深部静脈血栓症(DVT) – 循環器の疾患

深部静脈血栓症(Deep vein thrombosis:DVT)とは、深部静脈に血栓(血液の塊)ができる病気です。

この血栓が血流を妨げるため脚の腫れや痛みが生じ、重篤な場合には肺塞栓症という危険な合併症を引き起こす可能性があります。

DVTは長時間の座位や安静状態、特定の病気や手術後に発生しやすく、遺伝的要因や生活習慣も影響を与えます。

この記事を書いた人
丸岡 悠(まるおか ゆう)
丸岡 悠(まるおか ゆう)
外科医

1988年山形県酒田市生まれ。酒田南高校卒業後、獨協医科大学(栃木)にて医師免許取得。沖縄県立北部病院、独立行政法人日本海総合病院を経て現職(医療法人丸岡医院)。

深部静脈血栓症(DVT)の種類(病型)

深部静脈血栓症(DVT)は、血栓の存在部位や形態、血栓の新旧によって分類されます。

分類基準病型
血栓の存在部位近位型DVT、遠位型DVT
血栓の形態閉塞型DVT、非閉塞型DVT、浮遊型DVT
血栓の新旧急性期血栓、慢性期(器質化)血栓

血栓の存在部位による分類

血栓の存在部位による分類は、近位型と遠位型の2つです。

病型血栓の存在部位
近位型DVT下大静脈、総腸骨静脈、外腸骨静脈、大腿静脈など
遠位型DVT下腿の腓骨静脈、後脛骨静脈、前脛骨静脈など

近位型DVTは、下大静脈、総腸骨静脈、外腸骨静脈、大腿静脈など比較的太い静脈に血栓がある場合を指します。

近位型DVTは肺塞栓症を合併する危険性が高いため、すみやかな診断と治療が必要です。

それに対して遠位型DVTは、下腿の腓骨静脈、後脛骨静脈、前脛骨静脈などの比較的細い静脈に血栓がある場合を指します。

遠位型DVTは、近位型と比べると肺塞栓症を合併する危険性は低いですが、放置すると血栓が近位部へ広がってしまう可能性があります。

血栓の形態による分類

血栓の形態では、閉塞型、非閉塞型、浮遊型の3つに分類されます。

閉塞型DVT

閉塞型DVTは、血栓が静脈内腔を完全に塞いでしまっている状態を指します。

閉塞型DVTでは血流が完全に途絶えてしまうため、下肢の腫れや痛みなどの症状が強く現れやすい傾向です。

非閉塞型DVT

非閉塞型DVTは、血栓が静脈内腔の一部を占拠しているものの、血流が完全には途絶えていない状態を指します。

非閉塞型DVTでは症状が軽かったり、症状が出なかったりする場合があります。

浮遊型DVT

浮遊型DVTは、血栓の一部が静脈壁についておらず、血流に乗って移動してしまう危険性がある状態を指します。

浮遊型DVTは肺塞栓症を引き起こす危険性が高いため、迅速な治療が必要です。

血栓の新旧による分類

血栓の新旧による分類では、急性期血栓と慢性期(器質化)血栓の2つに分けられます。

急性期血栓

急性期血栓は、できてから日が浅く、柔らかくもろい血栓です。

急性期血栓は肺塞栓症を起こす危険性が高いため、抗凝固療法や血栓溶解療法などの積極的な治療が必要とされます。

慢性期(器質化)血栓

慢性期(器質化)血栓は、できてから時間が経過し、器質化した硬い血栓です。

慢性期(器質化)血栓は肺塞栓症を起こす危険性は比較的低いですが、静脈弁の破壊や静脈狭窄などの後遺症を引き起こす可能性があります。

深部静脈血栓症(DVT)の主な症状

深部静脈血栓症は初期症状に乏しいケースが多いため、重症化してから発見されるケースが少なくありません。

  • 片側の足の腫れ、痛み
  • 足の皮膚の色の変化(赤み、紫色)
  • 足の感覚の変化(しびれ、だるさ)

これらの症状が見られた際は深部静脈血栓症(DVT)が疑われますので、速やかに医療機関を受診しましょう。

下肢の腫れと疼痛

深部静脈血栓症の代表的な症状は、片側の下肢の腫れと疼痛です。下肢全体が腫れ上がり、歩行時や安静時の疼痛を伴います。

腫れと疼痛は、血栓ができた部位より末梢側に現れることが多いです。

症状特徴
腫れ片側性、下肢全体
疼痛歩行時、安静時

皮膚の色調変化

腫れに加えて皮膚の色調変化を認める場合があり、蒼白になったり、逆に赤みを帯びたりします。

また、皮膚の表面温度が上昇し、熱感を伴うこともあります。

色調変化温度変化
蒼白熱感あり
発赤熱感あり

下肢の違和感

明らかな腫れや疼痛がない場合でも、重だるさやつっぱり感、倦怠感など、下肢の違和感を感じます。

これらの症状も、深部静脈血栓症を疑うサインの一つです。

症状の経時的変化

深部静脈血栓症の症状は、時間の経過とともに変化していきます。

急性期には腫れと疼痛が強く、徐々に症状が軽減していく傾向です。一方、慢性期には色調変化や皮膚の硬化が目立つようになります。

深部静脈血栓症(DVT)の原因

深部静脈血栓症は、主に脚の深部にある静脈でできる血栓(血の塊)が原因で起こります。

血流のうっ滞

長い時間同じ姿勢でいたり、脚の骨折やギプスで固定されたりすると、脚の血流がうっ滞することがDVTの主な原因の一つとなります。

DVTに注意が必要な場面
  • 長時間の飛行機や車での旅行
  • バスや電車での長距離移動
  • デスクワーク
  • 運転手や事務職など、同じ姿勢を長時間続ける仕事
  • 手術後や病気で入院している場合
  • テレビやパソコンを長時間見る
  • 読書やゲームなど、長時間同じ姿勢を続ける
  • 骨折によるギプス固定

静脈内の血液が滞ると、血小板や血液を固まらせる成分が集まりやすくなり、血栓ができやすくなるのです。

血管内皮の損傷

カテーテル検査や手術などで血管の内側の細胞層が損傷を受けると、血栓ができやすくなります。

損傷した場所では血小板がくっつき集まり、血液凝固が活性化されるため、血栓形成が促進されます。

血液凝固能の亢進

以下のようなときに、血液が固まりやすくなり、DVTを発症しやすくなります。

  • がんを合併している
  • 経口避妊薬を使用している
  • 妊娠・出産の時期である

特に、がんや妊娠によるホルモンバランスの変化は、血液凝固能を高める要因だと考えられています。

その他の危険因子

このほかにも、以下のような危険因子がDVTの発症に関わっていると考えられています。

  • 高齢
  • 肥満
  • 喫煙
  • 遺伝的素因

これらの因子が重なると、DVTを発症する可能性がさらに高まります。

診察(検査)と診断

問診や身体所見の確認により深部静脈血栓症(DVT)が疑われる場合は、超音波検査やD-ダイマー検査などの非侵襲的検査が実施されます。

これらの結果からDVTの可能性が高いと判断された場合、造影CT検査や静脈造影検査といった確定診断のための検査が行われます。

問診と身体所見の確認

問診では、下肢の疼痛や腫脹といった症状の有無や経過、危険因子の有無などを確認します。

身体所見では、下肢の腫脹や発赤、圧痛などを観察します。また、下肢の周径を測定し、左右差がないかを確認します。

問診項目確認内容
症状下肢の疼痛、腫脹、発赤など
症状の経過症状の出現時期、増悪因子など
危険因子長期臥床、手術、外傷、悪性腫瘍など

Wells DVTスコアによる臨床的評価

臨床的にDVTの可能性を評価する方法のひとつにWells DVTスコアがあります。

+1
麻痺あるいは最近のギプス装着+1
3日以上の臥床、または術後4週間未満+1
深部静脈の触診で疼痛あり+1
下肢全体の腫脹あり+1
下腿直径の左右差3cm以上+1
圧痕浮腫あり+1
表在性静脈の拡張あり+1
DVT以外の診断の可能性-2
Wells DVTスコア
  • 0点以下:低リスク
  • 1~2点:中等度リスク
  • 3点以上:高リスク

非侵襲的検査

検査名評価内容
超音波検査下肢静脈内の血栓の有無
D-ダイマー検査血栓形成に伴うD-ダイマーの上昇
静脈血流評価下肢静脈の血流状態

超音波検査は、下肢静脈内の血栓の有無を評価するのに有用です。

D-ダイマー検査は、血栓形成に伴って上昇するD-ダイマーを測定してDVTの可能性を評価します。

確定診断のための検査

非侵襲的検査の結果からDVTが強く疑われる場合は、確定診断のための検査を行います。

  • 造影CT検査
  • 静脈造影検査
  • MRI検査

造影CT検査では、下肢静脈内の血栓の有無や範囲を詳細に評価できます。

静脈造影検査はカテーテルを用いて直接静脈を造影し、血栓の有無を確認する検査です。

深部静脈血栓症(DVT)の治療法と処方薬、治療期間

深部静脈血栓症(DVT)では、一般的に薬物療法を基本とし、症状が強い場合はカテーテルを用いた血管内治療を行います。

抗凝固療法

抗凝固療法では、血液を薄くして血栓の拡大を防ぎます。これにより、血栓が肺に移動して肺塞栓症を引き起こすリスクを減少させます。

使用薬目的
ヘパリン急性期治療
ワルファリン継続治療

血栓溶解療法

血栓溶解療法は、既存の血栓を溶かすために使用されます。

特に重症例や命に関わる場合に用いられますが、副作用のリスクがあるため注意が必要です。

血栓溶解剤用途
アルテプラーゼ急性期の血栓溶解

機械的血栓除去術

機械的血栓除去術は、カテーテルを用いて直接血栓を取り除く方法です。迅速な血流回復を図ることができ、特に深刻なDVTの場合に有効です。

  • 経カテーテル血栓溶解療法
  • 血栓除去術

治療期間の目安

治療期間は状態により異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

治療期間期間の目安
初期治療5~10日
継続治療3~6ヶ月

予後と再発可能性および予防

深部静脈血栓症(DVT)の治療後の見通しは基本的に良いですが、再発の危険性があるため、予防が必要です。

治療後の予後

深部静脈血栓症(DVT)ではほとんどの場合で治療により症状が良くなり、合併症なく回復に向かいます。

ただし、CVTを発症してから1~2年以内に、慢性静脈不全や血栓後症候群などの後遺症が起こる場合もあります。

予後割合
完全回復70-80%
慢性静脈不全20-50%

再発のリスク

DVTは再発しやすい病気で、治療が終わった後も長期にわたる管理が重要です。

再発のリスク因子
  • 初回のDVTが近位部(膝より上部)に生じた場合
  • 遺伝的素因がある場合(血栓性素因)
  • 悪性腫瘍を合併している場合
再発リスク因子再発率(5年間)
近位部DVT30-40%
血栓性素因あり15-20%
悪性腫瘍合併20-30%

再発予防のための管理

  • 生活習慣の改善(運動習慣、禁煙、肥満解消など)
  • 弾性ストッキングの着用による圧迫療法の継続
  • 必要に応じた抗凝固療法の継続

再発のリスクが高い患者さんでは、長期的あるいは永続的な抗凝固療法が勧められます。

深部静脈血栓症(DVT)の治療における副作用やリスク

深部静脈血栓症の治療で行われる抗凝固療法は、出血リスクがあるため、慎重なモニタリングが必要です。

また、長期臥床による筋力低下や関節拘縮、侵襲的治療に伴う感染リスクなども考慮する必要があります。

抗凝固療法の副作用

副作用頻度
出血比較的多い
血小板減少まれ

抗凝固療法では出血が最も注意すべき副作用の一つです。高齢者や腎機能低下患者ではその危険性が高まります。

血液検査で定期的にモニタリングを行い、過剰な抗凝固状態を避けるように用量を調整します。

長期臥床の弊害

  • 筋力低下
  • 関節拘縮
  • 褥瘡形成

急性期のDVTでは安静臥床が推奨されますが、長期化すると筋力低下や関節拘縮、褥瘡形成のリスクが高まります。

早期の離床とリハビリテーションを心がけ、これらの合併症を予防することが大切です。

その他の注意点

  • 妊娠中の場合の治療は慎重に検討する必要があります。特に妊娠初期の抗凝固薬使用にはリスクが伴います。
  • がんなど基礎疾患のある場合、病態に応じた副作用モニタリングと投薬調整が重要です。

治療費について

治療費についての留意点

実際の治療費(医療費)が以下説明より高額になるケースが多々ございます。以下記載内容について当院では一切の責任を負いかねます事を予めご了承下さい。

深部静脈血栓症の治療は、公的医療保険の対象となります。自己負担割合は1~3割となりますが、先進医療や差額ベッド代などは保険適用外です。

治療費の内訳

  1. 診察費
  2. 検査費(血液検査、超音波検査など)
  3. 薬剤費(抗凝固薬、血栓溶解薬など)
  4. 入院費(重症な場合)

治療費の目安

治療内容費用目安
外来治療10,000円~50,000円
入院治療50,000円~200,000円

ただし、これはあくまでも目安であり、実際の治療費は状態や治療法により変わります。

詳細な治療費については、担当医や各医療機関へ直接ご確認ください。

以上

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