に偶然発見されることがほとんどです。

実際に、十二指腸憩室患者の約90%が無症状であるという報告もあるほどです。

症状の有無割合
無症状90%
有症状10%

有症状の場合に現れる主な症状

十二指腸憩室が症状を呈する場合には、以下のような症状が現れます。

  • 上腹部の痛み
  • 吐き気やおう吐
  • お腹の張り感
  • 食欲の低下
  • 体重の減少

これらの症状は、主に憩室炎(憩室の炎症)や憩室出血などの合併症によって引き起こされます。

中でも、上腹部の痛みは十二指腸憩室による症状としては最も頻度が高いとされています。

重篤な合併症

注意すべきは、十二指腸憩室には以下のような重篤な合併症を引き起こす可能性があるという点です。

  • 憩室炎(憩室の炎症)
  • 憩室出血
  • 憩室穿孔(憩室に穴があくこと)
  • 胆管や膵管の閉塞(胆汁や膵液の流れが妨げられること)
  • 膵炎(すい臓の炎症)

合併症が起こると時に生命に関わる危険性もあるため、十分な注意が必要です。

十二指腸憩室の原因

十二指腸憩室の原因は、先天的な要因と後天的な要因に大別されます。

憩室形成の主要因先天的要因と後天的要因の複合的関与
十二指腸壁の脆弱化加齢、慢性的な消化管内圧上昇などが寄与
リスク因子高齢、肥満、慢性便秘、結合組織の脆弱性など
発生メカニズム脆弱化した十二指腸壁が内圧により突出

先天的要因による十二指腸憩室

先天的な要因としては、胎生期における十二指腸の発生異常が挙げられます。

通常、胎児の発育過程では、十二指腸は一旦閉鎖した後に再開通しますが、この過程で何らかの異常が生じ憩室が形成されてしまう可能性があります。

また、先天的な結合組織の脆弱性も憩室の発生に関与していると考えられています。

先天的要因発生メカニズム
十二指腸の発生異常胎生期の再開通過程における異常
結合組織の脆弱性十二指腸壁の脆弱化を引き起こす
遺伝的素因特定の遺伝子変異が関与している可能性
先天性疾患との関連他の先天性疾患に合併することがある

後天的要因による十二指腸憩室

後天的な要因としては、加齢に伴う十二指腸壁の脆弱化や、慢性的な消化管内圧の上昇などが関与していると考えられています。

高齢者においては、結合組織の弾力性が低下することにより、十二指腸壁が脆弱化し、憩室が形成されやすくなります。

また、便秘や肥満などによって慢性的に消化管内圧が上昇している状態では、十二指腸壁に負荷がかかり続け、憩室が発生するリスクが高まります。

後天的要因発生メカニズム
加齢結合組織の弾力性低下による十二指腸壁の脆弱化
慢性的な消化管内圧上昇便秘や肥満などによる十二指腸壁への持続的な負荷
炎症性疾患クローン病などの炎症性腸疾患との関連
外傷腹部外傷による十二指腸壁の損傷

十二指腸壁の脆弱化と憩室形成

以下のような場合には、十二指腸壁が脆弱化し、憩室が発生しやすくなります。

  • 加齢に伴う結合組織の弾力性低下による壁の脆弱化
  • 先天的な結合組織の脆弱性による壁の脆弱化
  • 慢性的な消化管内圧の上昇による壁への持続的な負荷

十二指腸憩室の発生リスクを高める因子

  • 高齢である
  • 肥満状態にある
  • 慢性的な便秘に悩まされている
  • 結合組織の先天的な脆弱性を有している

診察(検査)と診断

十二指腸憩室は健康診断などの際に偶然発見されることが多く、上部消化管造影検査や内視鏡検査、CT検査などの画像診断によって診断されます。

病歴聴取

腹部の痛みやはき気、嘔吐、黄疸などの症状が認められる場合は、憩室が原因となって生じた合併症の可能性を考える必要があります。

また、ご高齢の方や以前に胆石症に罹患したことがある患者さんでは、十二指腸憩室が存在する可能性を念頭に置く必要があります。

聴取すべき情報理由
症状(腹痛、嘔吐、黄疸など)憩室による合併症の可能性を見極めるため
既往歴(胆石症など)十二指腸憩室を引き起こすリスク因子の有無を確認するため

身体診察

腹部に圧痛や腫瘤(しこり)が認められる場合は、憩室に伴う合併症が生じている可能性が示唆されます。

また、Murphy徴候(右上腹部を深く押した際に、患者さんが息を止めて痛みを訴える所見)が陽性の場合は、胆嚢炎や胆管炎といった合併症の併発を疑います。

身体診察の手技確認すべき所見
腹部の視診腹部の膨隆や皮膚の色調変化の有無
腹部の触診圧痛や腫瘤の有無、Murphy徴候の有無
腹部の聴診腸雑音(腸の動きに伴う音)の異常の有無

画像検査

上部消化管内視鏡検査(EGD)は十二指腸内部を直接観察できる検査であり、憩室の有無や性状を詳細に評価可能です。

また、腹部CT検査やMRI検査は、憩室の位置や大きさ、周囲の臓器との関係を詳しく調べるために重要な検査です。

検査方法目的
上部消化管内視鏡検査(EGD)十二指腸憩室を直接観察し、確定診断を下すため
腹部CT検査憩室の位置や大きさ、周囲臓器への影響を評価するため
腹部MRI検査憩室の詳細な形態や周囲組織との関係を調べるため

確定診断のための検査

十二指腸憩室の確定診断を下すためには、以下のような検査を組み合わせて行います。

  • 上部消化管造影検査(バリウムを用いたX線検査)
  • 上部消化管内視鏡検査(EGD)
  • 腹部CT検査
  • 腹部MRI検査
検査方法検査の特徴
上部消化管造影検査バリウムを飲み、十二指腸の形態をX線で詳しく観察する
上部消化管内視鏡検査内視鏡を用いて十二指腸内部を直接観察し、憩室の有無や性状を確認する

十二指腸憩室の治療法と処方薬、治療期間

十二指腸憩室の治療は、症状の重症度や合併症の有無に応じて、保存的治療や外科的治療を行います。

保存的治療

十二指腸憩室の多くは無症状であり、治療を必要としません。しかし、症状がある場合や合併症を伴う場合は、保存的治療を行います。

治療法目的
絶食・低残渣食腸管の安静を図り、症状の改善を促進する
輸液脱水を補正し、体内の水分・電解質バランスを維持する
抗菌薬憩室炎や憩室周囲炎などの感染症を治療する
消化性潰瘍治療薬憩室に伴う潰瘍を治療し、症状を緩和する

保存的治療により症状は通常数週間で改善しますが、再発防止のため、数ヶ月間の治療継続が必要となる場合もあります。

外科的治療

保存的治療で改善しない場合や、出血、穿孔、膿瘍形成などの重篤な合併症を伴う場合は、外科的治療を検討します。

外科的治療では、十二指腸憩室の切除や、憩室と周囲臓器との瘻孔の閉鎖などを行います。手術方法は開腹手術や腹腔鏡下手術があり、状態に応じて選択します。

手術方法特徴
開腹手術腹部を大きく切開し、直視下で手術を行う。侵襲が大きい。
腹腔鏡下手術腹部に小さな穴を開け、内視鏡を用いて手術を行う。侵襲が小さい。

外科的治療後は数日間の絶食と輸液管理を行い、徐々に食事を再開します。抗菌薬の投与も継続し、感染症の再発を予防します。

手術方法や合併症の有無により入院期間が異なりますが、通常1〜2週間程度です。

処方薬

十二指腸憩室の治療では、抗菌薬、プロトンポンプ阻害薬、H2受容体拮抗薬、粘膜防御因子増強薬などの薬剤を処方します。

薬剤作用
抗菌薬(セファゾリン、セフォタキシムなど)細菌を殺菌または増殖を抑制し、感染症を治療する
プロトンポンプ阻害薬(オメプラゾール、ランソプラゾールなど)胃酸の分泌を強力に抑制し、潰瘍の治癒を促進する
H2受容体拮抗薬(ファモチジン、ラニチジンなど)胃酸の分泌を抑制し、潰瘍の治癒を促進する
粘膜防御因子増強薬(レバミピド、イルソグラジンなど)胃粘膜の防御機能を高め、潰瘍の再発を予防する

十二指腸憩室の治療における副作用やリスク

ほとんどの十二指腸憩室では治療を必要としませんが、合併症が発生した場合の手術には、出血や感染などの一般的な手術のリスクがあります。

手術療法の副作用とリスク

手術療法では、出血や感染、縫合不全などの合併症が起こる可能性があります。

副作用リスク
出血感染
縫合不全腸閉塞
疼痛発熱

内視鏡的治療のリスク

手術療法と比較すると侵襲性は低い内視鏡的治療ですが、出血や穿孔などの合併症を引き起こす可能性があります。

副作用リスク
出血穿孔
疼痛発熱
腹部不快感アレルギー反応

薬物療法の副作用

十二指腸憩室の治療に用いられる薬物には、消化器症状(悪心、嘔吐、腹痛など)、皮膚症状(発疹、かゆみなど)、肝機能障害、腎機能障害などの副作用が報告されています。

薬物主な副作用
抗菌薬消化器症状、アレルギー反応
制酸薬電解質異常、腎機能障害
消化管運動機能改善薬頭痛、めまい、便秘
プロトンポンプ阻害薬骨粗鬆症、肺炎、腸内細菌叢の変化

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

十二指腸憩室は多くの場合、保存的治療で対応できるため、自己負担額は少なくなります。ただし合併症を伴う場合は手術が必要となり、治療費は高額になります。

治療費の目安

軽度の症状の場合、食事療法や投薬治療で対応できるため、治療費は比較的低く抑えられます。

一方、重度の症状や合併症を伴う場合は入院治療や手術が必要となるため、治療費は高額になる傾向があります。

症状の重症度治療内容治療費目安
軽度食事療法、投薬治療30,000円~80,000円
中等度入院治療、内視鏡的治療100,000円~300,000円
重度手術治療500,000円~1,000,000円
治療内容保険適用自己負担額目安
食事療法適用あり5,000円~10,000円
投薬治療適用あり10,000円~30,000円
内視鏡的治療適用あり30,000円~100,000円
手術治療適用あり100,000円~500,000円
先進医療適用なし500,000円~2,000,000円

合併症の有無による治療費の違い

以下のような合併症を伴う場合は追加の検査や治療が必要となり、治療費が高額になります。

  • 憩室炎(治療費目安:100,000円~300,000円)
  • 憩室出血(治療費目安:200,000円~500,000円)
  • 憩室穿孔(治療費目安:500,000円~1,500,000円)

以上

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